NASAの月周回衛星のレーザーをJAXAの月面探査機が正確に反射させることに成功
  JAXAの月面探査機「SLIM」とNASAの月周回衛星「ルナ・リコネサンス・オービター(LRO)」が魅せたもの。それはサッカー選手のごとく華麗なレーザーのリターンパスだった。


 2024年5月24日(現地時間)、70km上空の月軌道を周回するLROが、月面にいるSLIMを狙って、レーザー高度計からレーザーを照射。

 SLIMは小さなレーザー反射鏡でこれを受け止め正確に反射。再びLROが受けとめた。

 SLIMは過去8回LROからレーザーを受け取っているが、今回実施した2度のチャレンジで初めてリターンに成功したそうだ。

NASAからのレーザービームを正確に反射させたJAXAのSLIM この成功が重要なのは、ほとんど逆境とも言えるような状況での成功だからだ。

 レーザー反射鏡は通常、探査機の上部に取り付けられ、この条件でならNASAの月周回衛星「ルナ・リコネサンス・オービター(LRO)」は120度のレーザー送信範囲を確保できる。

 ところが今年1月、JAXAの月面探査機「SLIM」が月面に降下する最中にエンジントラブルが発生。

 そのおかげで、当初の予定とは違う場所に着地する羽目になっただけでなく、逆立ちでもするかのようにひっくり返ってしまったのだ。

 NASAとJAXAの専門家たちは、こんな状況でもどうにかSLIMとLROのレーザー交換を成功させるため、SLIMの正確な位置と向きを割り出し、レーザー反射鏡が一番上手にレーザーを返せる軌道上の座標を予測。

 ここにLROが到達した絶妙なタイミングでレーザーを発射させた。

 NASAゴダード宇宙飛行センターでレーザー反射鏡の開発を指揮したソン・シャオリ氏は、プレスリリースで次のように話す。
LROの高度計は、こうした用途のために作られたわけではないので、月面にある小さなレーザー反射鏡に当てられる確率はもともと低いものでした
 にもかかわず、きちんとレーザーのリターンパスを決められたのは、この小さな装置の柔軟性の高さを示しているという。


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SLIMのレーザー反射鏡。そのアルミフレームは幅5cmほどで、軌道から狙うにはあまりにも小さい/Credit: JAXA宇宙飛行士を導く灯火 レーザー反射鏡は、正式名称を「レーザー再帰反射アレイ(LRA Laser Retroreflector Array)」という。

 SLIMに搭載されているものは、NASAが月に送った6個のうちの1個であり、レーザー交換の成功は2度目のケースとなる。

 最初の成功は、インド宇宙研究機関(ISRO)のヴィクラム探査機に搭載されたレーザー反射鏡によるもので、2023年12月12日のことだ。その後、LROとヴィクラムはさらに3回のリターンパスを決めている。

 レーザー反射鏡は、幅約5cmの小さなドーム型アルミフレームにクォーツ製のコーナーキューブプリズムが8つ埋め込まれたものだ。電源もメンテナンスも必要とせず、月面の信頼性の高いビーコンとして数十年にわたり機能するよう設計されている。

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 例えば、人類の月帰還を目指すアルテミス計画で、真っ暗な月に着陸する宇宙飛行士たちのガイドとなったり、月面の宇宙船の位置を伝えるといった使い方ができる。

 また今回使用されたLROのレーザー高度計は、本来月面の地形をマッピングするために設計されたものだ。

 レーザー反射鏡を狙って100分の1度単位で照準をつけるといった使い方は想定されていないが、それでもそれを実現してしまう技術者たちのスキルと熱意には脱帽だ。

References:NASA, JAXA Bounce Laser Beam Between Moon’s Surface and Lunar Orbit - NASA Science / written by hiroching / edited by / parumo

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