毒が金の卵に?サソリの養殖業が世界で増え続けている理由
 「毒にも薬にもならない」とか、「毒と薬は紙一重」という言葉があるように、毒と薬には密接な関係がある。

 「すべてのものは毒であり、毒でないものはない。
用量だけが毒でないことを決める」と言ったのは、16世紀スイスの医師・化学者であるパラケルススだ。

 実はサソリの毒も、使いようによっては健康のため、害虫駆除などに有効活用できるらしく、最近では大量のサソリを養殖して毒を抽出する業者が増えてきているんだそうだ。

サソリを養殖してその毒を抽出して販売する業者が激増中 まずはこの動画を見てもらおう。サソリ養殖業を営む生産者の様子だ。[画像を見る]女性がピンセットのようなもので何やら作業をしている。左手には何やら分厚い手袋をガッツリはめているね。

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 その手元をアップで見てみよう。なんと女性は片手でサソリをしっかり持って、その尾の先から毒液を絞り出しているのだ!

 ここで集められたサソリの毒は、薬や化粧品を作るのに使われるのだそうだ。

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サソリ毒のお値段は超高価 この毒は非常に高値で取引されており、1ガロン(約3.785L)が日本円にして約56億円という、とんでもない金額で取引されることもあるという。

 ええと、単純計算で1mLが約148万円になる……ってことで合ってるかな。途方もなさ過ぎて自信がなくなってきたぞ。

 そもそも1匹のサソリから一度に採取できる毒は、1,000分の数mL程度しかないそうだ。
1mL集めるだけでも、数百匹ものサソリが必要になるわけだ。

 しかも一度毒を採取されたサソリが、再び体内で満杯になるまで毒を作るには、2週間ほどかかるという。

 作業している人間にとっても、一歩間違えれば命が危ない危険な作業だというのはわかる。次のシーンでは、ゴム手袋で無造作にサソリを扱う女性の姿。

 いったいこの区画だけで、どのくらいの数のサソリがいるんだろうか。

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さまざまな効能が期待されるサソリ毒 サソリの毒には複数のペプチドが含まれており、サソリの種類によってその構成は変わってくる。そして詳しく調べていくと、それぞれに我々人間のために役立つ作用があることがわかってきた。

 例えば一部のサソリが持つ毒には強力な抗菌作用があり、結核菌や大腸菌を死滅させることができるらしい。

 医療の現場ではそれぞれの毒の特性を利用して、鎮痛剤や免疫抑制剤、抗マラリア剤が開発されているほか、がんの治療にも効果が期待されているという。

 また、特定の昆虫にだけ作用する毒を抽出することで、益虫には害のない農薬を作れる可能性もあるんだとか。

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 こういった研究結果が次々と発表されるようになった結果、世界では2016年頃から、サソリを養殖する業者が増えているという。

 もともと漢方にはキョクトウサソリ科(ウシコロシサソリ科)のサソリを原料とする「全蝎」という生薬があり、神経麻痺や痙攣、卒中などに効果があるとされてきた。


 現代科学がそのあたりに追いついて、感染症や難病の治療に使えるのでは?ということで、サソリ毒の需要は増え続けているらしい。

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 ちなみにペプチドは経口摂取しても消化されてしまうので、漢方薬として摂取したり、サソリ酒を飲んだりしても大丈夫なんだそうだ。

 とはいえ、サソリの毒による死者は、毎年千人以上報告されているらしい。 サソリの毒は神経毒に分類され、体内に入ると神経伝達が阻害され、筋肉が収縮し、痙攣や呼吸困難が起きる。

 最近では「サソリの毒を採取するロボット」も開発されているそうだし、ゴム手袋での作業はさすがにそろそろやめた方がいいと思う。

追記:(2024/08/09)本文を一部訂正して再送します。
References:How Scorpion Venom Farming Has Become A Multi-million Dollar Industry / written by ruichan/ edited by parumo

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