アホウドリの滑空にヒントを得た翼があるドローン、省エネで長距離飛行を実現
アホウドリの滑空を模倣するドローン技術を開発中の研究者と模型飛行機 /image credit:University of Texas at El Paso

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 バッテリーの節約になる省エネ飛行を鳥から学べ。アメリカの研究チームが、アホウドリの滑空飛行を模倣するドローン技術を開発中だ。

 自然の気流をリアルタイムで読み取り、自律的に風を活かして滑空するこのシステムは、従来のドローンと違い効率的なものになる。

 国防高等研究計画局(DARPA)が支援するこのプロジェクトは、バイオミメティクス(生物模倣)の代表例としても注目されている。

鳥の滑空をヒントにドローンの省エネ長距離飛行プロジェクト

 あちこち飛んで便利なドローンの最大の弱点はバッテリー切れ。バッテリー頼りで動くあらゆるモノにいえることだが、ドローンの持続時間、つまり飛行距離もまた、その残量に縛られる。

 だが自然界に生きる鳥、たとえば広い海を渡るアホウドリは、無駄に体力を消耗することなく、楽に飛ぶ方法を知っている。

 ほとんど羽ばたかず、風に乗って何千キロも飛行する姿は、まさに空の達人だ。

 その省エネな飛行をドローンに取り込む計画、その名も「アホウドリ・プロジェクト」が、アメリカの研究チームによって進められている。

 米国防高等研究計画局(DARPA)の支援で進行中の、まさに鳥から学ぶ大胆な試みは、ドローンに風を読む力を与え、省エネの長距離飛行実現を目指している。

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アホウドリに学ぶドローンの新しい飛行

 このプロジェクトは、テキサス大学エルパソ校(University of Texas at El Paso、UTEP)を中心に、ミシシッピ州立大学、エンブリー・リドル航空大学(Embry-Riddle Aeronautical University)の研究者たちが共同で進めている。

 「アホウドリ・プロジェクト(Albatross Project)」。英名で “Albatross(アルバトロス)”、日本語では「アホウドリ」として知られるこの鳥は、アホウドリ科(Diomedeidae)に属する大型の海鳥で、太平洋や南極圏をほとんど羽ばたかずに飛び続ける驚異の滑空能力で知られる。

 「アホウドリは羽ばたくのがとても下手なんです」と語るのは、UTEPの航空宇宙・機械工学助教授ジョン・バード博士(John Bird, Ph.D.)だ。

だからこそ、風の流れを巧みに読み、自然のエネルギーを活かして飛ぶ技術を身につけたのです

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滑空を前提にしたグライダーのような形

 その発想の斬新さは、なにより試作機に現れている。一般的なドローンといえば、小型で回転翼を複数持つマルチコプター型。

 だが、こちらはまるで飛行機だ。

研究室で扱う機体は、翼を大きく広げたグライダーのような航空機型。

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 長い主翼と細身の胴体、流線型の構造は、まさに鳥の滑空スタイルを模して設計された。

 羽ばたかず、風の力を受け、静かに滑空することを前提とした形状で、従来のドローンとは根本的に異なる思想に基づいている。

「気まぐれ」な風の読み方を信頼性のあるものに

 前述したように、この滑空型無人機の核心は、「風を読む」ことにある。バード博士は仕組みをこう説明する。

太陽光で温められた地面から熱が上昇し、その影響で空気の一部が暖まり、上昇気流が発生します。熱気球が浮かぶのと同じ原理です。鳥はこれを利用して、上昇気流と下降気流の間を巧みに移動します

 しかし、こうした気流はとても小さく、持続時間も短く、場所も特定しにくい。つまり気象予測モデルでは把握できないのだ。

 研究チームは、この不確定で繊細な空の「気まぐれ」をドローン自身に読み取らせるため、機体に搭載するセンサーや飛行アルゴリズムの開発を進めている。

 完成すれば、ドローン自体が飛行中にリアルタイムで風の変化を察し、最もエネルギー効率のよいルートを即座に選択できる。

予測不能な空気の流れを機体の飛行計画にどう組み込み、その信頼性を高めるか。それが我々の挑戦です

 アホウドリの見事な滑空についてはスミソニアン チャンネルが2023年に公開した下の動画が参考になるだろう。

 シロアホウドリの営巣地で知られる、生まれ故郷のニュージーランドのタイアロア岬を目指し、13ヶ月かけて約19万キロの旅を経て、ついにたどり着いたオスの様子をとらえたもの。彼らがいかに風を読み、体力を消耗せずに飛んでいるかが伝わってくる。

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アホウドリの滑空で飛行距離の限界突破へ

 現在の無人航空機(UAS)は、バッテリーなど限られた電源に依存しており、長時間の飛行には限界がある。

 だが、もしアホウドリのように風の力を利用できれば、話は変わる。プロジェクトの共同研究者であるアフローザ・シリン博士(Afroza Shirin, Ph.D.)はこう語る。

鳥が上昇気流に乗って滑空するように、自律的に風を活用できれば、ドローンはエネルギーをほぼ使わずに飛び続けられます。搭載電力の消費を抑えながら、飛行距離を大きく延ばすことができるのです

 こうした省エネ飛行をものにすれば、災害現場のモニタリングや、広範囲の環境調査、さらには軍事偵察など、長時間・長距離の飛行が必要な任務において大きな利点となる。

 その注目度と需要度は、DARPAからの数百万ドル(数憶万円)もの支援金からもうかがえる。

自然の生物に学ぶバイオミメティクス開発の好例

 またこのプロジェクトは、自然界の生物の能力を模倣するための技術開発「バイオミメティクス(Biomimetics:生体模倣技術)」の好例でもある。

 アホウドリが長い進化の過程で獲得した滑空能力を、人間の設計する機械に応用する。そこには無駄がなく、理にかなった空中移動の知恵が詰まっている。

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 自然界の飛行メカニズムを真似することで、私たちは限られた資源に頼らない持続可能な技術を手に入れようとしている。今後はドローンも風に乗る能力を問われる時代にシフトしそうだ。

References: UTEP[https://www.utep.edu/newsfeed/2025/september/fly-like-a-bird-utep-engineers-seek-to-translate-the-mysteries-of-bird-flight-into-aircraft.html]

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