
チーズ界を刺激する新たな味がまた一つ。ブラジル・サンパウロ州の小さな農場で生まれたチーズ「タイアダ・シルヴァニア」は、一見普通のチーズだが、なんとハキリアリ(葉切蟻)が混ぜ込まれている。
だがとてもおいしいと評判で、国際的なコンテストで賞まで獲得している。
農場経営者で開発者でもあるカミラ・アルメイダさんいわく、ブラジルの伝統食材であるアリの風味とカリッとした食感が特徴なんだそうだ。
ハキリアリを練り込んだチーズ「タイアダ・シルヴァニア」
ブラジル・サンパウロ州のカサパヴァ、観光地としてはまだ無名に近いのどかな地域で、チーズ界を刺激する新種が誕生した。
その名は「タイアダ・シルヴァニア(Taiada Silvania)」。見た目は普通のハードチーズだが、断面に何やら丸く黒っぽいものがちらほら見える。
大粒の黒コショウなどではない。なんとこのチーズには、地元で伝統的に食されているハキリアリ[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%82%AD%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%83%AA]が練り込まれている。
農場経営者が地域の伝統食ハキリアリに着目
この奇抜なチーズを開発したのは、エスタンシア・シルヴァニア(Estância Silvânia)という農場を営むカミラ・アルメイダさん。
地元の観光資源を模索していた彼女は、ふと郷土料理の一種でもある地域の食文化を思い出した。
地域の人々は昔から、この地に生息する「イサ(Içá)」と呼ばれるハキリアリを食べてきた。ちなみに食すのは”働きアリ”ではなく、群れの存続を担う”女王アリ”のみ。
そのアリは、ブラジルの先住民も長らく食してきたもので、基本焼いたり炒ったりしていただく。
サンパウロ州出身の作家モンテイロ・ロバトが、かつて「ブラジルのキャビア」と称したほどの食材だが、今や地元では高価なものになっている。
食用昆虫といえば、近ごろ未来にむけての食材と話題にのぼるが、専門家によると、昆虫はタンパク質含有量が高く、中には80%を超えるものもあり、ブラジルには食用昆虫の養殖に特化した生産者が既に存在するそう。
価値あるアリを自作のチーズに加える発想
ではあえて、その価値あるアリを自分の農場で作った最高のチーズに加えてみたらどうだろう?そんな発想から生まれたのが世にも珍しいこのチーズだ。
なおカミラさんがのちにインタビューで語ったところによると、発想のヒントになったのは、ファロファ[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A1]と呼ばれる炙ったキャッサバの粉の混合物だそう。ブラジルではふりかけのように食べられる食材で、カミラさんの地域では炙ったイサと一緒に食す人もいる。
イサはカサパヴァでとても文化的な食べ物で、人々にはそれをファロファに入れて食べる習慣があります。だから、チーズに入れてもいいかな?って (カミラさん)
製造の難しさとこだわり
カミラさんにとって、これは大きな挑戦だった。アリをチーズに混ぜるといっても、まさに”言うは易く行うは難し”。ことは簡単ではなかったからだ。
いろいろ試した末に、加えるタイミングは「形成工程」のときのみで、他の段階ではうまく混ざらず、風味まで損なわれることがわかった。
アリはあらかじめトーストしておき、香ばしさと食感をきっちり引き出してから練り込むのがベスト。またベースのチーズには、完全牧草飼育されている「ギル種」と呼ばれる牛の生乳(A2ミルク[https://ja.wikipedia.org/wiki/A2%E7%89%9B%E4%B9%B3])を使用。
試行錯誤しながら60日間の熟成を経て完成したタイアダ・シルヴァニアは、柔らかな外皮をもつセミハード系。
甘みがありしっかりした味わいの中に、「イサ」の特徴であるアーモンドや栗のようなナッツ類、フェンネルのような風味、そしてカリッとした歯ごたえある食感がアクセントになっているそう。
1kgあたり約5,500円。国際的な評価と価格
タイアダ・シルヴァニアチーズは、販売直後の2021年にチーズと乳製品の業界向けにフランス・トゥールで開催された、国際的な見本市および品評会、Mondial du Fromage et des Produits Laitiers で銅賞を獲得。
翌年にはパリで開催されたプロ向けの展示会と品評会 Salon du Fromage にも招待され、ペルーやチリといった南米各地のコンテストでも次々受賞。各国酪農家からも注目されるチーズとなった。
ちなみに、気になる価格は450gで90レアル(約2,500円)と、1kgあたり5,000円を超える。カミラさんの農場Estância Silvaniaの直売品として売り出し中[https://estanciasilvania.com.br/laticinio/index.php?route=product/product&path=59&product_id=60]だ。
ご当地チーズになり地元でも人気に
現在タイアダ・シルヴァニアは、SNSでも斬新なご当地チーズとして話題に。ブラジル国内でも徐々に認知度が上がり、観光客の間でもトレンドの逸品になっている。
カミラさんにとって予想を上回る反響で、地元でも”昔ながらの食材、アリを使った思い出深いもの”として、母の日や父の日などに買い求められるようになったそう。
多方面から注目!食の未来に一石を投じるチーズ
アリを使ったこのチーズの魅力は驚くほど多岐にわたる。
単純に珍しさ、奇抜さだけを狙ったものではなく、古くから続く先人の歴史や食文化との結び付き、慎重に厳選された材料に、完成度を高める工程の工夫や細部のこだわり、そして国際的な評価をもつ点などだ。
また影響としては、新たな観光資源の発掘、地域活性化や雇用創出といった経済的効果にとどまらない側面も期待できそう。
昆虫を食材として本格利用する現代の市場において「本場の食文化発祥地ブランド」としての注目度も高く、「世界的食糧危機対策」や「未来型サステナブル消費」をけん引する代表商品の可能性も秘めてるからだ。
アリをチーズに投入するは、かなり突飛な発想に思えたけれど、アリなだけにアリなのか。
チーズと虫といえば、メキシコでも高級食材のアリの卵を食す文化があるそうだし、ダニまみれのチーズ「ミルベンケーゼ」やウジ虫入りチーズ「カース・マルツゥ」が頭をよぎるが、世界の度肝を抜き、世間の話題をさらう新たなチーズの材料にも時代が反映されつつあるようだ。
追記(2025/010/05)脱字を修正して再送します。
References: Edairynews.com[https://br.edairynews.com/gourmet-e-premiado-queijo-com-formiga/] / Edairynews.com[https://br.edairynews.com/gourmet-e-premiado-queijo-com-formiga/]