アマゾンの絶滅危惧種のカメ、4万1000匹いることが新たなカウント法で明らかに
image credit:<a href="https://vimeo.com/1101274979?fl=pl&amp;fe=vl" target="_blank" rel="noreferrer noopener">University of Florida/vimeo</a>

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 より正確な個体数を知るカギは動線の把握にあった。フロリダ大学の研究チームは、ドローンと行動統計モデルを組み合わせた調査法により、アマゾンの砂州(さす)に集まる絶滅危惧種、オオヨコクビガメの群れの数を確認した。

 その結果、約4万1000匹いることが明らかとなった。

 これまでの地上調査や単純な空撮のみでは見落としがちな誤差が明白になり、保全判断の信頼性を上げる第三の手法が脚光を浴びている。 

 この研究成果は『Journal of Applied Ecology[https://besjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/1365-2664.70081]』誌(2025年6月17日付)に掲載された。

オオヨコクビガメとは

 オオヨコクビガメ(英名:Arrau turtle 学名Podocnemis expansa)は、南アメリカの大河川に暮らす大型の淡水カメ。曲頸(きょくけい)亜目ヨコクビガメ科ナンベイヨコクビガメ亜科に属する。

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 体重最大90kg、最大甲長107cmに達し、曲頸亜目の中では最大種。雌が雄より大きくなる傾向があり、甲羅は丸みを帯びて幅広く、体色は茶色やオリーブグリーンや灰色。見ための色は付着した藻にも左右される。

 食性は主に植物だが雑食性の側面も。主な分布はアマゾン流域やオリノコ流域。臆病なためふだんはほとんど陸上に出ず、危険を察知するとすぐ水中に逃げる。

 一方、営巣期を迎えると、群れで陸に出て頻繁に日光浴し、繁殖期には砂浜や河岸の砂州に多数の雌が集まって一斉に巣に産卵する習性がある。

 野生での寿命は20年以上、最大の個体の年齢は80歳と推定されるが、肉や卵を売買する密猟者による乱獲や卵採取、生息地破壊など、人為的要因により深刻な脅威にさらされている。

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オオヨコクビガメの個体数推定に新たな調査法

 今回フロリダ大学研究チームは、世界最大級の産卵地、アマゾンのグアポレ川沿いの砂州に集まるオオヨコクビガメの個体数推定に新たな調査法を取り入れた。

  単にドローンが撮った画像を合成して数える、という従来の方法「オルソモザイク」方式に加え、個体に印をつけて得た行動データを用い、砂州上と砂中の巣を行き来する個体の出入りや重複カウントを確率モデルで補正した。

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個体の動線を集めてモデル化し重複を補正

 具体的には、まず1,187匹の甲羅に白い塗料でマークをつけておき、ドローンが1日4回、12日間にわたり砂州の上空を往復する計画飛行により、各回約1,500枚の写真を撮影。

 その画像をつなぎ合わせ、個体の位置と行動(巣作り中か移動中か)を記録した。この観測データから、移動や検出確率のモデル化を行った。

 単純な画像合成(オルソモザイク)や、地上観察のみでは重複や見落としが生じるため、まず個体の行動データ(動線)を集め、それに基づき、重複の検出を補正する確率モデルを作成したのだ。

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今回の補正結果で推定約4万1000匹に

 その結果、従来の手法と今回の補正結果で大きな違いが。

 過去の地上観察だけでは約1万6000匹、ドローンのオルソモザイクを単純に数えた場合は約7万9000匹だったが、今回の行動モデル補正により約4万1000匹と推されたのだ。

 この数は、淡水ガメの個体数としては世界最大規模の集団となる。さらに研究では、オルソモザイクの潜在的な誤差要因も以下のように具体的に明らかになった。

・調査中に砂州にいた個体のうち、ドローン飛行時に写った個体の割合はわずか35~45%程度

・移動中だった個体の約20%が映り込み、複数回カウントされていた(中には7回カウントされた個体も)

 これにより、観察タイミングや個体の動き次第で、見落としや重複が起き、数が大きく変わる現実が浮き彫りになった。

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 本研究の筆頭著者であり、フロリダ大学食品農業科学研究所の森林・水産・地理情報科学部の博士研究員のイスマエル・ブラック氏はこう語る。

これらの数値は大きく変動しており、それが自然保護活動家にとって問題になっています

科学者が特定の種の個体数を正確に把握できなければ、個体数が減少しているのか、あるいは保護活動が成功しているのかをどうやって判断できるのでしょう?

 なお、”オオヨコクビガメ カウントプロジェクト”を最初に始めたのは、ブラジル、コロンビア、ボリビアの野生生物保護協会(WCS)の研究者らだった。

 ブラック氏は事前に彼らと会い、ドローンを使ってウミガメの数を数え、オルソモザイクを作成する方法を教えてもらった。

 その後、WCS と連携し、誤差の分析や今回の新たな手法を検証していった。

公開映像は視覚的な補助資料

 研究で公開されたドローン映像は、現場の様子を伝える重要な素材だが、今回の最終推定でメインに使われたものは他のものであり、この動画自体が単独で使われることはなかった。

 重要なのは、標識(目印)による行動データと連続撮影から導いた確率モデルであり、映像は研究の補助資料かつ可視化の手段の役割を担うことになった。

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保全に欠かせない数の推測

 泳ぎ回る魚群などもそうだが、生きて移動する動物の群れのカウントはただでさえ間違えやすい。

 とはいえ、ブラック氏が言うように、保全目的のカウントで「オオヨコクビガメが何匹いるか」があやふやだと、今後の方針や資源配分までぶれてしまう。

 今回の手法は、繁殖や産卵で個体が空間的に寄り集まる場面で特に効果を発揮する。

 ブラック氏は、この標識と行動モデルの組み合わせを「斬新」としこうコメント。

動物の個体群をより効率的に監視する新しい方法を開発しました。この方法はカメの個体数を数えるために用いられていますが、他の種にも応用できる可能性があります

 保護すべき動物の産卵地・繁殖地の優先順位の決定のほか、密漁対策にも役立ちそうだ。

新たな組み合わせ手法の課題

 なら今後はもうそのやり方でいいのでは?と思うかもしれないが、そこには課題もある。

 この組み合わせ手法の精度を上げるには、前述したとおり、対象個体の行動データが必須であり、そのための標識作業、具体的には捕獲や塗装、首輪装着など、種ごとに異なる現地作業を伴う。

 そうした作業で、倫理的配慮や費用、現地での実行可能性が課題になるため、理想的な手段と現場運用の間には妥協点が求められる。精度を上げるため完璧を目指せば、やはりコストや手間がかかるのだ。

ハイテクなドローンも万能ではない

 もう一つ重要なのは「オルソモザイク単独の限界」、つまり当然ながら、先端技術のドローンも決して万能ではなく、特にこうした用途においては、誤差や移動を考慮すべき、という点だ。

 空からの視覚情報は強力だが、動く生き物の生態を無視して数えれば、誤った結論が導かれる。

今回の研究は、テクノロジーと人間が現地で行う地道な観測を統合し、初めて実用的な精度を達成した例といえる。

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カギは個体の動線を読み解くこと

 のんびりゆっくりまったりと甲羅干しする様子が愛らしいカメたちも、繁殖期には目を見張るほど巨大なコミュニティを形成する。

 見ための静けさの裏で動き回る個体の“動線”を読み解くことで、カメたちの本来の状態が初めて正確に見えてくる。というかリクガメって意外とアクティブに動いたりするもんね。

 研究チームは、南米の他の国々に生息するカメに焦点を当て、このプロセスを改良する予定だ。

複数の調査から得た情報を組み合わせることで、個体数の動向を把握し、WCS が保全活動に投資すべき分野を特定できるようになります (ブラック氏)

 保全のためにつきとめた、”より正確な数字”は、単なる統計以上の意味を持つことになった。

 研究チームが開発した新たな手法は、自然保護活動において重要な武器になるだろう。相応の課題もあるが、このやり方が広まれば、適切な導入で保全効果の向上も期待できそうだ。

References: News.ufl.edu[https://news.ufl.edu/2025/07/drones-counting-turtles/] / Inaturalist[https://www.inaturalist.org/taxa/40147-Podocnemis-expansa] / Iucnredlist[https://www.iucnredlist.org/species/17822/97397263]

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