アラスカの永久凍土に眠っていた4万年前の古代生命を目覚めさせた科学者たち
融解したアラスカの永久凍土 Credit: Brandt Meixell/USGS

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 またしても、科学者たちが目覚めさせてしまった。アメリカ陸軍が管理するアラスカの研究施設で、地下に広がる永久凍土の中に眠っていた約4万年前の微生物を蘇らせたのだ。

 アメリカの研究チームは、活動を停止していた微生物に水を与え、適切な温度で管理したところ、彼らは目を覚まし、活発に活動を始めた。

 なぜそんなことを?その理由は、気候変動によって急速に溶けつつある永久凍土にある。

 このまま融解が進めば、中に眠る大量の微生物が一斉に目覚め、温室効果ガスを放出して気候変動をさらに加速させる恐れがある。

 その影響を事前に把握し、地球環境に何が起こるのかを予測することが、今回の実験の狙いだ。

 この研究成果は『JGR Biogeosciences[https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1029/2025JG008759]』誌(2025年9月23日付)に発表された。

永久凍土の地中深くに眠る古代の微生物を採取

 アメリカ・コロラド大学ボルダー校とカリフォルニア工科大学の研究チームは、アラスカ州フェアバンクス近郊にあるアメリカ陸軍工兵司令部の研究施設に向かった。

 この施設の地下には、長さ約106 mの人工トンネルが掘られており、その壁面には数万年前の氷や土がそのまま保存されている。

 永久凍土を貫くこのトンネルの壁からはマンモスの骨が突き出しており、氷河期の名残を色濃くとどめる場所だ。

 トンネルに入った研究チームの地質学者、トリスタン・カロ氏は、「まるで何年も放置されたカビ臭い地下室のようなニオイだった」と語る。

 この強烈なニオイこそ、微生物がまだ生きている証拠でもあるという。

 カロ氏と同僚たちは、凍った土から複数のサンプルを慎重に採取した。それぞれのサンプルには、凍結したまま何万年もの間、眠り続けていた微生物が閉じ込められていた。

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水と温度で刺激したところ、微生物たちが目覚める

 研究チームは、採取した微生物に水を与え、数か月間4~12℃の温度帯に置き、微生物がどのように反応するかを調べた。

 この温度は、アラスカの夏に近い条件であり、気候変動によって将来、永久凍土のより深い層がこの気温に達すると仮定しての実験だった。

 この環境下で、微生物たちはゆっくりと目覚め始めた。

 初期の段階では、1日に約10万個のうちわずか1つの細胞しか入れ替わらないという、極端に遅いスピードでの復活だった。

 ところが、半年ほど経過すると、その様子は一変する。

 微生物の数が爆発的に増え、一部のコロニーは「バイオフィルム」と呼ばれる粘り気のある膜のような構造を作り始めた。

 これは微生物同士が集まり、ぬるぬるした物質を分泌して作るもので、家庭の排水口にできるぬめりなども同じ現象によるものだ。

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気温の高さよりも安定した気温の長さが重要だった

 研究者たちが注目したのは、微生物の増殖スピードに関わる条件だ。

 当初、より高い温度のほうが活動を早めると予想していたが、実際には適度な気温がどれだけ長く続くかがポイントだったのだ。

 「アラスカの夏に1日だけ暑くなっても意味はありません。微生物にとって重要なのは、暖かい状態がどれだけ長く続くかです」とカロ氏は語る。

 気候変動によって、アラスカなど寒冷地の夏が長引けば、永久凍土の奥深くまで熱が届く時間が増える。そうなれば、さらに多くの微生物が目を覚まし、活動を始める可能性が高まるという。

永久凍土の微生物が目覚めると負の連鎖が始まる

 人間の手を介さずに、永久凍土で微生物が目覚めると何が起きるのか?

 目覚めた微生物が活動を開始すると有機物の分解を行う。その過程でメタンや二酸化炭素といった温室効果ガスが放出される。

 これらのガスが大気中に増えることで地球の気温はさらに上昇する。すると永久凍土の融解が進み、また新たな微生物が目覚める。

 この悪循環により、地球温暖化がさらに進むという恐怖の負の連鎖が発生する可能性が高いのだ。

 今回の実験は、その連鎖がどのように始まり、どれほどのスピードで進行するかを明らかにするためのものだ。

 研究チームによれば、今回目覚めさせた微生物が実験室から漏れ出し、人間に感染する可能性は低いとされている。とはいえ、万が一に備えて、すべての作業は厳重に管理された密閉環境で行われた。

 「永久凍土はアラスカだけでなく、シベリアやカナダ北部などにも広く分布しています。今回の調査は、そのうちのほんの一部にすぎません」とカロ氏は語る。

 地球上には、まだ発見されていない未知の古代生命が無数に眠っている可能性がある。もしそれらが環境の変化によって目覚めたとき、生態系や人間社会にどのような影響を及ぼすのか。現時点では、完全にはわかっていない。

 尚、例え微生物が目覚めなかったとしても、永久凍土が融解すると地下にたまっていた大量のメタンガスが大気中に放たれることが、スヴァールバル諸島の永久凍を調査したノルウェーの研究チームによって明らかになっている。

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追記(2025/10/11)本文中の何千年もの部分を何万年に変えて再送します。

References: Onlinelibrary.wiley.com[https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1029/2025JG008759] / Colorado[https://www.colorado.edu/today/2025/10/02/researchers-wake-microbes-trapped-permafrost-thousands-years]

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