地球の過去は消えていなかった 45億年前の原始地球の痕跡を発見
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 できれば消し去りたい、若気の至りという名の黒歴史を持っている人もいるだろう。私もその1人だが、地球もまた同じだった。

そして地球も私と同じように、その過去を完全に覆い隠すことはできなかったようだ。

 今からおよそ46億年前、誕生したばかりの地球は、マグマが煮えたぎる灼熱の塊だった。

 ジャイアント・インパクト説によると、そこに仮説上の原始惑星「テイア」が衝突し、すべてがかき混ぜられ、月が生まれ、地球の内部は一から作り直されたと考えられている。

 この出来事によって、初期の地球(原始地球)にあった物質はすべて失われたと信じられていた。地球は“過去の記憶を失って”生まれ変わったというわけだ。

 ところが今回、MITの研究チームは、地球の深部に“かつての地球”のかけらが今も残っていた可能性を示す証拠を発見した。

 この研究成果は『Nature Geoscience[https://www.nature.com/articles/s41561-025-01811-3]』誌(2025年10月14日付)に発表された。

隕石を分析中、原始地球の手がかりを発見

 マサチューセッツ工科大学(MIT)のニコール・ニー助教授と研究チームは、世界中から集めた隕石に含まれるカリウムの同位体を分析していた。調査の目的は、隕石を通じて太陽系の進化をたどることにあった。

 ところが、その中に地球とは明らかに異なる“カリウム同位体の異常”が見つかった。

 宇宙から飛来した隕石のカリウムが地球と違うということは、カリウムが「地球を形づくった材料をたどる手がかりになる」可能性を示していた。

 そこでニー氏らは、視点を太陽系から地球へと切り替えた。

 もし地球内部に、いまもカリウムの古い痕跡が残っていれば、それは“原始地球”の成分が残っている証になるかもしれない。

 そしてついに、いくつかの岩石サンプルからも、地球では通常見られないカリウムの異常が検出された。

 この発見は、これまで私たちが信じてきた“地球の常識”を揺るがすものだった。

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地球で最も古い岩石が残る場所を調査

 これまで科学界では、ジャイアント・インパクトによって原始地球の痕跡はすべて失われたと考えられてきた。

 だが今回の調査で、地球内部に異常なカリウムの同位体が見つかったことで、その前提が揺らぎ始めたのだ。

 研究チームは、この異常の正体をさらに突き止めるため、地球で最も古い岩石が残る場所を調査することにした。

 候補となったのは、グリーンランドとカナダ、そしてハワイだ。グリーンランドやカナダには数十億年前の地殻岩が現存し、ハワイでは今も火山活動によってマントルの深部からマグマが湧き出している。

 とくにホットスポットと呼ばれるハワイのような火山では、地球の奥底に眠る成分がそのまま表に現れる可能性がある。

 そこに“ジャイアント・インパクト以前の地球”のかけらが混じっているかもしれない。研究チームはそう考えたのだ。

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原始地球の「痕跡」は地球内部に残っていた

 実際に採取されたサンプルの中には、地球の一般的な岩石とは異なる特徴をもつカリウムの同位体が確認された。ニー氏はそれについて「まるで作りが違うように見えた」と述べている。

 しかし、それが本当に“原始地球の痕跡”なのか、それとも単なる偶然なのかは、この段階ではまだ分からなかった。

 そこで研究チームは、サンプルが誕生してから現在まで、地球内部で受け続けたであろう高温・高圧・マグマの循環・地殻変動といった物理的変化を、シミュレーションで再現した。

 すると、当初は現在の地球の岩石と明らかに異なっていたカリウムの成分が、時間の経過とともに現在の岩石ときわめて近い状態へと変化していったのだ。

 この変化の過程は、「もともと違う物質が、地球に取り込まれ、長い年月の中で地球の一部になっていった」ことを示している。

 つまり、今回発見された“異常なカリウムの同位体”は、ジャイアント・インパクト以前に存在していた原始地球の物質が、そのまま現在の地球の中に残っていた可能性が高い、という結論に至った。

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それでも残される地球の起源の謎

 今回の発見によって、「原始地球のすべては失われた」とする従来の考え方に対し、新たな視点が加わることになった。

 だが、まだ大きな謎が残されている。

 というのも、最初に発見のきっかけとなった隕石のカリウムの異常と、地球内部で見つかった異常とでは、完全には一致していなかったのだ。

 これはつまり、科学者たちがいま持っている隕石のサンプル、すなわち「地球を構成した材料」の情報がまだ不完全であることを意味している。

 ニー氏は次のように語っている。

 「科学者たちは、さまざまな種類の隕石の組成を組み合わせて、地球の化学的な起源を再構成しようとしています。でも、今回の研究で、私たちが持っている隕石の種類だけでは不十分だということがわかりました」

 地球はどこから来たのか。何からできているのか。そしてその最初の姿は、どんなものだったのか。

 地球の起源をめぐる旅は、ようやく核心に近づきつつある。だがその全貌が明らかになるまでには、まだ多くの時間と研究が必要なようだ。

References: News.mit.edu[https://news.mit.edu/2025/geologists-discover-first-evidence-45-billion-year-old-proto-earth-1014] / Iflscience[https://www.iflscience.com/this-is-amazing-scientists-have-found-evidence-of-a-long-lost-world-deep-within-the-earth-81217] / Nature[https://www.nature.com/articles/s41561-025-01811-3]

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