アフリカの熱帯雨林に生息するマルミミゾウが農園を荒らす理由が、最新の研究で明らかになった。
ガボン国立科学技術研究センターの調査によると、ゾウたちは空腹を満たすためではなく、お腹の寄生虫を治す薬草を求めて農園を襲っているという。
ゾウは甘く栄養豊富な果実には目もくれず、わざわざ茎や葉だけを選んで食べていたのだ。
この行動は、野生動物が医学的知識を持ち、薬草となるものを食べることで、自ら体調を整える自己治療を行っている有力な証拠になるという。また、人間の未知の治療薬の発見にもつながる可能性を秘めている。
この研究成果は『Ecological Solutions and Evidence[https://besjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/2688-8319.70141]』誌(2025年10月29日付)に掲載された。
農園を踏み荒らし、茎と葉だけを食べるマルミミゾウの謎
アフリカ西部の国ガボンの広大な熱帯雨林には、マルミミゾウが住んでいる。
マルミミゾウはアフリカゾウよりも小柄で、丸い耳と真っ直ぐに伸びた牙が特徴だ。普段は最年長のメスを中心とした最大でも10頭前後の小規模な群れで生活する。草食性で、植物の葉、枝、樹皮、果実などを幅広く食べる。
このゾウは現在、密猟や環境破壊により絶滅の危機に瀕しており、国際自然保護連合のレッドリストでは最も深刻な絶滅寸前[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B5%B6%E6%BB%85%E5%AF%B8%E5%89%8D] (CR)に指定されている。
この希少なマルミミゾウと、近隣で暮らす農家の間には深刻な衝突が起きている。
夜間にマルミミゾウが農園へやってきて、大切に育てた作物を踏み荒らすという。しかもバナナやパパイヤの茎や葉だけを選んで食べ、一番おいしいはずの果実は地面に捨てたまま立ち去っていくのだ。
ガボン国立科学技術研究センターのスティーブ・ンガマ博士は、農家たちがなぜマルミミゾウが果実を食べずに壊すだけなのかと困惑する声を何度も耳にしていた。
マルミミゾウも薬草効果を知っていた可能性
人間の伝統医学では、バナナやパパイヤの茎や葉は、寄生虫の治療に使用されている。ガボンの人々も古くからこれらの葉を薬草として利用してきた。
ンガマ博士は、もしかしたらゾウたちもそれを知っていて、薬草として食べて自己治療を行っているのではないかと考えた。
そこで研究チームは、ガボンのクリスタル山脈国立公園周辺の村々で、作物を荒らすゾウの本格的な調査を開始した。
研究チームが約90個の糞サンプルを詳しく分析したところ、体内に寄生虫を抱えたマルミミゾウは、健康なマルミミゾウと比較してバナナの茎や葉を食べる確率が16%高かった。
さらに、寄生虫に感染したマルミミゾウがパパイヤの木をかじる確率は、健康な個体よりも25%も高くなっていた。
過去の研究では、バナナの葉から抽出した成分がヒツジの寄生虫の卵を殺す力を持つことや、パパイヤの茎に含まれる液体がニワトリの腸内寄生虫を抑えるのに役立つことが証明されている。
マルミミゾウはもともと植物の葉や枝を食べる習性があるが、お腹に寄生虫がいるときには、果実を差し置いて薬効のある特定の部位を重点的に選んでいた可能性があるという。
マルミミゾウたちは、自分のお腹にいる寄生虫を追い出すため、農園を天然の薬局として利用していたのである。
他の動物も行う薬草を使った自己治療
この研究には関わっていないが、ウガンダのチンパンジーが行う自己治療を研究を行っているアメリカ・ブラウン大学のエロディ・フレイマン博士は、マルミミゾウが高度な知能を持ち、薬草の知識を受け継いでいる可能性自体は十分にあり得ると評価している。
しかし、今回のガボンの事例が薬用目的であると断定するには、さらなる慎重な調査が必要だと指摘している。
農作物を荒らすマルミミゾウは人間や家畜の近くにいるため、単に寄生虫にかかりやすい環境にいるだけという可能性も否定できないからだ。
寄生虫が多い個体が、たまたま特定の植物を多く食べていただけではないかという疑問を解消しなければならない。
それでも、野生の霊長類も自己治療を行う事実は広く知られている。
オランウータンが薬用植物を自分の顔の傷に塗りつけ治療する姿も、インドネシアで確認されている。
マルミミゾウのような知能が高い動物は、どの植物が効くかという知識を、経験を通じて学習し、仲間や子孫に伝えることができる。
フランス国立自然史博物館のジャン=マルク・デュボスト氏は、動物たちが治癒効果とその味を関連付けて覚え、親から子へと代々伝承している可能性を指摘している。
ゾウの医学が人間の治療に使える可能性
アジアの象使いであるマハウトたちは、古くからゾウの医学的知識に注目してきた。
病気になったゾウを森へ放すと、ゾウは自分で必要な薬草を見つけ出して数週間ほどで回復するという。
また、象使いたちは、ゾウが選んだ植物を自分たちの病気の治療にも役立ててきた。人間とゾウは、大自然の中で薬草の知識を分かち合ってきたのだ。
ンガマ博士は、今回の研究結果が、マルミミゾウと農家の衝突を解決する手段になると考えている。
マルミミゾウに農作物の代わりとなる寄生虫の薬を与えれば、農園の被害を減らせることができるかもしれない。
さらに、マルミミゾウが利用する植物を研究することで、エボラ出血熱のような人間にとって危険な感染症を治す新しい薬が見つかる可能性もある。
絶滅の危機にあるマルミミゾウを、優れた知恵を持つパートナーとして捉え直すことが、人間と動物の両方を救うことにつながるはずだ。
References: Onlinelibrary.wiley.com[https://besjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/2688-8319.70141] / When Some Elephants Raid Farms, They Might Not Be After a Snack. They Could Be Looking for Medicinal Plants[https://www.smithsonianmag.com/science-nature/when-some-elephants-raid-farms-they-might-not-be-after-a-snack-they-could-be-looking-for-medicinal-plants-180987986/]











