『おひとりさま最後の片づけ やるべきこと・やらなくてもいいこと』(著:杉之原 冨士子)
◎60代は片づけに着手する最後のタイミング
片づけというと「物を捨てて心も軽くする」という部分が強調されがちですが、長く生きれば捨てられないものが増えて当たり前。それに年をとればとるほど、片づけは億劫になるもの。
本書のタイトルは、「おひとりさま最後の片づけ」です。こう聞くと、「これは“生前整理”の本でしょう」と思われるかもしれません。もしくは、「“終活”のことだよね」と感じられたかもしれません。
けれども、これから行う片づけは、生前整理でも終活でもありません。(中略)
人生100年時代を生きる、「今とこれからを豊かに過ごすためのポジティブな片づけ」なのです。
著者は、専業主婦を経て運送会社に勤務し、さまざまな引越し現場で梱包・開封サービスを担当。その現場体験から、高齢者を含むさまざまな世代の住まいと暮らしの質を上げる「ホームステージング」の必要性を実感し、生活の当事者視点に立った情報を発信しています。あくまで “現実”に寄り添ったアドバイスは、気分が重くなるどころか、むしろ前向きな気持ちにしてくれます。
これから行う片づけは、ある程度未来の自分を想像しながらする必要があります。60代は片づけを行う体力も気力も残っている、最後のチャンスと言ってもいいでしょう。
年をとると気力が落ちる。
本書が「いつも何かしなければと漠然とした不安を抱えたまま過ごす」のではなく、「準備は整った、もう大丈夫」と、残りの人生を安心して過ごすための、おひとりさま必携の書・バイブル的な存在になれば幸いです。
◎片づけの順番は、お金、家財(モノ)、情報
「さぁ、片づけを始めよう」といって、押入れの中身をひっくり返し、物を広げた時点で気持ちが折れること間違いなし。それが50代、60代の現実! 著者は、片づけの順番を、①お金に関する整理 ②家財(モノ)の片づけ ③情報の整理 で行うことを勧めます。
①お金に関する整理
銀行口座、クレジットカード、有価証券に保険、年金、不動産……。最近ならスマホのサブスクサービスなど、自動引き落とし契約もそう。お金の出入り口を絞り、現状資産をきっちり把握して、これからの生活に備える!
私はこの本を読むまで知らなかったのですが、認知症になると預貯金の出し入れ、定期預金の解約や契約変更ができなくなるとか(口座の凍結タイミングは銀行により異なるので、条件等は要確認)。
②家財(モノ)の片づけ
これが一番手間のかかる部分。本書では、片づけを行う場合のポイント6つを提示しています。
(1)片づけなくていい場所を把握する
(2)何よりも「安心・安全」が大切
(3)完璧を目指さない
(4)「いる」「いらない」をわかりやすく分ける
(5)最後は業者に任せればいい
(6)暮らしに潤いや楽しみを
これらのポイントで、なにより重要なのが転倒防止! 転倒→骨折→体を動かさなくなる→認知症というコースを徹底回避。具体的には、住まいのなかでよく使用する場所をまず片づける(1)。そして、その場所を結ぶ生活動線の障害物をなくす(2)。ここで、敷居や絨毯のわずかな段差や滑りやすい玄関や浴室のマット、足を引っ掛けやすいコタツのコードなど、住まいに潜む危険を発見することが重要です。
整理方法は、きれいかどうかより使いやすいかどうかで決めたほうが良い(3)とか、いる/いらないものの仕分け時に悩みやすい思い出の品も「いるもの」に分類していい。ただし、いつでも見られるように整理された形にする(4)など、ツボを抑えたアドバイスがうれしい。
③情報の整理
これはパソコンやスマホ、紙文書の整理。仕事やプライベートの情報で、子供や親族に見られたくないものは消しておく。逆に、写真や自分が死んだときにお知らせしたい知人の連絡先などはUSBメモリなどにまとめて保存。
そうした片づけを「今すぐやらなきゃ!」と焦(あせ)る必要はありませんが、「早く取り掛かるに越したことはない」というのが、素直な感想です。そして、ひととおりのことが済めば、なにか新しいことを始めるきっかけになりそうな予感に満ちています。それこそが、著者の言う「ポジティブな片づけ」。また、財産の管理方法や家じまい、処分に困る物の廃棄方法まで詳細に紹介されているので、年老いた親がいる人にも役立つ1冊です。
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■レビュワー
◎嶋津善之
関西出身、映画・漫画・小説から投資・不動産・テック系まで、なんでも対応するライター兼、編集者。座右の銘は「終わらない仕事はない」。
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■本の紹介
◎おひとりさま最後の片づけ やるべきこと・やらなくてもいいこと
この本は生前整理でも終活の本でもありません。また、具体的な部屋の中の片づけ方の指南書でもありません(基本的な片づけ法は掲載しています)。
片づけというと、「モノ」の片づけに目が行きがちですが、最後の片づけには「モノ」以外に「お金」「情報」「不動産」などいろいろな整理が必要になるのです。
片づけの現場を長年経験してきた著者は、「おひとりさま」の最後の片づけの現場で家がモノであふれ、通常の暮らしさえできなくなった最悪な状態の部屋にたくさん立ち合ってきました。
そのような部屋は「モノ」だけではなく、さまざまなものが手つかずのままで、残された人が長い時間をかけて必要なものを探したり、契約ごとや不用品を処理したりしなければならないのです。
ときにそれは、数年かかることもあります。また、時間だけでなく、お金もかかります。
「どうしてこんなになるまで、放っておいてしまったのか」といたたまれなくなり、時には涙が出るほどの現場もありました。
実は「モノ」「お金」「情報」「不動産」などの片づけや整理には「リミット」があり、それが60代なのです。
以降は気力や体力がついていかなくなり、そしてどこから手をつけていいかわからなくなり、そのまま年月が過ぎてしまうのです。
けれども、気力も体力も十分なこのタイミングでそれらのものが整理できれば、残りの人生を楽しみ、安心して過ごすことができるのです。
本書に掲載してある事項は、すべてを今すぐ行う必要はありません。
頭の隅に置いておいて、いざ必要なときにとりかかればいいのです。
本書では、多くの人が最後の片づけでどのような問題に直面するのかを見てきた立場から、何から手を付けていいのかわからなくて不安、どのようなことを早めに準備すればいいのか不安な人のために「やるべきこと・やらなくてもいいこと」を紹介しています。
この本1冊持っておけば、安心して残りの人生を楽しめる、おひとりさま必携の書です。
- - 主書名:『おひとりさま最後の片づけ やるべきこと・やらなくてもいいこと』
- - 著:杉之原 冨士子
- - ISBN:9784065311264
- - この本の詳細ページ:https://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784065311264