ソロデビュー10周年を迎える南條愛乃が、昨年末にリリースしたアルバム『A Tiny Winter Story』を伴う全国ツアー“南條愛乃 Live Tour 2022 ~A Tiny Winter Story~ supported by animelo mix”のファイナル公演を10月16日・さいたま市文化センター 大ホールにて開催した。今年の彼女の活動としては、年始からのfripSideでの活動、そして卒業を経たのち、この夏から開催された満を辞してのソロツアーだ。
冬をテーマにしたアルバムを中心に据えた、小さくて優しく、そして温かい音楽が鳴らされるステージの模様をレポートしよう。

“小さな冬の物語”が語られるコンセプチュアルなステージ
会場となったさいたま市文化センターのステージ上にはツアーロゴが記された薄手の緞帳が降り、そこにうっすらと青い光が照らされている。会場にはクリスマスソングのクラシックたちが流れるなど、季節は秋だけど来たる冬に向けてワクワクするような気分にも似た期待感が会場を包む。南條のツアーとしても2019年のアコースティックツアー以来、しかもエレクトリックなバンド編成となるとそれよりさらに前……という、コロナ禍を挟んでの待望のステージという待望感このうえない開演前となった。

そして場内の音楽がフェードアウトし、客席からは万雷の拍手が鳴る。それが鳴り止むのを待って、静寂のなかで少年のような声で「今日も、雪が降っている。
僕の蹄に、角に、鼻の先に、はらはらと雪が落ちてくる」というナレーションが聴こえてくる。久々のツアーはこれまでのライブとは異なり、声の主であるトナカイと少女という、アルバム『A Tiny Winter Story』のジャケットに描かれた2人の物語を軸にして進んでいくこととなる。のちのスタッフロールで明らかになるのだが、この物語を書いたのは南條の声優の先輩にして、童話や絵本など作家としても活躍する浅野真澄によるものだ(あさのますみ名義)。ステージ上の緞帳にトナカイと少女のポップなイラストが映し出されるなか、トナカイの無垢な声に導かれるようにして、ライブ、いや、“小さな冬の物語”の幕が開く。

ステージに降ろされた緞帳が上がると、冬らしいポップな「Merry」のイントロが鳴らされた。そこにはまるでもみの木のような形をした薄く白い布が垂らされ、その中央には、こちらも冬らしく白いコートに身を包んだ南條が立っていた。
軽やかなモータウンビート調のサウンドに乗せて、南條もまた軽やかに、心地良い歌声を聴かせる。“この冬を待ち焦がれていた”という歌詞の通り、まさにこの瞬間を誰もが待っていたような、冒頭から多幸感たっぷりなステージが展開される。そこからゆったりとしたテンポで聴かせる「vignette」へ続くと、南條の豊かな歌唱はサビでの低域からファルセットまで、まるで透き通る冬の空に広がっていくようにしっとりと聴かせていく。

ステージ上が暗転すると、再びトナカイによるナレーションが始まる。その間ステージ上に垂らされた布にトナカイのイラストなどが映される演出がまた素敵だ。さて、物語はトナカイが仲良しの少女に幸せになってほしいと“特別”をプレゼントするために冒険に出るというもの。
そうしたモノローグのあとのセットは、そんな“冒険”に彩られた楽曲が続いていく。「ゼロイチキセキ」ではステージ上を動きながら観客に手を振ったりと、南條自身も楽しそう。また、ピアノのイントロに誘われて始まった「光のはじまり」では“僕の隣は 君じゃなきゃ 嫌だ!”と歌って客席の奥を眺める姿に、コンセプチュアルな構成のなかでも改めてファンとの再会に感慨深げに感じられた。そしてポップなソフトロック「ヒトリとキミと」でも跳ねるようなリズムに乗せてステージ上を歩いたり指揮をする仕草を見せるなど、冒険パートを明るく楽しい雰囲気で終えた。

続いての幕間では、遠くまで冒険に出かけたトナカイが“特別”を見つけられずに悩む姿が語られる。そしてこの辺りで特別高い山に、“特別”を求めて歩を進めていく――。
物語が不穏な空気を纏い始めた頃に再開されたステージ上では、白いドレスに身を包んだ南條が立っていた。先ほどまでの楽しい雰囲気から一転して、「全ては不確かな世界」のアグレッシブなバンドサウンドが鳴らされると、会場はライティングとペンライトで真っ赤に染め上げられた。こうしたアグレッシブかつシリアスな曲調での、南條のボーカルの説得力はやはりすごい。一気に会場を掌握し、ピンと張り詰めるような世界観を形成していった。そしてそのまま間を置かずに、こちらもアグレッシブな「青星」が披露されると、会場も青く照らされる。突き刺すような南條の尖ったボーカルが素晴らしい「青星」を終えたあとの「My Heart My Hope」では、ステージ上の薄い布には冬枯れの木々が映し出される。
まさに冬の激しさ、厳しさを表現するなかで、特に後半での南條の激情を叩きつけるような歌唱は壮絶の一言。ここでライブの風景も一気に変化したように感じられる、圧巻のパフォーマンスだった。


物語はクライマックス。そこで歌われたものとは――。
山の頂上の辿り着いたトナカイ。極寒の中で“特別”とは?幸せとは?いうことに気づき始める。
そんなモノローグのあと、佐々木聡作によるピアノとともに「物語よ始まれと願う空に」が鳴り響く。ピアノだけをバックに緊張感溢れる空気のなかで聴かせる南條のボーカルは、ピアノと息を合わせるようにして言葉1つ1つを噛み締めるような歌唱で、掛け値なしに素晴らしく、間違いなくこの日のハイライトの1つであろうパフォーマンスだった。そこから温かだが物悲しくもあるピアノと鈴の音が聴かれる「シュガーポット」でもエモーショナルな歌唱を聴かせるという、南條の豊かな表現が数々見られるブロックとなった。そして幕間では、“特別”の正体に気づいたトナカイが山を駆け下りて少女の元へと走り、物語はいよいよクライマックスへ進んでいく。そんなトナカイのはやる気持ちを引き継ぐように「ありったけの愛しさで」が披露されると、劇中のトナカイの気持ちに呼応するように、ステージ上の真っ白な世界にも色がついていき、そこからこの物語を書いたあさの作詞による「余韻」へ。柔らかなエレピの音色とともに、南條の囁くような優しい歌声が響いていく。バンドが加わって壮大な広がりを見せるなか、ステージ上にも温かな光が降り注ぐ。まるで極寒の地のオーロラを見るような美しい光景のなか、言葉を噛み締めるように歌う南條。あまりに美しく、優しい世界に会場は大きな拍手に包まれた。

無事山を降り、“特別”を見つけることができたトナカイは、少女と再会を果たす――そんななか本編最後に披露されたのは、アルバム表題曲の「A Tiny Winter Story」。オープニングでステージ上に映し出されたものと同じ雪が舞うなか、小さくて優しい、そして温かい物語はエンディングを迎えたのだった。


10年を噛み締めながら、”旅”は続いていく
およそ1時間強の本編を終えたあとのアンコールは、『A Tiny Winter Story』の世界観を引き継ぐような、「白い季節の約束」からスタート。ここではツアーTシャツに身を包んだ南條が、本編よりリラックスした表情を見せながら歌う。そこから、「やっっとしゃべれます、南條愛乃です!」とこの日最初のMCを迎えた。コンセプチュアルな今回のツアーができるまでの話をしたり、観客と記念撮影をしたりと、緊張感から解放されたかのように、ファンとの交流をたっぷり楽しんでから続いての曲へ。ツアー日替わりのゾーンでは、毎回ソロ10周年を感じられる曲を歌ってきたのだが、今回は1stフルアルバム『東京1/3650』より「Recording.」をチョイス。曲中でコールアンドレスポンスがあるライブでもお馴染みの楽曲だが、ここでは2コーラス目での“楽しい人も(いるでしょう?)”のあとの、「ハーイハイ!」を観客が心の中でレスポンスするという、ある意味で息のあった展開を見せ、南條も思わず「ナイス!」と返す。そこからメンバー紹介などのMCを挟んでからは、「EVOLUTiON:」「新世界」とアグレッシブなパートへ。再び会場が熱く盛り上がったところで、最後に南條が「これからも、皆さんと楽しい思い出を作っていけるといいなと思いますので、よろしくお願いします」と告げ、この日最後の曲「・R・i・n・g・」へ。キラキラと輝くようなサウンドのなか、歓喜の再会となった久々のツアーは幕を閉じた。

アルバム『A Tiny Winter Story』に新たなストーリーを加えコンセプチュアルなステージを展開するという、これまでにない形でのライブとなった今回のツアー。その一方でこの日は、アンコールで見られたような南條とファンとの想いの深さ、そしてそれがこの先も続いていくということを強く感じさせるステージでもあった。もちろん“この先”とは、アンコールでも告知されていた、12月にリリースされるソロ10周年を記念するニューアルバム『ジャーニーズ・トランク』およびMV集『ジャーニーズ・トランク ~Memorial Music Clips~』のことでもある。10年という節目を迎え、さらにそこから“旅”は続いていくということを示すアルバムたちが今から楽しみではあるが、その前に南條とファンの再会を果たしたツアーが行われたこともまた大きい。

ステージを去る最後までファンとの交流を楽しんだ南條は、袖にはける瞬間に小さく「ツアー、やれて良かったな……ありがとう」と呟いた。このツアーで得たエネルギーというものが、南條愛乃の10年あるいはその先という旅に大きな意味をもたらすはずだ。

INTERVIEW & TEXT BY 澄川龍一
PHOTOGRAPHY BY 江藤はんな

<セットリスト>
01. Merry
02. vignette
03. ゼロイチキセキ
04. 光のはじまり
05. ヒトリとキミと
06. 全ては不確かな世界
07. 青星
08. My Heart My Hope
09. 物語よ始まれと願う空に
10. シュガーポット
11. ありったけの愛しさで
12. 余韻
13. A Tiny Winter Story
14. 白い季節の約束
~ENCORE~
EN1. 白い季節の約束
EN2. Recording.
EN3. EVOLUTiON:
EN4. 新世界
EN5. ・R・i・n・g・

当日のセットリストをまとめたプレイリストを公開中♪

YouTube Musicはこちら
Spotifyはこちら

●リリース情報
南條愛乃5thオリジナルフルアルバム
『ジャーニーズ・トランク』
12月21日発売

【2CD+Blu-ray】
品番:GNCA-1629
価格:¥7,150(税込)
初回生産分特典:特製スリーブケース仕様/フォトブック付き

<Disc1/CD INDEX>
・EVOLUTiON:(TVアニメ「進化の実~知らないうちに勝ち組人生~」OPテーマ)
・ヒトリとキミと(TVアニメ「天才王子の赤字国家再生術」EDテーマ)
・ジャーニーズ・トランク(※ 新曲)
上記楽曲を含む全13曲を収録予定

<Disc2/CD INDEX>
本人のセレクトによるキャラクターソング5曲をセルフカバー

<Disc3/Blu-ray INDEX>
ジャーニーズ・トランク MV (short ver.)
南條一間 ~シーズン6~
*初回生産分特典:特製スリーブケース仕様/フォトブック(24P)

南條愛乃Music Clip Collection
『ジャーニーズ・トランク ~Memorial Music Clips~』
12月21日発売

【Blu-ray】
品番:GNXL-1009
価格:¥6,050(税込)

<Blu-ray INDEX>
・blue
・君が笑む夕暮れ
・あなたの愛した世界
・黄昏のスタアライト
・きみを探しに
・ゼロイチキセキ
・光のはじまり
・一切は物語
・君のとなり わたしの場所
・サヨナラの惑星
・藪の中のジンテーゼ
・believe in myself -acoustic arrange making MV-
・涙流るるまま
・A Tiny Winter Story MV version
・A Tiny Winter Story Lyric Video version
・EVOLUTiON:
・ヒトリとキミと
・ジャーニーズ・トランク(※新規撮影)
上記映像を収録予定
*初回生産分特典:特製スリーブケース

関連リンク
南條愛乃 公式サイト
http://nbcuni-music.com/yoshino_nanjo/

南條愛乃 公式Twitter
https://twitter.com/nanjolno

南條愛乃 公式Instagram
https://www.instagram.com/nanjolno/

オフィシャルファンクラブ「ごきんじょるの友の会」
https://www.gokinjolno.jp/