早見沙織がニューアルバム『白と花束』をリリースした。2枚のミニアルバムを挟み、前作『JUNCTION』からは実に5年ぶりとなる通算3枚目のフルアルバムには、TK(凛として時雨)や清 竜人、Kevin Penkin、Tomggg、ぷす(fromツユ)、いよわ、諭吉佳作/menといった音楽クリエイターが集結し、早見自身が作詞作曲を手がけた3曲の新曲も収録。
「孤独や生きづらさを感じる人の心に寄り添い、光となる音楽を届ける」というテーマを軸にしながらも、これまでにない挑戦や変化にも富んだ、実にバラエティ豊かで個性溢れる楽曲たちを束ねた1枚を完成させた心境から話を始めた。

INTERVIEW & TEXT BY 永堀アツオ

1つ1つを束ねて作り上げた、早見自身が手がけた楽曲
——2021年から掲げてきたテーマの集大成となるようなアルバムになりましたか?

早見沙織 “集大成”という言葉の響きは大きいのですが、今現在の早見沙織を表したアルバムになったと思っています。自分の心の中に常にあったことですが、今回のアルバムを制作するうえでも大切にしたのは、人間はやっぱり、光もあれば闇もあって、どちらの側面もあるということでした。

——これまでは影や闇ではなく、“淀み”や“痛み”と表現されていましたね。

早見 決して、こちらから一方的に誰かを救いたいとか、誰かを変えたいという気持ちを持っているわけではなくて。自分も痛みがあるし、人にも痛みがある。
自分にも悲しみがあって、相手にも悲しみがあるっていう部分をちゃんと理解したうえで、音楽を作っていきたいなと思っていて。なので、今回アルバムでは、裏テーマとして<光>はあったんですけど、例えばリード曲の「Abyss」は、サビの中にもあるように、<闇>を意識しながら作りました。

——早見さんが作詞作曲を手がけられています。

早見 曲が先にできたんですけど、すごく明るいというよりは、寂しい雰囲気や切ない雰囲気が感じられるような曲にしたい、というイメージから作り始めて。渡辺(拓也)さんに編曲していただいて、そのあとに歌詞をつけ始めました。

——楽曲からは海に沈んでいくような情景が浮かびました。


早見 最初にアレンジしていただいた楽曲を聞いたときに、私も海みたいなイメージが浮かびました。いつもはピアノでデモを作ることが多いんですけど、別の楽器の音を聞きながら作ったほうが違うものが生まれるんじゃないかと思って、ギターの音を中心に作っていった曲だったんですね。冒頭の部分で生かしていただいているんですけど、海のイメージから色々とばあっと想像を広げていったときに、皆さん、人生の中で変化があった数年だっただろうな、と思って。

——そうですね。特にこの3年間のコロナ禍では、現実の生活でも、それぞれの心の中でも、大きな変化があったと思います。

早見 その変化を経て、得たものもあれば、失っていったものもあるな、と。
例えば、家族や大切な人や友達。人だけなく、大事にしていていたものや動物、仕事を失ったという人もいるかもしれない。もっと大きく見ると、世界情勢では争いもあるし、災害もある。色んなことがあると思うんですけど、それを経験したとき、すぐには乗り越えられないですよね。そのなかで、色々な複雑な心の動きがあって。プラスになったり、マイナスになったりを繰り返しながら、それでも少しずつ生きていくっていう流れがあるのかなと私は感じていて。
喪失感と、その心の揺れ動きみたいなところに焦点を当てて歌詞を書きました。

——編曲で感じた水や海のイメージというのは?

早見 自分が喪失感に見舞われているとき、考えに考えると思うんですね。それを“記憶の海”という言葉にしています。自分の想像の中で色々と思考していって、脱力して力が入らなくなっちゃったりする。どんどんと沈み込んで、深淵のほうまで潜っていってしまう。でも、そのなかでは、思い出に浸って、ちょっと幸せな気持ちになったりするし、逆にもう戻れないんだと思って力が抜けてしまったり、もがき苦しんだりする。
この曲では、もがいて上に上がって光を掴むんじゃなくて、沈んでいくんだけど、それでも水面には光が射している。このアルバムのために作った曲として、どこかにそういう<きらめき>みたいなものを入れたくて。

——このまま、早見さんが作詞作曲の両方をご自身で手がけた新曲について聞かせてください。「フロレセンス」ではポエトリーリーディングに挑戦してます。

早見 音楽チームから「少し語りっぽいパートを作ってみたらどうか?」というアイデアをいただいたんですけど、セリフとも歌とも違って面白かったですね。全体をまとう空気としては、浮遊感があって、ちょっとダウナーな感じなんだけど、サビはしっかりとあって、リズムも刻んでるというイメージで作りました。


——四つ打ちのバスドラが鳴ってますね。

早見 「Awake」とはまた違う心の残し方というか。グッと刻み込んで、そのビートが続いていく。心臓の鼓動からイメージした曲ですね。

——“夜明けを指す方へ”という歌詞もありますし、“光”や“愛”といった、このアルバムを象徴するような言葉が込められてますよね。

早見 アルバムの後半にできた曲なので、1つ1つを束ねて持っていくんだという気持ちは入ってますね。

——「フロレセンス」というタイトルはどんな意味なんですか?

早見 ダブルミーニングみたい感じなんですけど、<開花>と<蛍光>っていう意味を込めています。英語の綴りは違うんですけど響きは似てるんです。

——「Abyss」はアコギと弦が基調で、「フロレセンス」はエレクトロポップになってますが、ピアノと弦のみで、ベースとドラムなしで構成されたラストナンバー「はじまりの歌」は、どんなところから作り始めましたか。

早見 これまでやってこなかったことをやってみた2曲とは違って、自分の中では「真っ直ぐ」を意識した曲でした。あくまでもストレートに、そのなかでメロディーをどんどん変えていく。とても試行錯誤した曲だったんですけど、チームにたくさんの意見をもらって、どんどんブラッシュアップしていって。みんなとコミュニケーションを取りながら作っていったのが大きかったですね。

——どんなメッセージを込めましたか?

早見 歌詞を書くときはアルバムの最後の曲だと思っていたので、これまでの歩みの中でのまとめの1曲という意味は持ってます。でも、自分の意識の中では、自分が歌っていくことや音楽に携わらせてもらう道は、決して終わりではないと思っていますし、このアルバムを手に持って歩んでいきたいっていう気持ちもある。もっと広い目で見れば、自分の人生もずっと続いていくっていう。明日も朝がきて、生きていく。このアルバムを聞いてくださった方にも、紆余曲折ありながらも、明日は朝がくる。ちゃんとここからもう一度始めることができるっていう希望を込めた曲です。

——“立ち止まってもぶつかっても明日は来ると 信じ続ける。それが希望だと”と歌ってます。

早見 まさに、そこかなと。陰と陽のどちらもあるけれど、それでも明日がくるって信じたい。信じることが希望になる、という想いです。

「この1枚を作れたことが嬉しいし、本当に幸せ」
——リピート再生していると、オープニング曲「Ordinary」でまさに新しい朝が訪れていて。

早見 この曲は、Tomgggさんに書いていただきました。デモをいただく時に「光の中でも、特に朝の雰囲気のイメージで作りました」っていうお話をいただいていて。私も朝のイメージで歌詞を書き始めたんですけど、まさに「はじまりの歌」に通じるところがあって。“今日も地球が回ってる”という歌詞があるんですけど、なんだかんだやっぱり日々が続いていくっていうところからスタートしている。当たり前の日々からスタートしていくアルバムだっていうのがしっくりきました。

——<普通>や<日常>の大切さを歌ってますよね。

早見 “特別じゃなくていい 器用じゃなくていい 何気ない日常を重ねていく”っていうサビの最後と、“変わらない日常 今日も僕ら照らしている 生きることは ままならないけど”の2つのブロックはデモを聞いたときにパンって浮かんで。あ、この曲で私が書こうとする歌詞は、スケールの大きいことではなくて、もっと毎日の中にある、日々がちゃんと続いていくんだっていう光なんだって思ったんですね。だから、別に大きいことが起こらなくてもいい。毎日を続けてることがすごく尊いことだし、素敵なことだっていう意識があって。日々の中に根ざした歌詞にしたいなというところからできた曲から、このアルバムは始まっていくんですね

——Tomgggさんはじめ、新曲の楽曲提供は作家性のある素敵なアーティストの方達に参加していただいてますね。

早見 Tomgggさんはコロナ禍に行われたリモート音楽フェスティバルで、私のミニアルバム『シスターシティーズ』に入ってる「ザラメ」をリミックスで披露してくださっていたんですよ。それを聞いて、すごくいいな、ぜひ一緒にやらせていただけないかなとか思っていて。そういう前々からの想いがある方でした。

——ボカロPのいよわさんはいかがでしたか?

早見 元々リスナーとして聞いてましたし、いよわさんにしか出せない確固たる世界観があって。ファンの方がいよわさんの手がける歌詞やMusicVideoを考察したりしてるんですね。そういう独自のフィールドを築き上げてらっしゃる方に、このアルバムの中で想像が膨らむような楽曲をぜひ提供していただけないだろうかとお願いして、「残滓」が生まれたんです。

——色々な音が乱舞してますね。

早見 いよわさんの曲で、ピアノの音がくるくるくるくるって鳴ってるのが好きです!という話を打ち合わせのときにお伝えいたしました。あがったデモを聴かせていただいて、このキュートでポップな曲にかわいいだけのボーカルをのせるのは合わないなと思い、1番と2番と3番でそれぞれ変化をつけていきたいなと思いながらレコーディングをしていたんですけど、いよわさんからも、こんなふうに歌ってみてくださいという言葉をいただけて。1番は“過去”の思い出に浸って懐かしみながら微笑むような感じで、2番は“今”の不安に対して悲しげに歌って、3番は“未来”に目を向けて、しっかりと前を向いて進んでいく。希望がある、明るいイメージっていう。1つの曲の中にもドラマがある楽曲だったので、細かい歌い方やニュアンスはかなり試行錯誤しました。

——諭吉佳作/menさんによる「エメラルド」は、早見さんの誕生月、5月の誕生石であるエメラルドがタイトルとなっています。

早見 多分、諭吉さんが意識して作ってくださったんだと思います。私はすごく諭吉さんの曲が大好きなんです。NHKの音楽番組「ワンルームミュージック」のナレーションをやってたときに諭吉さんが出てらっしゃって。物作りの過程や特集をナレーション当てさせてもらったんですが、素敵だなと思っていました。諭吉さんの曲の中には自由の精神があるんですよね。芯はしっかりとあるけれど、何にも捉われないような感覚がある。そういう風合いがとても好きなので、このアルバムの中で、自分は自由なんだ、自由に生きていけるんだという意味を持ってくれる曲があったら、アルバムとしても力強いものになるかなと思って、お願いしました。

——エメラルドは「希望」や「新たな始まり」という石言葉を持ってるので、アルバムのテーマにもぴったりだなと思いました。そして、清 竜人さん提供の「ここでここで」はとてもポップな曲になっていますね。

早見 清さんの音楽もよく聴かせていただいていて。例えば、堀江由衣さんにたくさん提供されている曲がすごく好きなんですけど、ありとあらゆるジャンルの音楽を手がけていらっしゃる方だから、清さんにお願いするときは、決めたり、絞りすぎずに、清さんが感じるものを作ってくださいとお伝えしました。

——ロマンチックな映画の主題歌のようなラブソングになっています。

早見 私もそんなイメージで歌っていました。かわいらしいし、いじらしいし、すごく情景が想像しやすい言葉がたくさん置いてあって。解釈は色々あると思うんですけどでも、私の中では決して、この先がお先真っ暗みたいなイメージじゃない。先の未来に素敵な想像ができるみたいなイメージで歌いましたし、これまでにない、新しい扉を開いてもらったような感覚もありますね。

——全12曲が揃って、アルバムのタイトルはどんな想いでつけましたか? 

早見 光と闇のどちらも意識しながら、最終的には色んな光が集まって、光の集合体が白くなるように……白色になっていくというのを表せたらいいなと思って。楽曲1つ1つには様々な色の光が宿っている。それが、別に明るくなくても、ささやかでも暗くてもいいんですけど、そういう光が集まって、「白」っていう色になる。それと、花束というのは、今回のアルバムはすごく個性的な楽曲がたくさん揃っているということをイメージしました。満開に咲いてる花もあれば、枯れた花もある。それを1つ1つ束ねて、1枚のアルバムにしたっていう両面を入れたかったのと、私がこのアルバムの前に作ったミニアルバムがあるんですけど……。

——「GARDEN」というタイトルでした!そこからも繋がってるんですね。

早見 まさにコロナ禍で作ったもので、表題曲の「garden」では、どんなことがあっても自分の心の中に帰ってこられる自分だけの庭のような場所のことを歌っていて。そういう庭があることで、色んなところに出かけられるし、帰ってこられるし、強くなれる。そんな場所があったらいいなっていう気持ちで作ったんです。そのときのジャケットはCGで作られた現実にはない心象風景みたいなイメージだったんですけど、今回はあえて、自分の手で触れる、具体化した現実的な花々をモチーフに入れたいということで、このタイトルに決めました。

——心の中の花園を出て、自分で摘んだ花と、多くの人から手渡された個性的な花をまとめた花束を作ったことで、何かこの先の未来は見えましたか?

早見 5年前だったら生まれてないですし、今だからできた1枚かなと感じてますね。このアルバムの中で、自分が1個1個の花を手に取っていけたんだ、みたいな感覚は、やっぱり今じゃなかったら持っていなかった気がします。このタイミングだから生まれた1枚だと思っていますし、自分自身もとても気に入っていて。もちろん、全部の作品が好きなんですけど、この1枚を作れたことが嬉しいし、本当に幸せ、っていう気持ちになれていて。そのぶん、大変だったこともありましたけど、それがあったからこそ生み出すことができたし、『白と花束』があった自分を経て、また歩んでいきたいなっていう気持ちは強くありますね。

——集大成とは言いましたけれど、ゴールではないですもんね。

早見 そうですね。テーマで言ってきたことは突然生まれた想いというよりは、ずっと抱えてきた想いだし、きっとそれはこれからも自分の心の中に在り続けると思います。

——そして、7月からは全国ホールツアー(HAYAMI SAORI Tour 2023 “白と花束”)も決定しています。どんなツアーになりそうですか?

早見 久しぶりのツアーで、有観客で皆さんと楽しめるので、本当にワクワクしています。今、ちょうど構成を練ったり、考えたりしてる段階なんですよ。このアルバムの曲が軸になっていくのは間違いなくて、これらの曲を生で味わっていただくと、「白と花束」の魅力がぐんと広がるような気がしてるんですね。だから、ライブにもぜひ来ていただきたいなと思っています。お楽しみに!

●リリース情報
早見沙織 3rdアルバム
『白と花束』
5月24日(水)発売

【CD+Blu-ray盤】

品番:1000827906
価格:¥7,480(税込)
※ブックレット(24P)/フォトブック(24P)/アウターケース仕様

【通常盤】

価格:¥3,300(税込)
品番:1000827911
※ブックレット(24P)

<CD>
1. Ordinary
作詞:早見沙織 作曲・編曲:Tomggg
2. Abyss
作詞・作曲:早見沙織 編曲:渡辺拓也
3. 残滓
作詞・作曲・編曲:いよわ
4. ここでここで
作詞・作曲・編曲:清 竜人
5. Tear of Will
作詞:早見沙織 作曲・編曲:Kevin Penkin
6. Awake
作詞:早見沙織 作曲・編曲:TK
7. フロレセンス
作詞・作曲:早見沙織 編曲:倉内達矢
8. 透明シンガー
作詞:早見沙織 作曲・編曲:ぷす(fromツユ)
9. エメラルド
作詞・作曲・編曲:諭吉佳作/men
10.Guide
作詞・作曲:渡辺 翔 編曲:大久保 薫
11.視紅
作詞・作曲:渡辺 翔 編曲:渡辺拓也
12.はじまりの歌
作詞・作曲:早見沙織 編曲:大久保 薫

<Blu-ray>
「Hayami Saori Special Live 2023 Before Dawn -夜明けに君と」2023年1月2日@ TOKYO DOME CITY HALL ライブ映像

<フォトブック>
・「Hayami Saori Special Live 2023 Before Dawn -夜明けに君と」2023年1月2日@ TOKYO DOME CITY HALL ライブフォト

初回生産分封入特典:「HAYAMI SAORI Tour 2023 ” 白と花束」チケット先行購入権 抽選申込券

●ライブ情報
HAYAMI SAORI Tour 2023 “白と花束”

■公演日時・場所
2023年7月22日(土)
場所:北海道・道新ホール

2023年8月5日(土)
場所:石川・金沢市文化ホール

2023年8月12日(土)
場所:宮城・トークネットホール仙台(仙台市民会館)

2023年9月3日(日)
場所:福岡・キャナルシティ劇場

2023年9月10日(日)
場所:大阪・グランキューブ大阪

2023年9月18日(月・祝)
場所:東京・東京国際フォーラム ホールA

■チケット
5月24日(水)発売「早見沙織/白と花束 <CD+Blu-ray盤>」「早見沙織/白と花束 <通常盤>」初回生産分にチケット先行購入権抽選申込券を封入

関連リンク
早見沙織オフィシャルサイト
https://hayamisaoriofficial.com

早見沙織Official Twitter
https://twitter.com/hayami_official