TVアニメ「アイドルマスター シンデレラガールズ U149」(以下、「U149」)の第12話「明るい時は見えなくて、眠る時に見えるもの、なに?」が放送された。本コラムでは「U149」の物語や音楽、アイドルたちの魅力を追いかけていく。


【特集】TVアニメ「アイドルマスター シンデレラガールズ U149」が彩る夢のステージを紐解く!

【特集】TVアニメ「アイドルマスター シンデレラガールズ U149」が彩る夢のステージを紐解く!

TEXT BY 中里キリ

小さなシンデレラたちの夢を叶える夏の魔法
「Twinkle Summer Night」。それは半屋外タイプのドーム会場にトップアイドルたちが集うライブイベント。街中を華やかなライブ告知看板がジャックするなかにはLiPPSや桐生つかさ社長、しゅがみんコンビといった第3芸能課がお世話になったトップアイドルたちの姿が並び、事務所を挙げて行う大規模ライブであることが伝わってくる。ビル屋上のひと際目立つ看板に描かれるのはnew generationsだ。

しかしそんなライブから3週間前。第3芸能課の面々はこのライブに出演することができないと知って肩を落としていた。
「Twinkle Summer Night」の開演時間は20:00。法律によって子供たちは20時以降働くことができないという、動かしようのない法律の壁があったのだった。ライブに出たいアイドルたちのために課長に食い下がるプロデューサーだったが、一度決まったライブの予定を動かせるはずがない。普通なら。

酷暑のなか歩きながら、ライブに出たいと言いあう第3芸能課のアイドルたち。ありすがため息をついていると、夏の暑さが作り上げた幻のような人影が語りかけてくる。


「ライブに出たいのかい?」

それに「はい」と考えもせずに答えているあたり、ありすの心境にも大きな変化があったのだろう。気づいたときには人影の姿はなく。その後“ライブに出るには”をテーマにかわいらしい会議を行なうアイドルたちだったが、話し合っても答えは出ないのはアイドルたちも、プロデューサーもよくわかっていることだった。以前は“思案中です”としていた自分がやりたいことをプロデューサーに問われたありすは、「歌で気持ちを伝えたいです。今の自分の気持ちを、言葉で」と優しい表情で言葉にする。

ライブに出られなくても、今、できることを。
プロデューサーたちはアイドルたちからフレーズを集めながら、新曲の作詞に着手する。「夢見よう。夢を見ることに早すぎるも遅すぎるもないから(ありす)」「1、2、3 ダーッシュ!(結城晴)」といった、彼女たちらしい言の葉が集まっていく。

そして、前向きな行動は、流れを変えるのだろうか。いや、シンデレラたちに魔法をかけるのは、いつだって魔法使いのちょっとした気まぐれなのかもしれない。息急き切って駆け込んで来た課長が告げたのは、U149も「Twinkle Summer Night」に出られる、そのために会長がライブの開演時間を変えた──という衝撃の告知だった。
喜び合うアイドルたちだったが、事務所内は会社をひっくり返したような大騒ぎだ。部長も次長も課長も、そしてプロデューサーも、家には帰れないレベルでの調整と大仕事の日々が始まるのだ。この強烈な剛腕のトップダウンを見ていると、部長が会長案件に及び腰だったのもわからなくはないかもしれない。

夢のステージと、どこまでも繋がっていく夢の続き
勢いに乗って、「Twinkle Summer Night」には新曲で挑戦すると決めたプロデューサー。急ピッチで進む厳しいダンスレッスンにへこたれそうになるアイドルたちだったが、妥協せずに頑張って見返してやろうといい笑顔で宣言したのはありすだった。今後を考えるときに、大丈夫なのだろうかとネガティブな呟きを漏らしていた少女はもういない。
気分を改めて夢に向けての努力を再開するアイドルたちのテーマソングは「ハイファイ☆デイズ」! 「THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS STARLIGHT MASTER 03」に収録されたナンバーで、佐々木千枝櫻井桃華市原仁奈、龍崎薫、赤城みりあという小学生で構成された歌唱メンバーはU149と共通している。コミックの特典CDではありすも歌っており、U149とはゆかりの深い楽曲と言えるだろう。

興味深かったのは、「Twinkle Summer Night」に出演するアイドルたちのレッスン風景の描写で、彼女たちの会話をメッセージアプリ上で表現していたことだ。アイコンやレスポンスでそれぞれのアイドルの個性が表現されていたほか、柊志乃のようなボイス未実装アイドルも会話に参加させることができるのはコロンブスの卵だ。ダンスの準備を頑張るアイドルたちの裏で、次長や課長、プロデューサーといった裏方たちが奔走している姿が描かれるのも嬉しいポイント。物語の中でヒールっぽい立ち回りもあったが、彼らもまたアイドルを愛するプロフェッショナルであることが伝わってきた。


Bパートでは、アイドルたちとプロデューサーは今はまだ空っぽのライブ会場を訪れる。その広大さに、普段は強気な的場梨沙ですら少しびびっているのが伝わってくるほどだ。みんながやや浮足立つなか、「大丈夫です、ドキドキするけど、みんなが一緒だもん」と千枝が落ち着いた表情で言っているのが、成長を感じさせて胸が温かくなる。会場では舞台裏の動きの導線を示すバミりや、大量に準備されたピカピカのハンドマイクなど、ライブの裏側が臨場感を持って描かれる。そして控室でU149を待っていたのは、これまでお世話になってきたトップアイドルの先輩たちだった。さらにそこにnew generationsの島村卯月、渋谷凛、本田未央がやってくる。「シンデレラガールズ」を象徴する3人といってもいいメンバーだが、彼女たちが頼りになる先輩としての顔で新人たちを励ましているのも視聴者には嬉しい光景。卯月の笑顔が控室を和ませ、U149のアイドルたちも自然に笑顔になっていったのだった。

一息ついて客席からリハーサル風景を見守るプロデューサーに声をかけてきたのは、夏の暑さが生んだ妖精のような人影──ではなく、ライブの開演時間を鶴の一声で動かす力を持った“会長”だった。自社の会長の顔を知らないプロデューサーにも困ったものだが、アイドルをやることが本当に大変だからこそ、会長も、部長や次長たちもそれぞれにアイドルたちを思っていた一面があると、プロデューサーの口から聞けたのは良かったと思う。その言葉がすとんと落ちてくるのも、今回のエピソードでライブに向けて奔走していた次長たちの姿を描いていたからこそだろう。

そして開演時間を迎え、光溢れるステージに駆け出そうと舞台下に控えるアイドルたち。振り返ってこちらを見るアイドルたちの信頼に溢れた表情と、「いってきます」の声を受けられるのは、彼女たちを支えている“プロデューサー”だけの特権だ。

ステージに飛び出したアイドルたちは、初めてのスポットライトの中で「初めまして、U149です!」と手を繋いでお辞儀をする。一瞬の静寂と、それを追いかけて背中を押すように響く歓声と、光の海。ファンの笑顔があるからこそみんな笑顔になれる、島村卯月の言葉を形にしたような光景だ。

U149が満場の観客の前に初めて立つデビューステージの楽曲は「キラメキ☆」。この日のために作り、努力を重ねてきた新曲だ。“1、2、3 ダッシュ”のフレーズを受けて走り出すようなサビのフレーズは“夢見よう。夢を見ることに早すぎるも遅すぎるもないから”。物語の中でありすが綴った心情の詞を形にしたものだ。最終話の特別な新曲を、脚本の中に取り入れて書き下ろしているのは制作陣の愛情とこだわりを感じる。その言葉が生まれるまでの心情の流れを1クールかけて丹念に描いてきたのだからなおさらだ。

なお、「キラメキ☆」のライブシーンで絵コンテを担当したのは、なんと河森正治氏だという。『マクロスF』や『AKB0048』といった名作の数々で原作・総監督を務めた大演出家にコンテを頼むとは驚きしかないが、アイドルアニメーションの歴史の大河ドラマを見るような想いがした。宙空を舞うアイドルたちが十三座のシャンデリアステージに降り立ち、幻想的なお城とファンの想いの光に包まれる情景。そして巨大なシンデレラのガラスの靴に乗って飛び立つアイドルたちというモチーフには、たしかに河森節の絵作りを感じた気がした。

そして客席で光るスティックとともに彼女たちの頑張りを見つめるのはまだ見ぬ仲間たちと、ありすの両親、そして部長、次長、課長の上司たち。

夢のような時間は一瞬で、夢見ごこちのまま「夢、叶っちゃいましたね」と語り合うアイドルたち。だがプロデューサーは、

「みんな、大きくなったら何になりたい?」

とさらに次の夢を問いかける。小さなアイドルたちとプロデューサーの物語は、まだ、始まったばかりなのだから。

新たな仲間たちと新しい物語の予感を残して、第3芸能課と不器用なプロデューサーの物語は、ひとまず輝かしいエンディングを迎えたのだった。

●作品情報
TV アニメ「アイドルマスター シンデレラガールズ U149」

原作:バンダイナムコエンターテインメント
原案:「アイドルマスター シンデレラガールズ U149」 廾之(サイコミ連載)

【スタッフ】
監督:岡本 学
副監督:高嶋宏之
シリーズ構成:村山 沖
アニメーションキャラクターデザイン:井川典恵
コンセプトアート:大久保錦一
デザインワークス:
野田 猛 小田崎恵子 中村倫子 渡部尭皓 槙田路子
美術設定:曽野由大
高橋武之 金平和茂
美術監督:井上一宏
色彩設計:土居真紀子
3DCG:石川寛貢 榊 正宗 神谷宣幸
撮影監督:関谷能弘
編集:三嶋章紀
音響監督:岡本 学
音楽:宮崎誠 川田瑠夏 睦月周平
音楽制作:日本コロムビア
アニメーション制作:CygamesPictures

【キャスト】
橘 ありす:佐藤亜美菜
櫻井桃華:照井春佳
赤城みりあ :黒沢ともよ
的場梨沙:集貝はな
結城 晴:小市眞琴
佐々木千枝:今井麻夏
龍崎 薫:春瀬なつみ
市原仁奈:久野美咲
古賀小春:小森結梨
プロデューサー:米内佑希

©Bandai Namco Entertainment Inc. / PROJECT U149

関連リンク
TV アニメ『アイドルマスター シンデレラガールズ U149』
公式HP
https://cinderella-u149-anime.idolmaster-official.jp/

公式Twitter
https://twitter.com/u149_anime