代官山にあるライブハウス「晴れたら空に豆まいて」は、今から10年前の2013年9月29日に豊永利行が初めてソロライブを開催した場所だ。当時はインディーズでの音楽活動をしていた彼の“はじまりの場所”でもある。
2014年にメジャーデビューを果たしたあとも、精力的な音楽活動の原点でもあり思い出深い「晴れたら空に豆まいて」のステージに、2023年11月11日、豊永は立っていた。それも自身のアーティスト活動10周年を記念して制作したアニバーサリーアルバム『Charactanswer』と共に立つとあって、想いもひとしおだろう。本稿では、そんなアルバムのリリースイベントの第二部をレポートする

TEXT BY えびさわなち

アーティスト・豊永利行のはじまりの場所での第一声は——。
『Charactanswer』は豊永自身が声優としてこれまで演じてきたキャラクターの中から厳選された7人のキャラクターに向けて、彼らが放つメッセージへの豊永からの“Answer”を手渡すように作られたアルバムだ。数えきれないほどのキャラクターと出会ってきた豊永。「どのキャラクターに対しても想いがあるし、どのキャラクターも自分の中で今も生きている」と話していたなかで、選ばれた7人へ向けられたサウンドが、歌声が、開演を待つ会場に流れていた。


実は限定2,000枚で即完売した先行販売盤を手にしたファン以外は11月29日の発売日を待っている状況。なんと、当日会場のBGMでも先行視聴できたのだが、BGMで流れているだけでも、どの曲が誰に向けたものなのかが伝わるのはさすがだ。その会場に開演に先立っての説明が行われると「豊永利行さん、よろしくお願いいたします」の声に拍手が沸く会場。ステージ袖から姿を現した豊永はゆっくりと歩を進め、集まったファンの前に立つと、「僕です」と登場した豊永。その第一声に観客は一斉に笑顔になる。はじまりからとてもハートフルな空気が会場を包んだ。



演じたキャラクターたちが繋いだ縁が集う場所
「第一部もあったのですけれどもね。コロナ禍があって、そこから復帰して、イベントやライブをやり始めますとなって、皆さまが声を出すという体が全然馴染めない時代になってしまったんですよ。なにかあるとすぐ拍手で応える感じになってしまいましたから」と豊永。今回は声を出してもOKだよ、ということで暖機運転すべく会場一体となっての跳ねる声でのコール&レスポンスでイベントは幕を開けた。

「第一部も盛り上がりに盛り上がりまして、めちゃめちゃ色んなお話をしたのですが、今回のリリースイベントは40分しかありません」と急に真顔になる豊永に「えーっ!?」とショックを隠せないオーディエンス。「ね~?びっくりよ。
この俺に!40分って!」と本人も不満顔。ファンを大切にする豊永だからこそ、もっと共に過ごしたいという願いもあることだろう。しかし、そんな短い時間でも色濃く趣深く『Charactanswer』を楽しめるような時間にしよう、と会場と約束するように豊永は語り掛けたのだった。

まずは10年前に「豊永屋」として初めてライブを行った場所である、と「晴れたら空に豆まいて」について話し始めた豊永。

「10年前ですよ。わたくし、当時29歳でございます。
みんなは10年前、いくつ?」と問いかけると、会場からは各々の年齢が声として返ってくる。「この10年という月日のなか、皆さんがどのタイミングで僕のことを知ってくださって、入ってくださったかなんて関係ございません。いつ入っていただいても結構なのですが、それ以前にも皆さんの人生もありましたから、そのなかで色んな作品を通じてここに一堂に会しているんです。そのご縁が素敵だなと思います」

作品との出会い、キャラクターとの出会い、そして音楽との出会い。年齢も住む場所も違う人々がこの貴重なイベント会場に集まってきていることの奇跡、そして繋がる縁を大切にするところにもまたファン想いの豊永の人柄が滲む。


サプライズと裏話と。

このイベントは11月29日(水)に発売となる初回限定盤、通常盤を予約したファンが来訪しているが、開演前のBGMで試聴動画とは違うフルコーラスが聴けて驚いたのではないか、と話す豊永。

「客入れBGMで“フル聴けちゃった!”みたいな感じになっていますね?“これフルじゃね?試聴動画のやつより長くね?”ってなりましたよね?そうなんです。フルで流させていただきました」と笑顔の豊永のアンケートによると、第一部、第二部共に2,000枚の先行販売盤を入手できなかったファンは数名で、そんな数名のファンへのサプライズになったのではないか、と言う。ここでその「先行販売盤」に付属したクリアカードについての話に。スマホでの写真撮影に使えるこのクリアカードが好評なのか否か、と会場に問いかける豊永。ファンがどのように使っているのか、など会場とのやり取りをしながら聞いていくなど、コミュニケーションを取りながら、笑い声の絶えない時間となった。
そして話題は本題である『Charactanswer』へ。

「今回はキャラクターへのアンサーソングを詰め込んだアルバムなのですが、皆さん的にどのキャラ推しというのはありますか?」という豊永の言葉にフロアからは「(『B-PROJECT』の金城)剛士!」「(『A3!』の有栖川)誉さん!」「(『Free!』の椎名)旭!」と次々に声が上がる。結果……「全員じゃねぇか(笑)!」と豊永も思わずツッコミを入れるが、それだけ彼の演じてきたキャラクターが愛されているということがわかる。さらに推しキャラクターの曲ではないけれど、好きな曲はあったかとの質問に対しても様々な声が上がる。そのなかにあった「剛士」の声に答える豊永。

「剛士はだいぶラウドな感じにしたんですよ。ごーちんは『B-PROJECT』でTHRIVEというユニットを組んでいるアイドルですけれど、すごく音楽性に富んでいる人で、音楽に対してプロ意識のすごく高い人。なので、そのなかで彼の紡ぐ音楽性が、もちろんTHRIVEとしての音楽性を発揮しているんだけど、ごーちん的にはもっとバリバリのゴリゴリのやつやりたいんじゃないかなって思って、もしよかったら俺がごーちんの想いを叶えてあげたいという想いで作った曲が『non-toxic』なんです。だから、そのバチバチ感みたいなものは、僕には珍しいんです。ああいう曲を書くことは」と制作の裏話をすると、会場の観客たちはじっと聞き入っていた。

アルバム『Charactanswer』をダイジェストで聴かせたミニライブ
今回『Charactanswer』に収録するキャラクターについては、豊永のFC内で「豊永利行が演じるキャラクターで好きなキャラクターを3人教えてください」というアンケートを取り、アニメ、ゲームのみならず朗読劇といった作品からも広く募集したところ、3キャラに絞るという苦行の果てにファンが答えてもらったとのこと。そのアンケートを募集した当初には、この『Charactanswer』の存在は明記しておらず、そこで上がってきたキャラクターを、アルバムでのキャラクター選出の参考にしたのだそう。1位から順番に作ったわけではないため、上位にいたキャラクターを選出した、と豊永は話した。

「改めまして、ファンクラブに入っていない人で、今回の『Charactanswer』に自分の推しキャラへのアンサーソングがあったという人は、俺じゃなくてファンクラブの人たちに感謝していただければと思います。“投票してくれてありがとう!”って思っていただけたらと思います」と言うと、会場は感謝の想いと、そんな微笑ましいエピソードによって笑顔に包まれた。

さらに話題は『Charactanswer』収録の『Free!』椎名 旭へのアンサーソング「Hot location」へ。「試聴動画には入っていないのですが、後半にガヤが入っているんです。ザワザワしていて、“Oh Yeah!”って盛り上がるところがあるのですが、あの声の中に矢野奨吾がいます」と裏話がされるとフロアに大きな拍手が沸く。レコード会社のスタッフも総出でガヤの収録に参加したというが、その中にある矢野の声にもぜひ注目してもらいたい。

ミニライブで披露されたメドレー。前半の始まりは美しい氷上の音楽。
こうして制作された『Charactanswer』から、収録曲のメドレー、そしてアルバムのテーマソングとして書き下ろした『Charactanswer』を生ライブで聴かせると言う豊永。

「僕が役を演じさせていただくときは、どの役も平等に大切に演じています、ということを公言しているこのTHE利行が、(ミニライブでやる)2曲を選曲したとして、じゃあほかの曲はどうするのよ、と。利行、どうしようかな、と悩みました。そして出した結論。メドレーにしてお届けします」の言葉に大きな歓声が上がり、拍手喝采。メドレーで、平等に楽しむライブ。ライブでのフルコーラスは、いつか来るライブを楽しみにしてほしいと話しながら豊永が準備をすると、フロアではペンライトの光が灯る。

そのライブの始まりはアニメ『ユーリ!!! on ICE』勝生勇利への1曲「氷上の翼」から。氷上に漂う静謐な空気がそのまま音になったかのようなピアノの旋律と、凛と美しく歌い上げる豊永のボーカル。豊永の歌という視点を通して、勝生勇利のスケートへの喜びと、氷上で華麗に踊る彼の姿が伝わってくる。そんな1曲に続いたのはアニメ『風が強く吹いている』の清瀬灰二へのアンサーソング「Wind and Sunlight」。一度は諦めた駅伝を、再び走ると決めた強さ。初心者がほとんどだったチームを引っ張る実直な彼を示すようなストレートなロックンロールで伸びやかな歌声が広がっていくと、風が吹く感覚を味わえた。メドレーの前編の最後は、先ほど裏話にも登場したアニメ『Free!』の椎名 旭へのアンサーソング「Hot location」だ。歌い方もガラリと変化し力強さを見せると、旭のストロークやキックのパワー感をも宿すように歌い上げていく。灼熱のビートとゴージャスなブラスの入ったサウンドからはギラギラと太陽の陽も感じられ、歌自体が勢いよく加速をつけていく旭の泳ぎのようだった。


後半は“あの天才”の朗読会からスタート!
「曲によって歌い方を変えているから。スイッチングが大変なのよ(笑)」と笑みを見せる豊永。キャラソンではなく、豊永流の歌として届けていると話し、メドレーは後半へ。「皆さん、お待ちかね。続いてのメドレーは“あの天才”が登場します」と告げられると会場は期待感に大きな歓声が沸いた。「ひとまずは彼の、天才の朗読会をちょこっとだけ覗いてみましょう」。始まりはもちろん『A3!』の有栖川 誉へのアンサーソング「Genius reading session」!華やぐサウンドはまるでメリーゴーランドのように軽やかに響くなか、背筋を伸ばし、情緒感たっぷりに聴かせる豊永。誉さながら言葉遊びも散りばめられ、異国の遊園地に足を踏み入れたように楽しい1曲から一転、歌声が鋭さを滲ませると、パワー漲る低音のボーカルが轟く。『B-PROJECT』の金城剛士へのアンサーソング「non-toxic」へと歌のバトンは渡された。ハードかつヘヴィでタフな剛士そのものと思わせる勢いのあるロックサウンドから軽快なビートへと繋がれば、“さぁ、音楽をはじめよう”と爽快な音が紡がれる。『ツキノ芸能プロダクション「ALIVE」』からSOARAの大原 空へのアンサーソング「エンジョイ!!!」が響き出す。楽曲が変わるたびにペンライトの色も変化していくフロア。空のカラーである水色が客席を染め、光が右へ左へと風のように揺れる、その向こうで笑顔いっぱいに歌う豊永。

最後はアニメ『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』のポップへのアンサーソング「碧の勇気」だ。壮大なストリングスの音から幕を開ける1曲は、冒険の始まりを感じさせる。グランドミュージカルのようなサウンドがポップの目の前に広がる壮大な景色を感じさせつつも、彼の心の機微が織り交ぜられた言葉がドラマティックに響いた。最後はアルバムのテーマソング「Charactanswer」。これまで辿ってきた道を振り返り、足元を確かめ、まだ見ぬ未来へと想いを紡いでいくような1曲。冒頭からピアノの旋律と真摯な言葉と、バンドとストリングスの音を背に受ける圧倒されるほどのサウンド感と共に、歌を真っ直ぐに届けていく。声優の豊永利行とシンガーソングライターの豊永利行によるコラボレーションと化学反応とで生まれた壮大なナンバーは、会場にいる全ての人の心を震わせたのだった。

「泣けるね~。自分で言うのもなんだけど、泣けるねぇ!これ、作ったの俺!」とドヤ顔の豊永は、感謝の想いを告げて、イベントの幕を閉じた。垣間見ることのできたアルバム『Charactanswer』の全貌が、多くの人へと届く11月29日(水)が待ち遠しくなる、そんなリリース記念イベントは10年のその先へと進む豊永の想いを受け取る時間だった。

●リリース情報
豊永利行
アーティスト活動10周年記念アルバム
『Charactanswer』
11月29日(水)発売

【初回限定盤(CD+Blu-ray)】

価格:¥5,500(税込)
品番:TSM-1008

【通常盤(CD)】

価格:¥3,300(税込)
品番:TSM-1007

<CD>
01 Introduction -Charactanswer-
02 氷上の翼
03 Wind and Sunlight
04 Hot location
05 エンジョイ!!!
06 Genius reading session
07 non-toxic
08 碧の勇気
09 Charactanswer

<Blu-ray>
豊永利行ライブ「“BEST”!! ~音楽は日々の人生だ 道化にも光はあたり繋がれる~」

特典
豊永利行『Charactanswer』全3タイプ(先行販売版:TSM-1009、通常盤:TSM-1007、初回限定盤:TSM-1008)のうち、どちらか1タイプを下記、対象店舗でご予約・ご購入頂いたお客様に特典をお渡し致します。
※特典の数には限りがございます。無くなり次第終了となりますのでお早目のご予約をおすすめいたします。
※特典に関するお問い合わせは、直接各対象店舗へご確認ください
※一部対象外の店舗がございますので、事前にご確認をお願いいたします。
※豊永利行 ONLINE STOREでの【初回限定盤】【通常盤】の販売予定はありません

(C)T’s MUSIC

関連リンク
豊永利行
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