貴乃花光司(元貴乃花親方)の参院選出馬に関する噂が絶えない。記者会見やバラエティ番組出演などでこの質問が飛ぶたびに本人は否定しているようだが、どうにもキナ臭い動きが続いている。
「FLASH」(光文社)2019年3月19日号では、自民党所属で元五輪担当相の遠藤利明衆議院議員と食事をした写真を撮られている。記事では、日本柔道連盟会長の山下泰裕氏、東大理事の境田正樹弁護士、貴乃花、遠藤氏、といった顔ぶれで食事会が開かれたとある。
直撃した「FLASH」の記者に対して貴乃花は「まあ、もう、これでちょっと勘弁して」と答え、所属事務所も政界進出の可能性に関して「まったくございません」と回答しているが、そんな定番文句を額面通りに受け取れるわけがない。実際、同席した山下氏は政界からの誘いについて「誘われていると思うよ」と話しているし、そもそもこの食事会じたい、貴乃花のほうから声をかけてセッティングされたもの。政界に色気があるのは、まず間違いない。
国民的人気を考えれば当選は確実だが、しかし本当にこの人、政治家なんかになって大丈夫なのだろうか。
というのも、本サイトで繰り返し指摘してきたように、貴乃花といえば、トンデモ極右思想の持ち主だからだ。
つい最近も「Number」(文藝春秋)2019年2月28日号に掲載されたインタビューで貴乃花はとんでもないことを語っていた。
貴乃花は現役最後となる2003年1月場所において、2日目の雅山戦で左肩を負傷して翌日から休場するが、5日目から再び土俵に戻り、思うような相撲をとることができないまま引退している。この異例となる場所中の土俵復帰にいたった経緯を、貴乃花はこのように表現している。
「あれは引き際ですから。人生の空白をつくらないよう勝負をかけた。
自らの現役最後のお相撲を、太平洋戦争末期の特攻隊にたとえてみせたのだ。しかも「死に花を咲かせる」などと、自爆テロの強要という非人道的作戦を、明らかに美化している。
部屋で貴ノ岩以外の外国人力士をとらず、相撲協会の日本国籍条項の変更に反対するなど、排外主義的、純血主義的姿勢をつらぬいていたのはもちろん、軍国主義を彷彿とさせる発言も連発している。
たとえば、貴乃花部屋のHPには自らを〈軍神のように生まれてきた思いがいたします〉〈日本の国益のお役に立てるための、相撲道の本懐を遂げるためのものです〉というそれこそ戦前丸出しのメッセージが掲載されたこともある。
さらに、「Number」ではこんなことも語っている。
「横綱になる時というのは死ぬ時ということです。『桜の花が散るように』と。力士はそうあれと入門したての頃、相撲教習所で全員が教わるんです。それで白虎隊の歌を習うんです。陛下の額が飾ってあって」
ここで貴乃花が言及している「陛下の額」とは、〈技を磨き心を練る 春又秋 文を学び武を振い 両ながら兼ね修む 阿吽の呼吸 君知るや否や 角道の精華 八洲に耀く〉と書かれた「角道の精華」のことだと思われる。
●「国体」「国益」「軍神」…貴乃花の極右趣味の危うさと大勘違い
貴乃花がこの「陛下の額」「角道の精華」について話すのもはじめてのことではない。
〈国家安泰を目指す角界でなくてはならず“角道の精華”陛下のお言葉をこの胸に国体を担う団体として組織の役割を明確にして参ります〉
〈角道の精華とは、入門してから半年間相撲教習所で学びますが力士学徒の教室の上に掲げられております陛下からの賜りしの訓です、力と美しさそれに素手と素足と己と闘う術を錬磨し国士として力人として陛下の御守護をいたすこと力士そこに天命ありと心得ております〉
〈角道、報道、日本を取り戻すことのみ私の大義であり大道であります〉
(「週刊朝日」2017年12月22日号/朝日新聞出版)
「軍神」「国益」そして「国体」という言葉、教育勅語にも出てくる「精華」という言葉からは、貴乃花がいかに極右思想にはまっているかがよくわかる。
「国体」という言葉をめぐっては、貴乃花は2017年の九州場所の千秋楽パーティでも「日本国体を担う相撲道の精神」などとあいさつしたことが報じられている。
このとき政治学者の中島岳志は、貴乃花の思想の危うさについて危惧するツイートをしている。
〈貴乃花親方にとって、貴ノ岩は「日本国体」に従順なアジア人という位置づけなのだろうか? 逆に白鵬などを「日本国体」に馴化しない存在とみなし、「相撲道の精神」からの逸脱と見なしているのだろうか? だとしたら、最悪の形のアジア主義のリバイバルだ。〉
〈貴乃花親方の一連の行動に、どうしても1930年代の青年将校のような「危うい純心」を感じてしまう。「国体」に依拠した大相撲協会の「改造」が行動の目的なのだとしたら、危うい。〉
しかも、「国体」「国益」「軍神」とそれっぽい言葉を並べているが、貴乃花がきちんと理解しているかというと甚だ疑問だ。たとえば「Number」や池口氏へのメールで、繰り返し語っている「角道の精華」。貴乃花は「角道の精華」を天皇によるものとしているが、実はこれはとんでもない間違い。「角道の精華」は天皇ではなく、大井光陽という漢詩人の作品である。
また、先に引用した文章を読めばわかる通り、〈国士として力人として陛下の御守護をいたすこと力士そこに天命あり〉などということは、どこにも書かれていない。
「貴乃花の極右発言は、政治的というより宗教的なもの。例の新興宗教の影響もあるし、相撲が神事で、自分が神の遣いだと本気で考えているようなところがありますから、そこからきてるんでしょう。活字なんて読む人じゃないので、政治的には、右とか左とかよくわかってないと思いますよ。もっというと、『軍神』とか『国体』とかいう言葉もよくわからないで使っている可能性が高い」
●貴乃花が『スッキリ』で「相撲はもともとシュモウ、ヘブライ語です」
たしかに、昨年亡くなった輪島への追悼文のなかでも、輪島の思い出を「夜に突然来られてあっという間に残り香を遺して帰られるような輪島さんは(中略)宇宙人みたいな、それこそ天孫降臨されたような方でした」と、意味不明な「天孫降臨」という言葉の使い方をして、天皇を宇宙人扱いする始末だった。
そう考えると、貴乃花は、単なる極右というより、「トンデモオカルトに心酔している」といったほうがいいかもしれない。
昨年11月、景子夫人と離婚直後に『スッキリ』(日本テレビ)に出演した際、突然こんな典型的トンデモオカルト発言をして、ドン引きさせたこともある。
「相撲は、日本語じゃない。もともと「シュモウ」、ヘブライ語です。ものすごくつながりが深い。世界をまたにかけてのことですから。
相撲の起源がヘブライ語だと、日ユ同祖説をぶちあげたのだ。
しかし、貴乃花のトンデモオカルトぶりはこれがはじめてでなく、過去にも散々連発している。貴乃花が、京都宇治市にある「龍神総宮社」に心酔しているのは有名な話。この神社で行われる豆まきの行事には毎年参加しているし、昨年までは弟子も引き連れて参加していた。
京都宇治市にある「龍神総宮社」。名前だけ見ると、普通の神社のような印象を受けるが、この神社、かなりオカルト臭のする新興宗教団体なのだ。たとえば、同団体のHPをのぞいてみればいい。そこには「様々な奇跡が、ここ龍神総宮社では、いつも起きています。」「あなたも必ず救われます。」「神様とともに右肩上がりの会社経営の道を歩みましょう」などの煽り文句のもと、「ガンが消えた!大学病院もびっくり」「奇跡!! 大津波が庭の直前で止まった 神様ありがとうございました」といった信者の怪しげな奇跡体験がいくつも掲載されている。
龍神総宮社と貴乃花部屋の関係は非常に近い。貴乃花部屋は大阪場所宿舎としてこの神社を使用していたし、また、貴乃花部屋に所属していた貴公俊と貴源治の名前は、創始者である辻本源治郎と現祭主の辻本公俊から取ったとされている。
その辻本公俊氏の著書『2012人類の終焉~太陽からの啓示』(ブックマン社)の表紙の帯には貴乃花が顔写真つきで「この本を推薦します」という推薦文を寄せているのだが、これがまたトンデモオカルト本なのである。
目次からして異様である。
これを見ると、『スッキリ』でいきなり「相撲って日本語じゃない。ヘブライ語なんです」との日ユ同祖説をぶちあげたのもよくわかる。
加えて、同書には「南京虐殺はなかった」「教育勅語は世界で高い評価を受けた」などという、極右歴史修正主義的主張までちりばめられている。貴乃花の極右カルトじみた発言もここから来ているのだろう。
●森喜朗との不仲説も、安倍首相が貴乃花出馬を後押しとの説
もちろん、オカルトだろうとトンデモだろうと、日本には信教、思想の自由があり、貴乃花個人が何かを信じているのをあげつらうつもりはない。しかし、もし貴乃花が政治家になるとしたら、それは大問題だ。
貴乃花は極右カルト趣味に、周囲を巻き込んできた。親方と弟子、協会役員と力士という圧倒的支配関係をバックに、強要してきた。
親方時代には自分の部屋の弟子たちをこの龍神総宮社の豆まきに引き連れていたし、北の湖理事長のもと、理事として権勢を誇っていた数年前には、横綱の白鵬や大関の琴欧洲、把瑠都らにも龍神総宮社の豆まきに参加させたこともある。国会議員となって、相撲界だけでなく、スポーツ界全体や、教育行政全体に、このトンデモオカルト思想を持ち込まれたら、たまったものではない。
本サイトでも以前報じたように、森喜朗元首相との犬猿の仲がネックとなっているとの報道が相次いでいるが、最終的には安倍首相が出馬させるだろうというのが大方の見方。
だいたい、貴乃花の極右カルト趣味をあげればあげるほど、現在の安倍自民党と極めて親和性が高いことがよくわかる。とくに安倍首相は、杉田水脈とか青山繁晴とか、トンデモ極右は大好き。多少の軋轢など意に介さず、むしろ重用すらしてきた。
しかもワイドショーは、連日のように貴乃花の一挙手一投足を報じ大々的にPRしているが、こうした貴乃花の危険な思想に触れることはまったくない。それどころか、最近は、一連の相撲協会での騒動で露呈したコミュニケーション能力やマネージメント能力のなさを払拭するような役回りすら演じている。
こんなトンデモ人間が史上最高の得票数で国会議員になってしまうのだろうか。
(太田憲二)