今年行われたファンクラブ限定ツアーの映画化を先日発表したばかりのMr.Children。来年には結成30周年を迎えるが、ここにきてバンドに大きな変化が起こっている。



 まず、今年5月にミスチルは小林が代表を務める所属事務所の烏龍舎を離れ、新事務所・エンジンを立ち上げた。それだけでなく、月9ドラマ『信長協奏曲』(フジテレビ系)の主題歌にもなった最新シングル「足音~Be Strong」では、プロデューサークレジットからも小林武史の名が消えている。以前から何度も不仲説が流れてきたが、ついに両者は決別したようだ。

 その理由について「週刊女性」(主婦と生活社)は、小林が力を注いでいる農業ビジネスが原因と報道。小林は新会社を設立して野菜づくりにとどまらず飲食店の経営なども行っているが、飲食事業で発生した赤字をミスチルの収益で補填していたといい、なんでも記事によれば、桜井和寿はこの事実を知り、「あなたはビジネスマンじゃない、ミュージシャンなんだ。早く目を覚ましてほしい」と訴えたのだという。しかし、そんな声も届かず、結局は袂を分かつことになってしまったらしい。

 そんななかで発表されたのが、前述したシングル「足音~Be Strong」となるわけだが、じつはこの歌について、「小林氏への憎悪がモチベーションか?」とみる評論が登場。話題を呼んでいる。

 その評論とは、ミュージシャンの近田春夫氏が連載する「週刊文春」(文藝春秋)の名物音楽コラム「考えるヒット」のこと。近田氏は〈下世話な事情を知ってか知らずか、Mr.Childrenの新曲がどうにもその時とった行動の正当性を訴えたものにしか聞こえない! って誰だって聴けばそう思うっつうの(笑)〉と冒頭から切り出し、その理由をこのように述べている。

〈"ビートルズ愛のようなもの"は結局デビューからそれほど変わっていないのである。
穿った見方をすれば、たとえばこの"ビートルズみたいな弦"のアレンジ再現など、スタジオの職人との作業に必要なテクニカルターム等十分なノウハウが身に着けば、別にPたる人間不在でも録音は遂行可能であると。オマエ無しの方がかえって伸び伸びと自分達のやりたいことはやれるんダゾと。これは一人小林武史への憎悪がモチベーションとなっているっ!と解釈していいのよねぇ......〉

 さらに歌詞についても近田氏は言及する。

〈コレ粘着質の度合いかなり高し! な詞作ですな(笑)。ザクっと聴いているとこの中身、契約書がどうのとか、無理矢理決められた道を歩かされるのはもうゴメンだとか、そんなこれまで自由を歌ってきたロックバンドのゴタゴタとはまさか思われぬ、ちょっと前のKPOP界の芸能スキャンダルって感じだもん。だから、オレなんかみたいなミスチル知らずは、小林武史搾取してたんだぁ! ってこれ聴きゃ思っちゃうよね。そのぐらい桜井という人の歌唱には、リアリティーというか、説得力がある〉

 たしかに、近田氏のいうようによく歌詞をかみ砕いてみると、ある意味で、示唆に富んでいることがわかる。

 まず、もっとも象徴的なのは、近田氏もツッコんでいる1番のBメロにある〈舗道された道を選んで歩いていくだけ/そんな日々〉というフレーズだ。そして、桜井はつづいて〈だけど/もうやめたいんだ〉と切実な言葉を口にする。〈やめたいんだ〉とは、ずいぶん直截的な表現である。このBメロ歌詞を見れば、たしかに小林によってつくりあげられてきた整えられたサウンドを捨てたいと言っているようにも思える。

 また、〈もう怖がんないで/怯まないで/失敗なんかしたっていい〉や〈拒まないで/歪めないで/巻き起こってる/すべてのことを真っ直ぐに受け止めたい〉という部分は、今後、自分たちの力で歩んでいく現実を直視した決意表明のようにも捉えられるし、何よりサビの〈今という時代は/言うほど悪くはない〉という歌詞は、もちろん主題歌としてドラマの設定を意識しているものだろうが、現状の音楽業界のことを評しているようにも見える。


 そして、最後の〈この足音を聞いてる/誰かがきっといる〉という、ファンを意識したようなフレーズ。デビュー時から支えられてきた"親元"を離れても、自分たちの音楽を聴いてくれるリスナーはいるはず──そう、桜井が自分を励ましている言葉のようにも響くのだ。

 はっきりとした"独立宣言"とも受け取れるこの歌。実際、桜井は数年ぶりの雑誌出演となる「ローリングストーン日本版」(セブン&アイ出版)のインタビューで、このように語っている。

「ドラマの主題歌っていうことが大前提としてあって。と、もうひとつ、今、新しいMr.Childrenというものを模索中で。ずっと小林さんと一緒にやってきたんだけど、もう1回、自分たちで自分の音楽をプロデュースするっていうか作っていくことをやってみたいなと思ってて」
「(新しい一歩でありタイアップというプレッシャーの)その孤独感みたいなものにすごく包まれた時に、そう思ってやっている作業でも、メンバーやスタッフが見ててくれるんじゃないかっていう信頼感みたいなものが、そのまま言葉になってますね」

 はからずも、小林はミスチルとの別れと同時期に、一青窈とも同棲を解消し、その一青は小林を振り切るように「他人の関係」をカバーした。さらに今年は前妻・akkoも5歳年下のアパレルブランド代表と再婚している。──多方面から「あなたがいなくてもやっていける」と突きつけられた格好の小林だが、果たしてそんなメッセージにあふれたミスチルのシングルを、小林はどんな思いで聴いているのだろうか。
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