「日教組!」「日教組どうするの!」――先日19日の国会で、西川公也前農相の政治資金問題を追及していた民主党議員に対して、安倍晋三首相がヤジを飛ばした問題。大島理森委員長にたしなめられてもヤジりつづけるという安倍首相の幼児性が浮き彫りになったが、さらに翌日20日には「いわば日教組は補助金をもらっていて、そして、教育会館というものがあるが、その教育会館から献金をもらっている議員が民主党にはおられる」としたり顔で言明した。
だが、この発言はまったくの事実無根で、昨日23日、安倍首相は「文科省で調べた結果、2012年度までの10年間の決算書を確認した限り、議員献金という記載はなかったということだった」「私の記憶違いにより、正確性を欠く発言を行ったことは遺憾で訂正申し上げる。申し訳ない」と、しぶしぶながら謝った。
そもそも、政治資金問題から話を逸らそうという魂胆でヤジを飛ばすことは、一議員の行動としても恥ずべきもの。しかも首相がそれを行うなんてことは品格が疑われる事態だ。そして、さっさと謝ればいいものを、さらには嘘の情報まで堂々と述べ、追い詰められてようやく謝罪。しかも、ヤジを飛ばしたことについては、この期に及んでまだ一切謝っていない。......往生際の悪さや、都合がよくないと開き直る癖は昔から変わらないが、それも当然なのかもしれない。なにしろ安倍首相は、「あやまったことが一度もない」らしいのだ。
昨年の産経新聞(1月5日付)に「新春対談 作家・曽野綾子さん×首相夫人・安倍昭恵さん」なる記事が掲載されている。安倍首相夫人の"アッキー"こと昭恵と、アパルトヘイト発言でいま渦中にある曽野の対談だが、そこで昭恵夫人は安倍首相の興味深いエピソードを暴露していたのだ。
まず、この対談の冒頭で、昭恵夫人は安倍首相のある"振る舞い"に言及する。
〈──新年早々ではありますが、安倍晋三首相と昭恵さんの夫婦関係はどうなのか、聞きたいですね
安倍 そこからですか...(笑)。
曽野 当分、離婚しそうにはないでしょう(笑)。
安倍 でも、最近は「夫婦仲が悪いんじゃないか」と言われていて...。〉
その直後、曽野に「けんかをしても晋三先生の方がさっさと謝られるのでは?」と水を向けられた昭恵夫人は、こう切り出す。
「そういえば、謝らない!「ごめんなさい」というのを聞いたことがないです」
さらに、ケンカをおさめる方法は?と問われると、「なんとなくで。いつの間にかお互いが忘れてしまうという感じです」と語っている。
この対談の時点で、安倍首相と昭恵夫人は結婚して26年目、銀婚式も過ぎている。にもかかわらず、一度も夫人に「ごめんなさい」と謝ったことがないとは......。なかなかの頑固者である。
たとえば、靖国参拝や慰安婦発言によって安倍首相は日韓関係を悪化させている張本人なのに、昭恵夫人はそれに反して一昨年に「日韓交流おまつり」へ参加したところネトウヨからバッシングされたことに対し「何を言われようがお隣の国。特に下関は釜山と姉妹都市でもあり、本当に近い所なので、できる限り親しくしていけたらいいなと思う」と述べるなど、熱心な日韓友好派。昭恵夫人いわく「韓国や中国の話になると批判される」というが、それでも昭恵夫人の行動を封じ込めないあたり、安倍首相は彼女に頭が上がらないのでは?と見る向きもあった。しかも、昭恵夫人は神田で居酒屋経営に乗り出すなど、まさに自由奔放。
そして、思わず「なるほど」と膝を打ってしまうのは、"意見が対立すれば、お互いの齟齬をなんとなくうやむやにし、忘れてしまう"という点だろう。これは決して家庭だけの話ではない。第一安倍内閣でも、辞任会見では「なかなか国民の支持、信頼の上において力強く政策を前に進めていくことは困難な状況である」と、よくわからない理由でお茶を濁し、再びひょっこり首相になると、前回の辞任理由を体調問題にすり替えていた。だいたい先の総選挙を行った理由も、安倍首相はもにょもにょと理由付けしたが、その明確な意図はうやむやにしたままだった。
不都合な話は曖昧にし、そして絶対に謝らない──。この昭恵夫人の告白は、じつに安倍晋三という人間を理解する上で示唆に富んでいる。とくに安倍首相は、これまで個人的願望と現実的政策を混同してきた。おそらく、安倍首相は弱腰という言葉を非常に嫌うマッチョ思考で、謝ることに潜在的抵抗があるのだろう、ということがよくわかる。
もしかしたら、安倍首相が国際社会からあれだけ批判を受けながら、先の侵略戦争や従軍慰安婦問題への謝罪をはっきりと表明しないのも、その歴史観だけでなく、この謝りたくない体質にも起因しているのではないか、とも思えてくる。
そうなると、気になるのは終戦70年を迎える今年、終戦記念日に安倍首相が発表する「戦後70年談話」だ。
それにしても、アッキーに「ごめん」くらいは言えないと、"女性の活用"なんて無理な話だと思いますよ。
(伊勢崎馨)