首相官邸ホームページより


 自民党の秋元司衆院議員の逮捕によって、カジノ(IR)を取り巻く状況は政界の巨大疑獄事件に発展しようとしている。逮捕された秋元司衆院議員、家宅捜索を受けた白須賀貴樹衆院議員以外にも、贈賄で顧問が逮捕された中国企業「500ドットコム」から接待や供与を受けたとして、さまざまな政治家の名前が取りざたされている。

 そんななか、今度は菅義偉官房長官率いる内閣官房のIR事務責任者が、中国企業「500ドットコム」が深く関わったシンポジウムに参加していたことがわかった。

 このシンポジウムとは、2017年10月29日、東洋大学白山キャンパスで開かれた「ギャンブル依存研究の最前線」。周知のように、カジノを認めるIR法成立にあたっては、ギャンブル依存症対策の必要性が叫ばれ、現在も、予算拡大、保険適用などの動きが進んでいる。このシンポジウムもそうした推進とセットで開催されたものらしく、会場に集まった100人ほどの聴衆も多くはIR関係者だった。

 シンポジウムではまず、京都大学医学部の高橋英彦准教授(当時)が基調講演を行ったのだが、これに続いて、なぜか500ドットコムの最高責任者・潘正明CEOが登壇。「ギャンブル依存症対策におけるビッグデータの役割」と題して特別講演を行なったのだという。

 そのあと、潘氏も残る形でパネルディスカッションが開かれたのだが、これに参加したのが、中川真・内閣官房IR推進本部事務局長(当時は次長)だった。中川氏はこの日、菅官房長官の「日本から依存症を減らすのではない。依存症をなくす」という言葉を紹介し、IR推進法の成立を受けて、政府はギャンブル依存症の取り組みを本格化させると力説。来場者からの質問に応じるかたちで、「IR法案を出すことになるのは、おそらく来年以降に開催される国会になるのではないか」と、法案提出の見通しまでとくとくと解説していた。

「中川氏は財務省出身ですが、2014年から内閣審議官として内閣官房に出向。菅官房長官に重用され、2017年からはIR法の策定やカジノ事業者の管理政策を一手に仕切ってきた。

2018年には、来年から発足するカジノの監視機関・カジノ管理委員会の人選にも大きな影響力を発揮してきました」(全国紙官邸担当記者)

 いわば、中川氏は日本のIR推進のキーマンとなってきた官僚、IR政策における菅官房長官の右腕的存在なのだ。そんな人物が国会議員への賄賂ばらまきで捜査を受けているカジノ企業のCEOと同席していたというのは驚きではないか。

 しかも、これ、第三者が開いたシンポジウムにたまたま同席したという話ではない。というのも、このシンポジウム主催者は「依存学推進協議会」(以下・依存学会)というNPO 法人なのだが、この団体、500ドットコムと一時、密接な協力関係を築いていたからだ。2017年10月、500ドットコムと依存学会は共同でギャンブル依存症対策研究のテーマ検討部会を立ち上げており、前述したシンポジウム3日前の10月26日に、潘CEOと依存学会の西村周三理事長が同席して記者発表を行っている。

「当時、500ドットコムは8月に日本法人を立ち上げたばかり。

その存在を政府や自治体、IR関係者にアピールするために、この依存学会に接近して、協力体制を築いたんでしょう。当初は、研究助成の名目で500ドットコムが資金提供する予定があるとの話も聞きました。内閣官房IR推進本部の中川局長が出席したシンポジウムも、明らかに500ドットコムの宣伝の意味合いがあったと思いますよ。実際、500ドットコム自体がまるで自社主催のような体でプレスリリースを出していましたから」(IR関係者)

 500ドットコムが依存学会に資金提供していたかどうかについてはまだ、はっきりした証拠はないが、少なくともこのシンポジウム自体、500ドットコムの息が強くかかっていたことは間違いない。

 逮捕された秋元議員も2017年8月、逮捕された500ドットコムの顧問が仕切って那覇市で開いたIRのシンポジウムで潘CEOとともに基調講演を行ったことが明らかになっているが、内閣官房のIR推進本部事務局長・中川氏も、同じことをしていたといってもいいだろう。

 また、これは裏を返せば、500ドットコムのアプローチが政権中枢にまで伸びていた証でもある。

 今回の贈収賄事件については、逮捕されたのが秋元議員で、ターゲットが北海道の留寿都村だったことから、「IR利権の中心からは遠い小物、マイナーな勢力がおこぼれに預かろうとした不正ではないか」ともいわれていたが、菅官房長官の右腕で、IR推進の中心的官僚が関わっていたとすれば、話は大きく違ってくる。

 いや、IR推進の官僚だけではない。実は、500ドットコムはIR誘致が決定的といわれる大阪府や大阪市、そして、大阪を拠点とする日本維新の会にもアプローチしていた可能性がある。

 鍵を握るのは、500ドットコムと密接な協力関係をしき、くだんのシンポジウムを開催したNPO法人依存学推進協議会だ。

 不可解なことに、会のホームページは秋元容疑者が逮捕された前後から閲覧できない状態になっているが、この依存学会の幹部には、以前からIRを積極的に推進してきた学者やカジノやギャンブル業界と深い繋がりを持つ企業関係者、大手広告代理店のIR推進担当者たちが参加している。

 しかも、この依存学会の幹部を調べていくと、“大阪のIR推進勢力”とのただならぬ繋がりが明らかになる。

 まず、依存学会の副理事長で、潘CEOや中川事務局長とともに問題のシンポジウムに参加していた谷岡一郎・大阪商業大学学長だ。谷岡氏はカジノやギャンブルについての著作を多数もつ「IR推進派」の学者。学長を務める大学の大学院にIRの専門コースまで設置している。谷岡氏はIR推進論客として「Hanada」(飛鳥新社)2017年2月号にも登場し、当時、審議中だった「IR法案」に反対する野党を批判。さらに〈カジノが新しく作られた地域でギャンブル依存症患者が統計上増えるのは、ほとんどが「ギャンブルをやめられないのが病気である」ことに気がついた人が増えるためと、もうひとつ、「相談窓口と治療施設が増えた」ことによると考えられる〉などの持論を展開していた。

 もうひとりが、理事の勝見博光氏だ。

勝見氏は研究者であると同時に、大阪にある「IR戦略コンサルティング会社」の代表取締役社長でもある。この会社は〈日本のカジノユーザー約3万人が登録する、日本最大級のカジノとリゾートの情報サイト〉の運営等も行なっており、昨年秋には、大阪市北区に「カジノを疑似体験できる」と謳う店をオープンしている。同店では、客に飲食物を供するとともに、実際にディーラーがポーカーやバカラなどの遊戯を行う。メディアにも取り上げられ、勝見氏は「IR関係者が集まって交流するような場にしたい」などと語っていた。さらに勝見氏は、IRへの参入が取りざたされる日本のパチスロ大手・セガサミーホールディングスが今年になって立ち上げた一般社団法人「セガサミー文化芸術財団」の「クリエイティブディレクター」にも就任している。

 しかし、問題はここからだ。この500ドットコムと協力関係にあった依存学会幹部の2人は、その関係があった時期、大阪府・大阪市IR推進局が夢洲地区へのIR誘致を検討・協議する「IR推進会議」(座長=溝畑宏・公益財団法人大阪観光局理事長)の委員を務めていたのである。

 谷岡氏は2017年の大阪IR推進会議に発足当初から2019年2月の第10回会議まで委員を務めた。第2回会議から第9回までは座長代理に就任し、府民・市民向けのIRセミナーで何度も講演しているだけでなく、大阪維新に所属する府議会議員の集会にも参加していた形跡がある。

 勝見氏にいたっては、“維新のドン”である橋下徹氏が首長時代から「大阪カジノ構想」に深く関与してきた。勝見氏はかつて「大阪エンターテイメント都市構想研究会」なる、2009年に大手ゼネコンや広告代理店らが設立した団体で研究員を務めていたのだが、この「都市構想研究会」は2010年1月、カジノに関する報告書をまとめて大阪府に提出。橋下府知事が掲げた「大阪カジノ構想」のたたき台となったと言われている。同年、大阪府は「大阪エンターテイメント都市構想推進検討会」を発足し、勝見氏はそのメンバーとなった。そして、2017年に大阪IR推進会議が発足すると、当然のように委員に就任し、2018年2月の第7回会議まで委員を務めた。

 しかも、依存学推進協議会の谷岡氏と勝見氏が、大阪行政のIR推進会議の委員として意見を述べていた時期は、500ドットコムがこのNPOと接触し「共同研究」をぶち上げていた時期と重なる。

 結果的には、500ドットコムが大阪のカジノ構想に食い込んだ形跡はないが、少なくともカジノ業者たちはこうして様々なルート・手段を使って、カジノ利権に食いこもうとアプローチを行なっているということだろう。そして、政治家や官僚、学者までがその誘いにホイホイのって、癒着関係を築いていく。まさに、IRはいま、原子力ムラと同じような利権の巣になろうとしているのではないか。

 メディアは疑惑の徹底追及するだけでなく、利権しか生まないIR法を即刻廃止に追い込むべきだ。