東京都公式ホームページより


 昨日1日、東京都の小池百合子知事が都議会で所信表明をおこない、そのなかで東京五輪のパブリックビューイングを実施する予定だった都立代々木公園の「ライブサイト」会場を、7月から新型コロナウイルスのワクチン大規模接種会場にする方針を明らかにした。

 代々木公園での「ライブサイト」実施に対しては、「人流を減らすと言いながらパブリックビューイングをやるなんておかしい」「感染拡大を招きかねない」といった批判から、会場設営の工事のために公園内の木々を剪定していたことにも非難が殺到。

すると、ここにきて小池都知事はいきなり「ワクチンの接種会場にする」などと言い出したのである。

 これを受けて、マスコミが一斉に「パブリックビューイング中止」と報道している。「東京都 五輪期間中 代々木公園でのパブリックビューイング中止」(NHKニュース)、「代々木公園の五輪パブリックビューイング一転中止 小池知事「ワクチン接種会場に転用する」」(FNNプライムオンライン)、「東京都、代々木の五輪PV中止 大規模接種に活用―人出増懸念の中、方針転換」(時事通信)……。

 まったくゴマカシにも程があるだろう。この状況でパブリックビューイング=ライブサイトを実施するという計画自体があり得ず、小池都知事はその計画の責任者のひとりとしてまずはしっかり経緯説明をおこなったうえで、明確に全面的中止を表明すべきだ。しかし、小池都知事はそれをせず、ワクチンという錦の御旗を掲げることで批判をそらそうとしただけなのである。

 しかも、呆れたのは、そこでおこなわれるワクチン接種のやり方だ。猛暑だと予測されている真夏に、なんと公園の広場に突貫で立てられたプレハブ小屋でワクチン接種させようというのである。炎天下で順番待ちをしている都民が熱中症でバタバタと倒れるという事態も招きかねない。

 だが、今回の小池都知事の表明の最大の問題は、肝心のパブリックビューイングが中止されるわけではまったくないこと。小池都知事が発表したのは、代々木公園のパブリックビューイング会場を「まずはワクチン接種会場として活用する」と言っただけだからだ。

 実際、井の頭恩賜公園や日比谷公園、上野恩賜公園などといった都内の他会場や、岩手、宮城、福島、熊本などでは予定どおりパブリックビューイングなどのイベントは実施するという。

 いや、そればかりか、ワクチンの大規模接種会場に転用するという代々木公園でも、小池都知事はいまだにパブリックビューイングなどのイベントを実施する気でいる。

 というのも、東京都は「ライブサイト」会場用のステージ設置の工事は予定どおり実施。ワクチン接種会場にステージなどまったく必要ないというのに、わざわざいまから工事するというのである。

 小池都知事も昨日、記者から「ライブサイトは中止か?」と質問を受けると、「いえ。それはいろいろと、これからのコロナの状況にもよりますけど、まずはワクチンに集中していきたい」と返答。また、「ワクチン接種を代々木公園でおこなうことに伴って少なくとも五輪期間中は(ライブサイトを)断念せざるを得ない?」という質問にも、「いや、そこは工夫次第だと思います」と答えているのだ。

 また、小池都知事は、7月に代々木公園をワクチン接種会場として使ったあと、パラリンピックのライブサイト会場として運用されるかどうかについて「新型コロナウイルスの今後の状況による」とごまかしたが、東京都の担当者は「パラリンピック期間中は予定通りライブサイト会場として運営する」としてメディアに説明をおこなっている。

 つまり、報道では「ワクチンの大規模接種会場に転用」という点ばかりが強調されているが、実際には「感染拡大を招きかねない」という批判をまったく無視し、いまだにお祭り騒ぎイベントをやる気でいるのだ。

 しかし、なぜここまで批判を集めながらも「ライブサイト」計画をけっして止めようとしないのか。その背景にあるのは、「スポンサー至上主義」と電通利権だ。

 まず、そもそも菅義偉首相は「観客を入れての開催」に躍起になっているが、パブリックビューイングを中止することは観客を入れての大会開催の否定にもつながる。観客を入れて開催する方針である以上、パブリックビューイングなどのイベントを中止するわけにはいかないのだ。

 では、どうしてそれほどまでに観客を入れることにこだわっているのかと言えば、東京五輪のスポンサー企業が観客を入れることにこだわっているためだ。

 実際、元朝日新聞記者で探査報道を掲げる「Tansa」編集長の渡辺周氏のレポート(外部リンク→https://tansajp.org/investigativejournal/8318/)によると、4月28日に実施された組織委とパートナー企業の会議では、無観客での実施について組織委が言及したところ、パートナー企業からは、こんな声があがったというのだ。

「なぜ今、無観客といい始めるのか。驚愕している。釈然としない」
「五輪が1年延長したとき組織委は、観客制限はせず『フルスタジアム』で開催するといっていた。昨年3月の時点で専門家はコロナの収束には2、3年はかかるといっていたのに、なぜ今頃最悪のシナリオが出てくるのか」

 パートナー企業が観客を入れることにこだわっているのは〈自社のキャンペーンや顧客の接待のため座席枠を確保している〉ためだが、観客を入れて開催されれば人の動きが活発になり、感染拡大の引き金になることは必至。

にもかかわらず、スポンサー第一の電通が牛耳る組織委は市民の命と安全を守ることよりもスポンサーの機嫌を選んでいるのである。

 聖火リレーをめぐっても先導するスポンサー企業の広告車両がバカ騒ぎを繰り広げて非難が殺到したが、結局、ここでもスポンサーの意向が優先される。「平和の祭典」ではなく「商業オリンピック」であることの何よりの証左ではないか。

 そして、その「商業オリンピック」によって暴利を貪るのが、電通だ。

 電通は五輪が開催されればスポンサー企業による応援キャンペーンCM・広告展開によってさらなる利益を得るが、中止となればそれも消え、それどころか香港など海外に売ったテレビ放映権料を全額払い戻さなくてはならない。また、組織委は五輪の会場準備や運営なども電通をはじめとする大手広告代理店などに委託。

すでに巨額が電通に渡っていると考えられるが、中止になれば当初の計画よりも減収となる可能性もある。

 それは、批判をものともせずに実施しようと躍起になっている「ライブサイト」にしても同様だ。本サイトで報じたように、入札情報を確認したところ、代々木公園のライブサイトの実施運営業務は電通が落札しているからだ。

 ちなみに、東京都の2021年度予算案の概要によると、「ライブサイトの感染対策」に8億円、「ライブサイトを中⼼とした祝祭空間の創出(オリンピック)」に47億円、「区市町村が実施するコミュニティライブサイトやシティドレッシング等に対して⽀援」に21億円を計上。一部シティドレッシング等も含まれているが、ライブサイト関連で76億円もの予算が組まれている。このうちどれくらいの金額が電通に渡っているかは、東京都が直近半年間に決定した分の落札価格しか公開していないためはっきりしないが、ライブサイト運営業務の電通の落札価格は少なくとも10億円以上にのぼるのではないかと言われている。また、北海道札幌市の「ライブサイト」企画運営業務についても、やはり電通北海道が落札している。

 さらに、「ライブサイト」の計画案では、パブリックビューイングやステージイベント、競技体験などのほか、大会パートナーの出展ブースも設置される予定となっている。つまり、「ライブサイト」の実施を諦めようとしないことの理由には、こうしたスポンサー企業のPRの場を計画どおり維持するという目的もあるのではないか。

 スポンサー至上主義の東京五輪開催によって電通がボロ儲けし、それと引き換えに市民の命と安全が踏みつけにされる──。この商業五輪の本質を隠そうとするための「ワクチン大規模接種会場への転用」などという詐術に騙されてはいけない。

 そもそも、五輪を中止にさえすれば、1回目の接種をおこなう旧築地市場跡地のみならず、国立代々木競技場や東京体育館といった大きな室内施設を使用することができる。「ワクチン接種を優先」などと言うなら、真っ先に東京五輪の中止に動くべきなのだ。それをせずに、こんな目くらましでごまかそうとする小池都知事は、菅首相と同様、都民の命なんてなんとも思っていない。そのことを認識すべきだろう。