100年以上「無借金経営」 黒字続けるナニワの建設会社トップに聞く次の『改革』
 大阪・十三に本社を構え創業100年を超える「高松建設」。驚くのは、創業以来、黒字を維持し、無借金経営を続けていることだ。
また、578年に創業し“世界最古の会社”とされている社寺建設を手掛ける「金剛組」を傘下に持つなど、自ら『ユニークなグッドカンパニー』を理想に掲げる。幾度となく訪れた日本経済の危機に直面しながらもなぜ堅実な経営は続けられているのか。創業者の孫として2018年に会社を引き継いだ高松孝年社長に話を聞いた。

創業家だからこそ「デリケートに経営の舵を取る」
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―――創業家出身の社長として心掛けていることは?
 ある意味、経営がうまくいって当たり前というか、うまくいってもらわないと私の存在意義がないというのが周囲の見方でしょうね。なんとか大きな風を読み違えないようにしてデリケートに舵を取っていくというのが一番大切だと思っています。

―――発祥は大阪・十三ですが、首都圏でも受注を拡大されていますね
 東京に拠点を置いてもう40年近くになります。創業は大阪ですので大阪を中心に関西圏で業績を築き上げてきましたが、数年前から売り上げの規模では関東圏が非常に大きくなってきています。

―――高松建設の強みはどういったところでしょうか?
 「提案型営業」というのを旨としております。我々は図面を書くところから携わらせていただいているので、「この土地にどのような建物を建てたら良いか」とか、そうしたところからスタートさせていただいているのが私どもの強みです。

父と仲が悪くて大手ハウスメーカーに就職
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―――大学を卒業されて大手ハウスメーカーに就職されたのは、実家が建設会社だからですか?
 よくそう言われるのですが、実はそうではありません。父の縁故でいろいろとご縁はありましたが、当時は父と非常に仲が悪くて...。就職の世話だけにはならないと心に決めていて、自分で就職先を探しました。


―――大手ハウスメーカーに勤めていたのは4年ぐらいですよね。当時の仕事での思い出は?
 私の中の「営業」の全てを教えてくれたのが、就職した大手ハウスメーカーでの4年でした。それこそ1から10までを教わりました。「営業のイロハ」というのですかね。今もお客様に対する考え方や当社としてのサービスの在り方は、そのころに学んだものが全て生かされていると言っても過言ではありません。

高松建設に入社後はストレスとの戦い ついに父と大喧嘩!
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―――お父様と若いころは仲が悪かったとおっしゃいましたが?
 高松建設に移って父とは4度ほど揉めました。1度目はまだ高松建設に入社して1年経つか、経たないかくらいの時です。その時はまだ住宅事業がスタートしたばかりで、私は大手ハウスメーカーにいましたから、気に入らないことがいっぱいあるわけです。上司にいろいろ言うのですが、うまく話が通らないことがいっぱいあって、入社して2~3年間はストレスとの戦いでしたね。

―――その時にお父様に何をおっしゃったのですか?
 人事のこととか事業部の運営方針とかですね。「ああした方がいい、こうした方がいい」と...。それこそ休みの日に実家で父と口論になってしまいましたが、結局、手を捻られるように誘導尋問に引っかかって、気づいたら悪態をついていました。


―――実家で大喧嘩ですか?
 母が「もうやめてちょうだい!」って。私の妻はボロボロと泣いていて、激しかったですね。その後も2~3回、大喧嘩をしました。正直、はじめのころは会社があまり好きじゃなかったですね。「窮屈だな」とか「風通しが悪いな」とかいろんな不満を抱えていました。当時は会社の規模は小さいのにオーナーのリーダーシップが非常に強くて、大手ハウスメーカーとの環境の違いに馴染むのに時間がかかりましたね。

―――どのようにして折り合いをつけたのですか?
 会社への不満やストレスが逆にバネになりました。自分の思うようにするには権限が必要だし、そうするには実績を上げて、いわゆる出世しないとできません。そうでないと仕事を任せてもらえないとわかりましたから。自分には相当厳しくならざるを得なかったですね。びっくりするくらい仕事の鬼になりましたよ。

黒字を続ける秘訣は利益第一主義にならないこと
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―――創業以来ずっと経営は黒字です。
リーマンショックだったりバブル経済が弾けたりと経済界全体が大変な時期もありましたが、黒字を続けられる秘訣は?
 弊社が安定経営で来たのは、本業主義だったからではないかと思います。建築屋なので、建築業を本業としてやっていることですかね。私どもの企業理念のなかに「不正や不当な手段による社益の追求は勿論、浮利を追うなど利益第一主義に陥ってはならない」というワンフレーズがありまして、結局、銭儲けが目的ではないという考え方ですね。

―――「利益第一主義に陥ってはならない」が利益につながると?
 つまり、誠実に事業に取り組むことで結果的に収益を生むわけであって、当社は「なんでもいいから儲ければいい」という考え方ではないということです。

生え抜き社長ではできない"厄介な改革"
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―――2017年が100周年の年で、その翌年に社長に就任しましたね。
 そういう意味では次の100年に向けてのバトンを渡された形になりました。私なりに今まで温めてきたビジョンがありますし、社長になってゴールというよりは、ようやくスタートだなというのが正直な気持ちです。まだ社長になって自分としては何もできていない、まだまだこれからだと考えています。

―――これから何を手掛けようと考えていますか?
 「変えていかなければならないこと」と「変えてはならないこと」を見定めるのが私の役目だと思っています。やはり、小さなころから会社の話をずっと聞かされている立場上、「変えてはならないこと」は誰よりも感覚的にわかっていると思います。また、私自身まだ比較的に若いですから「これは変えなければならないだろうということ」もわかりますので、そういう調整役みたいなことが創業家の社長には役割としてあると思います。
100年以上「無借金経営」 黒字続けるナニワの建設会社トップに聞く次の『改革』
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―――同族会社の良いところもあれば、一方で「これはちょっと...」という点もあると思いますが?
 自分の成長と会社の成長がリンクしていましたので、まさに会社のことを自分のこととして捉えているというのが創業家の強みでしょうね。
私の使命は、社員からの生え抜き社長ではできない「厄介な改革」だと思っています。何十年前に父が制定したものを変えるのはみんな怖がります。同族である私にしか変えることはできません。

―――どのような改革に取り組みますか?
 今後、社内で取り組みたい仕組みの1つに「企業内起業の仕組み作り」があります。社内で優秀な人材が新しい事業を起こすとか、新たな事業のアイディアを出すとかですね。それを実現に向けて会社全体で取り組んでいく。うちの会社にはまだそういう仕組みがありません。
 
―――新規事業の立ち上げですか?
 社員は細胞の1つでしかすぎなくて、新規事業を起こしていくという仕組み、つまり"細胞分裂していく仕組み"を作れば、その生き物たる法人は永遠に生きられます。私は新規事業を起こす部署を作っていきたいと思っています。

アフターコロナ 大阪・関西万博の商機に大いに期待
―――去年から1年以上新型コロナウイルスで大変だったと思います。
 建設業は受注から売り上げまでが1年前後のタイムラグがあります。ですから、去年から今年にかけて新型コロナウイルスによる売り上げへの影響はほとんどありません。
ではどこに影響があるかというと、緊急事態宣言で契約行為ができなかったことです。みんな地図にマークして、訪問先の見直しばかりをやっていました。お客様のところに行ったら迷惑がられましたからね。

―――2025年には、高松建設発祥の地・大阪で万博があります。
 今は新型コロナウイルスの影響で下がった雰囲気でみなさんトーンが下がっていますが、新型コロナウイルスが収束すれば、予定通り事は進むだろうと。関西市場はこれから大いに期待できると思っています。地下鉄の延伸や再開発の計画が関西にも大阪中心にありますのでね。私どもは大阪本社の企業ですから、なるべく参画していきたいと大いに期待しています。

「責任を持って何事からも逃げ出さない。それがリーダーだ」
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―――最後に、高松社長が考えるリーダーとは?
 現在のようなコロナ禍で先がどうなるかわからない混沌とした世の中において、正しい答えを必ず導き出せるかはわからなくても、リーダーとして責任を持って何事からも逃げ出さない姿勢を貫けること。それが、私の思うリーダー像です。

■高松建設 1917年、高松留吉が大阪・十三に創業。
1990年、高松建設に社名を変更。1997年、株式上場。2008年、持ち株会社に移行。

■高松孝年 1970年、大阪・豊中市に生まれる。関西学院大学商学部卒業後、1994年、大手ハウスメーカーに入社。1998年、高松建設に入社。副社長を経て2018年、社長に就任。

※このインタビュー記事は、毎月第2日曜日のあさ5時40分から放送している「ザ・リーダー」をもとに再構成しました。

『ザ・リーダー』(MBS 毎月第2日曜 あさ5:40放送)は、毎回ひとりのリーダーに焦点をあて、その人間像をインタビューや映像で描きだすドキュメンタリー番組。
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