ベジェ曲線をマスターしてベクターで描画できるようになるには時間や経験を要しますが、デザイナーにとっては必須のスキルです。一方で、フリーハンドで描画する人が多いイラストレーターや漫画家といった職種では、手付かずの領域になっているケースも多いでしょう。活動する領域によっては必ずしもマスターする必要はないベジェ曲線ですが、フリーランスのイラストレーターや漫画家の場合は、ベクターデータでイラストを納品する案件にも対応できたほうが活動の幅が広がるはずです。
そんな課題を抱えるイラストレーター・漫画家はもちろんのこと、ベクター画像を利用する多くのクリエイターにおすすめのAIツールが、今回紹介する「Vectorizer.AI」です。
目次
まずは「Vectorizer.AI」の基礎知識
1)Vectorizer.AIとは「Vectorizer.AI」は、米国ミネソタ州ミネアポリスにあるベンチャー企業が開発したラスター画像(ビットマップ画像)をベクター画像に変換できるAIをベースにした画像変換サービスです。利用方法も簡単で、JPG、PNG、GIFなどのラスター画像をアップロードするだけで、AIが画像内の線や形を認識し、画像の解像度や品質に関係なく高精度なベクターデータ(SVG、EPSなど)を生成することが可能なツールになっています。現在はベータ版が提供されており、ベータ版の期間はサービスを無料で利用可能です。
2)ラスター画像とベクター画像の違い(おさらい)
デザイナーの方には基礎知識となりますが、念のためベクター画像とラスター画像の違いを確認しておきましょう。確認する必要のない方は、次の章まで読み飛ばしてください。


ラスター画像とベクター画像の違い
ラスター画像 ベクター画像 説明格子状のドッドの集合体で表現される画像形式 線、色、曲線など解析幾何的な数値データによってデータが再現される画像形式 別名ビットマップ画像 ベクトル画像 サイズデータサイズは比較的重い。ただし、複雑なベクター画像に比べて軽いこともある データサイズは比較的軽い。ただし、複雑な図形になると重くなる 形式JPG / BMP / GIF / PNG / TIFF など SVG / AI / EPS / DXF など 特徴写真などの複雑な画像の表示に最適だが、拡大するとシャギーが発生し画質が落ちる 拡大縮小による画像の劣化がないが、複雑な画像データには適していない 用途写真編集、レタッチ、フリーハンド描画のイラスト など ロゴデザイン、キャラクターデザイン、ベジェ曲線で描画するイラスト など 上記のように、ラスター画像とベクター画像の違いを明確にしておくと「Vectorizer.AI」を使う利用シーンを具体的にイメージできるようになるでしょう。
「Vectorizer.AI」の特徴(他ツールとの違い)
ベクター化するツールは以前から存在していました。今までのベクター化するツールとは、具体的にどんな部分が異なるのかを確認するために、以下に「Vectorizer.AI」の特徴を挙げます。1)画像をアップロードするだけで簡単にベクターデータに変換できる
ブラウザで「Vectorizer.AI」の公式サイトへアクセスし、画像をアップロードするだけで、簡単にベクターデータに変換できます。
2)様々な画像形式に対応している
アップロードするオリジナル画像は、JPEG、PNG、GIFなどに対応しています。また、ベクターに変換後、ダウンロードするファイル形式もSVG、EPS、PDF、DXF、PNGから選択できます(ベクターデータとしてダウンロードできるのはSVG、EPS、DXFのみ)。また、対応する画像ファイル形式は今後追加されていくと公式サイトに記載されています。
3)変換スピードが早く精度も高い
オリジナル画像からベクター画像へ変換するまでの時間は数秒と短くスピーディーです。また、変換されるベクター画像の精度も、オリジナル画像に忠実であり非常に精度が高いです。
【Vectorizer.AIの特徴】1)画像をアップロードするだけで簡単にベクターデータに変換できる2)画像形式に対応している3)変換スピードが早く精度も高い
「Vectorizer.AI」のメリットとデメリット
次に「Vectorizer.AI」のメリット・デメリットも確認しておきましょう。【1】Vectorizer.AIのメリット
1)ベクターデータの作成に慣れていない人でも簡単に使用できる
ベクター形式のイラストを作成するには、ベジェ曲線をマスターすることが必須のスキルででした。しかし、Vectorizer.AIを利用すれば、ベジェ曲線での描画技法をマスターしていない人でも、手軽にベクター画像のイラストを作成することができます。また、限度はありますが、クライアントから解像度の低いロゴデータしか提供されていない場合などもベクター化できるので、ベジェ曲線を使い慣れているデザイナーにとっても役立つツールです。
2)著作権的にも安心して使えるAIサービス
AI系のグラフィックツールですが、生成ツールとは異なり自分で作成した画像ファイルのみで画像変換が完結します。もちろん、利用者が著作権を侵害する画像コンテンツをアップロードしてベクター化することも禁止されています。
また、公式サイトには「ユーザーが明示的に許可しない限り、ツーザーの画像を第三者と共有することはありません。」と記載されています。加えて、アップロードした画像と、ベクターに変換された画像は、アップロード後5日間保持され、その後永久に削除されるそうです。
そのため、イラストレーターやデザイナーといったクリエイター側からは、著作権的にも安心してつかえるサービスであると言えます。詳しくは公式サイトのFAQにある「Do you make any claims on the input images or vectorized results?」と「What are your data retention policies?」という項目を確認してください。
3)Adobeのユーザーでなくても利用できるツール
ベクターで描画できるツールはAdobe Illustratorをはじめとした有料のソフトウェアが多いです。
【Vectorizer.AIのメリット】1)ベクターデータの作成に慣れていない人でも簡単に使用できる2)著作権的にも安心して使えるAIサービス3)Adobeのユーザーでなくても利用できるツール【2】Vectorizer.AIのデメリット
1)変換できる画像の解像度に制限がある
Vectorizer.AIで変換できる解像度には制限があります。大抵の画像解像度には対応できますが、ビルに掲げるような大判のポスターなどに利用するベクター画像の場合は、注意が必要です。
2)変換後のベクターデータの精度が完全には保証されていない
ベクター化するのに向いている画像と、向いていない画像があります。特に写真のようなタッチのイラスト(もしくは写真)やグラデーションが多用されているイラストなどは、ベクター化するとオリジナルの画像とかなり異なるタッチになります。このように、ベクター化するのに向いていない画像の場合など、ベクターデータの精度が完全には保証されていません。
3)正規版では有料化される可能性も
ベータ版で提供されている期間は無料で提供されていますが、正規版も無料で利用できるかどうかは決まっていないようです。TOPページには「Free while in Beta(ベータ版の間は無料)」と記載されています。正規版は2023年の後半にリリースされる予定になっています。
【Vectorizer.AIのデメリット】1)変換できる画像の解像度に制限がある2)変換後のベクターデータの精度が完全には保証されていない3)正規版では有料化される可能性も
とても簡単!「Vectorizer.AI」の使い方
以下にVectorizer.AIの使い方を説明します。なお、利用の条件は今後変更される可能性もありますので、利用の際は利用規約やFAQなどを確認しておきましょう。【1】Vectorizer.AIでラスター画像をベクター画像に変換するまで
1)Vectorizer.AIの公式サイトへアクセスして画像をアップロード


TOPページにある「DRAG IMAGE HERE TO BEGIN」というエリアに画像をドラッグ&ドロップするか、「PICK IMAGE TO VECTORIZE」というボタンをクリックして画像をアップロードします。ボタンをクリックすると右上の画像のように、画像を選択するウィンドウが開くので、ベクター化したい画像を選択してウィンドウ右下の「開く」をクリックします。
また、Ctrlキー+Cでコピーした画像を、「Vectorizer.AI」のTOPページを開いた状態(ブラウウザの表示が最前面になっている状態)でCtrlキー+V(macOSの場合はCommandキー+V)でペーストすることでも、画像をアップロードできます。
2)ベクター化を実行する


ベクター化が完了すると、右上の画像のようにアップロードしたオリジナル画像とベクター化された画像の比較画面が表示されます。
3)オリジナル画像とベクター化された画像を比較


フリーハンドで描画したイラストなので、拡大するとタッチの粗い部分が目立ちますがオリジナル画像を忠実にベクター化していることがわかります。
4)ベクター化された画像を入手する


ベクター化された画像を確認し問題がなかったら「DOWNLOAD」ボタンをクリックします。
5)ファイル形式などを設定してダウンロード保存する


ダウンロードされたら、Finderで画像を確認し拡張子などをチェックしておきましょう。
【1.Vectorizer.AIでラスター画像をベクター画像に変換するまで】1)Vectorizer.AIの公式サイトへアクセスして画像をアップロード2)ベクター化を実行する3)オリジナル画像とベクター化された画像を比較4)ベクター化された画像を入手する5)ファイル形式などを設定してダウンロード保存する【2】Vectorizer.AIで作成したベクター画像をIllustratorで加工する
画像がベクター化できるかどうか自体よりも、ベクター化された画像が実際に素材として仕事現場で利用できるものとして変換されているかどうかのほうが、より重要なチェックポイントです。そこで、ここからはVectorizer.AIを使ってベクターに変換した画像がAdobe Illustratorで問題なく編集できるベクター画像なのかを確認していきましょう。
1)ダウンロードしたベクター画像をIllustratorで開く


2)ベクター画像を縮小してみる


3)ドキュメントを新規作成してベクター画像をコピー&ペースト


4)ベクター画像を拡大してみる


5)ダイレクト選択ツールでベクター画像を微調整する


6)ベクター画像の線幅を変更する


7)キャラクターロゴとして装飾を施す


【2.Vectorizer.AIで作成したベクター画像をIllustratorで加工する】1)ダウンロードしたベクター画像をIllustratorで開く2)ベクター画像を縮小してみる3)ドキュメントを新規作成してベクター画像をコピー&ペースト4)ベクター画像を拡大してみる5)ダイレクト選択ツールでベクター画像を微調整する6)ベクター画像の線幅を変更する7)キャラクターロゴとして装飾を施す
AIによるベクター化機能で拡がる可能性(活用の幅)
フリーハンドで描画するタイプのイラストレーターや漫画家は、直感的に描画できないベジェ曲線に苦手意識があるという方も多いでしょう。本記事の筆者である私自身もその1人です。私のイラストはTシャツなどのグッズ向いていると言ってもらえることも多く、ネットショップなどを利用してTシャツを作成してみたいと思っていたのですが、ベジェ曲線がなかなか上達できずに先送りになっていました。そこで、本記事の作成をきっかけにして「Vectorizer.AI」で作成したベクター画像でTシャツの作成に挑戦してみることにしました。今回はSUZURIというオリジナルグッズの作成・販売が可能なネットショップサービスを利用してみます。高解像度のデータ送信が容易になったので、近年はJPEGやPNGといったラスター画像でもアパレルやグッズなどの印刷に使えるサービスも増えてきていますが、SUZURIもアップロードするファイル形式はPNGやJPEGになっています。
フリーハンドで描画したイラストをベクター化してキャラクターロゴが作成できたので、高解像度の透過PNGで出力して、SUZURIにアップロードしてみます。


おそらく、画像の著作権自体はコンテンツをアップした側にあるので、ベクターに変換すること自体に商用利用は関係ないように思うのですが確信は持てません。残念ですが、現時点ではショップは非公開にして個人でTシャツを作成してみようと思います。
(※追記:英語ネイティブの知人を通じてサポートに問い合わせたところ、商用利用可能であることが確認できました。具体的には「出力されたデータに関してはいかなる制限もかけませんし、それに対する責任も負いません。また、ユーザーはオリジナルの画像と同様の権利を出力されたデータにも持っています」というという回答です。この回答により、私もショップを公開にしました。)
このように、フリーハンドで描画したイラストが、簡単にベクター画像に変換できるようになると、ネットショップでハイクオリティなオリジナルグッズを作成・販売できるクリエイターも増えるのではないでしょうか。また、前回紹介した「Adobe Firefly」にもAIでベクター化を実行する機能が搭載される予定であり、今後はより簡単に、ラスター画像をベクター画像に変換できるようになると予測されます。
まとめ
本記事では、グッズ販売を想定して「Vectorizer.AI」を試用してみましたが、WebサイトやWebアプリに用いる画像にもベクター化ツールは役立ちます。特にSVGは、Webサイトで用いられる画像形式として定着してきており、カラー変更の自動化などAIとも相性の良い画像形式なので、ますます注目されています。その他にも、やはり印刷会社を利用する場合や、業務として請け負ってクライアント企業に納品するイラストデータでは、ベクターで描画されたデータが最適であり、今後も重要な画像形式であると考えられます。本記事を参考に皆さんも「Vectorizer.AI」を使って、自作のイラストや手元にあるラスター画像のベクター化を試してみてください!
