先日、デジタル庁の方針として「いずれ確定申告は、いろいろな情報があらかじめ自動記入され、雑所得等を自分で入力すれば、自動計算して結果を確認することで終わるように目指してまいります」との河野デジタル大臣の年頭所感が出されています。
私個人としては、現行のインボイス制度には制度がスタートする前から反対しており、免税業者を選択したという立場なので、大臣の所感をそのまま素直に受け止めることはできないのですが、その一方で、e-Taxで各種データの自動記入はすでにスタートしており、便利だと実感する部分があるのも事実です。
その自動記入という行政サービスを利用する上で必要不可欠なサービスが、デジタル庁が提供するマイナポータルというサービスです。クリエイターの多くは、確定申告関連の会計業務がいちばん苦手な作業であるという方も多いでしょう。
行政サービスのDX化を推進するために誕生したデジタル庁の理念とは裏腹に現状は帳簿が複雑になり手間が増えている確定申告ですが、だからこそマイナポータルを利用した自動記入サービスの手続きは事前に進めておく必要性が高まっています。そこで本記事では、e-Taxを利用している方に向けて、マイナポータルの基本的な使い方を紹介します。
※2024年度(令和5年分)の確定申告期間(所得税)は、2024年2月16日(金)から3月15日(金)までとなっています。
目次
マイナポータルの概要
マイナポータルの利用方法について説明する前に、マイナポータルの概要を確認しておきます。※マイナポータルの使用方法や利用規約、税務に関する制度などは、今後変更される可能性もあります。正確な情報になるように努めていますが、確定申告の際には必ず自分でも期日や規約などを確認しておきましょう。
●マイナポータルとは
マイナポータルとは、行政手続のワンストップ化、行政機関からのお知らせの確認などを目的としたデジタル庁が運営するオンラインサービスで、マイナンバー制度の導入に伴って開設されました。マイナポータルを利用するにはマイナンバーカードが必要になりますので、事前にマイナンバーカードの申請手続きが必要になります。
●確定申告とマイナポータル
e-Taxとマイナポータルを連携させることによって、社会保険料、医療費、住宅ローンなど確定申告で必要な控除証明書などに関する個人データを自動的に取得できるようになります。
ただし、e-Taxの管轄は国税庁なので、マイナポータルは連携しているものの、全く別のシステムで運用されているサービスです。カードリーダー等を使った認証作業やパスワード入力も、e-Tax側、マイナポータル側でその都度必要になるので、そうした作業は手間に感じる人もいるかもしれません。
マイナポータルのログイン方法
マイナポータルのログイン方法について簡単に確認しておきましょう。●事前準備
マイナンバーカードを申請する必要があります。マイナンバーカードの申請は、1ヶ月程度かかる可能性がありますので、まだ持っていない状況で本年度e-Taxの利用を始めたいという方は、早めに申請しておきましょう。加えてe-Taxの利用は所轄の税務署にも電子申告等開始届出書を申請する必要があります。
また、ログインの際にICカードリーダライタか、マイナポータルアプリに対応するスマートフォン端末を用意する必要があります。ICカードリーダライタについては、以前はPCでe-Taxを利用する上で必要な機材でしたが、マイナポータルが提供されはじめた昨年から、スマートフォン端末でマイナンバーカードの認証ができるようになりました。大半の機種で対応していますので、これからICカードリーダライタをあらためて購入する必要性は低いかと思います。
●マイナポータルのログイン方法(モバイル端末)
マイナポータルはデザインやシステムを刷新中で、現在はこれまでのマイナポータル(正式版)と並行して実証ベータ版を提供しています。昨年までのマイナポータル(正式版)とは、全く異なるデザインやレイアウトになっていますので注意が必要です。
1.ログイン~パスワード入力~カード読取り


アプリを起動すると、TOPページに表示されている「登録・ログイン」というボタンをタップします。画面が遷移してパスワードを入力する画面が表示されます。このパスワード入力欄に、利用者証明用電子証明書のパスワード(マイナンバーカードを申請する際に登録する4桁のパスワード)を入力します。パスワードが正しく入力されると、マイナンバーカードを読み取る画面に遷移します。
利用者証明用電子証明書のパスワードは、3回以上ミスするとログイン不可になり、解除するには市役所の窓口で手続きする必要が出てきますので慎重に入力しましょう。マイナンバーカードの読み取りはスマートフォン端末の種類によっても、微妙に位置が異なりますが基本的には端末の上部をカードにかざすと非接触型ICカードのための通信技術であるFeliCaやNFCが反応して認識されるようになっています。
2.ログイン完了~正式版の表示


デフォルトでは実証ベータ版になっていますが、まだ完全に移行されているわけではなく、正式版とベータ版を行ったり来たりする部分もあり、使い勝手は正直に言ってあまり良くありません。従来の正式版を使いたい場合は、画面左上にあるハンバーガーメニューのアイコンをタップして、表示されたメニューの中から「正式版を使う」という項目をタップすると正式版に切り替ります。
●マイナポータルのログイン方法(PC)
マイナポータルはPCブラウザからも利用可能です。PCブラウザ版(macOS環境)でのログイン方法は以下の手順になります。
1.ログイン~ログイン方法の選択


2.選択したログイン方法の手順を確認


QRコードでログインする場合は、マイナポータルアプリで「スマートフォンでQRコードを読み取ってログイン」を選択すると表示されるQRコードを読取ります。
3.QRコード読取り~ログイン完了


認証が完了するとPCのブラウザ側の画面が切り替り、マイナポータル(実証ベータ版)のトップ画面に戻ります。このとき、人物アイコンの横にあるテキストが「ゲスト」から「わたし」に切り替わっています(また「こんにちは」が「おかえりなさい」と切り替わります)。これでログイン完了です。
PCブラウザ版も正式版を利用したい場合は、スマートフォン版のマイナポータルアプリ同様の手順で切り替えできます。
これだけはやっておきたい確定申告の事前準備
e-Taxでの確定申告を行う上で、マイナポータル上でこれだけはやっておきたい事前準備についてを解説します。紙面の都合上、ここからはPCブラウザ版で解説しますがスマートフォン版のマイナポータルアプリでも同様の手順で操作できます。1.住所の設定


2.健康保険証と公金受け取り口座の設定


健康保険証の紐づけについては、現政権は紙の健康保険証の廃止を閣議で正式に決定していますので、今後、健康保険証利用が自動的に登録済みとなる可能性もあります。紙の健康保険証の廃止に反対の方は、特に注視してチェックしておくべき項目ですので、よく確認しておきましょう。e-Taxでの社会保険料の入力は手入力でも可能なので、マイナンバーカードと健康保険証を紐づけしなくても2024年度(令和5年度分)の段階では全く問題ありません。
公金受取口座については、事業用の口座とプライベートの口座を使わけている場合など、確定申告で還付金を受取る口座と異なっても問題ありません。その場合、e-Tax側では、こちらの公金受取口座を紐付けるように誘導されていますので、注意してください。
3.外部サイトとの連携
1.メニューから「外部サイトの連携」をクリック


2.メニューから「外部サイトの連携」をクリック

公的機関では日本年金機構の「ねんきんネット」、国税庁の「国税電子申告・納税システム(e-Tax)」と「公売電子入札」、総務省の「電波利用 電子申請・届出システムLite」、厚生労働省の「求職者マイページ(ハローワークインターネットサービス)」と「マイジョブ・カード」と連携できます。
その他のWebサイトでは、野村総合研究所の「e-私書箱」、シフトセブンコンサルティング「民間発送・e-Tax連携サービス」、日本郵便の「MyPost」といった民間送達サービス(インターネット上に自分専用のポスト(私書箱)を作り、自分宛のメッセージやレターを受け取ることができるサービス)と連携できます。各サービスとの連携方法は、それぞれ異なるので「外部サイトとの連携」の各項目にある「詳しく見る」をチェックして連携を進めてください。連携できるサービスは、今後も増えていくと思われます。
▶社会保険料
国民年金
国民年金については外部サイトとの連携で、日本年金機構の「ねんきんネット」と連携することにより、e-Tax利用の際に国民年金の支払額が自動入力されるようになります。
国民健康保険
国民健康保険については、前述したマイナンバーカードの健康保険証利用に登録することで、国民健康保険料の支払額が自動入力されるようになります。
▶その他の保険
生命保険料や地震保険料などの控除証明書については、このマイナポータルと「e-私書箱」「MyPost」「民間発送・e-Tax連携サービス」のいずれかの民間送達サービスと連携させることで支払額が自動入力されるようになります。「e-私書箱」「MyPost」「民間発送・e-Tax連携サービス」は、控除証明書等の発行企業と連携するサービスです。契約している保険会社によって、連携する民間送達サービスが決まります。
▶医療費控除
医療費控除については、e-Tax側の申請ステップでマイナポータル連携で「医療通知情報」にチェックを入れることで、自動に医療費が自動入力されます。以下のYouTube動画が国税庁から提供されていますので、こちらも確認してみましょう。
▶住宅ローン控除の申請
住宅ローンについてもマイナポータルと「e-私書箱」「MyPost」「民間発送・e-Tax連携サービス」のいずれかの民間送達サービスと連携させることで支払額が自動入力されるようになります。契約している住宅ローンによって、連携する民間送達サービスが決まります。住宅ローンを契約している企業のサイトからも確認できますが、国税庁のサイトに、マイナポータルと連携可能な控除証明書発行主体一覧のページがありますので、このページを確認してみましょう。
▶給与情報
事業主以外のサラリーパーソンの方が確定申告する場合は、給与情報についてもマイナポータル連携しておくと便利です。令和6年2月以降は、給与所得の源泉徴収票も自動入力の対象予定と告知されています。こちらも国税庁がYouTube動画による解説を提供していますので参考にしてみましょう。
▶ふるさと納税
ふるさと納税もマイナポータル連携が可能です。こちらも「e-私書箱」「MyPost」「民間発送・e-Tax連携サービス」のいずれかの民間送達サービスと連携させることで支払額が自動入力されるようになります。利用したふるさと納税ポータルサイトによって、連携する民間送達サービスが決まります。各ふるさと納税ポータルサイトからも確認できますが、前述の通り国税庁のマイナポータルと連携可能な控除証明書発行主体一覧のページを確認してみましょう。
▶その他の自動入力対象
この他にも自動入力対象になっている項目があります。詳細は割愛しますが収入関係では「株式の特定口座」、控除関係では令和6年1月以降からiDeCoや小規模企業共済掛金が自動入力の対象になっています。
※国税庁:マイナポータル連携による申告書の自動入力対象が拡大!
※国税庁:令和6年1月からe-Taxがもっと便利になります。
4.確定申告の事前準備


予測される今後のマイナポータル運用
1.確定申告を含めた税務サービスの効率化冒頭にも引用した通り、確定申告などの税務サービスは、自動計算して結果を確認できるようにするというのが今後マイナポータルが目指す方向であることがわかります。電子帳簿保存法やインボイス制度に関しても、そうしたデジタル化によってユーザである国民の経済活動に関する利便性を高めようというのが現政権の主張です。
しかし、現実問題として納税者も国税庁を含めた行政サービス側も、作業負荷が何倍にも膨らんでいるのが現状です。少額の会計ミスも許されない納税者側としては、政権与党の裏金問題や利権問題、財務省への権限過集中など、制度を改革するなら「先ずは隗より始めよ」といった思いを抱く方も多いのではないでしょうか。
こうした政治の問題とは別問題として、デジタル庁の推進する行政サービスのデジタル化・DX化は、労働力人口が減少していく日本社会において必要不可欠な改革です。発足間もないデジタル庁ですが、著名なエンジニア・デザイナーもサービス開発に参加しはじめており、各種サービスの使い勝手も向上しているように思います。
加えて、現在政府が推進しているNISAなども、マイナポータルを利用することで口座の開設状況を確認できるようになっており、今後e-Taxでの確定申告への連携が強化されていくと予想されます。その他にも、マイナポータルから電子処方箋やお薬の情報を取得できるサービスも始まっています。
国税庁:NISA口座の開設状況を確認する方法
日本調剤電子お薬手帳:マイナポータルから電子処方箋やお薬の情報を取得
2.更に使い勝手のよいUI・UXデザインへ
そして、現在正式版と併用して提供をスタートした実証ベータ版は、そのデザインスタイルからデジタル庁のデザインシステムとの統一を念頭においた刷新であるように思います。このデザインシステムについては、著名なデザイナーがデジタル庁に参画しUI・UX 等を検討して出来上がったものなので優れたデザインシステムであることは、デザイン業界では周知の事実でしょう。
マイナポータルの課題
1.マイナポータル(マイナンバーカード)と健康保険証の紐づけ問題私個人の問題で恐縮ですが、マイナポータルの抱える課題としてひとつのサンプルになるかと思いますので共有させてもらいます。私には現在、マイナンバーカードと健康保険証の紐づけはしていなかったにもかかわらず、マイナンバーカード利用が「登録済」となっている事案が発生しており、デジタル庁に問い合わせをしている最中です。前述のように政府は閣議決定で紙の健康保険証を廃止すると正式に決定したと報道されています。しかし、当初はマイナンバーカードの健康保険証利用は任意であるとされていましたので、現時点で「登録済」に切り替わっているのは正直なところ不信感を抱かざるを得ませんでした。
私が間違って登録した可能性も否定はできませんが、本記事を作成するまでしばらくマイナポータルにはログインしておらず、マイナンバーカードの保険証利用の完了という更新通知が来ているのが利用を再開してからの2024年1月10日となっていることから、政府の意向の反映、もしくはシステムの刷新によってなんらかの不具合が発生している可能性もあるのではないかと考えています。昨年からマイナポータルを利用されている方は、早めのタイミングでログインして自身の登録状況を確認することをおすすめします。
2.マイナンバーカードに個人情報データを集約するリスク
社会保障の共通番号に関する制度は、住民基本台帳ネットワークシステムから続く国家的な課題で、マイナンバーという制度自体は非常に重要なシステムであることは政治信条を問わず、政策的な課題として共通認識となっています。しかし、マイナンバー "カード"というカードに一つの機能を集約する方式が果たして最適な方法なのかは、今後も国民が注視していく必要があります。特に紛失してしまった場合の手続きには問題があり自然災害などが発生した場合など、保険証や免許証の機能を付与してマイナンバーカードのみで全てを管理しようとした場合の、社会的なリスクは大きいと思われます。
加えて、普及の目的としてマイナンバーカードをチケット販売に利用する実証実験を行う案がすでに動き出していますが、重要な個人情報などが記載されているカードを、こうした用途に利用することに対しても、疑問を感じる方は多いのではないでしょうか。総務省の発表によれば、マイナンバーカードの保有状況は令和5年12月末時点で人口に対する割合で約73.0%にに留まっていますので、こうした施策によってかえって政府の焦りも見え隠れしているように思います。
3.システムをアップデートしていく上での課題
また先日、SNSでデジタル庁のサイトがNext.jsからPHPやjQueryに先祖返りしたのではないかと話題になっていました。正確なことはわかりませんが、実際には先祖帰りしたわけではなく、古いOSにも対応できるように両方を併用しているのではないかといった見立てがあるようです。
おそらく、新しいスタッフを登用する中で「もっと良いシステムを」といった思いが強まっているのではないのでしょうか。その思いはとても尊いものだと思いますが、マイナポータルに関しては昨年正式版としてリリースされたバージョンは現在も機能しているものの、デフォルト設定で実証ベータ版が表示されることで、かえってユーザーは使いづらいと感じるような気がしました。
特に高齢者は、昨年使ったサービスのデザインレイアウトが大幅に変更されるいるので、「どこに何があったか」「昨年はどのような設定をしたのか」を思い出し難いのではないでしょうか。システムを移行するには避けられない問題ですが、混乱が予想されるインボイス制度開始後はじめての確定申告である本年度が、システム刷新の実証実験するのに最適なタイミングであるのかは今一度考察してほしいと感じました。
※総務省:マイナンバーカード交付状況について
※TBS NEWS DIG:マイナカード所持者に東京ガールズコレクションのチケット先行販売へ

まとめ
中立な立場での情報提供を心がけなければと思いながら記事の執筆に臨みましたが、少し偏った意見であると感じられた方もおられるかもしれません。ただ、私のような立場のユーザーがマイナポータルを利用してみた中で、どこに利便性を感じたのかということをお伝えするのは意義のあることだと思っています。何かと批判に晒されることが多い行政ですが、現場レベルで活動されているデジタル庁や国税庁の職員の方々が各種サービスにおいて尽力されています。デジタル庁に問い合わせした際も、「貴重なご意見として承ります」と担当者の方はできる限り丁寧に対応してくださいました。実証ベータ版とされている通り、現在デジタル庁はベータ版の利用に関するフィードバックを求めています。
行政サービスに使い勝手のフィードバックや意見を送ることは、一つの政治参加です。こうした国の基幹サービスは、大臣が変わったり政権が変わるたびに大鉈を振い、以前のシステム仕様などをご破算にしてやり直させるようなやり方では問題があります。
トップダウンで運用が決められるのではなく、私たち納税者が主体的に関わってボトムアップのサービスを作り上げていくという意識が重要なのかもしれません。MdNのユーザーであるデザイナーをはじめとしたクリエイターの皆さんからのフィードバックも大変貴重な意見であると思います。ぜひマイナポータルを利用してみて実証ベータ版を検証しつつ、確定申告の準備を進めていただければと思います。
