左:高田裕美氏、右:鳥海修氏(写真/岡庭璃子)株式会社モリサワの書体デザイナーの高田裕美氏が、日本タイポグラフィ協会による「第23回 佐藤敬之輔賞」(個人部門)を受賞しました。さらに、同社のグループ会社である有限会社字游工房の鳥海修氏は、吉川英治国民文化振興会の「第58回 吉川英治文化賞」を受賞しています。


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UDフォントの仕事が高く評価された高田裕美氏

高田裕美氏は、2024年で書体メーカーでの業界歴が40年目となるプロフェッショナルです。女子美術大学短期大学を卒業後、タイプバンクでさまざまなフォントの企画や制作を手掛けてきました。2017年にモリサワに吸収合併後も、UDフォント関連の仕事などで活躍しています。

妥協のないフォントの追求! モリサワにゆかりの “書体のプロ” 2名が佐藤敬之輔賞や吉川英治文化賞を受賞
高田裕美氏高田氏が受賞した「佐藤敬之輔賞」は、タイポグラフィの重要性や科学性をアピールするために設置された賞です。日本タイポグラフィ協会の活動の基盤にも発足時から多くの影響を与えた佐藤敬之輔氏の名前が冠されています。佐藤氏は、タイポグラフィに関する革新的な提言/発言/研究発表/デザイン教育など、多方面にわたって活躍したデザイナーです。

高田氏の受賞にあたっては、子どもたちの学びを支援するUDフォントの開発と普及に貢献したことなどが高く評価されました。
高田氏は、タイプバンク時代にも創立者・林隆男氏の “妥協を許さないデザインへの姿勢” を受け継ぎながら新しい書体開発に取り組み、「タイポス」のデジタル化や「TBUD書体シリーズ」のリリースなどにも尽力しています。「UDデジタル教科書体」は、約8年もの歳月をかけて開発されました。

「UDデジタル教科書体」は現場の声をもとに開発

「UDデジタル教科書体」は、ロービジョン(弱視)やディスレクシア(読み書き障害)に配慮し、読みやすさについてのエビデンスもしっかりと取得しているユニバーサルデザインの書体です。高田氏は、ロービジョン研究の第一人者である慶應義塾大学の中野泰志教授との出会いから、現場のヒアリングをもとに「UDデジタル教科書体」を開発しました。

妥協のないフォントの追求! モリサワにゆかりの “書体のプロ” 2名が佐藤敬之輔賞や吉川英治文化賞を受賞
「UDデジタル教科書体」と「TBUD書体シリーズ」をもとにした「BIZ UD明朝/ゴシック」は、2017年「Windows 10 Fall Creators Update」以降のWindows OSに標準搭載されていることでもお馴染みです。教育現場はもちろん、ビジネスシーンなどでも幅広く活用されています。

YouTubeのモリサワの公式チャンネルでは、「UDデジタル教科書体」などの開発の背景について高田氏が解説している動画が公開中です。
「誤読を生じさせない文字の形」などについても詳しく知ることができ、デザイナーにとってはフォントを選ぶ際のポイントとしても参考になります。“学び” や “気づき” の多い非常に意義のあるオススメの動画です。

「UDフォントをもっと知ろう!」UDデジタル教科書体の開発背景とデザイン 前編(YouTubeより)

「UDフォントをもっと知ろう!」UDデジタル教科書体の開発背景とデザイン 後編(YouTubeより)

書体デザインが “文化” だと示された鳥海修氏の受賞

字游工房の鳥海修氏が受賞した「吉川英治文化賞」は、1967年に創立されました。文化活動などに著しく貢献した人物やグループに対して贈られる賞です。こちらはタイポグラフィの分野に限定された賞ではありませんが、鳥海氏の受賞は書体のデザインが重要な文化活動の1つであることをあらためて示すものでもあります。

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鳥海修氏(写真/岡庭璃子)鳥海氏は、有名な「ヒラギノフォント」をはじめ、「游明朝体」や「游ゴシック体」などの数多くの書体の開発を手掛けてきました。
多摩美術大学を卒業後の1979年に写研へと入社し、1989年に鈴木勉氏らとともに字游工房を設立しています。2002年に「佐藤敬之輔賞」を受賞するなど、高品質な書体の開発が高く評価されている有名な “書体設計士” です。

妥協のないフォントの追求! モリサワにゆかりの “書体のプロ” 2名が佐藤敬之輔賞や吉川英治文化賞を受賞
鳥海氏もまた書体の開発と同時に、文字の文化の普及にも大きく貢献してきました。字游工房のWebサイトをはじめ、自らが手掛けた書体の開発の経緯や特徴について丁寧に解説しています。モリサワの公式noteでは、2021年に実施された「書体設計士 鳥海修さん特別インタビュー ~字游工房の歩みと書体へのこだわり~」が公開されています。そちらのインタビューでも、「字游工房の “游” の字はどのように決められたのか?」をはじめ、字游工房や書体にまつわるさまざまなエピソードが語られていて必見です。


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今回の高田裕美氏と鳥海修氏のそれぞれの受賞は、“丁寧なこだわりの仕事” が高く評価されるということを強く感じさせました。デザインにこだわり、さらにそこでの知見を広く社会へと伝えて文化を継承・発展していくこと。その営みの大切さがあらためて心に刻まれるようなニュースと言えるでしょう。

株式会社モリサワ
URL:https://www.morisawa.co.jp/

2024/03/13

妥協のないフォントの追求! モリサワにゆかりの “書体のプロ” 2名が佐藤敬之輔賞や吉川英治文化賞を受賞