前回の記事「画像生成AI学習防止ツール「emamori」と「Glaze」でクリエイターの権利を守る(前編)」で解説したように、不正な学習によって開発された生成AIシステムや、他人の著作物を使って生成AIで著作権侵害を繰り返す人物らによって引き起こされたクリエイターの権利侵害に対して、これを保護するツールの研究開発が活発になっています。「emamori」は、そうしたツールの国内における代表格ですが、海外にも同様なツールが提供され始めています。
そんな中で最も注目を集めるツールの一つが「Glaze」です。

今回は、不正な生成AIシステム・生成AIの不正利用から保護するツールとして注目されている「emamori」と「Glaze」についての後編として「Glaze」の使い方やメリット・デメリットなどをメインに紹介します。
※前編「emamori」の解説についてはこちら

目次

作品をAI学習をさせない「Glaze」

まず、Glazeとはどんなツールなのかを確認していきましょう。 

画像生成AI学習防止ツール「emamori」と「Glaze」でクリエイターの権利を守る(後編)
 Glazeとは
Glazeはアメリカ合衆国・シカゴ大学のSAND Labという研究開発チームが開発した、画像生成AIの学習データ利用を防止するツールです。「Stable Diffusion」や「Midjourney」といった無断でネット上の画像データを学習したといわれている生成AIシステムに、自身のデータが混入してしまうことを防止することに役立ちます。技術的には、作品に目立たないノイズを追加しAIに作品をご認識させることで、学習データとして取り込まさせないようにするシステムになっています。前編で紹介したemamoriで使われいるMistとほぼ同様のシステムですが、Glazeはより高い保護機能があるといった評価が聞かれます。

画像生成AI学習防止ツール「emamori」と「Glaze」でクリエイターの権利を守る(後編)
上の画像はGleze公式ページからの引用です。保護処理前後のイラストを比べてみても大きな差は感じられなく、すでに多くのプロクリエイターに利用されています 

Glazeの基本的な使い方

Glezeの概要がわかったところで、基本的な使い方を説明します。

日本語化の方法
Glezeを使う事前の準備として、日本語化について説明します。 

1.TOPページから日本語化

画像生成AI学習防止ツール「emamori」と「Glaze」でクリエイターの権利を守る(後編)
 
画像生成AI学習防止ツール「emamori」と「Glaze」でクリエイターの権利を守る(後編)
 Glazeの公式ページへアクセスします。Glazeは英語のサービスですが、日本からのユーザーが多いことを想定しているようで、TOPページに日本語化に関する内容が掲載されています。機能的にはブラウザの日本語設定とほぼ同じですが、英語だと不安という場合は「Glaze website translated into Japanese here, thank you Mayumi Nakamura Birt!」という文章の「Japanese here」の「here」を押すことで、日本語化できます。本記事では便宜上、英語のまま解説します。


Web版Glazeの使い方  
GlazeにはWebブラウザから利用できるWeb版と、ローカル端末にダウンロードして利用できるダウンロード版があります。Web版の利用は不正なアカウントを作成しようとするユーザーを排除するために、現在はGlazeの運営にアカウントの開設を申請する手続きが必要になります。  

1.SNSのDMかメールでアカウント申請

画像生成AI学習防止ツール「emamori」と「Glaze」でクリエイターの権利を守る(後編)
 
画像生成AI学習防止ツール「emamori」と「Glaze」でクリエイターの権利を守る(後編)
 TOPページ上部のメニューから「Glaze and Nightshade」という項目にある「What Is Glaze?」というメニューを選択します。ページが遷移し「What Is Glaze?」のページが表示されます。このページの右サイドバーに、Glazeチームのプロフィール画像が表示されています。その上部に、GlazeチームのSNSアカウントとメールアドレスのリンクが掲載されています。これらの連絡先からDMもしくはメールで、アカウント申請を行う流れになります(他にもアカウント申請方法があるかもしれませんが、私の確認した限り直接運営に申請を送る方法しかないようです)。  

私は正しいビジネスメールを書くには英語力に不安があったので、ChatGPTやGeminiなどの手を借りて日本語で作成した申請内容を英語に翻訳してもらいました。英語のメール作成に不安がある方にはこの方法が最適解に思いますが、本記事を読まれれている方の中には文章生成AIにも抵抗がある方もいるかもしれませんので、その場合はDeepLやGoogle翻訳などの翻訳ツールを使って英文の申請メールを作成してください。  

私の場合は、記事でGlazeを紹介したいという説明も加えて申請したからかもしれませんが、運良く半日もかからず返信が届きました。ただ、申請にはある程度時間がかかるようです。

2.ログイン~Web版Glazeの画面へ

画像生成AI学習防止ツール「emamori」と「Glaze」でクリエイターの権利を守る(後編)
 
画像生成AI学習防止ツール「emamori」と「Glaze」でクリエイターの権利を守る(後編)
 アカウントの申請が許可されると、運営チームからメールが届きます。
そこに掲載されたリンクをクリックすると新規アカウントが作成できます。アカウントが作成されてしまうと、作成画面が閲覧できなくなってしまうので、キャプチャ画像が撮影できなかったのですが、アカウント名やパスワードの設定に関して特に難しい部分はありません。アカウントが開設できたらログインすると、右上の画像のようなWeb版Glazeの画面が表示されます。次にImageという項目にある「ファイルを選択」をクリックします。

3.保護したい画像を選択して「Submit」

画像生成AI学習防止ツール「emamori」と「Glaze」でクリエイターの権利を守る(後編)
 
画像生成AI学習防止ツール「emamori」と「Glaze」でクリエイターの権利を守る(後編)
 ファイルを選択するパネルウィンドウが開くので、保護したい画像を選択して「開く」をクリックします。画像がアップロードされると右上の画像のように、Web版Glazeに画像が表示されます。ここで保護処理された画像の送信先メールアドレスを確認しておきましょう。メールアドレスは、デフォルトでアカウント申請時のアドレスに設定されていますが変更も可能です。また、「Default」「Medium」「High」の3つのレベルからプロテクトレベルが選択できるので、これを選択します。「High」や「Medium」にすると時間がかかるようなので、ここでは「Default」を選択してみます。

4.保護処理された画像をメールで受信

画像生成AI学習防止ツール「emamori」と「Glaze」でクリエイターの権利を守る(後編)
 
画像生成AI学習防止ツール「emamori」と「Glaze」でクリエイターの権利を守る(後編)
 送信が完了すると左上の画像のように送信が成功したというメッセージが表示されます。保護処理された画像がメールに送られていますので、これを受信して画像をダウンロードすれば完了です。


5.保護処理前後の比較

画像生成AI学習防止ツール「emamori」と「Glaze」でクリエイターの権利を守る(後編)
 
画像生成AI学習防止ツール「emamori」と「Glaze」でクリエイターの権利を守る(後編)
 保護処理される前後で、どのように違うか確認しておきましょう。今回は処理に時間がかかることも想定して比較的画像解像度が小さい画像ファイルを使ってみましたが、全体の比較を見ると、はっきりとした違いは確認できません。拡大した画像の比較では、グラデーションで塗りつぶしてある背景に、少し模様が入っているように見えますがemamoriの無料版「mist v1」と比較すると、それほど目立っていないように思います。

ダウンロード版Glazeの使い方  
ダウンロード版の使い方も簡単に確認しておきましょう。  

1.端末環境に合ったバージョンをダウンロード

画像生成AI学習防止ツール「emamori」と「Glaze」でクリエイターの権利を守る(後編)
 
画像生成AI学習防止ツール「emamori」と「Glaze」でクリエイターの権利を守る(後編)
 TOPページ上部のメニューから「Download」をクリックし、Downloadのページを開きます。ページを下へスクロールすると「Download Link」という項目がありますので、この中から自分の端末環境に合ったヴァージョンを選択し、ダウンロードします。

2.インストール~画像をセレクト

画像生成AI学習防止ツール「emamori」と「Glaze」でクリエイターの権利を守る(後編)
 
画像生成AI学習防止ツール「emamori」と「Glaze」でクリエイターの権利を守る(後編)
 ダウンロードしたファイルを解凍し、端末にインストールします。インストールしたアプリをクリックすると、右上のようなアプリ画面が表示されます。左サイドバー上部に「SELECT YOUR IMAGE(S) TO GLAZE」という項目があります。この中にある「Select...」というボタンをクリックします。

3.保護したい画像を選択~「Intensity」と「Render Quality」の設定

画像生成AI学習防止ツール「emamori」と「Glaze」でクリエイターの権利を守る(後編)
 
画像生成AI学習防止ツール「emamori」と「Glaze」でクリエイターの権利を守る(後編)
 ファイルを選択するパネルが表示されるので、保護したい画像を選択して「Open」をクリックします。次にその下に「DEFINE GLAZE SETTINGS」という項目があります。
この項目にある「Intensity」と「Render Quality」を設定します。「Intensity」はWeb版のプロテクトレベルと同じ項目です。「Render Quality」は、画像処理のレンダリングにかかる時間の設定です。「Faster(~20 mins)」「Medium(~40 mins)」「Slower(~60 mins)」「Slowest(~120 mins)」の4つのレベルがあります。レンダリング処理には負荷がかかりますので端末環境によっても設定を変える必要があるようです。

4.ファイルの保存先を設定~「Run  Glaze」をクリック

画像生成AI学習防止ツール「emamori」と「Glaze」でクリエイターの権利を守る(後編)
 
画像生成AI学習防止ツール「emamori」と「Glaze」でクリエイターの権利を守る(後編)
 「DEFINE GLAZE SETTINGS」の下に「OUTPUT」という項目があります。この項目の中に「Save As...」というボタンがあるので、これをクリックし、保護処理された画像の保存先を設定します。各種設定が完了したら一番下にある「Run Glaze」というボタンをクリックすると実行されます(私の場合は、MacのIntelシリコンに対応したGlaze 1.01というバージョンをダウンロードし試してみたのですが、この最後の部分で毎回必ずクラッシュし、利用できませんでした)。

 

Glazeのメリット・デメリット

Glazeのメリット

無料で利用できる
Glazeは学術・研究機関が提供する技術であり営利目的で提供されているツールではありません。Web版についてはファイルの利用可能数に上限はありますが、ダウンロード版には特に制限はありません。無料なのでコストをかけずに作品を保護したい場合は非常に便利です。

●優れた保護機能と信頼性の高さ  
独自のノイズ生成技術により、他の生成AIプロテクターよりも高い保護機能を持っているとされています。また、ノイズも少なく保護処理が目立たない点も優れています。
加えて、オープンソースソフトウェアなので高い透明性と信頼性があります。

●Nightshadeと組み合わることでより強固な保護が可能  
後述しますが、同じ研究チームが開発するNightshadeという生成AIプロテクターツールと組み合わせることで、画像の保護をさらに強化することが可能です。

Glazeのデメリット

●Web版の利用には申請が必要  
運営チームにアカウント作成の申請をする必要はあるので手間がかかります。この点は、特に英語ネイティブでない人にとっては大きなハードルになるでしょう。また、申請が許可されるまでには多少時間もかかるケースもあるようなので、その点を理解した上でWeb版を利用する必要があります。

●ダウンロード版はヴァージョンによって動作が不安定な場合がある  
前述のようにダウンロード版については私の利用している端末環境に対応したバージョンについてはクラッシュして使い物になりませんでした。ただし、Appleシリコン版やWindows版については2.0とバージョンアップが完了しており、使えなかったといったSNS投稿等もあまり見られないようですので、基本的に使用に問題はないかと思います。  

学術機関が提供しているツールなため手厚いサービスは期待できない  
Glazeはシカゴ大学の研究チームが提供しているサービスなので、一般的な営利企業の提供するサービスのように、手厚いサービスは期待できません。サービス内容を理解や問い合わせにも、ある程度の英語読解力が必要になってくるので、その分手間に感じることもあるでしょう。

 

その他の生成AIプロテクターツール 

「emamori」や「Glaze」以外にも、様々な生成AIからコンテンツを保護するツールが開発されはじめています。まだ開発中の技術も含まれていますが、注目されているその他の生成AIプロテクターツールを以下の表にまとめましたので参考にしてください。

ツール名説明関連リンクMist上海交通大学研究チームが開発したオープンソースの画像生成AI学習防止システム・GithubのリポジトリPhotoGuardアメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)の  
CSAIL(Computer Science and Artificial Intelligence Laboratory)  
が開発した生成AIによる画像改変を阻止する技術・Githubのリポジトリ  
・MIT CSAILの公式サイトNightshadeGlazeと同じアメリカのシカゴ大学研究チームが開発した  
生成AIに含まれる個人情報や機密情報を検出し削除する機能を持つツール・Nightshadeの公式ページHIVE2023年に設立されたHIVE社が提供する生成AIコンテンツを検出・分類するAIプロテクター・HIVEの公式ページArtShield生成AIによる画像の改変を防ぐために開発されたツールです。登録不要で無料で利用できる・ArtShieldの公式ページこのように、主に大学の研究機関によって生成AIプロテクターツールが開発されています。
すでに生成AIからの保護に関する研究開発に取り組む日本国内の研究機関も存在するとは思いますが、日本の「絵師」と呼ばれるクリエイターなどは国産の生成AIからコンテンツを保護するシステムを待望する方も多いかもしれません。

まとめ(総括)

本記事で紹介したemamoriやGlazeといったツールを知ることで、全てのエンジニアが無断学習による生成AI技術を無批判に推進しようとしている訳ではないことが分かったのではないでしょうか。

確かに生成AIによって引き起こされる問題は多いのも確かです。しかし、現代社会や科学技術が「我々を迫害している・搾取している」といったマインドセットにクリエイターが陥ることは、最終的に自分の意見と少しでも相違がある人間は敵であると認識することになり、有益な議論には至らないでしょう。生成AIによって引き起こされるリスクに対しての法規制を整備していくためには政治的な合意も必要になってきます。そうした政治的な合意形成していくためには、時として意見の合わない人間とも歩みよらなければいけません。特に生成AIに関する問題は著作権の問題だけでなく性被害や人権侵害にも関する事柄なので、フェミニストや人権活動家といった人々とも協力して議論を進める必要がある喫緊の社会課題でしょう。そうした観点からも「エンジニア VS その他のクリエイター」や「フェミニスト VS 絵師」といった構図は、生成AI技術を悪用しようとする人間にとって好都合な状況を生み出すだけだと思います。

「電気のない世界」「ネットのない世界」といった時代に時間が巻き戻せないのと同様に、残念ながら「AIのない世界」には戻れません。それであれば、より良いAIの技術開発をサポートし、AIに関する法律を整備していく中である程度の落とし所を決めた合意形成していくことが最善の策ではないでしょうか。そうした意味においても、AI技術をもって不正AIからクリエイターの権利を保護する「emamori」や「Glaze」といった技術の発展を、私たちは歓迎し支えていくことが重要になってくるでしょう。

画像生成AI学習防止ツール「emamori」と「Glaze」でクリエイターの権利を守る(後編)
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