クリエイティブツールの中で日に日にCanvaの存在感が増しています。そのCanvaが、以前からAdobeの代替ツールとして人気の高かったAffinityを買収したことで、Adobeの値上げを嘆くクリエイターから多くの期待が寄せられました。
ビジネスシーンにおけるクリエイティブツールとして勢力を伸ばしているCanvaにとって、次に狙っていきたいのがプロユースのクリエイティブツール市場でしょう。そのためには、Affinityとの連携を強化しユーザー数を増やすことが重要な課題です。そうした流れの中で、この度半年間の無料トライアルキャンペーンが開催されるというニュースが入ってきました。そこで、今回はAffinityについて、本当にAdobeの代替ツールとしてプロユースが可能なのかという点に絞ってその機能や特徴を検証したいと思います。
目次
Affinityは、イギリスのノッティンガムに本社を置くSerifというソフトウェア会社が開発したクリエイティブツールです。Affinityシリーズは、低価格の買い切りタイプで提供されており、写真編集に対応する「Photo」、イラストレーションやグラフィックデザインに対応する「Designer」、ページレイアウト編集などのDTPデザインなどに対応する「Publisher」といった3つのソフトウェアが提供されています。また、端末環境はmacOS、Windows、iPadに対応しておるマルチプラットフォームソフトウェアです。
Affinityシリーズにラインナップされたソフトウェア
ソフトウェア名用途Adobeで該当するツールAffinity Photo画像編集ソフトウェアPhotoshopAffinity Designerベクターグラフィック
編集ソフトウェアIllustratorAffinity PublisherDTPソフトウェアInDesign2024年3月26日には、オンラインデザインツール「Canva」を開発・提供するオーストラリアのCanvaが、Affinityを買収すると発表し話題となったのも記憶に新しいところです。前述のように、プロ向けのAffinityを買収することでCanva勢がAdobeの牙城を切り崩すライバルになるのではないかと期待されています。
※参考URL:Canva がデザイン プラットフォームの Affinity を買収し、あらゆる組織にプロフェッショナルなデザイン ツールを提供(Affinity公式プレスリリース)
▶価格と無料トライアルについて
Affinityの価格PC版(Mac・Windows)の買い切りの料金としては、それぞれのソフトが各10,400円と、グラフィック系のツールとしては、かなりリーズナブルな価格設定です。また、iPad版も各2,700円で提供されています。加えて、Affinity V2ユニバーサルライセンスという「Photo」「Designer」「Publisher」の全てを利用でき、なおかつMac版、Windows版、iPad版の全てを利用可能なプランが24,400円で提供されています。
現在は、半年(180日間)の無料トライアルキャンペーンが実施されており、使い勝手を気軽に試すことができます。また、半額キャンペーンも実施中で、PC版は各5,200円、iPad版は各1,300円、Affinity V2ユニバーサルライセンスは12,200円といったように全品50%OFFで購入可能です(2024年8月15日まで)。半額キャンペーンについては期間が短いですが、Affinityはこれまでも期間限定で通常価格よりも安価に購入できるキャンペーンを実施していますので、焦って購入する必要はないかと思います。
Affinity 料金表一覧
ソフト名・プラン名価格半額セールAffinity Photo10,400円(iPadは2,700円)5,200円(iPadは1,300円)Affinity Designer10,400円(iPadは2,700円)5,200円(iPadは1,300円)Affinity Publisher10,400円(iPadは2,700円)5,200円(iPadは1,300円)Affinity V2ユニバーサルライセンス24,400円12,200円料金については変更の可能性もあるので購入の際には必ず公式サイトも確認しておきましょう。
●メリット
▶リーズナブルな価格帯&買い切りで購入できる
Affinityの最大のメリットはサブスクリプションではなく、買い切りで購入できる点です。なおかつ、その価格もプロ向けの機能も搭載されたクリエイティブツールの中でもリーズナブルな価格帯に抑えられています。Canvaに買収された際に将来的にもサブスクにする予定はないと宣言されているので、コスト面がかさむ心配がなく安心して利用できます。
※参考記事:Canvaに買収されるAffinity、アプリの買い切り型存続を約束(ITmedia NEWS)
▶軽量でサクサク動く&比較的古い端末でも稼働できる
軽量でサクサク動くのがメリットの一つで、「Photo」「Designer」「Publisher」の全てを同時に起動させても、動作が重くなることはありません。対応するOSは、Mac版はmacOS Catalina 10.15以降、Windows版は、Windows® 10の2020年5月のアップデート(2004、20H1、ビルド19041)またはそれ以降、iPad版はiPadOS 15以上となっており比較的古い端末でも利用可能なのも便利な点です。詳しい稼働可能端末環境については各ソフトの「技術仕様」のページ(リンクはDesignerの技術仕様)を参照してください。
▶Adobeで作成したデータとの互換性が比較的高い
Adobeで作成したデータとの互換性が比較的高いツールです。
▶Canvaの傘下となり将来的にも可能性がある
もともとAffinityはAdobeの代替ツールの筆頭として名前の上がるツールでしたが、一方でAdobeとの差は大きく利用者は伸び悩んでいたように思います。しかし、Adobeが射程圏内に入ってきたCanvaの傘下となったことで、Adobeのライバルとして存在価値が高まったと言えるでしょう。現状、Adobeの提供するサービスに追いついていない部分も、Canvaとの連携により補完できるサービス提供が行われる可能性も十分あるかと思います。ただし、Canvaでの収益を上げるための買収だと思われますので、Affinityは買い切りでもCanvaで提供されるサブスクへの加入は必要になってくるかもしれません。
●デメリット
▶Adobeと比較するとプロ向けの機能の一部が劣る
プロ向けのツールであることは確かですが、AdobeのAIを含めた最新の編集機能などに慣れてしまっている場合は、何世代か前のクリエイティブツールといった使い勝手に感じるかもしれません。必要最低限のプロ向けの機能が搭載されているツールであると割り切って利用する必要があると思います。
▶バーションアップの更新頻度は少ない
現在のAffinityシリーズは、現在バージョン2までメジャーアップデートされており、その過程で数多くのマイナーアップデートも実施されています。これまでの経緯から、セキュリティ等に関するマイナーアップデートは今後も重ねられていくと思いますが、Adobeのように定期的に新機能を追加した大型のアップデートが実施されいるわけではない点は留意しておきましょう。逆に新バージョンを何年かごとに買い替えるといった必要もないので、見方によってはメリットかもしれません。
▶プラグインや拡張機能などカスタマイズ性に課題
プラグインや拡張機能についてもAdobe系のツールと比較すると数が少ないです。また、カスタマイズ性などにも課題があります。ただ、ユーザー数が増えることで、こうした部分が充実していく可能性も十分にあると思われます。
▶有料フォントはに別途料金がかかる
デザイナーに関しては、フォントの問題があります。Adobe Creative Cloudのコンプリートプランであれば、Adobeフォントが利用でき一部のモリサワフォント等も含めて有料フォントが利用可能です。紙媒体をメインに活動しているデザイナー以外は、モリサワのライセンスを取得せずにAdobeフォントで対応しているという方も多いでしょう。こうした有料フォントの提供サービスは現段階ではAffinityには搭載されていません。そのため、紙媒体や印刷関連の仕事を請け負う場合はもちろんWebやアプリのデザイン分野においても、結局のところ有料フォントのライセンス料が別途必要になるという点はデメリットでしょう。
▶検証1:Adobeで作成したデータファイルは正確に開くことはできるのか
▷Affinity Photo:○
問題なく開ける
Adobe Photoshopで開いたデータ
Affinity Photoで開いたデータAdobe Photoshopで作成したデータをAffinity Photoで開いた場合は、基本的には問題なくデータが開けるようです。
▷Affinity Designer:△
一部レイアウトが崩れるケースがある
Adobe Illustratorで開いたデータ
Affinity Designerで開いたデータAdobe Illustratorで作成したデータをAffinity Designerで開いた場合は、一部でレイアウト崩れが発生するケースがあるようです。右上のAffinity Designerで開いたデータ画像からも分かる通り、縦書きが横書きに変換されているなど、日本語縦書きの編集が弱点なような気がします。
▷Affinity Publisher:✗
inddファイルは開けない(idmlは開けるが正確に復元はされない)。
Adobe InDesignで開いたデータ
Affinity Publisherで開いたデータ少し驚きだったのが、Adobe InDesignで作成したデータはAffinity Publisherでは基本的に開けないという点です。拡張子.inddファイルは、直接開くことができません。拡張子.idmlファイル(InDesign Markup LanguageというオープンなXML ベースのファイル形式で、サードパーティのDTPツールでも開くことが可能)に変換することで開くことができますが、レイアウト崩れがおこり、埋め込み画像等も表示されなくなります。InDesignで出力したPDFも開くこともできますが、PDFのビューワーであれば他のソフトで十分です。Affinity Designerと同様に日本語縦書きの編集にも弱いようなので、全くの期待外れでInDesignからの移行先にはなり得ないというのが現状のようです。
▶検証2:日本語対応は十分か
Affinityの日本語対応
Affinityは日本語縦書きを簡単に実装することはできないようです。これは日本のクリエイターにとって致命的な欠点でしょう。Affinityで日本語の縦書きを実装したい場合は、既存のフォントで縦組みに組み直す方法、もしくは縦書き用フォントを使用する方法を選択することになります。縦書き用フォントを利用する場合でもフレームを90度回転させる必要があります。いずれの方法も、手間がかかり、選択肢が少ないのでテキストが少ないグラフィック表現や欧文のみのテキスト使用といった用途以外では、Adobeの代替ツールとして利用するのは難しいでしょう。日本語対応については、Stocker.jpというサイトで「Affinity日本語マニュアル」に関する情報を提供していますので、こちらも参照すると詳細がわかるかと思います。
※参照記事:縦書きテキストを使うには?(Stocker.jp)
▶検証3:パフォーマンスと動作速度に問題はないか
Affinityシリーズすべてを立ち上げても軽量でサクサク動くAffinity Photo、Affinity Designer、Affinity Publisherの全てを同時に立ち上げても、それほど重さを感じませんでした。
▶境界線の幅ツール
Affinityにはパスの境界線の幅を簡単に調整できる「境界線の幅ツール」機能が搭載されています。これにより、線に簡単に筆圧が変化する表現を加えることも可能になっています。
▶可変フォント
可変フォント(画像引用元:Affinity公式ヘルプガイド)Affinityにはフォントのスタイルやウエイトをシームレスに調整できる「可変フォント」機能が搭載されています。
▶QRコード作成機能
Affinityに搭載されたQRコードツールAffinityにはQRコードが簡単に作成できる「QRコード作成ツール」機能が搭載されています。
※参照記事:Affinityのアップデートに主要な新ツールと世界初の機能が追加(Affinity公式プレスリリース)
▶学生クリエイター
これからクリエイターを目指す学生には、おすすめのツールです。Adobeには学割プランもありますが、サブスクリプションであることには代わりありませんので、買い切りで必要なツールだけを購入できる点は魅力です。また、若い世代はiPadで創作活動を行う人が増えていると思いますので、低価格で購入できるiPad版も大変おすすめです。
▶Web中心のデザイン関連職
AffinityはFigmaでできない領域をカバーしてくれるので、FigmaなどのAdobe以外のWebデザインツール・プロトタイピングツールをメインに使用しているWebデザイン関連職の方にもおすすめです。
▶Canvaをメインに扱っているデザイナー・企業
Canvaの傘下になったことで、Canvaをメインに扱っているデザイナーや、Canvaを導入している企業にもおすすめです。
▶Adobe以外の動画編集ツールを使っている動画クリエイター
Final Cut Pro、PowerDirector、DaVinci ResolveといったAdobe Premiere Pro以外の動画編集ソフトを使っている動画クリエイターにもおすすめです。画像の補正やサムネイル画像編集などはプロユースの作業環境が問題なく構築できますので、AffinityのPhotoやDesignerを持っておくと便利でしょう。
▶CLIP STUDIOを使っているイラストレーター・漫画家
CLIP STUDIOを使っているイラストレーターや漫画家にとっても、CLIP STUDIOにはないDTP機能を補完できるツールなのでおすすめです。Publisherなども一から冊子を作るのであれば、ポートフォリオやパンフレット、同人誌等の印刷などで活躍すると思います。CLIP STUDIOも買い切りのプランが提供されていますので、サブスクが過多になる状況を避けられます。
▶フォトグラファー
フォトグラファーの場合は、Adobeのフォトプランを利用している方が多いと思います。また、Adobe以外のRAW現像ソフトを利用している方もいるでしょう。そうしたツールに加えて、簡単なデザイン作業にも対応できるように、AffinityのDesignerなどを利用するといった使い方ができると思います。
●Affinityをあまりオススメできないタイプ?
▶出版・印刷関連のデザイナー・編集者
Adobeが値上げしても、他ツールには移行できないといったジレンマを抱える出版・印刷関連のデザイナーや編集者などにとっては、Affinityは一抹の希望として代替ツールとして飛躍してほしいと考えているかと思います。しかし、今回実際に使って試した範囲では、Adobeの代替にはならないというのが正直な感想です。特にInDesignに相当するPublisherは期待外れでした。よってInDesignをよく使うクリエイターには、おすすめできません。ただし、編集者やライターなどが、例えばAdobe InDesignやInCopyを単体プランで加入しておき、AffinityのPhotoやDesignerを利用するといったコスト削減は可能かもしれません。
▶パッケージデザイナーなどプロダクト関連のクリエイター
同じくパッケージデザインや、技術解説書・説明書など制作するようなプロダクト関連のクリエイターにも、おすすめできません。今後日本語編集が強化される可能性もありますが、縦書きや日本語ルビなどが不完全な状態なので、代替ツールの候補にはならないでしょう。
しかし、今回実際に試用してみたことで、見えてきたAffinityの抱える課題は、かなり多い用思います。特に日本語環境に弱いので、この部分が本格的に改革・強化されなければ日本国内においてAdobe一強は続くはずです。こうしたローカライズの部分がない欧文使用圏内では、Affinityの存在が増していくかもしれませんが、東アジアやアラビア語圏などではユーザー数が伸び悩む可能性が高いでしょう。
しかし、良心的な価格で買い切りのクリエイティブツールを提供してくれているAffinityは、これからクリエイターを目指す人にとっては大変魅力的なツールであることも確かです。難点はあるものの、Affinityをおすすめのクリエイター業も多いので、経済的に余裕があるタイミングで買っておくと後々役立つ時も来るでしょう。なにより、AffinityがAdobeのライバルとして存在感が増すことで、競争原理が働き、Adobeのサービス提供内容の向上や価格改定などのトリガーになる可能性も秘めています。
今回の無料トライアルを利用して多くの方がAffinityを実際に試用してみることは、クリエイティブツール業界とっても良い影響をもたらすのではないでしょうか。
この買収は、クリエイティブツールにおける新たな覇権争いの火蓋が切られたと言っても過言ではなく、Adobe一強時代の終わりを告げる宣戦布告であるように思われます。
ビジネスシーンにおけるクリエイティブツールとして勢力を伸ばしているCanvaにとって、次に狙っていきたいのがプロユースのクリエイティブツール市場でしょう。そのためには、Affinityとの連携を強化しユーザー数を増やすことが重要な課題です。そうした流れの中で、この度半年間の無料トライアルキャンペーンが開催されるというニュースが入ってきました。そこで、今回はAffinityについて、本当にAdobeの代替ツールとしてプロユースが可能なのかという点に絞ってその機能や特徴を検証したいと思います。
目次
Affinityの基礎知識
▶AffinityとはAffinityは、イギリスのノッティンガムに本社を置くSerifというソフトウェア会社が開発したクリエイティブツールです。Affinityシリーズは、低価格の買い切りタイプで提供されており、写真編集に対応する「Photo」、イラストレーションやグラフィックデザインに対応する「Designer」、ページレイアウト編集などのDTPデザインなどに対応する「Publisher」といった3つのソフトウェアが提供されています。また、端末環境はmacOS、Windows、iPadに対応しておるマルチプラットフォームソフトウェアです。
Affinityシリーズにラインナップされたソフトウェア
ソフトウェア名用途Adobeで該当するツールAffinity Photo画像編集ソフトウェアPhotoshopAffinity Designerベクターグラフィック
編集ソフトウェアIllustratorAffinity PublisherDTPソフトウェアInDesign2024年3月26日には、オンラインデザインツール「Canva」を開発・提供するオーストラリアのCanvaが、Affinityを買収すると発表し話題となったのも記憶に新しいところです。前述のように、プロ向けのAffinityを買収することでCanva勢がAdobeの牙城を切り崩すライバルになるのではないかと期待されています。
※参考URL:Canva がデザイン プラットフォームの Affinity を買収し、あらゆる組織にプロフェッショナルなデザイン ツールを提供(Affinity公式プレスリリース)
▶価格と無料トライアルについて

さらに本記事では詳細は割愛しますが、ビジネス向け、教育機関向けのプランも提供されています。
現在は、半年(180日間)の無料トライアルキャンペーンが実施されており、使い勝手を気軽に試すことができます。また、半額キャンペーンも実施中で、PC版は各5,200円、iPad版は各1,300円、Affinity V2ユニバーサルライセンスは12,200円といったように全品50%OFFで購入可能です(2024年8月15日まで)。半額キャンペーンについては期間が短いですが、Affinityはこれまでも期間限定で通常価格よりも安価に購入できるキャンペーンを実施していますので、焦って購入する必要はないかと思います。
Affinity 料金表一覧
ソフト名・プラン名価格半額セールAffinity Photo10,400円(iPadは2,700円)5,200円(iPadは1,300円)Affinity Designer10,400円(iPadは2,700円)5,200円(iPadは1,300円)Affinity Publisher10,400円(iPadは2,700円)5,200円(iPadは1,300円)Affinity V2ユニバーサルライセンス24,400円12,200円料金については変更の可能性もあるので購入の際には必ず公式サイトも確認しておきましょう。
Affinityのメリットとデメリット
続いて、Adobeと比較した時のメリット・デメリットを説明します。●メリット
▶リーズナブルな価格帯&買い切りで購入できる
Affinityの最大のメリットはサブスクリプションではなく、買い切りで購入できる点です。なおかつ、その価格もプロ向けの機能も搭載されたクリエイティブツールの中でもリーズナブルな価格帯に抑えられています。Canvaに買収された際に将来的にもサブスクにする予定はないと宣言されているので、コスト面がかさむ心配がなく安心して利用できます。
※参考記事:Canvaに買収されるAffinity、アプリの買い切り型存続を約束(ITmedia NEWS)
▶軽量でサクサク動く&比較的古い端末でも稼働できる
軽量でサクサク動くのがメリットの一つで、「Photo」「Designer」「Publisher」の全てを同時に起動させても、動作が重くなることはありません。対応するOSは、Mac版はmacOS Catalina 10.15以降、Windows版は、Windows® 10の2020年5月のアップデート(2004、20H1、ビルド19041)またはそれ以降、iPad版はiPadOS 15以上となっており比較的古い端末でも利用可能なのも便利な点です。詳しい稼働可能端末環境については各ソフトの「技術仕様」のページ(リンクはDesignerの技術仕様)を参照してください。
▶Adobeで作成したデータとの互換性が比較的高い
Adobeで作成したデータとの互換性が比較的高いツールです。
特に写真やイラストなどのグラフィックについては、大半のデータを問題なく開くことができるはずです。テキストについても、英語などの欧文環境においては互換性が高いと言えます。ただし、この互換性についての評価は、日本語環境のことはあまり考慮されてないので、その点は要注意です。
▶Canvaの傘下となり将来的にも可能性がある
もともとAffinityはAdobeの代替ツールの筆頭として名前の上がるツールでしたが、一方でAdobeとの差は大きく利用者は伸び悩んでいたように思います。しかし、Adobeが射程圏内に入ってきたCanvaの傘下となったことで、Adobeのライバルとして存在価値が高まったと言えるでしょう。現状、Adobeの提供するサービスに追いついていない部分も、Canvaとの連携により補完できるサービス提供が行われる可能性も十分あるかと思います。ただし、Canvaでの収益を上げるための買収だと思われますので、Affinityは買い切りでもCanvaで提供されるサブスクへの加入は必要になってくるかもしれません。
●デメリット
▶Adobeと比較するとプロ向けの機能の一部が劣る
プロ向けのツールであることは確かですが、AdobeのAIを含めた最新の編集機能などに慣れてしまっている場合は、何世代か前のクリエイティブツールといった使い勝手に感じるかもしれません。必要最低限のプロ向けの機能が搭載されているツールであると割り切って利用する必要があると思います。
▶バーションアップの更新頻度は少ない
現在のAffinityシリーズは、現在バージョン2までメジャーアップデートされており、その過程で数多くのマイナーアップデートも実施されています。これまでの経緯から、セキュリティ等に関するマイナーアップデートは今後も重ねられていくと思いますが、Adobeのように定期的に新機能を追加した大型のアップデートが実施されいるわけではない点は留意しておきましょう。逆に新バージョンを何年かごとに買い替えるといった必要もないので、見方によってはメリットかもしれません。
▶プラグインや拡張機能などカスタマイズ性に課題
プラグインや拡張機能についてもAdobe系のツールと比較すると数が少ないです。また、カスタマイズ性などにも課題があります。ただ、ユーザー数が増えることで、こうした部分が充実していく可能性も十分にあると思われます。
▶有料フォントはに別途料金がかかる
デザイナーに関しては、フォントの問題があります。Adobe Creative Cloudのコンプリートプランであれば、Adobeフォントが利用でき一部のモリサワフォント等も含めて有料フォントが利用可能です。紙媒体をメインに活動しているデザイナー以外は、モリサワのライセンスを取得せずにAdobeフォントで対応しているという方も多いでしょう。こうした有料フォントの提供サービスは現段階ではAffinityには搭載されていません。そのため、紙媒体や印刷関連の仕事を請け負う場合はもちろんWebやアプリのデザイン分野においても、結局のところ有料フォントのライセンス料が別途必要になるという点はデメリットでしょう。
AffinityとAdobeの比較と実際の使い勝手
次に実際のAffinityの使い勝手をAdobeとの比較で検証していきましょう。▶検証1:Adobeで作成したデータファイルは正確に開くことはできるのか
▷Affinity Photo:○
問題なく開ける


▷Affinity Designer:△
一部レイアウトが崩れるケースがある


▷Affinity Publisher:✗
inddファイルは開けない(idmlは開けるが正確に復元はされない)。


▶検証2:日本語対応は十分か

Affinityは日本語縦書きを簡単に実装することはできないようです。これは日本のクリエイターにとって致命的な欠点でしょう。Affinityで日本語の縦書きを実装したい場合は、既存のフォントで縦組みに組み直す方法、もしくは縦書き用フォントを使用する方法を選択することになります。縦書き用フォントを利用する場合でもフレームを90度回転させる必要があります。いずれの方法も、手間がかかり、選択肢が少ないのでテキストが少ないグラフィック表現や欧文のみのテキスト使用といった用途以外では、Adobeの代替ツールとして利用するのは難しいでしょう。日本語対応については、Stocker.jpというサイトで「Affinity日本語マニュアル」に関する情報を提供していますので、こちらも参照すると詳細がわかるかと思います。
※参照記事:縦書きテキストを使うには?(Stocker.jp)
▶検証3:パフォーマンスと動作速度に問題はないか

このサクサク動く感じは、かなり使い勝手が良いように感じます。また、ユーザーインターフェースなども他のクリエイティブツールの使用経験がある人であれば、すぐに使い慣れるかと思います。各種ツールのアイコンがカラーなのも、Affinityの特徴です。
Adobe製品にはないAffinityの独自機能
Affinityには、Adobe製品にはない独自機能が多数搭載されています。その中からいくつかおすすめの機能を紹介します。▶境界線の幅ツール

Affinityにはパスの境界線の幅を簡単に調整できる「境界線の幅ツール」機能が搭載されています。これにより、線に簡単に筆圧が変化する表現を加えることも可能になっています。
▶可変フォント

▶QRコード作成機能

※参照記事:Affinityのアップデートに主要な新ツールと世界初の機能が追加(Affinity公式プレスリリース)
Affinityに向いたクリエイターとは
●Affinityのオススメタイプ▶学生クリエイター
これからクリエイターを目指す学生には、おすすめのツールです。Adobeには学割プランもありますが、サブスクリプションであることには代わりありませんので、買い切りで必要なツールだけを購入できる点は魅力です。また、若い世代はiPadで創作活動を行う人が増えていると思いますので、低価格で購入できるiPad版も大変おすすめです。
▶Web中心のデザイン関連職
AffinityはFigmaでできない領域をカバーしてくれるので、FigmaなどのAdobe以外のWebデザインツール・プロトタイピングツールをメインに使用しているWebデザイン関連職の方にもおすすめです。
▶Canvaをメインに扱っているデザイナー・企業
Canvaの傘下になったことで、Canvaをメインに扱っているデザイナーや、Canvaを導入している企業にもおすすめです。
特にCanvaの有料プランに加入している場合は、今後Affinityと連携強化により、さらにCanvaの使い勝手がよくなることも予測されるので、購入しておいて損はないでしょう。
▶Adobe以外の動画編集ツールを使っている動画クリエイター
Final Cut Pro、PowerDirector、DaVinci ResolveといったAdobe Premiere Pro以外の動画編集ソフトを使っている動画クリエイターにもおすすめです。画像の補正やサムネイル画像編集などはプロユースの作業環境が問題なく構築できますので、AffinityのPhotoやDesignerを持っておくと便利でしょう。
▶CLIP STUDIOを使っているイラストレーター・漫画家
CLIP STUDIOを使っているイラストレーターや漫画家にとっても、CLIP STUDIOにはないDTP機能を補完できるツールなのでおすすめです。Publisherなども一から冊子を作るのであれば、ポートフォリオやパンフレット、同人誌等の印刷などで活躍すると思います。CLIP STUDIOも買い切りのプランが提供されていますので、サブスクが過多になる状況を避けられます。
▶フォトグラファー
フォトグラファーの場合は、Adobeのフォトプランを利用している方が多いと思います。また、Adobe以外のRAW現像ソフトを利用している方もいるでしょう。そうしたツールに加えて、簡単なデザイン作業にも対応できるように、AffinityのDesignerなどを利用するといった使い方ができると思います。
●Affinityをあまりオススメできないタイプ?
▶出版・印刷関連のデザイナー・編集者
Adobeが値上げしても、他ツールには移行できないといったジレンマを抱える出版・印刷関連のデザイナーや編集者などにとっては、Affinityは一抹の希望として代替ツールとして飛躍してほしいと考えているかと思います。しかし、今回実際に使って試した範囲では、Adobeの代替にはならないというのが正直な感想です。特にInDesignに相当するPublisherは期待外れでした。よってInDesignをよく使うクリエイターには、おすすめできません。ただし、編集者やライターなどが、例えばAdobe InDesignやInCopyを単体プランで加入しておき、AffinityのPhotoやDesignerを利用するといったコスト削減は可能かもしれません。
▶パッケージデザイナーなどプロダクト関連のクリエイター
同じくパッケージデザインや、技術解説書・説明書など制作するようなプロダクト関連のクリエイターにも、おすすめできません。今後日本語編集が強化される可能性もありますが、縦書きや日本語ルビなどが不完全な状態なので、代替ツールの候補にはならないでしょう。
まとめ
円安が続いていますが、日本の今後の状況予測を鑑みても、この問題が解消される可能性は低いと言えるでしょう。そんな中でAdobeがさらに値上げされるという事態も十分にありえるため、日本でのAffinityの利用者も少しづつ増えていくと予測できます。また、日本でのユーザー数が増えれば、Affinityのデータに対応する印刷所も増えていく可能性もあります。しかし、今回実際に試用してみたことで、見えてきたAffinityの抱える課題は、かなり多い用思います。特に日本語環境に弱いので、この部分が本格的に改革・強化されなければ日本国内においてAdobe一強は続くはずです。こうしたローカライズの部分がない欧文使用圏内では、Affinityの存在が増していくかもしれませんが、東アジアやアラビア語圏などではユーザー数が伸び悩む可能性が高いでしょう。
しかし、良心的な価格で買い切りのクリエイティブツールを提供してくれているAffinityは、これからクリエイターを目指す人にとっては大変魅力的なツールであることも確かです。難点はあるものの、Affinityをおすすめのクリエイター業も多いので、経済的に余裕があるタイミングで買っておくと後々役立つ時も来るでしょう。なにより、AffinityがAdobeのライバルとして存在感が増すことで、競争原理が働き、Adobeのサービス提供内容の向上や価格改定などのトリガーになる可能性も秘めています。
今回の無料トライアルを利用して多くの方がAffinityを実際に試用してみることは、クリエイティブツール業界とっても良い影響をもたらすのではないでしょうか。

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