大阪の書店「正和堂書店」は、オリジナルデザインのブックカバーを配布・販売し、そのデザイン性の高さからSNSを起点に人気を集めています。ブックカバーの多くはしおりと組み合わせたデザインで、アイスキャンディー、クリームソーダ、ミトンなど、さまざまなモチーフのものがあります。
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小西康裕さん(以下、小西):京都精華大学という美術大学出身で、版画を専攻していました。当時の「月刊MdN」を購読していまして、ハウツー記事を見てIllustratorやPhotoshopの使い方を独学しました。卒業後は大日本印刷という印刷会社に就職し、主に店舗の店頭販促の企画やコストマネジメントなどを14年ほど手掛けてきました。
小西康裕さん:大阪・鶴見にある町の書店「正和堂書店」の3代目。前職の印刷会社で身につけたデザインのスキルや販促の知見を活かし、同店のオリジナルブックカバーをデザインしている ──「正和堂書店」はどのようなお店で、小西さんはいつ頃から手伝い始めたのでしょうか。
小西:大阪・鶴見にある、昔ながらの町の書店です。母方の祖父が創業し、祖父母や母、3代目となる僕や弟など家族で営んでいます。副業OKの会社だったので就職してからも手伝っていて、2017年に店のInstagramを立ち上げ本格的に来客数を増やす取り組みを始めました。
──ブックカバーの制作は、どのようなきっかけで始めたのですか。
小西:Instagramを始めた当初は本の紹介をしていましたが、フォロワーは増えたものの来店に繋がっていませんでした。そこで、店頭で「Instagramを見ています」と言ってくださった方に配布するシークレットなアイテムとしてブックカバーの制作を始めたのが最初です。
実はブックカバーをつくるきっかけとして、2013年に参加した「約100人のブックカバー展」という公募展がありました。富士山をモチーフにしたデザインで応募したところ選ばれ、大阪・梅田のLOFTで販売されて、わりと好評でした。その経験があり、自店でもブックカバーをつくったら少しは盛り上がるかなと始めたところ、思いの外反響が大きく、認知が広がっていきました。
現在「正和堂書店」で配布・販売している、富士山をモチーフにしたブックカバー ──認知が広がったのには、何かバズったきっかけがあったのでしょうか。
小西:これという大きなバズがあったわけではないのですが、定期的に何回かバズって、徐々に広がっていきました。一度バズっても、1週間もすると忘れられてしまうので。ただ「ブックカバープロジェクト」という、当店で人気のあるブックカバーを希望する他の書店でも配布して、書店同士協業して盛り上げようという企画をやっていまして。
ブックカバーをアイスキャンディに、しおりをアイスの棒に見立てたデザイン──ブックカバーには形が四角いという制約がありますが、「正和堂書店」のブックカバーはしおりを組み合わせることで四角からはみ出た動きのあるデザインにしているものが多く、素敵だなと思いました。しおりを用いるアイデアは、どのようなところから出てきたのでしょうか。
小西:最初に自店用のブックカバーを制作したのが夏だったので、アイスキャンディーをモチーフにしようというアイデアが先にありました。ただ、ブックカバーだけではデザインがうまく収まらず苦戦していく中で、しおりをアイスの棒に見立てたらおもしろいんじゃないかと閃きました。
──他にもさまざまなデザインのブックカバーがありますが、特に人気のあるものや、人気の出やすいモチーフはありますか。
小西:飲食物のモチーフはウケがよく、特にクリームソーダが人気です。夏はアイスキャンディ、冬は焼き芋といったように季節に応じて売れ筋が変わるのですが、クリームソーダは季節関係なしに1年中売れています。今はクリームソーダだけでも10種類以上のバリエーションがあります。
星屑のクリームソーダ。ブックカバーをソーダ、アイス部分をしおりで表現している
ブックカバーを紙袋に見たて、中に入っているパンや焼き芋をしおりで表現している──ブックカバーやしおりのアイデアは、どのように考えているのでしょうか。また、デザインをする際に気を付けていることはありますか。
小西:Instagramのフォロワーの方が20~40代の女性が9割で、ブックカバーの購入層も同様なので、女性に好まれそうなモチーフにしています。
レモンとストローをしおりで表現した、夏らしい涼やかさのあるレモネードのデザイン
親指部分をしおりで表現した、冬らしいミトンのデザイン──これまで何種類くらいのブックカバーをデザインしてきましたか。
小西:カラーバリエーションやサイズ違いを含めると、80種類以上つくってきました。廃盤になったものもあり、現在取り扱っているのは50種類ほどです。印刷会社時代は企画職だったので、次々にアイデアを出すこと自体はあまり苦ではありません。ただ、自分で手を動かしてデザインをする仕事ではなかったので、形にしていくのは毎回しんどいです。デザインしながらああでもない、こうでもないと悩み、時間がかかってしまいます。
──デザインは、小西さんお一人で考えているのですか。
小西:はい。ただ、アイデア段階や制作途中で家族に意見を聞き、家族みんながいいと言ったものしかつくらないようにしています。主なターゲットが女性なので、特に妻の意見をよく聞きます。
お客様から「こういうデザインのブックカバーがほしいです」というリクエストをいただくこともあり、そうした声も参考にしています。
──印刷や紙質などでこだわっている点はありますか。
小西:ブックカバーにはマットコート紙という、一般的な書店で配布されるものよりいい紙を使っています。しおりはカード紙を使っていて、両面にマットPPという表面加工をした、しっかりとした仕様になっています。前職の知識や伝手で、印刷会社さんごとの強みや持っている機材を理解しているので、印刷の特性に合ったところにお願いしています。販促の仕事をしていたときに制作していたノベルティやPOPなどは利用期間が終われば捨てられてしまうものが多かったので、紙質や印刷などにも凝ってしまうのは、つくったものを捨てられたくないという意識が出ているのかもしれません。
──そうすると、コストもかかるのではないですか。
小西:ブックカバーだけならそこまででもないのですが、しおりは型抜きをするためけっこう費用がかかります。あまり小ロットでの制作になると、本の利益がなくなってしまうかもしれません。そのため、最初は常時配布ではなく、定期的に販促として配布する形でした。
小西:はい。
オンラインショップ「seiwado.book.store.」──もともとの目的であった、来店促進としての効果はいかがですか。
小西:昨年に前職の会社を退職してから毎月新しいデザインのブックカバーをリリースするようになり、その頃から売上が伸び来店数も増えていきました。今では、店舗に来店されるお客様のうち3分の1はSNSなどを見て近隣地域以外から来てくださる方になっています。遠方からのお客様は本をたくさん買うと荷物になってしまうので、本1~2冊と合わせてブックカバー単体でも購入されるという場合が多いです。また、ご近所のお客様には、ブックカバーを全種類集めようと定期的に通ってくださる方もいます。
ブックカバーをはちみつの瓶に、しおりをスプンに見立てたデザイン
ブックカバーにはテレビのカラーバーを、しおりには同色の色えんぴつをデザインしている小西:実は、1年ほど前には書店を廃業してテナントにしようかという話も出ていました。ただ、廃業するのは寂しくて。前職で培った経験やノウハウをブックカバーという形で活かすことができ、廃業せずに済んでよかったです。
──ご家族の方も喜ばれたんじゃないですか。
小西:嫌な感じには思われていませんが、手放しに喜ばれているわけでもありません。本だけを販売していた頃と比べるとブックカバーの販売を始めるなど店頭の様子が大きく変わったことに抵抗を感じていたり、種類が多くなりストックするスペースやレジでの対応が大変だと思われていたりもします。特に祖父母世代はSNSの話をしても伝わらないので、パソコン作業は遊んでいると思われるジェネレーションギャップがあります(笑)。しかし、お客様が喜んでくださり、その声を伝えてくださったことで、ようやく「やってよかった」と受け取ってもらえるようになりました。
──お客様からは他にどんな声を聞きますか。
小西:ブックカバーは続けてほしいという声を多くいただきます。また、このブックカバーにはこの本が合っているというように、本との組み合わせを楽しんでいる方や、プレゼント用に購入される方も多いようです。店舗に来てくださったお客様には、昔ながらの町の書店という佇まいに懐かしさを感じるという点でも喜んでいただいています。
小西:うちで人気のブックカバーを希望する全国の書店さんでも配布してもらい、競争ではなく協業して書店全体を盛り上げようという趣旨のプロジェクトです。第1弾はコロナ禍だった2021年春に実施し、クラウドファンディングでアイスキャンディのブックカバーの制作費を集めました。そして参加する書店さんを募ったところ、全国各地から260店ほどの参加がありました。
2回目からはクラウドファンディングではなく、企業やお店にスポンサーとなってもらい、コラボしたブックカバーを配布する形にしました。2022年1月に実施した第2弾はコーヒー機器メーカーのカリタさんにスポンサーになっていただいた関西限定のプロジェクトを行っています。ブックカバーを参加書店で配布し、カリタさんの機器を使用している参加カフェへ行くとしおりがもらえるというものでした。
コーヒー機器メーカーのカリタとコラボした第2弾では、ブックカバーを書店、しおりをカフェで配布した小西:2022年11月に実施した第3弾では、自動車の買取・販売を行うはなまるさんとチームを組み、TEAM EXPOという大阪・関西万博を応援するプログラムに参加しました。書店、車、エキスポという3つの要素をまとめるのが大変でしたが、ブックカバーを道路に見立ててエキスポの年表を載せ、車のしおりを付けるデザインにしました。
自動車の買取・販売を行うはなまるとコラボし大阪・関西万博を応援するブックカバー小西:2023年に実施した第4弾、今年実施した第5弾では、もともとご近所にあったことが縁でコラボしていた牛乳石鹸さんにスポンサーになっていただいています。
──牛乳石鹸さんとコラボしたブックカバーも大きな話題を集めましたが、もともとのご近所コラボはどういったものだったのでしょうか。
小西:昨年6月にスーパーでやっていた牛乳石鹸さんのポップアップイベントで石鹸をもらい、その写真と共に「石鹸のブックカバーってかわいいかもな..」という投稿をXにしたところ、フォロワーの方々からも欲しいという反応を多くいただいて。それを見た牛乳石鹸さんから、ぜひ何かやりましょうとお声がけいただきました。牛乳石鹸さんの本社や工場は当店のご近所にあるので、昨年夏に近隣地域を盛り上げるためのプロジェクトとして最初のコラボブックカバー配布を行いました。そうしたところ、用意したブックカバーが半日でなくなってしまって。ファンの多さに、老舗ブランドの格の違いを実感しました。
2024年版の牛乳石鹸コラボブックカバー。2023年版より牛の横にある積読本の数が増えている。石鹸と泡をデザインしたしおりは牛乳石鹸の香りがする小西:ご近所コラボが縁で、「ブックカバープロジェクト」の第4弾では当店が主催するこのプロジェクトを応援するという形でスポンサーになっていただきました。そうしたら朝から行列ができたり、文庫本の売上が2~4倍になったりしたところもあり、参加書店の方々も喜んでくださいました。
過去の情報がネット上に残っているので、その後も牛乳石鹸さんのブックカバーが欲しいという声が多く、今年の夏にも同様の地域振興のためのコラボをして、「ブックカバープロジェクト」の第5弾でもスポンサードしていただきました。牛乳石鹸自体が長方形なのでブックカバーのデザインはすんなり決まり、それだけではおもしろみがないと思い、香料オイルをインクに混ぜるマイクロカプセル印刷という技法で、牛乳石鹸の香りがするしおりを付けています。
──今後も企業とコラボの予定はありますか。
小西:この10月には文藝春秋の小説「満月珈琲店」シリーズとコラボし、本の原画を用いたブックカバーを配布しています。他にもまだ情報公開前のもので、お声がけをいただいているものがいくつかあるので、お楽しみにしていただけたらと思います。
──最後に今後の展望をお聞かせください。
小西:ブックカバーに関しては、異業種の企業さんとのコラボでは新たな客層の方に来ていただけるので、今後も積極的にやっていきたいです。今年阪神電車さんとコラボしたブックカバーが好評だったので、例えば各エリアの鉄道や航空会社とコラボして、そのエリアの書店と結ぶといったこともできるかなと思います。
阪神電車とコラボしたブックカバー。しおりは切符モチーフになっている小西:正和堂書店としては、本を販売するだけではなく、店内を改装して読書を楽しめる場所を提供したいという未来像があります。予算もかかるので少しずつにはなりますが、今後もみなさんに身近に感じてもらえる書店づくりに取り組んでいきます。
店舗情報
正和堂書店
大阪府大阪市鶴見区鶴見3-6-12
オンラインショップ:https://seiwado.base.shop/
Instagram:https://www.instagram.com/seiwado.book.store
X:https://x.com/SeiwadoBooks
また、牛乳石鹸などの企業とコラボしたブックカバーも多数制作し、さらに話題が拡散していきました。これらのデザインを手がけたのは、同店3代目の小西康裕さん。ブックカバーを制作するようになった経緯やデザインのこだわり、ブックカバーから展開したさまざまなプロジェクトについて話をうかがいました。
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オリジナルデザインのブックカバーがSNSやメディアで大きな話題に
──「正和堂書店」さんのブックカバーを見たとき、一目で「これはデザインのプロのお仕事だ!」と思いました。まずは小西さんのデザインに関するご経歴を教えてください。小西康裕さん(以下、小西):京都精華大学という美術大学出身で、版画を専攻していました。当時の「月刊MdN」を購読していまして、ハウツー記事を見てIllustratorやPhotoshopの使い方を独学しました。卒業後は大日本印刷という印刷会社に就職し、主に店舗の店頭販促の企画やコストマネジメントなどを14年ほど手掛けてきました。

小西:大阪・鶴見にある、昔ながらの町の書店です。母方の祖父が創業し、祖父母や母、3代目となる僕や弟など家族で営んでいます。副業OKの会社だったので就職してからも手伝っていて、2017年に店のInstagramを立ち上げ本格的に来客数を増やす取り組みを始めました。
そして「正和堂書店」に専念するため、2023年6月に会社を退職しています。また、ブックカバーを販売するオンラインショップや企業コラボなどのプロジェクトは自身で立ち上げた「seiwado.book.store.」として活動していて、こちらは近々法人化する予定です。
──ブックカバーの制作は、どのようなきっかけで始めたのですか。
小西:Instagramを始めた当初は本の紹介をしていましたが、フォロワーは増えたものの来店に繋がっていませんでした。そこで、店頭で「Instagramを見ています」と言ってくださった方に配布するシークレットなアイテムとしてブックカバーの制作を始めたのが最初です。
実はブックカバーをつくるきっかけとして、2013年に参加した「約100人のブックカバー展」という公募展がありました。富士山をモチーフにしたデザインで応募したところ選ばれ、大阪・梅田のLOFTで販売されて、わりと好評でした。その経験があり、自店でもブックカバーをつくったら少しは盛り上がるかなと始めたところ、思いの外反響が大きく、認知が広がっていきました。

小西:これという大きなバズがあったわけではないのですが、定期的に何回かバズって、徐々に広がっていきました。一度バズっても、1週間もすると忘れられてしまうので。ただ「ブックカバープロジェクト」という、当店で人気のあるブックカバーを希望する他の書店でも配布して、書店同士協業して盛り上げようという企画をやっていまして。
2021年にそのクラウドファンディングをした際にTwitter(現X)でバズり、メディアでも取り上げていただいたことが大きなきっかけの一つとなりました。
ブックカバーとしおりの組み合わせで表現する「四角」からはみ出たデザイン

小西:最初に自店用のブックカバーを制作したのが夏だったので、アイスキャンディーをモチーフにしようというアイデアが先にありました。ただ、ブックカバーだけではデザインがうまく収まらず苦戦していく中で、しおりをアイスの棒に見立てたらおもしろいんじゃないかと閃きました。
──他にもさまざまなデザインのブックカバーがありますが、特に人気のあるものや、人気の出やすいモチーフはありますか。
小西:飲食物のモチーフはウケがよく、特にクリームソーダが人気です。夏はアイスキャンディ、冬は焼き芋といったように季節に応じて売れ筋が変わるのですが、クリームソーダは季節関係なしに1年中売れています。今はクリームソーダだけでも10種類以上のバリエーションがあります。


小西:Instagramのフォロワーの方が20~40代の女性が9割で、ブックカバーの購入層も同様なので、女性に好まれそうなモチーフにしています。
あと季節感も反映します。また、SNSの力を借りて認知を広げていくため、誰が撮っても写真が映えるよう、パキッと浮き上がって見える陰影にすることを意識しています。


小西:カラーバリエーションやサイズ違いを含めると、80種類以上つくってきました。廃盤になったものもあり、現在取り扱っているのは50種類ほどです。印刷会社時代は企画職だったので、次々にアイデアを出すこと自体はあまり苦ではありません。ただ、自分で手を動かしてデザインをする仕事ではなかったので、形にしていくのは毎回しんどいです。デザインしながらああでもない、こうでもないと悩み、時間がかかってしまいます。
──デザインは、小西さんお一人で考えているのですか。
小西:はい。ただ、アイデア段階や制作途中で家族に意見を聞き、家族みんながいいと言ったものしかつくらないようにしています。主なターゲットが女性なので、特に妻の意見をよく聞きます。
時には「ダサい」と言われてイラっとしてしまうこともありますが(笑)、一人でつくっていると完成直後は特に冷静に判断できないことがあるので、忖度のない意見は貴重です。
お客様から「こういうデザインのブックカバーがほしいです」というリクエストをいただくこともあり、そうした声も参考にしています。
──印刷や紙質などでこだわっている点はありますか。
小西:ブックカバーにはマットコート紙という、一般的な書店で配布されるものよりいい紙を使っています。しおりはカード紙を使っていて、両面にマットPPという表面加工をした、しっかりとした仕様になっています。前職の知識や伝手で、印刷会社さんごとの強みや持っている機材を理解しているので、印刷の特性に合ったところにお願いしています。販促の仕事をしていたときに制作していたノベルティやPOPなどは利用期間が終われば捨てられてしまうものが多かったので、紙質や印刷などにも凝ってしまうのは、つくったものを捨てられたくないという意識が出ているのかもしれません。
──そうすると、コストもかかるのではないですか。
小西:ブックカバーだけならそこまででもないのですが、しおりは型抜きをするためけっこう費用がかかります。あまり小ロットでの制作になると、本の利益がなくなってしまうかもしれません。そのため、最初は常時配布ではなく、定期的に販促として配布する形でした。
無料配布のブックカバーを販売するという発想転換
──今ではブックカバーは「正和堂書店」で文庫本などを購入すれば常時無料でもらえ、ブックカバー自体を店頭やオンラインショップで購入することもできるんですよね。小西:はい。
一般的に書店で配布するブックカバーは購入者の方に無料でお渡しするものなので、最初は販売をすることに抵抗がありました。 しかし、コロナ禍になったときに、店舗へ足を運ぶのは難しいから通販してくださいという声をたくさんいただいたことをきっかけに、オンラインショップでの販売を始めました。今では無料配布よりも有料で購入いただく方が多くなっています。

小西:昨年に前職の会社を退職してから毎月新しいデザインのブックカバーをリリースするようになり、その頃から売上が伸び来店数も増えていきました。今では、店舗に来店されるお客様のうち3分の1はSNSなどを見て近隣地域以外から来てくださる方になっています。遠方からのお客様は本をたくさん買うと荷物になってしまうので、本1~2冊と合わせてブックカバー単体でも購入されるという場合が多いです。また、ご近所のお客様には、ブックカバーを全種類集めようと定期的に通ってくださる方もいます。


──ご家族の方も喜ばれたんじゃないですか。
小西:嫌な感じには思われていませんが、手放しに喜ばれているわけでもありません。本だけを販売していた頃と比べるとブックカバーの販売を始めるなど店頭の様子が大きく変わったことに抵抗を感じていたり、種類が多くなりストックするスペースやレジでの対応が大変だと思われていたりもします。特に祖父母世代はSNSの話をしても伝わらないので、パソコン作業は遊んでいると思われるジェネレーションギャップがあります(笑)。しかし、お客様が喜んでくださり、その声を伝えてくださったことで、ようやく「やってよかった」と受け取ってもらえるようになりました。
──お客様からは他にどんな声を聞きますか。
小西:ブックカバーは続けてほしいという声を多くいただきます。また、このブックカバーにはこの本が合っているというように、本との組み合わせを楽しんでいる方や、プレゼント用に購入される方も多いようです。店舗に来てくださったお客様には、昔ながらの町の書店という佇まいに懐かしさを感じるという点でも喜んでいただいています。
ブックカバーを起点に地域や全国の書店を盛り上げる
──先ほど少しお話に出た「ブックカバープロジェクト」について、どういったものか詳しく教えてください。小西:うちで人気のブックカバーを希望する全国の書店さんでも配布してもらい、競争ではなく協業して書店全体を盛り上げようという趣旨のプロジェクトです。第1弾はコロナ禍だった2021年春に実施し、クラウドファンディングでアイスキャンディのブックカバーの制作費を集めました。そして参加する書店さんを募ったところ、全国各地から260店ほどの参加がありました。
2回目からはクラウドファンディングではなく、企業やお店にスポンサーとなってもらい、コラボしたブックカバーを配布する形にしました。2022年1月に実施した第2弾はコーヒー機器メーカーのカリタさんにスポンサーになっていただいた関西限定のプロジェクトを行っています。ブックカバーを参加書店で配布し、カリタさんの機器を使用している参加カフェへ行くとしおりがもらえるというものでした。


──牛乳石鹸さんとコラボしたブックカバーも大きな話題を集めましたが、もともとのご近所コラボはどういったものだったのでしょうか。
小西:昨年6月にスーパーでやっていた牛乳石鹸さんのポップアップイベントで石鹸をもらい、その写真と共に「石鹸のブックカバーってかわいいかもな..」という投稿をXにしたところ、フォロワーの方々からも欲しいという反応を多くいただいて。それを見た牛乳石鹸さんから、ぜひ何かやりましょうとお声がけいただきました。牛乳石鹸さんの本社や工場は当店のご近所にあるので、昨年夏に近隣地域を盛り上げるためのプロジェクトとして最初のコラボブックカバー配布を行いました。そうしたところ、用意したブックカバーが半日でなくなってしまって。ファンの多さに、老舗ブランドの格の違いを実感しました。

過去の情報がネット上に残っているので、その後も牛乳石鹸さんのブックカバーが欲しいという声が多く、今年の夏にも同様の地域振興のためのコラボをして、「ブックカバープロジェクト」の第5弾でもスポンサードしていただきました。牛乳石鹸自体が長方形なのでブックカバーのデザインはすんなり決まり、それだけではおもしろみがないと思い、香料オイルをインクに混ぜるマイクロカプセル印刷という技法で、牛乳石鹸の香りがするしおりを付けています。
──今後も企業とコラボの予定はありますか。
小西:この10月には文藝春秋の小説「満月珈琲店」シリーズとコラボし、本の原画を用いたブックカバーを配布しています。他にもまだ情報公開前のもので、お声がけをいただいているものがいくつかあるので、お楽しみにしていただけたらと思います。
──最後に今後の展望をお聞かせください。
小西:ブックカバーに関しては、異業種の企業さんとのコラボでは新たな客層の方に来ていただけるので、今後も積極的にやっていきたいです。今年阪神電車さんとコラボしたブックカバーが好評だったので、例えば各エリアの鉄道や航空会社とコラボして、そのエリアの書店と結ぶといったこともできるかなと思います。

店舗情報

大阪府大阪市鶴見区鶴見3-6-12
オンラインショップ:https://seiwado.base.shop/
Instagram:https://www.instagram.com/seiwado.book.store
X:https://x.com/SeiwadoBooks

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