昨今、ツールの進化やデジタル環境の整備により、クリエイティブワークに挑戦するためのハードルが大きく下がっています。Webや動画といったメディアの多様化も進み、コンテンツ制作者の活躍できるフィールドも以前に比べ広がっているのもその要因の一つです。
もちろん、それらの情報商材や学びの場で提供される内容がすべて不当なものであるとは限りません。しかし残念ながら、中には高額な受講料や費用を要求するにも関わらず、実態が伴わなかったり、プロを目指す方々の期待に真摯に応えないまま、結果として期待に沿わない、あるいは不当な結果に繋がるようなケースも存在します。
そこで今回は、プロのクリエイターを目指す方々に向けて、SNSで見かける誇大表現・悪質なセミナーやサロンへの誘導に対する注意喚起として、それらのウソを見抜くポイントや対策法とクリエイターになるために本当に必要な準備などについて詳しく解説します。
目次
国民生活センターの報告PDFから一部引用以前からもクリエイターになりたい人に向けた「怪しいセミナー」や「悪質なサロン」はSNS上で見受けられましたが、その多くは比較的参入障壁の低いWebライターやブロガーといった分野が中心でした。しかし、ここ数年でWebデザイナーや動画クリエイターなど、これまで技術的に未経験者では参入が難しいと見なされていた分野でも目立つようになり、広範囲なクリエイティブワークに及んできています。今、こうしたケースでの悪質なセミナー・サロンへの誘導やトラブルが増えるにつれて、多くのクリエイターがSNSで注意喚起をするケースが増えているのです。
この背景には、主に三つの要因が考えられます。一つは、Canvaをはじめとした比較的安価で利用しやすい初心者向けクリエイティブツールの普及や生成AIによるコンテンツ制作に関する技術進化に伴い、デザインや動画制作といった業務のコモディティ化が進んでいることです。これにより、特殊な技術提供であったものが、特別なものでなく広く一般的に標準化・均質化されるなかで、専門的な技術としての差別化が失われ、職種における付加価値が低下しつつあります。
二つ目の要因として、日本における根深いジェンダー・ギャップ、特に女性のライフイベント(結婚・出産など)を経た後の労働環境の課題が挙げられます。男女雇用機会均等法が制定・施行されてから年月が経ちましたが、保育園の待機児童問題など社会インフラの脆弱性もあり、子育てをしながら自身の生活に合った待遇の良い仕事を見つけることが依然として難しい状況にある女性が多くいます。収入が減る中で共働きが一般的となるなか、こうした現実が、時間や場所に囚われない「在宅ワーク」へのニーズを一層高めていると考えられます。
三つ目の要因として、長引く不況や物価高、一向に上がらない給与や社会保険料の負担増加など、実質賃金が減る中で副業で収入を得るといった働き方が増えてきている点があります。そうした副業においても「在宅ワーク」へのニーズが増えています。
こうした「在宅ワーク」の選択肢は、かつては内職やデータ入力といった比較的単純作業が中心でしたが、現在では自己実現も可能なクリエイティブワークへと裾野が広がりを見せています。悪質な情報発信者は、このようなクリエイティブワークへの参入を求める人々の期待につけ込み、多額の費用を要求するなどの手口で増加しています。実際、こういった悪質なセミナーや情報提供に関するトラブルや被害の相談は増加傾向にあり、消費者庁や国民生活センターなどが繰り返し注意喚起を行っています。
※参照URL:「スマホで簡単 月収100万円」、「定型文を送信した分だけ報酬発生」などとうたう副業のマニュアルを購入させ、ライブ配信希望者のエージェントになるためとして高額なサポートプランを契約させる事業者に関する注意喚起(消費者庁)
※参照PDF:簡単に高額収入を得られるという副業や投資の儲け話に注意!-インターネット等で取引される情報商材のトラブルが急増-(独立行政法人国民生活センター)
【1】有益そうな情報提供の後に続く誘導に注意
▶︎見抜くポイント
X(旧Twitter)やThreadsなど短文テキスト投稿型のSNSでよく見かけるのが、有益なノウハウや情報を提供することで投稿をバズらせ、その投稿に続けて有料のセミナーやオンラインサロン、高額な個別指導へと誘導するといったパターンです。これは、有益な情報でターゲットの関心を引いた上で、「さらに詳しい情報は」「詳しくは固ツイ」「詳細はDMで」「限定コミュニティで極秘情報を公開」といったように、オンラインサロンや情報商材購入へ誘導させる手口です。SNSで提供される無料の情報はあくまで「お試し」であり、本命は継続的なサブスクリプションへの加入や高額な情報商材の販売を狙っているのです。
▶︎対策と心構え
提供されている無料情報自体は、役立つものもあるかもしれません。しかし、それが最終的に高額なサービスへの入り口である可能性があることは常に意識しておきましょう。
【2】クリエイティブの実績(ポートフォリオ)が少ない場合は注意
▶︎見抜くポイント
クリエイターとして活動していると称しているにも関わらず、自身の作品を公開しているポートフォリオが見当たらない、あるいはその作品数が極端に少ない、またはクオリティが伴わない場合があります。また、具体的な制作物を提示せず、抽象的な成果ばかりを強調するケースも警戒が必要です。一般的なビジネス分野では、実績として取引額や企業への貢献度といった数値データが重視されることが多いですが、クリエイターの場合、数値による自己PRが前面に出ることは多くありません。クリエイターにとって重要な自己PRは、どのような代表作を手がけているかを示すことです。そのため、そのクリエイター自身の見せ方に違和感がないか、慎重なチェックが必要です。
▶︎対策と心構え
クリエイターとして実績や実力を判断するには、ポートフォリオやプロフィール確認が必要不可欠です。経験不足でまだ制作物のレベルを見極める力を持っていないとしても、その人の作った制作物が好きか嫌いか、自分の理想に近いものかといったことは感じることができると思います。その人の作品が好き、その人の仕事が自分の理想的なロールモデルであるという場合は、ファンコミュニティ的な意味合いで、メンバーシップの加入にも意味が出てくると思いますが、そうではなく、あまり実績や成果物に魅力を感じなかった場合は、ビジネス面での成功事例に惹かれても、自身の直感を信じ、安易にサロンへの加入や商材などの購入は控えるようにしましょう。
【3】稼いでいる金額と実績が伴っていない場合は注意
▶︎見抜くポイント
SNS上では「短期間で月収〇〇万円」「自由なライフスタイル」「3ヶ月でWebデザイナーに!」といった経済的成功や魅力的なライフスタイルを強調する投稿やプロフィール内容・肩書きが頻繁に見られます。しかし、その人自身のクリエイティブなスキルによる成果なのかどうかは、冷静に見極める必要があります。わかりやすい成功イメージに惑わされず、背景にある実態を見極める視点を持ちましょう。
こうした華やかな生活をアピールする情報発信者の共通点として特に注目すべき事項は、実際のプロから見ると高単価になりにくい分野での実績を掲げている傾向が多いという点です。
例えば、クラウドソーシング系のサービスでは、コストを抑えつつ外部人材を活用したいという企業側のニーズが強く、その結果、作業内容は「依頼者の指示通りに進める業務」となるケースが多いといった実態があります。見た目にはクリエイティブに見える案件であっても、実際にはバックヤード業務の一部としてのタスクや、指示ベースのデザイン作業など、「アウトソーシング色の強い仕事」も多く存在します。特に、ライティング分野では、ライター職としての募集であっても、実質は広報・マーケティング・営業・人事といった担当者の補助業務の一環として必要になるルーティンワークであることも少なくありません。このような業務は、商業クリエイティブの中では「下請け」に近い位置付けとなりやすく、本質的に高単価化が難しい構造があることを理解しておく必要があります。こうしたクラウドソーシング系のサービスや、アウトソーシング的な領域の業務で高単価を稼いでいると謳うクリエイターの実績には、より詳細な検証が必要となるでしょう。
▶︎対策と心構え
その人物のプロフィールを検索をかけるなどして徹底的に調べましょう。ポートフォリオサイトや運営会社のWebサイトがあれば、取引先や担当案件が具体的に紹介されているかどうかを確認します。実名の取引先がない、あるいはリンク先で実績を裏付けられない場合は、過度に信頼しない方が無難です。具体的なクライアント名や第三者検証可能な実績が明示されていない場合、専門家としての実質的な経験値は限定的である可能性が高いからです。確かに、ゲーム業界などでは守秘義務の厳しい分野が存在します。しかし、講師業を行うのに相応しい経験を持つクリエイターであれば、ほとんどの専門領域において、いくつかの公開可能な実績事例を有しているはずです。
また、プラットフォーム内のランキング実績や、具体名を伏せた「大手企業との取引実績」といった曖昧な表現には注意が必要です。この視点は、クラウドソーシングを主戦場に活躍しているクリエイター全体の価値を否定するものではありません。優れたスキルを持った実力ある専門家も確かに存在します。ただし、その評価軸はあくまでも「クラウドソーシング内での評価」であるという点は忘れてはいけません。クラウドソーシングは、どちらかといえばこれから経験を積んでいくクリエイターの登竜門的なフィールドであることが多く、そこだけの実績をもって広範なプロフェッショナル評価に結びつけるのは難しい面があります。また、クラウドソーシングの性質上、守秘義務の関係から実績が公開しにくいという側面があるという認識も持っておく必要もあります。
【4】本業より講師業やスクール事業がメインになっている場合は注意
▶︎見抜くポイント
「名選手、名監督にあらず」という言葉がありますが、これはクリエイティブ分野においても同様で、必ずしも優れたクリエイターが、優れたクリエイティブ領域の教育者・メンターになる訳ではありません。ただし、クリエイターとして成功していることをアピールしている人物が、自身のクリエイティブな制作活動よりも、オンラインサロンやセミナー、情報商材販売をメインに活動している場合は、その「クリエイターとして成功している」という部分に関しては疑義を持ちましょう。実際にはクリエイターとしての実績はあまりなく、経歴等を大きく見せることで、講師業ビジネスをしている可能性があるからです。また「毎月、月収〇桁達成!」「稼げる副業で月〇〇万円!」といったような謳い文句は、クリエイターとしての収益ではなく、講師業ビジネスで稼いだ額である可能性もあることを意識しておきましょう。
▶︎対策と心構え
ポートフォリオで公開されている実績と、その人の名前、企業名、アピールしているプロジェクト名や取引先企業名などを組み合わせて検索をかけてみましょう。
【5】情報商材以外に幅広く課金ビジネスを展開している場合は注意
▶︎見抜くポイント
前述の「本業より講師業がメインになっている」と関連していますが、悪質な情報提供者は、オンラインサロン・セミナーや情報商材以外にも、さまざまな課金ビジネスを展開していることが多いです。例えば、YouTubeのメンバーシップやLINEのメンバーシップ、有料note、AmazonのKindle本(電子書籍)など、ありとあらゆるジャンルで課金システムを確立しています。中には気軽にメンバーになれるように安価で加入できるメンバーシップも提供していたりします。しかし、これは課金に対するハードルを下げるゲートドラッグ的な役割を果たしている可能性が高いです。
▶︎対策と心構え
その人物の活動の全体像を確認し、どのように課金ビジネスを展開しているかをチェックしましょう。複数のジャンルで課金ビジネスを提供している場合は、特定の分野の専門家というよりは、情報販売そのものをビジネスにしている可能性が高いです。
【6】専門的なスキルや知識でなく「稼ぐ」情報提供がメインな場合は注意
▶︎見抜くポイント
本当にプロが後進の育成のために情報提供しているのではれば、その内容は、クリエイティブツールの効果的な使い方や、クリエイティビティを伸ばすスキル・知識が中心となるでしょう。こうした専門知識ではなく「このツールを使えば簡単に稼げる」「このテンプレートで収益化できる」「コピペでOK」といった、あくまで「稼ぐ」ことや「作業効率化」に特化した内容が多い場合は注意が必要です。また、ここ最近は「生成AI」をキーワードに稼げるような謳い文句を発信するインフルエンサーも増えています。生成AIの向き合い方は、ジャンルによって異なりますが、クリエイターとしての本質的な成長を願うメンターであれば、「イラストレーターで稼ぐのはもう終わり!」「デザイナーは生成AIに置き換わる」といった煽りや、クリエイター自身の創造性を否定するような生成AIの活用を煽動する情報発信はしないはずです。
▶︎対策と心構え
クリエイターとしてスキルアップしたいということが、セミナーやサロンに参加したいと思った本来の目的であれば、技術や知識をしっかりと学べる場所を選ぶべきです。一方で、自身の抱える課題が「稼ぐ」ことであったり収益化であることは多いでしょう。しかし、そうした稼ぐ手法や、ビジネススキルの習得は、必ずしもクリエイターから学ぶ必要はありません。一般的なビジネス書や、ビジネスパーソン向けの自己啓発本などからも、ビジネススキルやビジネスマナー、個人事業主が効果的に収益を得る方法などは学べます。もちろん、クリエイターとしてビジネスを成功させる秘訣は、誰しも知りたい情報であり、そうした情報提供の全てが悪質である訳ではありません。しかし、少なくとも「稼ぐ」ことばかりに焦点を当てたインフルエンサーは、悪質な人物であるリスクが高いということを再確認しておきましょう。
【7】費用・契約条件・返金ポリシーなどが明示されていない場合は注意
▶︎見抜くポイント
悪質なオンラインサロン・セミナーは、月額・年会費、サービスの総額などが不明瞭である場合があります。また、契約書面が提供されなかったり、契約解除の条件や万が一サービス内容に不備があった場合の返金ポリシーについて明確な説明がない、またはあるいは不利な条件になっていたりする場合があります。追加費用や契約のプレッシャー、不透明な解約・返金条件などがあった場合も要注意です。
▶︎対策と心構え
消費者庁が提供する消費者契約法を説明する資料の一部契約する前に、費用総額、支払い方法、サービス内容、契約期間、解約条件、返金に関する規定などを必ず書面で確認し、証拠を保存しておきましょう。不明な点は納得いくまで質問し、曖昧なまま契約しないことが非常に重要です。特定商取引法に基づく表示が公式サイトなどに記載されているかも確認しましょう。以下の消費者契約法に関する資料なども参考にしてみてください。
※参考PDF:「知っていますか?消費者契約法-早分かり!消費者契約法-」(消費者庁)
【8】「絶対儲かる」「すぐ成功」などの甘い言葉には要注意
▶︎見抜くポイント
悪質な情報提供者の多くは「参加すれば誰でも絶対儲かる」「〇〇するだけで必ず成功する」「未経験からたった〇日でプロに」「特殊な技能は不要」といった、非現実的なほど甘く、断定的な言葉を多用します。また「悪用厳禁ですが」「これはわりと真実だと思うのですが」といった、その先が気になるワードを多用するのも特徴的です。成功の裏にある努力やリスク、不確実性について一切触れません。特に非現実的な金銭面での甘い言葉には要注意です。
▶︎対策と心構え
世の中に「絶対」や「必ず」成功する方法はありません。特にクリエイティブな分野では、個人のスキルや努力だけでなく、市場での人気や需要など、成功には多くの要素が絡み合います。あらゆる業界やジャンルにおいても共通することですが、非現実的であったり、魅力的で甘い言葉は常に疑うようにしましょう。
【9】「NG」「論外」「ダメ」といった強い否定語で不安にさせる言い回しに注意
▶︎見抜くポイント
悪質な情報提供者は「厳しいこと言うけど、〇〇な人はNG」「断言しますが、〇〇を使ってないクリエイターはこれからダメになる!」「何度でも言いますが、〇〇な人は論外」「勘違いしている人が多いですが、〇〇な人はこれからの時代生き残れません!」「炎上覚悟で言います!〇〇を使っている人は時代遅れ」といった強い否定語や攻撃的な言葉を使い、読者の自信を喪失させたり、不安を煽る言い回しを用いるケースも多いです。そして、その不安を解消するかのように、自身のサービスへと誘導します。ここ最近は「生成AIでこのジャンルは終わる」といった不安を煽り文句も、よく目にするようになりました。
▶︎対策と心構え
人の不安や劣等感に付け込むのは、悪質な勧誘の常套手段です。感情的に動揺せず、そのメッセージの裏にある意図を見抜きましょう。本当にクリエイターになりたい人の成長を願うのであれば、否定的な言葉ではなく、前向きで建設的なアドバイスをするはずです。強い言葉を使うことで、相手を精神的に支配しようとしている可能性を疑いましょう。
【10】口コミやレビューの信ぴょう性を疑う(サクラや偽装レビューに注意)
▶︎見抜くポイント
いわいる「信者」のようなファンが多く存在するコミュニティには注意しましょう。例えば、公式サイトやSNSで公開されている受講生や会員の「声」が、どれも定型的で内容が似通っているといったケースがあります。そうした「声」が、不自然なほど絶賛する内容ばかりで、具体的な成果や体験談に乏しい場合は、さらに注意が必要です。また、SNSの投稿で情報商材を得るためのキーワードを提示し、そのキーワードを多くの人がリプライとして多く投稿しているといったパターンも要注意です。こうしたケースの多くは、「サクラ」を使ったり、運営者自身が偽のレビューを作成したりしている可能性もあるからです。
▶︎対策と心構え
過去の実績などは、情報提供者側の公式情報だけでなく、インターネットでの検索を合わせて複数の情報源で口コミや評判を調べてみましょう。主催者や講師の実績・評判の確認するために、SNSの検索機能を使ったり、場合によっては匿名掲示板なども参考にしてみましょう(ただし、匿名情報は信憑性が低い場合もあるため、鵜呑みは禁物です)。具体的な内容が詳しく記述されているか、良い評価だけでなく、改善点や否定的な意見も存在するかに注目すると、より客観的な判断ができます。また、SNS広告や知人からの誘いでも慎重にリサーチすることが大切です。
消費者庁が開設する消費者ホットラインまた素人では見抜けなくても、実際にプロのクリエイターとして活躍する人から見れば、怪しい情報提供者というはすぐに分かります。他のクリエイターに、その人物の実績に関する意見を聞いてみることも対策として有効だと思います。SNS等で自分のおかれた情報を報告することでアドバイスを得られるかもしれません。
以下に、主な相談窓口をまとめましたので参照してみてください。また、本連載の過去記事「法的トラブルなど、いざという時に役立つ『フリーランスのための法律相談サービス』徹底ガイド」などもご参照ください。
相談窓口説明消費者ホットライン消費者庁が開設する消費者問題全般に関する相談窓口。居住地域の消費生活センターにつながる国民生活センター独立行政法人国民生活センターが開設する消費者問題に関する相談サービスと情報提供警察相談専用電話事件・事故以外の相談(いたずら電話、悪質な訪問販売、ストーカーなど)法テラス(日本司法支援センター)詐欺を含む法的トラブルに関する情報提供や弁護士の紹介を行う文化庁・文化芸術活動に関する法律相談窓口クリエイター向けの契約や著作権に関する合同法律相談フリーランス・トラブル110番イラストレーターなどフリーランスの未払い報酬や契約問題に関する無料相談経済産業省・消費者相談室経済産業省の管轄に関する消費者相談。個別の仲介は実施しないが、アドバイスを提供デザイナー法務小僧 クリエイター向けの無料法律相談。Webサイトから予約可能日本イラストレーション協会 法律相談日本イラストレーション協会の会員向けの無料法律相談
しかし、悪質なメンタービジネスや不当な情報商材を売る業者は、スキルや技術を習得し、早く仕事にあり付きたいというユーザー心理を逆手に、短期的にクリエイターになれると謳ったセミナーであったり、簡単に高収入が得られると標榜する養成講座なのだと思います。
もちろんクリエイティブツールの使い方だけであれば、短期的に学ぶことも可能ですので、こうしたニーズに応える事業というのは理にかなっていますし、一定の成果も得ていることでしょう。肝心なのは、そうした短期間での養成セミナー・講座を選択する際は、信頼性が高く良心的なスクール・養成講座を選択するということが重要です。
アドビことはじめクリエイティブカレッジこうした良心的な養成講座の一つに、クリエイティブツールを提供する事業者が主催するのもがあります。例えば、AdobeではAdobeコミュニティエバンジェリストといったAdobeのツールの使い方などを伝授するクリエイターを認定し、定期的にセミナーや講座などを開講しています。加えて、Creative Cloudの加入者であれば受講できる『アドビことはじめクリエイティブカレッジ』というオンラインスクール事業も展開しています(Canvaにも教育特化クリエイターという制度が存在し、教育的な活動を行うメンターを認定しています)。また、YouTubeなどには、著名なクリエイターをゲスト講師に招き技術解説をするチャンネルや、定期的にライブイベント等でオンラインセミナーを開講しているクリエイター向けのチャンネル、芸術系のスクールがオンライン講座を公開しているチャンネルなど、無料もしくは安価なメンバーシップで視聴できるチャンネルが数多くあります。こうした講座の多くは、有料の場合も1日開講の場合は数千円、複数日開講の場合も数千円~数万円程度で受講可能できる場合が多いです。
さらに、Webデザイナーに関しては、ハローワークの職業訓練校など公的な支援制度としてスクールやWebデザイナー養成講座(デザイン分野の職業訓練)などが開講されています。近年は中高年のリスキングなどについて積極的に行政が職業訓練系の講座を開講しているケースも増えてきており、こうした公的なサービスを利用することで、費用を抑えてクリエイティブワークを学ぶルートもあることを知っておくと良いでしょう。
その他にも、最近は美術系の大学がオンラインで学べる学部や公開講座を開講したり、通信制の大学でクリエイティブ領域を学べる環境なども整ってきています。短期間の講座に比べて学費は高いですが、Adobeを学割で利用するために、こういったオンラインスクールに在籍するといった人もいるようですので、そうした側面を考慮すればメリットも大きいかもしれません。
加えて、オールドメディアと言われるような書籍や雑誌などを情報源として活用することも有効です。こうしたものは、一人の書き手だけでなく複数の人間が原稿作成に携わっており、ファクトチェックや場合によっては専門家の監修などが入ります。SNSやブログの記事というのは、第3者のチェックが入っていない情報提供が多く、そこに課金するというのはある程度リスクが伴うということは意識しておくべき点かと思います。雑誌やムックであれば高くても1,000円前後、書籍であれば2,000円~4,000円程度で専門的な情報を得られます。そうしたいわいるオールドメディアの情報提供と、有料noteの1記事の価格を比較し費用対効果を予想するといった意識は常に持っておくと良いでしょう。
このグレーゾーンの問題は、クリエイターを目指す人々にとって注意すべき落とし穴であると同時に、実績のあるベテラン・中堅のクリエイターにとっても決して他人事ではありません。なぜなら、意図せずとも自身の活動が情報商材ビジネスの手法に似通ってしまい、誤解を招く可能性があるからです。
例えば、自身の知識や経験を有料noteとして販売することは、クライアントワークとは異なる新たな収益源となり得ます。一定の知名度を持つクリエイターであれば、比較的容易に収益化を実現できるでしょう。特に収入が不安定なフリーランスのクリエイターにとって、毎月それなりに収益が見込めるオンラインサロン・セミナーや情報商材コンテンツ販売は、安定的な収入を確保していく上で魅力的であることはよくわかります。私自身もこうした収益化モデルに興味を持つことはあります。また、ベテラン・中堅のクリエイターにとって、業界の活性化のために後進を育成することも大切な社会活動の一つであり、それ自体否定されることではありません。
しかし、こうした「手軽に収益を得られる仕組み」を一度体感してしまうと、無意識のうちにクライアントワークよりも、そうした有料コンテンツの販売に傾倒し、情報商材ビジネス的な方向へ活動の柱をシフトしてしまうリスクも潜んでいることは、常に意識しておく必要があるでしょう。また、自分では誠実な発信のつもりでも、結果的に誇大表現や不適切な誘導になってしまうケースも少なくありません。
加えて、「見抜くべきポイント」で紹介した悪質な情報発信者の手口のいくつかは、行動経済学やマーケティング心理学の手法を応用した商業的アプローチであり、一般的な企業のマーケティングでも導入されています。したがって、こうしたアプローチ自体が問題があるわけではありませんが、そうした人間の深層心理を操作するような手法を用いるには、しっかりとした職業人としての倫理観を持っていることが前提になければいけません。
だからこそ、経験豊富なベテラン・中堅のクリエイターは、自らの影響力や発信のあり方に対して、これまで以上に自覚的であることが求められるかと思います。そうしたオンラインサロンや情報商材の被害が特定の分野で広がることで、その業界全体の信頼性や社会的地位が低下する恐れもあります。人気のあるクリエイターほど、ファンのような支持者も多くなり、自身に対する正当な指摘や批判も見えにくくなる傾向もあるでしょう。そのためにも、自身の情報発信や収益化方法が、知らず知らずのうちに誰かの不利益につながっていないか、気づかぬうちに “無自覚な加害者” になっていないかを常に問い続けることも大切なのだと思います。
本連載は「作業効率化のためのTips」を軸としていますが、プロのクリエイターを目指す過程においては、必ずしも近道に見える手法に飛びつくのではなく、時には「急がば回れ」の精神で、非効率であっても焦らず、一歩ずつ着実にスキルと経験を積み重ねていくことをコンセプトとしています。そして、長期的な視野で見れば、それがプロクリエイターになる最大の近道であることも、何度でも繰り返し心に刻んでいただければ幸いです。
また、クリエイターを目指す方は「本当にプロクリエイターとして創造的な仕事で世の中に価値を提供したいのか、それとも『在宅で自由に働きたい』『ワークライフバランスに優れた業種で仕事がしたい』といったライフスタイル実現が主な目的なのか」は、もう一度自分自身に問いかけてみてください。もし後者であれば、その目的を達成する道はクリエイティブワーク以外にも存在するかもしれません。もちろん、冒頭で述べたように、クリエイティブ業界においても、社会環境や企業文化において、ライフイベントと仕事の両立を支える環境整備が整うように政治、行政、企業に働きかけていくことも重要だと思います。そうした、それぞれの生活環境に合わせた環境整備が進めば、適性がないのにクリエイティブ職を目指すといったミスマッチによる無理なキャリア選択も、徐々に減っていくはずです。
生成AIの進化によって、クリエイティブ業界の構造は大きく変わりつつあります。そのなかで生き残り、評価される存在になるためには、これまで以上に高い意識と実力が求められます。だからこそ、真面目に努力を続ける人がきちんと評価される健全な業界を守っていくことが重要になります。そしてその一環として、実績あるプロが互いに注意を払い合い、悪質な業者や人物による誤情報・誇大表現を排除していく姿勢を示していくことも必要不可欠な行動かと思います。そうした、活動の一助としてぜひ本記事でお伝えした内容をご活用ください。
このような背景も相まって「未経験から短期間でプロに!」「すぐに高収入が実現!」といった甘い言葉のキャッチフレーズで、自身のオンラインサロンやセミナー、スクールへと誘導する情報発信者もSNSなどで多く見受けられるようになってきました。
もちろん、それらの情報商材や学びの場で提供される内容がすべて不当なものであるとは限りません。しかし残念ながら、中には高額な受講料や費用を要求するにも関わらず、実態が伴わなかったり、プロを目指す方々の期待に真摯に応えないまま、結果として期待に沿わない、あるいは不当な結果に繋がるようなケースも存在します。
そこで今回は、プロのクリエイターを目指す方々に向けて、SNSで見かける誇大表現・悪質なセミナーやサロンへの誘導に対する注意喚起として、それらのウソを見抜くポイントや対策法とクリエイターになるために本当に必要な準備などについて詳しく解説します。
目次
はじめに:SNSで増える “注意喚起” の背景

この背景には、主に三つの要因が考えられます。一つは、Canvaをはじめとした比較的安価で利用しやすい初心者向けクリエイティブツールの普及や生成AIによるコンテンツ制作に関する技術進化に伴い、デザインや動画制作といった業務のコモディティ化が進んでいることです。これにより、特殊な技術提供であったものが、特別なものでなく広く一般的に標準化・均質化されるなかで、専門的な技術としての差別化が失われ、職種における付加価値が低下しつつあります。
二つ目の要因として、日本における根深いジェンダー・ギャップ、特に女性のライフイベント(結婚・出産など)を経た後の労働環境の課題が挙げられます。男女雇用機会均等法が制定・施行されてから年月が経ちましたが、保育園の待機児童問題など社会インフラの脆弱性もあり、子育てをしながら自身の生活に合った待遇の良い仕事を見つけることが依然として難しい状況にある女性が多くいます。収入が減る中で共働きが一般的となるなか、こうした現実が、時間や場所に囚われない「在宅ワーク」へのニーズを一層高めていると考えられます。
三つ目の要因として、長引く不況や物価高、一向に上がらない給与や社会保険料の負担増加など、実質賃金が減る中で副業で収入を得るといった働き方が増えてきている点があります。そうした副業においても「在宅ワーク」へのニーズが増えています。
こうした「在宅ワーク」の選択肢は、かつては内職やデータ入力といった比較的単純作業が中心でしたが、現在では自己実現も可能なクリエイティブワークへと裾野が広がりを見せています。悪質な情報発信者は、このようなクリエイティブワークへの参入を求める人々の期待につけ込み、多額の費用を要求するなどの手口で増加しています。実際、こういった悪質なセミナーや情報提供に関するトラブルや被害の相談は増加傾向にあり、消費者庁や国民生活センターなどが繰り返し注意喚起を行っています。
※参照URL:「スマホで簡単 月収100万円」、「定型文を送信した分だけ報酬発生」などとうたう副業のマニュアルを購入させ、ライブ配信希望者のエージェントになるためとして高額なサポートプランを契約させる事業者に関する注意喚起(消費者庁)
※参照PDF:簡単に高額収入を得られるという副業や投資の儲け話に注意!-インターネット等で取引される情報商材のトラブルが急増-(独立行政法人国民生活センター)
被害に遭わないために:SNS上の嘘を見抜く10のポイント
ここからは被害に遭わないために、悪質なオンラインサロン・セミナーや情報商材の販売を行う人物の嘘を見抜く10個のポイントを解説します。なお、本解説の内容は、類似のビジネスモデルを展開されている方々にとって不快に感じられる可能性があることをご理解ください。ここで述べる特徴は、あくまで傾向としての共通点であり、すべてのケースに当てはまるものではないことをあらかじめお断りしておきます。【1】有益そうな情報提供の後に続く誘導に注意
▶︎見抜くポイント
X(旧Twitter)やThreadsなど短文テキスト投稿型のSNSでよく見かけるのが、有益なノウハウや情報を提供することで投稿をバズらせ、その投稿に続けて有料のセミナーやオンラインサロン、高額な個別指導へと誘導するといったパターンです。これは、有益な情報でターゲットの関心を引いた上で、「さらに詳しい情報は」「詳しくは固ツイ」「詳細はDMで」「限定コミュニティで極秘情報を公開」といったように、オンラインサロンや情報商材購入へ誘導させる手口です。SNSで提供される無料の情報はあくまで「お試し」であり、本命は継続的なサブスクリプションへの加入や高額な情報商材の販売を狙っているのです。
▶︎対策と心構え
提供されている無料情報自体は、役立つものもあるかもしれません。しかし、それが最終的に高額なサービスへの入り口である可能性があることは常に意識しておきましょう。
無料情報だけで疑問が解消されたり、十分だと感じたりした場合は、それ以上の深追いはせず、きっぱりと誘導に乗らない判断が必要です。
【2】クリエイティブの実績(ポートフォリオ)が少ない場合は注意
▶︎見抜くポイント
クリエイターとして活動していると称しているにも関わらず、自身の作品を公開しているポートフォリオが見当たらない、あるいはその作品数が極端に少ない、またはクオリティが伴わない場合があります。また、具体的な制作物を提示せず、抽象的な成果ばかりを強調するケースも警戒が必要です。一般的なビジネス分野では、実績として取引額や企業への貢献度といった数値データが重視されることが多いですが、クリエイターの場合、数値による自己PRが前面に出ることは多くありません。クリエイターにとって重要な自己PRは、どのような代表作を手がけているかを示すことです。そのため、そのクリエイター自身の見せ方に違和感がないか、慎重なチェックが必要です。
▶︎対策と心構え
クリエイターとして実績や実力を判断するには、ポートフォリオやプロフィール確認が必要不可欠です。経験不足でまだ制作物のレベルを見極める力を持っていないとしても、その人の作った制作物が好きか嫌いか、自分の理想に近いものかといったことは感じることができると思います。その人の作品が好き、その人の仕事が自分の理想的なロールモデルであるという場合は、ファンコミュニティ的な意味合いで、メンバーシップの加入にも意味が出てくると思いますが、そうではなく、あまり実績や成果物に魅力を感じなかった場合は、ビジネス面での成功事例に惹かれても、自身の直感を信じ、安易にサロンへの加入や商材などの購入は控えるようにしましょう。
【3】稼いでいる金額と実績が伴っていない場合は注意
▶︎見抜くポイント
SNS上では「短期間で月収〇〇万円」「自由なライフスタイル」「3ヶ月でWebデザイナーに!」といった経済的成功や魅力的なライフスタイルを強調する投稿やプロフィール内容・肩書きが頻繁に見られます。しかし、その人自身のクリエイティブなスキルによる成果なのかどうかは、冷静に見極める必要があります。わかりやすい成功イメージに惑わされず、背景にある実態を見極める視点を持ちましょう。
こうした華やかな生活をアピールする情報発信者の共通点として特に注目すべき事項は、実際のプロから見ると高単価になりにくい分野での実績を掲げている傾向が多いという点です。
例えば、クラウドソーシング系のサービスでは、コストを抑えつつ外部人材を活用したいという企業側のニーズが強く、その結果、作業内容は「依頼者の指示通りに進める業務」となるケースが多いといった実態があります。見た目にはクリエイティブに見える案件であっても、実際にはバックヤード業務の一部としてのタスクや、指示ベースのデザイン作業など、「アウトソーシング色の強い仕事」も多く存在します。特に、ライティング分野では、ライター職としての募集であっても、実質は広報・マーケティング・営業・人事といった担当者の補助業務の一環として必要になるルーティンワークであることも少なくありません。このような業務は、商業クリエイティブの中では「下請け」に近い位置付けとなりやすく、本質的に高単価化が難しい構造があることを理解しておく必要があります。こうしたクラウドソーシング系のサービスや、アウトソーシング的な領域の業務で高単価を稼いでいると謳うクリエイターの実績には、より詳細な検証が必要となるでしょう。
▶︎対策と心構え
その人物のプロフィールを検索をかけるなどして徹底的に調べましょう。ポートフォリオサイトや運営会社のWebサイトがあれば、取引先や担当案件が具体的に紹介されているかどうかを確認します。実名の取引先がない、あるいはリンク先で実績を裏付けられない場合は、過度に信頼しない方が無難です。具体的なクライアント名や第三者検証可能な実績が明示されていない場合、専門家としての実質的な経験値は限定的である可能性が高いからです。確かに、ゲーム業界などでは守秘義務の厳しい分野が存在します。しかし、講師業を行うのに相応しい経験を持つクリエイターであれば、ほとんどの専門領域において、いくつかの公開可能な実績事例を有しているはずです。
外部サイトなどで、その人物の実績を確認できない場合は注意しましょう。
また、プラットフォーム内のランキング実績や、具体名を伏せた「大手企業との取引実績」といった曖昧な表現には注意が必要です。この視点は、クラウドソーシングを主戦場に活躍しているクリエイター全体の価値を否定するものではありません。優れたスキルを持った実力ある専門家も確かに存在します。ただし、その評価軸はあくまでも「クラウドソーシング内での評価」であるという点は忘れてはいけません。クラウドソーシングは、どちらかといえばこれから経験を積んでいくクリエイターの登竜門的なフィールドであることが多く、そこだけの実績をもって広範なプロフェッショナル評価に結びつけるのは難しい面があります。また、クラウドソーシングの性質上、守秘義務の関係から実績が公開しにくいという側面があるという認識も持っておく必要もあります。
【4】本業より講師業やスクール事業がメインになっている場合は注意
▶︎見抜くポイント
「名選手、名監督にあらず」という言葉がありますが、これはクリエイティブ分野においても同様で、必ずしも優れたクリエイターが、優れたクリエイティブ領域の教育者・メンターになる訳ではありません。ただし、クリエイターとして成功していることをアピールしている人物が、自身のクリエイティブな制作活動よりも、オンラインサロンやセミナー、情報商材販売をメインに活動している場合は、その「クリエイターとして成功している」という部分に関しては疑義を持ちましょう。実際にはクリエイターとしての実績はあまりなく、経歴等を大きく見せることで、講師業ビジネスをしている可能性があるからです。また「毎月、月収〇桁達成!」「稼げる副業で月〇〇万円!」といったような謳い文句は、クリエイターとしての収益ではなく、講師業ビジネスで稼いだ額である可能性もあることを意識しておきましょう。
▶︎対策と心構え
ポートフォリオで公開されている実績と、その人の名前、企業名、アピールしているプロジェクト名や取引先企業名などを組み合わせて検索をかけてみましょう。
その人物が現在も第一線でクリエイターとして活動している場合は、外部サイトでも同内容がヒットするはずです。また、検索によって定期的に新しい作品を発表したり、プロジェクトに関わっているかどうかもチェックできます。クリエイターとしての過去実績がネットで検索してもあまり見つからない場合は、情報販売がメインになっている可能性が高いので注意が必要です。また「人柄の良さ」や「ホスピタリティの高さ」なども、その人物が信頼できるかどうかの判断材料に加えないようにしましょう。詐欺的な行動を取る人は第一印象が悪いことよりも、優しく好印象な振る舞いをすることのほうが多いからです。あくまでも、実績を冷静かつ客観的に見極めることが大切です。
【5】情報商材以外に幅広く課金ビジネスを展開している場合は注意
▶︎見抜くポイント
前述の「本業より講師業がメインになっている」と関連していますが、悪質な情報提供者は、オンラインサロン・セミナーや情報商材以外にも、さまざまな課金ビジネスを展開していることが多いです。例えば、YouTubeのメンバーシップやLINEのメンバーシップ、有料note、AmazonのKindle本(電子書籍)など、ありとあらゆるジャンルで課金システムを確立しています。中には気軽にメンバーになれるように安価で加入できるメンバーシップも提供していたりします。しかし、これは課金に対するハードルを下げるゲートドラッグ的な役割を果たしている可能性が高いです。
▶︎対策と心構え
その人物の活動の全体像を確認し、どのように課金ビジネスを展開しているかをチェックしましょう。複数のジャンルで課金ビジネスを提供している場合は、特定の分野の専門家というよりは、情報販売そのものをビジネスにしている可能性が高いです。
また、安価なメンバーシップや情報商材であっても、本当にその価格に見合うものなのか、既存の専門書やWebメディアでも同様の学びを得られるのではないかといったことを検証した上で、購入を検討してください。
【6】専門的なスキルや知識でなく「稼ぐ」情報提供がメインな場合は注意
▶︎見抜くポイント
本当にプロが後進の育成のために情報提供しているのではれば、その内容は、クリエイティブツールの効果的な使い方や、クリエイティビティを伸ばすスキル・知識が中心となるでしょう。こうした専門知識ではなく「このツールを使えば簡単に稼げる」「このテンプレートで収益化できる」「コピペでOK」といった、あくまで「稼ぐ」ことや「作業効率化」に特化した内容が多い場合は注意が必要です。また、ここ最近は「生成AI」をキーワードに稼げるような謳い文句を発信するインフルエンサーも増えています。生成AIの向き合い方は、ジャンルによって異なりますが、クリエイターとしての本質的な成長を願うメンターであれば、「イラストレーターで稼ぐのはもう終わり!」「デザイナーは生成AIに置き換わる」といった煽りや、クリエイター自身の創造性を否定するような生成AIの活用を煽動する情報発信はしないはずです。
▶︎対策と心構え
クリエイターとしてスキルアップしたいということが、セミナーやサロンに参加したいと思った本来の目的であれば、技術や知識をしっかりと学べる場所を選ぶべきです。一方で、自身の抱える課題が「稼ぐ」ことであったり収益化であることは多いでしょう。しかし、そうした稼ぐ手法や、ビジネススキルの習得は、必ずしもクリエイターから学ぶ必要はありません。一般的なビジネス書や、ビジネスパーソン向けの自己啓発本などからも、ビジネススキルやビジネスマナー、個人事業主が効果的に収益を得る方法などは学べます。もちろん、クリエイターとしてビジネスを成功させる秘訣は、誰しも知りたい情報であり、そうした情報提供の全てが悪質である訳ではありません。しかし、少なくとも「稼ぐ」ことばかりに焦点を当てたインフルエンサーは、悪質な人物であるリスクが高いということを再確認しておきましょう。
【7】費用・契約条件・返金ポリシーなどが明示されていない場合は注意
▶︎見抜くポイント
悪質なオンラインサロン・セミナーは、月額・年会費、サービスの総額などが不明瞭である場合があります。また、契約書面が提供されなかったり、契約解除の条件や万が一サービス内容に不備があった場合の返金ポリシーについて明確な説明がない、またはあるいは不利な条件になっていたりする場合があります。追加費用や契約のプレッシャー、不透明な解約・返金条件などがあった場合も要注意です。
▶︎対策と心構え

※参考PDF:「知っていますか?消費者契約法-早分かり!消費者契約法-」(消費者庁)
【8】「絶対儲かる」「すぐ成功」などの甘い言葉には要注意
▶︎見抜くポイント
悪質な情報提供者の多くは「参加すれば誰でも絶対儲かる」「〇〇するだけで必ず成功する」「未経験からたった〇日でプロに」「特殊な技能は不要」といった、非現実的なほど甘く、断定的な言葉を多用します。また「悪用厳禁ですが」「これはわりと真実だと思うのですが」といった、その先が気になるワードを多用するのも特徴的です。成功の裏にある努力やリスク、不確実性について一切触れません。特に非現実的な金銭面での甘い言葉には要注意です。
▶︎対策と心構え
世の中に「絶対」や「必ず」成功する方法はありません。特にクリエイティブな分野では、個人のスキルや努力だけでなく、市場での人気や需要など、成功には多くの要素が絡み合います。あらゆる業界やジャンルにおいても共通することですが、非現実的であったり、魅力的で甘い言葉は常に疑うようにしましょう。
【9】「NG」「論外」「ダメ」といった強い否定語で不安にさせる言い回しに注意
▶︎見抜くポイント
悪質な情報提供者は「厳しいこと言うけど、〇〇な人はNG」「断言しますが、〇〇を使ってないクリエイターはこれからダメになる!」「何度でも言いますが、〇〇な人は論外」「勘違いしている人が多いですが、〇〇な人はこれからの時代生き残れません!」「炎上覚悟で言います!〇〇を使っている人は時代遅れ」といった強い否定語や攻撃的な言葉を使い、読者の自信を喪失させたり、不安を煽る言い回しを用いるケースも多いです。そして、その不安を解消するかのように、自身のサービスへと誘導します。ここ最近は「生成AIでこのジャンルは終わる」といった不安を煽り文句も、よく目にするようになりました。
▶︎対策と心構え
人の不安や劣等感に付け込むのは、悪質な勧誘の常套手段です。感情的に動揺せず、そのメッセージの裏にある意図を見抜きましょう。本当にクリエイターになりたい人の成長を願うのであれば、否定的な言葉ではなく、前向きで建設的なアドバイスをするはずです。強い言葉を使うことで、相手を精神的に支配しようとしている可能性を疑いましょう。
【10】口コミやレビューの信ぴょう性を疑う(サクラや偽装レビューに注意)
▶︎見抜くポイント
いわいる「信者」のようなファンが多く存在するコミュニティには注意しましょう。例えば、公式サイトやSNSで公開されている受講生や会員の「声」が、どれも定型的で内容が似通っているといったケースがあります。そうした「声」が、不自然なほど絶賛する内容ばかりで、具体的な成果や体験談に乏しい場合は、さらに注意が必要です。また、SNSの投稿で情報商材を得るためのキーワードを提示し、そのキーワードを多くの人がリプライとして多く投稿しているといったパターンも要注意です。こうしたケースの多くは、「サクラ」を使ったり、運営者自身が偽のレビューを作成したりしている可能性もあるからです。
▶︎対策と心構え
過去の実績などは、情報提供者側の公式情報だけでなく、インターネットでの検索を合わせて複数の情報源で口コミや評判を調べてみましょう。主催者や講師の実績・評判の確認するために、SNSの検索機能を使ったり、場合によっては匿名掲示板なども参考にしてみましょう(ただし、匿名情報は信憑性が低い場合もあるため、鵜呑みは禁物です)。具体的な内容が詳しく記述されているか、良い評価だけでなく、改善点や否定的な意見も存在するかに注目すると、より客観的な判断ができます。また、SNS広告や知人からの誘いでも慎重にリサーチすることが大切です。
被害に遭ってしまった場合の対策
悪質なオンラインサロン・セミナーや粗悪な情報商材の被害に合わないように、認識を改めるといった事前の予防策は重要ですが、すでに被害にあってしまった方や気をつけていても被害に遭ってしまった方もおられるかと思います。また、有益な情報提供とは思いつつ高額な費用を鑑みると、グレーゾーンだと感じるケースもあります。こうしたなか、行政や関連団体も対策に乗り出しています。少しでも不安を感じたら消費者庁が開設する消費者ホットラインをはじめとした専門の法律相談にアドバイスを求めましょう。
以下に、主な相談窓口をまとめましたので参照してみてください。また、本連載の過去記事「法的トラブルなど、いざという時に役立つ『フリーランスのための法律相談サービス』徹底ガイド」などもご参照ください。
相談窓口説明消費者ホットライン消費者庁が開設する消費者問題全般に関する相談窓口。居住地域の消費生活センターにつながる国民生活センター独立行政法人国民生活センターが開設する消費者問題に関する相談サービスと情報提供警察相談専用電話事件・事故以外の相談(いたずら電話、悪質な訪問販売、ストーカーなど)法テラス(日本司法支援センター)詐欺を含む法的トラブルに関する情報提供や弁護士の紹介を行う文化庁・文化芸術活動に関する法律相談窓口クリエイター向けの契約や著作権に関する合同法律相談フリーランス・トラブル110番イラストレーターなどフリーランスの未払い報酬や契約問題に関する無料相談経済産業省・消費者相談室経済産業省の管轄に関する消費者相談。個別の仲介は実施しないが、アドバイスを提供デザイナー法務小僧 クリエイター向けの無料法律相談。Webサイトから予約可能日本イラストレーション協会 法律相談日本イラストレーション協会の会員向けの無料法律相談
良心的なスクールやセミナー、養成講座とは
では、良心的なスクールやセミナー、養成講座とはどういったものでしょうか。私自身は、高校のデザイン課程に通った経験のある人間なので、クリエイターを目指すのであれば、なんらかの形で専門的な教育機関で体系的に専門知識を学んだ方が良いと考える立場です。また大半のプロのクリエイターが、いきなりフリーランスになるのではなく、一度どこかに就職をしてからの方が良いといった発言をしているのをよく目にします。しかし、悪質なメンタービジネスや不当な情報商材を売る業者は、スキルや技術を習得し、早く仕事にあり付きたいというユーザー心理を逆手に、短期的にクリエイターになれると謳ったセミナーであったり、簡単に高収入が得られると標榜する養成講座なのだと思います。
もちろんクリエイティブツールの使い方だけであれば、短期的に学ぶことも可能ですので、こうしたニーズに応える事業というのは理にかなっていますし、一定の成果も得ていることでしょう。肝心なのは、そうした短期間での養成セミナー・講座を選択する際は、信頼性が高く良心的なスクール・養成講座を選択するということが重要です。

さらに、Webデザイナーに関しては、ハローワークの職業訓練校など公的な支援制度としてスクールやWebデザイナー養成講座(デザイン分野の職業訓練)などが開講されています。近年は中高年のリスキングなどについて積極的に行政が職業訓練系の講座を開講しているケースも増えてきており、こうした公的なサービスを利用することで、費用を抑えてクリエイティブワークを学ぶルートもあることを知っておくと良いでしょう。
その他にも、最近は美術系の大学がオンラインで学べる学部や公開講座を開講したり、通信制の大学でクリエイティブ領域を学べる環境なども整ってきています。短期間の講座に比べて学費は高いですが、Adobeを学割で利用するために、こういったオンラインスクールに在籍するといった人もいるようですので、そうした側面を考慮すればメリットも大きいかもしれません。
加えて、オールドメディアと言われるような書籍や雑誌などを情報源として活用することも有効です。こうしたものは、一人の書き手だけでなく複数の人間が原稿作成に携わっており、ファクトチェックや場合によっては専門家の監修などが入ります。SNSやブログの記事というのは、第3者のチェックが入っていない情報提供が多く、そこに課金するというのはある程度リスクが伴うということは意識しておくべき点かと思います。雑誌やムックであれば高くても1,000円前後、書籍であれば2,000円~4,000円程度で専門的な情報を得られます。そうしたいわいるオールドメディアの情報提供と、有料noteの1記事の価格を比較し費用対効果を予想するといった意識は常に持っておくと良いでしょう。
情報発信する側の注意点:情報提供者の心構え
再三お伝えしているように、オンランサロンやセミナーなどのメンタービジネスや情報商材の全てが悪質という訳ではありません。しかし、そうしたビジネスには良質なものと悪質なものの間に、数多くのグレーゾーンとなる領域が存在します。この曖昧な領域は、往々にして明確な詐欺との線引きを困難にします。このグレーゾーンの問題は、クリエイターを目指す人々にとって注意すべき落とし穴であると同時に、実績のあるベテラン・中堅のクリエイターにとっても決して他人事ではありません。なぜなら、意図せずとも自身の活動が情報商材ビジネスの手法に似通ってしまい、誤解を招く可能性があるからです。
例えば、自身の知識や経験を有料noteとして販売することは、クライアントワークとは異なる新たな収益源となり得ます。一定の知名度を持つクリエイターであれば、比較的容易に収益化を実現できるでしょう。特に収入が不安定なフリーランスのクリエイターにとって、毎月それなりに収益が見込めるオンラインサロン・セミナーや情報商材コンテンツ販売は、安定的な収入を確保していく上で魅力的であることはよくわかります。私自身もこうした収益化モデルに興味を持つことはあります。また、ベテラン・中堅のクリエイターにとって、業界の活性化のために後進を育成することも大切な社会活動の一つであり、それ自体否定されることではありません。
しかし、こうした「手軽に収益を得られる仕組み」を一度体感してしまうと、無意識のうちにクライアントワークよりも、そうした有料コンテンツの販売に傾倒し、情報商材ビジネス的な方向へ活動の柱をシフトしてしまうリスクも潜んでいることは、常に意識しておく必要があるでしょう。また、自分では誠実な発信のつもりでも、結果的に誇大表現や不適切な誘導になってしまうケースも少なくありません。
加えて、「見抜くべきポイント」で紹介した悪質な情報発信者の手口のいくつかは、行動経済学やマーケティング心理学の手法を応用した商業的アプローチであり、一般的な企業のマーケティングでも導入されています。したがって、こうしたアプローチ自体が問題があるわけではありませんが、そうした人間の深層心理を操作するような手法を用いるには、しっかりとした職業人としての倫理観を持っていることが前提になければいけません。
だからこそ、経験豊富なベテラン・中堅のクリエイターは、自らの影響力や発信のあり方に対して、これまで以上に自覚的であることが求められるかと思います。そうしたオンラインサロンや情報商材の被害が特定の分野で広がることで、その業界全体の信頼性や社会的地位が低下する恐れもあります。人気のあるクリエイターほど、ファンのような支持者も多くなり、自身に対する正当な指摘や批判も見えにくくなる傾向もあるでしょう。そのためにも、自身の情報発信や収益化方法が、知らず知らずのうちに誰かの不利益につながっていないか、気づかぬうちに “無自覚な加害者” になっていないかを常に問い続けることも大切なのだと思います。
まとめ:クリエイターへの夢は確かな努力で
本記事では、プロのクリエイターを目指す方々を騙す悪質なオンラインサロン・セミナーや情報商材ビジネスの嘘を見極める方法について掘り下げてきました。そして、クリエイターとしての確かな成長は、近道のない地道な努力、継続的な学び、そして正しい知識に基づいた行動によってのみ培われるということが見えてきたのではないでしょうか。本連載は「作業効率化のためのTips」を軸としていますが、プロのクリエイターを目指す過程においては、必ずしも近道に見える手法に飛びつくのではなく、時には「急がば回れ」の精神で、非効率であっても焦らず、一歩ずつ着実にスキルと経験を積み重ねていくことをコンセプトとしています。そして、長期的な視野で見れば、それがプロクリエイターになる最大の近道であることも、何度でも繰り返し心に刻んでいただければ幸いです。
また、クリエイターを目指す方は「本当にプロクリエイターとして創造的な仕事で世の中に価値を提供したいのか、それとも『在宅で自由に働きたい』『ワークライフバランスに優れた業種で仕事がしたい』といったライフスタイル実現が主な目的なのか」は、もう一度自分自身に問いかけてみてください。もし後者であれば、その目的を達成する道はクリエイティブワーク以外にも存在するかもしれません。もちろん、冒頭で述べたように、クリエイティブ業界においても、社会環境や企業文化において、ライフイベントと仕事の両立を支える環境整備が整うように政治、行政、企業に働きかけていくことも重要だと思います。そうした、それぞれの生活環境に合わせた環境整備が進めば、適性がないのにクリエイティブ職を目指すといったミスマッチによる無理なキャリア選択も、徐々に減っていくはずです。
生成AIの進化によって、クリエイティブ業界の構造は大きく変わりつつあります。そのなかで生き残り、評価される存在になるためには、これまで以上に高い意識と実力が求められます。だからこそ、真面目に努力を続ける人がきちんと評価される健全な業界を守っていくことが重要になります。そしてその一環として、実績あるプロが互いに注意を払い合い、悪質な業者や人物による誤情報・誇大表現を排除していく姿勢を示していくことも必要不可欠な行動かと思います。そうした、活動の一助としてぜひ本記事でお伝えした内容をご活用ください。

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