【モデルプレス=2025/09/28】フジテレビドラマ「もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう」に出演する俳優の神木隆之介(かみき・りゅうのすけ/32)と本作の脚本を担当する三谷幸喜(みたに・こうき/64)にインタビュー。後編では、三谷氏が25年ぶりに民放GP帯連続ドラマの脚本を手掛けた背景や三谷氏が絶賛した神木の意外な一面について話してもらった。


菅田将暉主演「もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう」

本作は、1984年の渋谷を舞台にした青春群像劇。経済の安定成長期からバブル経済期への移行期にあたる希望に満ちた時代の中、まだ何者でもない若者たちの苦悩や挫折を描く。三谷氏の青春時代の思い出を題材にした完全オリジナルストーリーとなっており、三谷氏をモチーフにして描かれた人物・蓬莱省吾を神木、演出家としての成功を夢見る熱い青年・久部三成を菅田が演じる。民放ゴールデン・プライム帯・連続ドラマの脚本を三谷氏が手掛けるのは「合い言葉は勇気」(同局系/2000年)以来25年ぶり。神木とともに作品を作り上げるのは本作が初となる。

◆三谷幸喜、本作の筆をとった背景

― 今回、三谷さんが本作の脚本を手掛けることとなった経緯について教えてください。

三谷:25年前に僕が民放ドラマの脚本を書いていたプロデューサーの方々、ディレクターの方々が皆偉くなってしまって、どの現場に行っても若いスタッフさんばかりだったので、たぶん今のプロデューサーの方々も僕に声をかけにくいんだろうなと思っていたんです。でも、勇気あるフジテレビの若きプロデューサーの方が声をかけてくださって。それで「何かやりたい」という話になり、「じゃあどういうものができるんだろうか」と考えたときに、自分の青春時代である1980年代の東京なら、書けるんじゃないかと思ったんです。それで、今回の企画に行き当たったという流れです。

― 民放GP帯の連続ドラマを手掛けるのは25年ぶりですが、それほどまで期間が空いた理由はあったのでしょうか?今回手掛けるまでに感じた思いについても教えてください。

三谷:NHK大河ドラマ、民放ではスペシャルドラマの脚本を書かせていただいていたんですが、意図せずこんなに時間が空いてしまったのは、すごく不思議な気持ちでした。
なんとなくタイミングが合わなかっただけなんです。そして、気がついたら25年経ってしまっていたんですよね。

◆三谷幸喜「現代の人たちへのメッセージやエールになったら」

― 「1980年代の東京なら僕にも書けるかもしれない」といったお話もありましたが、その中でも渋谷にフォーカスした理由を教えてください。

三谷:実際に渋谷のストリップ劇場でバイトをしていたことがあって。そこでは、お笑い芸人の方々がショーの間にコントをしていたんですが、僕はそのコントの台本を書いていたんです。それで、そのときの自分を投影させる人物を出して彼の目線から「当時を描きたい」という思いがありました。現代って不安なことがいろいろあって、固定概念がどんどん崩されていく感覚があって。先がどうなるかわからないし、絶対永遠に続くであろうと思っていたものがどんどん変わっていく。そんな時代の中で皆どこか不安に生きているような気がしていたんです。

それが悪いことだとは思わないんですが、1980年代の渋谷って皆が夢を実現しようとしていて本当に熱気があって。この輝きが未来永劫続くと信じていた。そんな時代の人々を描くことで、現代の人たちへのメッセージやエールになったらいいなというのがこの物語の出発点でした。


― 神木さんは、演じられていて当時の渋谷についてどう思われましたか?

神木:僕は1993年生まれなので演じる前はその年代のことをよく知らなかったんですが、物語の世界に入ってみて「元気だな」というのはすごく感じました。商品が発売するときや何かが起こる度に「うわ何これ!」「これどうやって使うのかな!?」と全てのことに対して目がキラキラしていたような気がします。

三谷:そういえば、当時はポケベル(携帯電話が普及する前に使われていた無線呼び出しサービス)の時代でしたよね。(神木は)ポケベルは知らないんでしたっけ?

神木:知らないです。僕のときはもうガラケー(ガラパゴス携帯の略称)があったので、ポケベルは見たことないですね。今ある商品や物って、全て歴史上にあるものの応用じゃないですか。情報が溢れているから調べたら何でもすぐにわかりますし、新しいものだとしても「これとあれをこう合成したようなやつでしょ」とあまり驚きがない。これが現代の感覚なのかなと思うんですが、当時は何にでも初めて体験するような新鮮な気持ちで生きていたのかなと思いました。

三谷:今聞いていて思ったんですが、今回ご一緒してから神木さんへの印象が100%、180度変わったんです。たぶん、皆さんの考えている神木さんはすごく真面目な好青年ですよね。でも普段は、とにかく人を笑わせること、喜ばせることに全精力を傾けている方で。今回それを知ってびっくりしました。
とにかく「笑わせたい」という思いが常にあるし、振ると何でもやってくれるし、モノボケをして瞬時に笑わせてくれるんですよね。

だからご一緒してみて、ものすごく新鮮でした。神木さんは、人を笑わせることも、コメディもすごく好きで。僕が書いたものをこんなに正確に面白く具現化してくれる俳優さんに初めて会った気がしています。僕の脚本をさらに何倍にも面白くしてくれるし、本当にびっくりしました。若い方なのにこんなに力を持った方がいるんだなとすごく感じました。

◆神木隆之介が絶賛の豪華セット

― 先程、1980年代の渋谷についてもお話いただきましたが今回はセットで当時を完全再現されたんですよね。すごく豪華だとお伺いしましたが、実際に見られていかがでしたか?

神木:僕は初めて見たときは、「色が多いな」と思いました。看板とか光もそうですし、使っている色が今と違うところがすごく印象的でした。僕は夜のシーンが多かったんですが夜は散水車で道路を濡らしているんですよ。その水でネオンが路面に反射しているようになっていて、すごく綺麗だなと思いました。「AKIRA」(大友克洋による人気漫画)のようなノスタルジックな世界が大好きなので「すごく綺麗だな」と思って写真をいっぱい撮りました!景色が今とは全然違うので、この時代にも行ってみたかったなと思いましたね。


― なかなか令和にはない雰囲気ですよね!

神木:そうですね。怪しげな雰囲気って、何があるかわからないじゃないですか。危険があるのかもしれないし、楽しみがあるのかもしれないし…「怪しげな路地」という単語自体、今はあまりない気がするので「何があるかわからないけど行ってみたいな」というミステリアスなものは、すごく魅力的です。あのセットをフィルムカメラとかで撮ったらさらに綺麗に映るんじゃないかなと思います。

◆三谷幸喜、当時の自分に伝えたいこと

― 三谷さんはセットをご覧になっていかがでしたか?

三谷:当時の渋谷にタイムスリップした感じがしました。ストリップ劇場、その前に坂道、反対側に古いアパートがあって。そこの2階が劇場に出演するお笑い芸人たちの控え室になっていたんですよ。そこで僕が台本を作ったり、芸人たちが稽古をしたりとたむろしていました。

劇場の楽屋はダンサーの方がみんないらっしゃるから、芸人たちは弾き出されてその部屋に追いやられるんですよね。そこで稽古をして、出番が来たら階段を降りて外の廊下を通って劇場に入っていく。その感じが今回完璧に再現されていたので、僕はあの頃の自分に「この瞬間がいずれドラマになるんだよ」と教えてあげたい気持ちになりました。

― それだけ、三谷さんの実体験が詰まっているんですね。


三谷:そうですね。物語は9割フィクションなんですが、設定としてはほぼ実話に近い僕の体験談です。

― 当時を思い出しながら書かれたシーンもありましたか?

三谷:そうですね。もちろんそれもあるし、今回「舞台」というものがテーマとしてあるので自分が劇団を作った頃から今に至るまでの演劇界の裏側や体験したあらゆるエピソードを埋め込んだような気持ちで書いています。

― 貴重なお話をありがとうございました!

(modelpress編集部)

◆神木隆之介(かみき・りゅうのすけ)プロフィール

1993年5月19日生まれ。幼少に芸能デビューを飾り、子役として活躍。その後、ドラマ「学校のカイダン」(日本テレビ系/2015年)への出演をはじめ、主演作として2023年放送のNHK連続テレビ小説「らんまん」や映画「ゴジラ-1.0」(同年公開)、日曜劇場「海に眠るダイヤモンド」(TBS系/2024年)など数々の話題作で存在感を放ってきた。活躍は演技だけにとどまらず、ジブリ作品「千と千尋の神隠し」(2001年)、アニメ映画「サマーウォーズ」(2009年)、「君の名は。」(2016年)など声優としても類まれなる表現力を発揮している。

◆三谷幸喜(みたに・こうき)氏プロフィール

1961年7月8日生まれ。東京都出身。フジテレビ系「振り返れば奴がいる」(1993年)で連続テレビドラマの脚本家としてデビュー。その後「古畑任三郎」シリーズ(同局系/1994年~2006年)をはじめ、映画「ステキな金縛り」(2011年)、「記憶にございません!」(2019年)などヒット作を連発。
近年では、NHK大河ドラマ「真田丸」(NHK/2016年)や「鎌倉殿の13人」(同局系/2022年)、映画「スオミの話をしよう」(2024年)なども手掛けている。

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