吉川圭三[ドワンゴ 会長室・エグゼクティブ・プロデューサー]

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タレント・所ジョージについて考察してみたい。

「今更何で所さん?」・・・と思われる読者もいらっしゃるだろうが、スマップの中居正弘の番組「ナカイの窓日本テレビ)」のスペシャルに所さんが出ずっぱりで、たまたま自宅で見ていた筆者は引き付けられて最後までしっかり見てしまった。
所ジョージは、ヒロミ田村淳ロンドンブーツ1号2号)・田中裕二爆笑問題)等、並みいる「お笑い強者」に囲まれながら自然体ながらしっかり存在感を示していたからだ。

その番組での所さんの言葉が面白かった。テレビ収録には「カンペー(カンニングペーパーの略)」というものがあり、司会者の語るべき言葉を大きな文字で書いて秘かに見せるという手法がある。

しかし、所さんは

 「僕はカンペーは絶対見ない」

と言う。皆が「何で」と聞くと、

 「その時、カメラから僕の視線が外れるからだ。カンペーを使った場合、お茶の間の人たちは、あ、見てるなと思うだろう。コメントが頭に入っていない。それは失礼だ」

いいかげんそうに番組を進行しているかに見える所さんは意外と筋金入りのプロだった。

テレビ局に来て、いつもの和室の楽屋に入ってくるとデーン寝ころび台本を1回読む、これで全て頭に入ってしまう。ゲストについてもいつの間にか必要最低限の情報は知っていて、前回出たときの会話も記憶しているので前回聞いた話は絶対聞かない。意地でも聞かない。

もう一つの所さんの言葉。


 「意識しているとすれば茶の間。茶の間の人がどうやって楽しんでいたり、どんな心持ちで見ているか?をかならず意識している」

この言葉、言う人によってはイヤミな言葉に聞こえるかもしれないが、所さんはサラッと自然体で言う。

つまり番組全体のことを考えて、いろんな事を言ったりやったりはするが、それを「お茶の間」に放ったときにどういう効果・影響・反響があるか客観視しながら出演しているということだ。

所さんはある意味変人だし、人が思いつかないような発言をすることがあるが、OA(オンエアー)ではほとんど使える。お茶の間に流せる。見ている人の気持ちがほぐれるようなことを言うのだ。

そして最近の所さんの傾向。

 「番組収録でVTRを長く回せばよいと言うものでもない。僕の番組は出来るだけ生放送のような完パケの様に撮りたい」
 「ひな壇に一杯タレント・芸人を入れている番組は出来ない。僕はゲストは少人数で一人一人の持ち味を生かせるようにしたい」

・・・最近のテレビ屋には耳に痛い話である。

制作者は不安だから、そして演出意図もあまりないから、それを解消すため「オイシイ・アドリブ」を求めてカメラを長く回しがち。またゲストも「なぜこんなに?!」と思うほど多数のタレントをブッキングし、ひな壇に並べる。
制作者の潜在的な不安感を消すために、テレビ画面を大勢のタレントで塗りつぶすように。

所さんのその「無駄排除の精神」は映画監督・黒澤明の遺作「まあだだよ(1993)」でも生かされる。

自宅で脚本を読み演技プランを練った所さんは、ふら~とスタジオに現れる。おそらく黒澤さんに丁寧に挨拶した後、リハ本番となるのだが、ベテラン役者が黒澤さんに大声でダメだしをされている中、所さんは完璧でほとんど監督からのNGはなかったという。

所さんはゴマをするようなタイプでないが、「まっとうな仕事」で黒澤明のお眼鏡にかなったのだ。晩年の黒澤監督は本番以外のときも所さんとリラックスしていたという。

拓殖大学中退だから物凄く勉学にいそしんでいたわけではないし、元々ミュージシャンだから大師匠に笑いを教わったわけでない。

ただ当代一流の脳みそを持っているのは明らかだろう。余計な本を読んだりはしないが、時々「一流の哲学者」のようなことをいうのだ。自動車・模型・庭いじり・趣味が広いし、ある種、自分自身をブランド化してしまった。これも芸能界では走りだ。

沖縄の広大な別荘も惜しげもなくテレビに映したりするが、「タケちゃんが映画で爆破しようとしたんだよね」などと言って皆が驚いていると、

 「別荘が爆破された。
とか番組で言えるから面白いじゃん」

などと言って笑ってるが憎めない。

日本テレビでは「世界まる見え!テレビ特捜部」「笑ってコラえて」「所さんの目がテン」と20年以上続く番組の司会を続ける所さんだが、こうした番組を見ると所さんがお茶の間にスーッと入ってきていつの間にか始まっていることが多い。

しかし、それは所さんが偶然にそうなっているからそうなったわけではなく、意識して茶の間になじもうと意図的に努力した結果なのだ。

若いテレビマンはこんな素晴らしき所ジョージと面白い仕事できるのかな? 長い間、所さんがいる風景が日常的になってしまった今、筆者は所さんの凄さに今更ながら驚嘆するのであった。

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