私が勤める地域包括支援センターでは千葉県の南西部にある富津地区を担当しています。この地域では、2019年台風15号による長期の停電、断水を経験しました。
ライフラインが断絶することによる日常生活の支障は想像を絶するものでした。昨今の大雪被害でも同様のことが起きていたのではないでしょうか。
しかしこういった事態は何も災害時だけに起こるとは限りません。認知症などによって、請求書が届いても適切に対応できなかったり、交通手段がなく自身で支払うことができないこともあります。
今回は、日常的にライフラインのリスクを伴う高齢者について考えてみたいと思います。
一人暮らし高齢者が繰り返し電気を停められたケース
当センターで見守り支援を行っている一人暮らしのAさん(90歳・女性)のケースです。Aさんは、電気料金の未払いにより危機的な状況になりました。
Aさんは、統合失調症と思われる妄想から近隣住民とのトラブルが絶えず、介護サービスを拒否していたため、支援者がいない状態でした。
また、あるときは銀行に対して一方的に不信感を抱き、年金が振り込まれる通帳から電気料金や電話料金、水光熱費など引き落とし口座へと預金を移動しなくなっていました。
Aさんは、かろうじて地域包括支援センターにSOSの連絡はできていました。ボランティアが週3回安否確認の電話をしてくれていたのですが、そこで電話がつながらなかったり、電気が止まっていることを確認していました。
ある真夏の日、ボランティアの安否確認の電話により停電していることがわかりました。
当時、センターでは電気料金は銀行引き落としになっていると把握していたため、なぜ電気が止まったか理解できずにいたのですが、「銀行には行かない」と言い張り、料金が引き落とされていないことが原因だと判明しました。
このときは、真夏だったので熱中症で命の危険もありました。そこで、まず室内の風通しを良くし、一緒に買い物に行って食料を確保。水分補給をしてもらい体調の悪化を防ぐことから支援を開始しました。
その後、電気料金の振込用紙を探してコンビニエンスストアで支払い。電気会社に送電開始の連絡をして事なきを得ました。
このケースの場合、銀行への妄想から支払いに支障をきたしました。しかし、再度銀行引き落としの手続きを提案しても一向に首を縦に振ってはくれません。
電気料金、電話料金を銀行引き落としにするまで根気強く説得を繰り返し、何とか了承を得られました。
その手続きから約2ヵ月後、預金通帳を記帳し、銀行引き落としになったことを確認した直後、今度は真冬の夜半に突然停電したのです。
このときは本人が通りがかりの住民に助けを求め住民から区長に連絡。区長から包括支援センターに連絡が入り、すぐに駆けつけました。
到着したときにはAさんの体はすっかり冷え切っていました。すぐにポストを確認し請求書を発見。再びコンビニで料金を支払い、送電再開の連絡をしたところ、ほどなく電力は復旧し、最悪の事態を回避できました。
銀行引き落としの手続きをしたにもかかわらず、なぜ停電をしたのかと頭を抱えました。
この後延々と1年前の未払い分の請求書が届き、そのたびにコンビニ支払いをするという支援をしています。
高齢者のライフラインの供給状況の確認を
このように、認知症や精神疾患を持つ高齢者は、各種料金の支払いなどに課題が生じやすいのです。電気料金を例にすると、次のような課題が考えられます。
特に電力復旧のための電力会社への連絡は、認知症などをもつ高齢者には非常に困難な作業です。
そのため、支援が必要になりますが、一人暮らしや身寄りがないという状況では身近な人からの支援が難しくなります。
電力、ガス、水道の供給停止は高齢者の生命にかかわる大きな問題です。特に、一人暮らし高齢者の未払いがあった場合は、単にお金がなくて支払っていないと各業者が判断するのではなく、別の対応を考えることも必要だと感じました。
一人暮らし高齢者の支払いが滞っている際に考えられることこのような視点から、何らかのアクションを取る体制を整備していただきたいと切に願います。そのためには行政や地域包括支援センターなどと連携を深めることが大切ではないかと考えます。
もしご家族に一人暮らしの高齢者がいる場合は、定期的に連絡をしてライフラインの状況を確認しておくことをおすすめします。
ライフラインが止まってしまったという状況に遭遇したら、今回挙げた例のように、まずは正しく料金を支払えているか確認すると良いでしょう。