「加齢とともに舌が白くなってきた」
「以前より口臭が気になるようになった」
このように感じることはないでしょうか。
その原因は舌に堆積した「舌苔」である場合も多いです。
今回は、舌苔の解説とあわせて、舌のケアについてお伝えします。
舌が白い原因
舌の色は、皮膚の色と同じように年齢や貧血などの病気、舌苔や喫煙の有無などによって個人差が出やすいものです。
東洋医学では、舌の色は診断に重要な役割を果たしているとも言われており、白い舌は血の不足を示す特徴の一つだと考えられていたりもします。
舌の色は、さまざまな影響で変化します。しかし、舌が白く見えている場合は、舌苔(ぜったい)が堆積している可能性があります。
舌苔は、糸状乳頭※に、口腔内の粘膜についていた上皮細胞や粘液、食べ物の残りカス(食物残差)や多量の細菌が落ちて、苔のように堆積したものによって生じます。
※舌に最も多く存在する舌表面に見られる粘膜の突起のこと。舌をザラザラにして食物をなめとりやすくする働きがある
しかし通常、舌苔は、舌自体の運動や舌と口蓋の接触、また食べ物が舌の表面を移動する際の力などにより流されていきます。
そのため、糸状乳頭も再生されやすく、容易にはがれていき、舌苔が堆積することを防いでいます。
白い舌の原因が舌苔の場合は、糸状乳頭と付着物という2つの要素や、口腔周囲の機能などがからみ、舌苔が堆積した状態である可能性があります。
高齢者の舌苔の特徴
高齢者は、舌苔が増えやすくなるという特徴があります。
なぜなら、糸状乳頭の代謝が低下しやすく、はがれにくくなるとともに、口の周囲の筋力低下や、病気や薬の影響による唾液量の減少も加わり、舌苔が洗い流されにくくなるためです。
また、洗い流されなかった糸状乳頭は厚く長く伸びてしまい、さらに食物残差や細菌などの付着物がたまりやすくなるので、次第に厚い舌苔になることもあります。
舌苔のデメリット
舌苔は細菌の塊であるため、口腔内が不潔になるだけでなく、口臭や味覚を阻害する原因にもなります。
口臭の原因は、歯垢や口腔内の汚れ、歯肉炎などの疾患も考えられますが、日本歯科医師会によれば6割程度は舌苔が口臭の原因になっているとされています。
また、舌の上に舌苔が多くあると、食べ始めに苦味を感じたり、本来の味がわからないなど、味覚を阻害されることもあり、食事をおいしいと感じにくくなることもあるので注意が必要です。
舌のケア
舌の清掃物品
舌の清掃には、舌ブラシやスポンジブラシ、ガーゼなどを使用します。舌ブラシは、ブラシタイプ、ヘラタイプ、ヘラ+ブラシのタイプなどがあります。
ブラシがついている、ブラシタイプやヘラ+ブラシタイプは固すぎないものを選ぶことをおすすめします。
また、歯ブラシを使用する場合は、舌をブラッシングしても痛みが生じない、やわらかい毛先を選びましょう。
舌の清掃方法
舌の清掃は、舌ブラシを奥から手前に動かして舌苔を除去していくことが基本となります。
しかし、舌の奥はむせやすく、嘔吐反射が誘発しやすくなっており、注意が必要です。
舌を出すことが可能な方の場合は「ベーと舌を出してください」と声かけをして、口から出してもらった舌の部位を奥から手前にケアすると嘔吐反射を誘発せずに舌の清掃がしやすくなります。
また、舌苔をすべてきれいに除去しないといけないと思っている方がよくいますが、舌は刺激に弱くデリケートなので、何回も続けてケアを行うと舌を傷つけてしまう可能性があります。
健常な人の場合でも、通常は舌の表面の真ん中あたりが、うっすらと白くみえるものです。
1回に5回程度の舌ブラシなどのケアにとどめ、すべての舌苔を1回のケアで除去しようと思わないようにしましょう。
乾燥した状態で舌苔がついている場合、舌ブラシなどで除去しようとすると、舌が傷つきやすくなります。
乾燥した状態であれば、口腔内保湿剤を使用したり、湿ったガーゼで湿潤させてから、やわらかくなった舌苔を少しずつ除去していくようにしましょう。
このように、舌のケアは愛護的に行うことが大切になります。
口腔ケアの一つとしての舌の清掃
舌苔の原因となる口腔粘膜の汚れは、歯周病やむし歯が背景になっていることもよくあります。
舌の清掃だけでなく、歯を磨くこと、歯間ブラシなどで歯間のケアを行うこと、また義歯のケアを日頃からしっかりと行うことが予防として有効です。
毎日のケアとあわせて舌の清掃を行い、総合的な口腔ケアの一つとして舌の清掃を行いましょう。

黒い舌の場合
舌苔には白色だけでなく、時に黒いものが生じることもあります。
舌苔が付着している状態の方が、抗菌薬やステロイド薬などを使用すると、菌交代現象※により、糸状乳頭の表面やすき間に積もった舌苔の細菌が黒色の色素を産出し、それが黒色になることがあるからです。
※正常な菌叢の減少などにより、通常では存在しない・あるいは少数しか存在しない菌が異常に増殖し、正常な菌叢が乱れる現象のこと
また、黒色の舌苔は、飲食物の色素や薬物による着色、喫煙などが原因となっていることもあります。
そのため、原因を見極めてからの対処が必要になります。舌苔が原因である場合は、上記の舌の清掃を行いましょう。
もし黒い舌苔の除去が日常的なケアで困難な場合は、医療機関スタッフなどに相談したり、歯科での専門的口腔ケアを受けると良いでしょう。
まとめ
舌苔の付き方で舌などの口腔周囲の機能がわかることもあります。
脳卒中などで麻痺がある方は、舌の左右どちらか片側だけに舌苔が多いということもあります。このような場合、舌苔がある側の口腔機能が低下していることがあります。
次のような状態であれば、かかりつけ医への受診をおすすめします。
- 舌苔が急激に増えてきた
- 口腔ケアを行っても舌苔がすぐ増えてしまう
- 左右のどちらか片側だけに舌苔がついている
舌苔の予防は清掃だけでなく、しっかり口を日常的に動かすことも大切です。
人と会って話す時間をもつこと、しっかり食事をとることも忘れないようにしましょう。