子どものころに、水ぼうそう(水痘)にかかった経験をお持ちの方も多いと思います。皮膚に発疹ができる水ぼうそうは、子どもがかかりやすい感染症の一つで、水痘帯状疱疹ウイルスによって発症します。

帯状疱疹は水ぼうそうと同じウイルスによって引き起こされる感染症です。

水ぼうそうは、水痘帯状疱疹ウイルスに初めて感染した場合に発症します。健常な子どもであれば、重症化することなく治癒します。しかし、一部のウイルスは皮膚から体内に侵入し、神経の奥深くに潜むことがあります。何らかの原因でウイルスが再び活性化すると、帯状疱疹が引き起こされるのです。

近年では、帯状疱疹の発症を予防する新しいワクチンも開発されました。

この記事では、帯状疱疹の原因や症状、そして帯状疱疹を予防するためのワクチンについて解説します。

50歳を超えると帯状疱疹にかかりやすくなる?

水痘帯状疱疹ウイルスに初めて感染した場合は、水ぼうそうを発症します。しかし、水ぼうそうが治癒した後も、ウイルスの一部は神経細胞の奥深くで休眠状態となります。休眠状態となった水痘帯状疱疹ウイルスは、症状を引き起こすことなく休眠し続けることもあれば、数年後に再び活性化することもあります。

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神経の奥深くに潜んでいた水痘帯状疱疹ウイルスが活性化すると、神経を伝わって皮膚に戻り、痛みのある発疹を引き起こします。この発疹は、神経にそって帯状に発生するために帯状疱疹と呼ばれるのです。一般的に、帯状発疹は体の左右片側だけに生じます。

症状の多くは上半身に現れますが、顔や目の周りにも現れることがあります。

一生のうちで帯状疱疹を発生する確率は20~30%と言われています。しかし、50歳を超えると、その発生確率は急激に上昇し、85歳では50%に達します1)。

香川県に在住している50歳以上の12,522人を対象とした調査2)では、帯状疱疹の年間発症率は、男性で1,000人あたり8.5人、女性で1,000人あたり12.8人と、男性よりも女性で1.5倍多いという結果でした。年間発症率を年齢別に解析すると、50~59歳で1000人あたり9.2人だったのに対して、70~79 歳では1000人あたり12.9人と、70代の年間発症率は、50代の1.4倍でした。

治癒後も痛みが続く帯状疱疹後神経痛

帯状疱疹は、軽く触れただけでも激しく痛むことがあります。痛みを伴う発疹自体は3~5日ほどで治癒しますが、後遺症として帯状疱疹後神経痛を発症することも少なくありません。

一般的には帯状疱疹の発症から3ヵ月を超えて痛みが続いてる状態を帯状疱疹後神経痛と呼びます3)。

先ほどご紹介した香川県の調査2)では、帯状疱疹を発症した人の19%で、帯状疱疹後神経痛を発症しており、その年間発症率は1,000人あたり2.1人でした。

また、北海道の釧路市で行われた調査4)では、60歳以上の帯状疱疹患者412人(平均71.7歳)を分析したところ、9.2%にあたる38人が帯状疱疹後疼痛を発症していました。この調査において、帯状疱疹後疼痛を発症しやすい要因は、次のような結果になりました。

  • 男性であること(女性と比べて2.5倍多い)
  • 年齢が70~74歳であること(60~64歳と比べて3.5倍多い)
  • 免疫機能を抑える薬を服用していること(服用していない場合と比べて6.4倍多い)
  • 肩とひじの間(上腕)に発疹が発生していること(上腕に発生していない場合と比べて3.5倍多い)

さらに、この調査の解析対象者は、平均で5.7回の外来診察を受け、このうち3.4%にあたる27人が入院を経験していたと報告されています。帯状疱疹を発症した場合、医療機関への通院期間は決して短くないものと考えられます。

帯状疱疹になりやすい人は?

帯状疱疹は歳を重ねるごとに発症しやすくなりますが、水痘帯状疱疹ウイルスが再び活性化する直接的な原因ついては、不明な部分も少なくありません。ただし、糖尿病、腎臓病、喘息、リウマチなどの持病をお持ちの方や、ステロイド剤やリウマチの治療薬など、免疫の機能を抑える薬を服用している場合では、より帯状疱疹を発症しやすくなることが知られています5)。

また、近年では新型コロナウイルス感染症と帯状疱疹の関連性についても研究が報告されるようになりました。例えば、50歳以上の39万4,677人を対象とした米国の研究6)によれば、新型コロナウイルス感染症と診断されたことのない人と比べて、新型コロナウイルス感染症と診断された人では、帯状疱疹の発生率が15%高くなりました。

帯状疱疹を予防するためのワクチンの効果は?

帯状疱疹の発症を予防するワクチンとしては、水痘ワクチン(商品名:乾燥弱毒生水痘ワクチン「ビケン」)と帯状疱疹ワクチン(商品名:シングリックス)の2種類があります。

50歳になったら気をつけたい帯状発疹 症状や原因、2種類のワクチンの違いを解説
画像提供:Illust AC

水痘ワクチンは、毒性を弱めた水痘帯状疱疹ウイルスそのものを主成分とする生ワクチンです。このワクチンは、水ぼうそうを予防するためのワクチンとして、子ども中心に広く接種されてきました。しかし、2016年には50歳以上の成人に対する帯状疱疹の予防にも使用できるようになりました。

60歳以上を対象に実施された海外の研究データ7)によれば、水痘ワクチン接種から約3年において、帯状疱疹の発症を51.3%低下させ、帯状疱疹後神経痛の発症を66.5%低下させることが報告されています。また、50~59歳を対象に実施された海外の研究データ8)では、ワクチン接種から約1年において、帯状疱疹の発症が69.8%低下しました。

帯状疱疹ワクチンは2018年に承認された新しいワクチンで、ウイルスそのものではなくウイルス成分のタンパク質を主成分とする不活化ワクチンです。海外の研究データによれば、帯状疱疹ワクチンの有効率は50歳以上で97.2%、70歳以上で89.8%と、水痘ワクチンよりも高い予防効果が報告されています9)10)。

水痘ワクチンと帯状疱疹ワクチン、どっちを摂取すべき?

水痘ワクチンと帯状疱疹ワクチンの主な違いを下表にまとめます。

一般名 水痘ワクチン 帯状疱疹ワクチン 商品名 乾燥弱毒生水痘ワクチン「ビケン」 シングリックス 有効率* 50~59歳:69.8%
60歳以上:51.3% 50歳以上:97.2%
70歳以上:89.8% 接種できない人 ・明らかな発熱がある人
・重い病気を患っている人
・妊娠していることが明らかな人
・免疫機能に異常のある人
・免疫機能を抑える薬を飲んでいる人 ・明らかな発熱がある人
・重い病気を患っている人 接種回数 1回 2回
通常、2ヵ月の間隔をおいて、6か月以内に2回目を接種 費用の目安** 1回6000~8000円 1回1万8000~2万5000円を2回

*感染症の発症率が低下する度合い。

数値が高いほど予防効果が高い
**医療機関によって異なります。また自治体によって公費助成を受けることができる場合もあります。

水痘ワクチンは免疫機能が低下している人や、リウマチの治療薬など免疫の機能を抑える薬を飲んでいる人は接種できません。一方、帯状疱疹ワクチンは免疫の機能にかかわらず接種が可能です。

帯状疱疹の予防に対する効果は、水痘ワクチンよりも帯状疱疹ワクチンで優れているといえますが、ワクチン接種にかかる費用の高さがデメリットです。また、水痘ワクチンであれば1回の接種で完了しますが、帯状疱疹ワクチンは2回の接種が必要となります。

とはいえ、水痘ワクチンや帯状疱疹ワクチンには、帯状疱疹の発症のみならず、帯状疱疹後神経痛の予防効果も期待できます。持病をお持ちの高齢者は帯状疱疹を発症しやすく、帯状疱疹後神経痛を予防する意味でも、積極的なワクチン接種が推奨されます。

【参考文献】
1) Infect Dis Clin North Am. 2017 Dec;31(4):811-826.
2) J Epidemiol. 2015;25(10):617-25.
3) Korean J Pain. 2015 Jul;28(3):177-84.
4) J Dermatol. 2017 Apr;44(4):414-422.
5) Open Forum Infect Dis. 2020
6) Open Forum Infect Dis. 2022 Mar 9;9(5):ofac118.
7) N Engl J Med. 2005 Jun 2;352(22):2271-84.
8) Clin Infect Dis. 2012 Apr;54(7):922-8.
9) N Engl J Med.2015 May28;372(22):2087-96.
10) N Engl J Med. 2016 Sep15;375(11):1019-32.