- 介護ロボット活用の実態
- 厚生労働省が進める取り組みの現状
- 介護事業所に対する支援策
- 介護ロボットが変えるリハビリの未来
リハビリ用ロボットや介護ロボットといったテクノロジーの活用は介護現場を革新する柱として期待されています。今後、労働生産人口が減少する日本において需要が増していく可能性が高いでしょう。
介護ロボットの普及率は、全国的に見ればそこまで高くありませんが、局所的には高まっている地域も存在しています。それらのモデル事例を参考に介護業界の未来を見据えて行動することは、とても重要です。
普及が進めば、いずれ要介護者や家族にとっても身近な存在になることでしょう。
今回は、介護現場におけるロボットとテクノロジーの活用について、厚生労働省や経済産業省の取り組みを踏まえつつ網羅的に解説します。
介護ロボット活用の実態
公益財団法人介護労働安定センターが全国の施設を対象に行った『令和元年度介護労働実態調査』によると、介護ロボットと分類される機器の導入率は、施設型の見守り・コミュニケーション機器が3.7%と最も高い数値を示しています。
この結果だけを見ると普及はすすんでいないように見えますが、地域によって大きな差がありそうです。
例えば、福岡県北九州市の行った『介護ロボットの導入状況などに関するアンケート調査(令和2年度)』では、介護老人福祉施設において介護ロボットの普及率は45.7%と、全国調査とは異なる結果が得られています。
さらに、同市では、2018年度に同様の調査を行った際の普及率が36.3%だったため、約10ポイントも上昇していることがわかります。
最も普及している「見守り機器」
『令和元年度介護労働実態調査』と『介護ロボットの導入状況などに関するアンケート調査(令和2年度)』の2調査のどちらも、最も導入されている介護ロボットは見守り機器でした。
見守り機器は、主に転倒につながる動作を検知する機械です。中でも、離床センサーに分類されるマットセンサーが代表的です。
マットセンサーは、ベッドの脇や下に設置し、圧力がかかるとナースコールなどで知らせてくれる機器です。利用者から離れた場所にいる職員でも、早い段階で駆けつけることができ、転倒を防げる可能性が高まります。
見守り機器に分類される介護ロボットはマットセンサー以外にも多くの種類があります。
- ビームセンサー
- 赤外線センサー
- クリップセンサー
- 車椅子センサー
- バイタルセンサー
- タグセンサー
- シルエットセンサー
それぞれメリットとデメリットはありますが、基本的には対象者の動きを感知して、職員に知らせてくれる機能が特徴です。
見守り機器を使うことで、介護事故で最も多い転倒・転落の予防につながるため、重要度が高いと認識されやすいのでしょう。
予算が介護ロボット普及の壁
『令和元年度介護労働実態調査』によると、介護ロボットを導入しない事業所については「介護ロボットを導入する予算がない」という回答が55.3%と最多でした。次いで「清掃や消耗管理などの維持管理が大変である」が26%と続きます。
どちらの回答も予算の兼ね合いで普及が浸透していない状況が明らかになっています。
ただし、予算のほかにも『介護ロボットの導入状況などに関するアンケート調査(令和2年度)』では次のような回答がありました。
- 機能面:投資対効果が期待できない
- 情報不足:充分な情報がなく検討段階まで達しない
- 優先度:介護ロボットより優先順位の高い課題が多い
- 設置スペースの問題:介護ロボットを設置するスペースがない
厚生労働省が進める取り組みの現状
厚生労働省は「介護現場革新の取組」を2018年度から行っています。
- 2018年度:介護現場革新の準備段階として情報をまとめる
- 2019年度:複数の地域で介護現場革新のテストをしてみる
- 2020年度以降:各地域でモデルになる施設を作り、他施設に介護現場革新の取り組みを伝える
この流れからわかるように、介護ロボットの普及率が高まっていくのは2020年度以降になるのは明らかで、これから徐々に普及率が改善することが期待されます。
一方で、介護ロボットのメリットや介護現場革新を実感できてないという事業所も多くあります。
革新に向けての取り組みは、各事業所において行われることなので、特に変化もないまま、現状に至っているケースもあるでしょう。
現在もまるで変化がない事業所は、2018年度の取り組みから振り返ることが大切になります。
革新を推進する背景と目的
厚生労働省が介護現場の革新を推進する目的は、大きく少子高齢化と、それに伴う働き手の減少への対応です。
要介護者が増加する一方、介護職が減少していくので、現場の効率化が急務です。
そこで次のような事柄を重要視しています。
- 介護現場のマネジメント
- 介護業界のイメージ改善
- 介護人材の確保と定着促進
厚生労働省は、これらを成し遂げる道標として『業務改善の手引き』を公開し、各事業所において職場環境を改善するように発信してきました。
パイロット事業の実例
『業務改善の手引き』や『厚生労働省における介護ロボットについての取組』で、介護現場革新の先進事例が挙げられています。成果については、厚生労働省が重要視しているポイントに沿って「介護の質向上」もしくは「量的な効率化」を挙げています。
そこで紹介されているICTと介護ロボットを活用した事例をみてみましょう。
アズハイム練馬ガーデンの事例 課題 職員の業務のうち「定期巡視」が1日5時間を占めていることがわかり、職員の負担軽減のために定時巡視業務の改善が必要だった。 解決のステップ- 従業員満足度調査や定例ミーティングなどで、経営層から現場職員まですべての者の意見を集約して「夜間の定時巡視」の改善に取り組むことを決めた
- 「夜間の定時巡視」の課題を解決し、行政の了解を得るために「センサーの正確性が認められていること」や「安否確認の要件を満たすこと」を基準として機器を選定した
- 職員にシステムの活用法を指導するため、介護IT担当者を配置した
- 職員の理解を得ながら円滑にシステムを導入するために、システムが正確に作動することを職員が実感し、職員のシステムに対する信頼感を高めた。そのうえで、実際に「睡眠状態が覚醒状態になった際に訪室する」といったオペレーションを導入した
- 成果
- 質の向上:夜間の定時巡視により利用者を起こしてしまうことがなくなり、深夜帯は7割以上の利用者が就寝している状態になった
- 量的な効率化:利用者の状況をシステムで把握できるようになったため、1日5時間かけていた定時巡視の時間を0時間まで削減した
引用:より良い職場・サービスのために今日からできること(業務改善の手引き)
この事例では、睡眠状態を把握できる見守り機器を活用することによって、利用者の睡眠の質が向上され、職員の見守り業務の負担を軽減できました。
介護事業所に対する支援策
厚生労働省は、近年になって導入への支援策を拡充しています。次に挙げるのはその一例です。
- 介護ロボットの導入支援事業
- ICTの導入支援事業
- 介護ロボットの導入補助金の引き上げ
- 見守りセンサーの導入に伴う通信環境整備に係る補助金の引上げ
- 1事業所に対する補助台数の撤廃
- 事業主負担を2分の1負担から都道府県の裁量で設定できるように見直し
また、2021年度の介護報酬改定からも介護ロボット・テクノロジーの活用による介護の質向上や業務効率化への期待が秘められていることがわかります。
例えば、見守り機器を導入した場合の夜間における人員配置加算の見直し・人員配置基準の緩和が、同時に盛り込まれました。これには、人員数を増やさず最新テクノロジーで対応するように促す狙いがあります。
介護ロボットが変えるリハビリの未来
厚生労働省と経済産業省は、介護ロボットの開発重点分野として「移動支援の装着機器」と「排泄支援の動作支援機器」を挙げています。
これらの分野は、リハビリを直接行う介護ロボットで、今後の動向に注目が集まっています。
しかし、移動支援や排泄支援の介護ロボット導入状況は『令和元年度介護労働実態調査』によると0.3%以下と非常に低く、普及までに時間がかかっています。
リハビリ用ロボットの代表例
リハビリテーション分野でも歩行動作をアシストする移動支援のロボットが活用されており、代表的な物に「ロボットスーツHAL(R)」が挙げられます。
ロボットスーツHALは、身体機能の改善や再生が期待されると説明されており、治療的側面が強い機器です。
ただし、リハビリテーションは機能回復のみが目的ではありません。リハビリテーションの目的は全人間的復権とされており、その意味は「障がいを持った方が能力を発揮して人間らしく生きること」と解釈されます。
必ずしも機能回復がすべてではありません。治療を目的としたロボットの活用のみでなく、ロボットを使用しながら生活をしていくことが大切になります。
例えば、筋電義手という腕の筋肉が活動するときに発する電場の変化を感知してモーターで義手を動かすタイプのロボットが挙げられます。これを用いれば、義手によって両手を使えるようになる可能性が高まります。
以上のように、リハビリ用のロボットには治療的側面と生活支援的側面が含まれています。
移動支援ロボットの実例
これまではどちらかといえば治療的な側面を持つロボットにスポットライトが当たっていました。
一方、「移動支援の装着機器」や「排泄支援の動作支援機器」のイメージは、生活支援的側面を持つロボットです。
介護保険適用で移動支援を補助してくれるロボットの代表例として電動アシスト付きの歩行車の「ロボットアシストウォーカー」が挙げられます。
「ロボットアシストウォーカー」は、坂道でも快適に歩けることが特徴です。また、センサー機能によるブレーキやアシスト、速度設定、自動ブレーキなどの安全機能や、買い物カゴを載せるスペースなど、生活支援のための機能が数多く付いています。
今後、介護現場革新の鍵を握るような製品です。高齢者の外出をサポートし、転倒予防や歩行の補助が期待できるでしょう。
ただ、安全に使用するためには、利用者の身体機能と機器の安全機能を総合的に把握することが重要です。適切な知識を身につけた理学療法士を含むリハビリ専門職とともに、活用していくようにしましょう。
介護現場に必要な変わろうとする意志
介護ロボットやテクノロジーの活用は、介護の担い手が少ない中で介護の質を維持・向上する柱の一つです。
介護ロボットやテクノロジーは導入費用が高くなりがちですが、長期的にみると、人件費などのランニングコストを抑える効果もあります。少ない人材で効率的な介護を実現する可能性を秘めているでしょう。
しかし、介護現場では介護ロボットなどの最新テクノロジーに対する拒否感が根強いのも事実です。予算以外にも「使い方がわからない」「介護は人がやるもの」という意識も強く、導入に至らないケースもあります。
しかし、働き手が少なくなる近い未来に対応するためには、介護現場の改革が不可欠です。
もちろん活用する現場における機器のマッチングは重要課題になりますが、変化に対応していく長期的な視点が重要ではないでしょうか。
介護現場の変化は、介護を担う一人ひとりの「変化しよう」という思いがなければ実現されません。
介護の質を落とさず、どうやってすべての要介護者を支えていくべきか、真剣に考えるべき時が迫っています。
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