介護現場では有休を取得するのが難しい
日本デイサービス協会が政府に対して問題提起
2019年4月から、働き方改革の一環として有給休暇(有休)を年5日取得するように義務づけられました。これにより、各企業では有休取得を推進するため、さまざまな取り組みが行われています。
厚生労働省の2020年の調査によると、改定前と改定後では有給取得率が3.9%上昇しています。
介護事業所でも同様に労働環境改善や新たな仕組みを取り入れるなどの改革が進められていますが、思わぬ障壁に頭を悩まされています。
それが各事業所に設けられた人員配置基準です。介護事業所は一般企業と異なり、サービスの質を担保するため、各事業所で勤める介護職員の人数や有資格者の配置などが定められています。
この現状を踏まえ、日本デイサービス協会は、先月21日、配置が義務づけられている有資格者の確保が困難であることを訴えました。介護事業所では配置義務のある有資格者が有休を取得する場合、同等の資格者を代わりに配置する必要がありますが、その代替要員を確保するのが難しいのです。
同協会は、結果として有資格者の有休取得が進まず、労働環境の改善を阻む要因となっていると指摘しています。
デイサービスにみる人員配置基準の難しさ
人材不足が深刻な介護事業所において、有資格者の確保は懸念事項のひとつです。
例えば、デイサービスでは利用者のリハビリなどを担う機能訓練指導員の配置が義務づけられています。機能訓練指導員になれる資格は以下の7つのうち、いずれかの資格を有していることが条件になります。
- ①理学療法士
- ②作業療法士
- ③言語聴覚士
- ④看護師(准看護師含む)
- ➄柔道整復師
- ⑥あん摩マッサージ指圧師
- ➆鍼灸師
機能訓練指導員になる人が有している資格は、「看護師」が65.6%で最多となっており、次いで「理学療法士」が11.5%、「柔道整復師」が10.7%、「作業療法士」が6.1%と続きます。
出典:『介護給付費分科会第128回資料』(厚生労働省)を基に作成 2022年03月11日更新主な資格である看護師は一般病棟でも不足が叫ばれており、介護事業所でも確保が困難になっています。2018年には鍼灸師が新たに追加されましたが、実務経験などの条件に見合った人材を見つけるのは簡単ではありません。
このように、有資格者の代替要員を確保するのは難しく、すでに現場で働いている有資格者の負担が重くなっています。
有休取得を促す取り組み
有休取得をためらう理由
一般的に、有休取得を阻む要因として有休を取得しづらい労働環境が指摘されています。
厚生労働省の調査によると、年次有給休暇の取得に「ためらいを感じる」「ややためらいを感じる」と回答した割合は52.6%を占めています。
ためらいを感じる理由として、「みんなに迷惑がかかると感じるから」「後で多忙になるから」「職場の雰囲気で取得しづらいから」といった理由があげられています。

このように、有休を取得できないのは、職場の労働環境や雰囲気が大きな要因となっています。人材が不足している介護事業所で、一般企業よりもそういった風潮が強まることは想像に難くありません。
実際に介護事業所における有休取得日数は、少ない傾向にあります。厚生労働省の「令和3年就労条件総合調査」によると、全産業の平均有休取得日数が10.1日、平均取得率は56.6%でした。
一方で、介護労働安定センターの「介護労働実態調査」によると、介護事業所での取得日数は7.2日で、取得率は50.4%となっています。全産業と比較すると、取得日数で約3日、取得率で約6%低くなっていることがわかります。
有休取得率向上に向けた介護事業者の取り組み例
こうした課題をクリアするため、介護事業所でも有休取得を促進する取り組みが行われています。
訪問看護や居宅介護支援などを行うアオアクアでは、社員を対象に休暇取得の満足度や課題を把握するアンケートを実施。休み方などの実態把握を行い、新たな課題を見つけては対策を講じています。
中でも、効果を発揮しているのは個人単位での年次有給休暇管理表です。
そのため、なかなか年次有給休暇を取得できていない社員がいれば、管理職から声かけを行ったり、社内の全体連絡でも残りの日数を伝える取り組みを行っています。
これらの取り組みによって、同事業所では年次有給休暇取得率100%を達成しています。
介護現場での有休取得率向上のために必要なこと
有資格者の確保に向けた潜在看護職員の活用
介護事業所特有の問題である有資格者の確保には、課題が山積しています。
例えば、機能訓練指導員に必要な資格でもある看護師は、長らく不足が指摘されており、3年後には6.1万~27.3万人が不足すると推計されています。その一方で、看護師資格を有しているのに、就業していない潜在看護師は約71万人に上ると見込まれています。
大阪府の調査によると、潜在看護師が復職できない理由は、「夜勤ができない」42%、「急な休みが取れない」29%、「子どもを預けるところがない」が19%と、労働環境による理由が多く挙げられています。
他にも「現在の医療技術についていけない」という理由が30%と、一度離職してしまうと、復職までのハードルが高いと感じている人が多くいることがわかります。
一方で、復職を希望する潜在看護師の割合は85%に上ることも明らかにされています。

こうした潜在看護師に向けて、各都道府県には「eナースセンター」が設置されており、看護業務に復職した看護師に奨励金を給付するなどの施策を行っています。
資格を持った人材を生かす策として、潜在看護師の復職を推進させることが重要です。
官民ともに有休を取得しやすい体制づくりを
各事業所では、有休を取得しやすい職場環境や制度づくりが進められています。
しかし、人員配置基準などの制度がこうした取り組みを阻害する要因となり、事業所だけで条件をクリアすることは困難です。
こうした不具合はデイサービスだけでなく、さまざまな事業所で生じている可能性は否めません。
現状で、人員配置基準と有休取得の義務付けという2つの制度が矛盾していることは明白です。
国は実態把握を急ぎ、改めて制度を見直すことが求められています。介護業界の有休取得率を向上するためには、官民ともに改善の努力が必要です。