働く高齢者の賃金実態
働く高齢者は現在の賃金に満足していない?
近年、定年後や還暦になっても就労意欲の高い高齢者が増えています。こうした活動的な高齢者はアクティブシニアとも呼ばれ、注目を浴びています。
総務省の労働力調査によると、2020年時点で65~69歳の就業率は49.6%、70~74歳でも32.5%となっています。
しかし、就業している高齢者の多くは賃金に対して、満足していないそうです。
日本労働組合総連合会(連合)の実態調査で、高齢者に1ヵ月あたりの賃金はいくらくらいが適切だと思うか聞いたところ、回答は「5万円~10万円未満」(20.9%)、「10万円~15万円未満」(20.2%)、「15万円~20万円未満」(15.4%)に集まり、平均は16.8万円でした。
一方、現在の仕事についての満足度を聞いたところ、「働き方満足度」は70.3%に上ったのに対し、「賃金満足度」は44%にとどまっています。
つまり、多くの高齢者は現状の賃金に満足していないという結果が示されています。
働く高齢者の年収は平均で312万円
労働政策研究・研修機構が、65歳以上で働く高齢者の年収を調査したところ、「100万円未満」が6.3%、「100万~200万円未満」が11.6%、「200万~300万円未満」が20.4%、「300万~400万円未満」が 21.7%、「400万~500万円未満」が11.8%、「500万円以上」が9.4%となりました。
その平均値は312.3万円で、月収に換算すると約26万円。上述した連合の調査で判明した希望月収を10万円も上回っています。
出典:『高年齢者の雇用に関する調査』(労働政策研究・研修機構)を基に作成 2022年05月13日更新しかし、この調査は労働者を50人以上雇用している企業2万社を対象にしており、連合の調査と差が生じていると考えられます。
高齢者雇用の多くは非正規雇用です。高齢社会白書によると、その割合は男性で75%、女性で70%に達しています。先の調査からは、彼ら非正規雇用者の多くが漏れ落ちているものと思われます。
高齢者雇用には制約が多い
66歳になっても働ける制度のある企業は全体の約4分の1
政府は、高齢者雇用を安定させる目的で、企業に「高年齢雇用確保措置」を求めています。具体的な措置として次の3つが挙げられます。
- 定年制の廃止
- 定年の引上げ
- 継続雇用制度(再雇用制度)
厚生労働省の調査によると、これらの措置を実施している企業は、15万6,607社のうち99.8%に達しており、「継続雇用制度」が79.3%、「定年の引き上げ」が18.1%、「定年制の廃止」が2.6%となっています。

65歳以降の高齢者を雇用する条件
企業が高齢者を雇用するための条件の多くは、健康問題をクリアしていることです。
前述した労働政策研究・研修機構の調査では、高齢者雇用を実施している企業の8割以上は「健康上支障がないこと」「働く意思・意欲があること」を挙げています。
また、6割の企業が「会社が提示する労働条件に合意できること」「会社が提示する職務内容に合意できること」「出勤率・勤務態度」、4割強の企業が「現職を継続できること」「熟練や経験による技能・技術をもっていること」を基準にしていました。
このように、各企業では独自の基準を設けて、高齢者を雇用している実態が明らかになっています。
高齢者は雇用だけでなく起業でも貢献
高齢者の勤務実態と賃金
労働政策研究・研修機構によると、65歳以降でフルタイムで勤務していない高齢者の勤務時間は、「短日数・短時間(定年前より日数、時間ともに減る)」が50.7%、「短日数(定年前より日数が減る、時間は同じ)」40.1%、「短時間(定年前と日数は同じ、時間が減る)」が31.4%でした。
さらに、フルタイム以外で働く高年齢者が多い理由については、「高年齢者の就労ニーズ(日数・時間)の多様化のため」と「高年齢者の体力に配慮するため」を挙げた企業が6割前後を占めています。
こうした中、基本給の決まりを現役社員との違いでみると、「やや異なる」が13.9%と「異なる」が67.2%と8割以上を占めているのに対し、「同じ」(11.8%)と「やや同じ」(4.8%)は2割弱にとどまっています。
定年後の基本給水準は、平均すると定年前の67.9%となっており、高齢社員の多い企業ほど高くなる傾向があります。職種別ではサービス職型企業で高く、事務職型企業で低くなっています。
また、基本的に昇給の仕組みはないと回答した企業の割合は71.6%を占めていました。
このように、高齢者の賃金決定には制約が多く、増えることはほとんどありません。しかし、賃金に満足していない人が多いことも踏まえ、労働力の搾取になっていないかを検証する必要があるかもしれません。
高齢者の起業も増えている
国は高齢者雇用を促進する政策を貫いており、その成果は徐々に出ています。現状では、非正規雇用や定年まで勤めていた会社で継続雇用を受ける場合がほとんどです。
しかし、中には起業する高齢者もおり、その数は増加傾向にあります。
高齢社会白書によれば、15歳以上の就労者の中で65歳以上の起業者の割合は2007年で8.4%でしたが、2017年は11.6%に上昇しています。

こうした動きに合わせて日本政策金融公庫も高齢の起業家に支援金を出したり、民間でも起業に向けたサポートを行う団体もあります。
意欲の高い高齢者による起業が増えれば、社会へのメリットも大きくなります。高齢者雇用政策は「死ぬまで働かせる政策」と批判されることも多くありますが、社会参加は介護予防にも有効で、起業が増えれば雇用も増えます。
その意欲の高い高齢者が、どんどん活躍できる制度や環境づくりを今後も促進していくことが大切ではないでしょうか。