介護保険の要介護認定を効率化し、現場の負担を軽くすべきとの意見が提示
次期改定に向けた社会保障審議会・介護保険部会で議論がスタート
2022年9月6日、次期改正に向けた議論を行っている社会保障審議会・介護保険部会において、介護保険の要介護認定を効率化して、現場の負担を軽減できないかを検討していく意向が明らかにされました。
ここでの要介護認定の効率化とは、新規申請や更新申請、区分変更申請についての有効期限の上限拡大や、認定審査の簡素化のことを指します。
「有効期限が短く、すぐに更新作業が必要」「認定審査が複雑」だと、現場の事務作業はどうしても増えます。
要介護認定の申請件数は、高齢化の進展にともない、今後さらに増えていくのは確実です。その業務を効率化して現場の事務負担を減らし、制度としてより合理的に運用可能な制度設計を考えていくことは、介護保険制度における重要な課題といえます。
要介護認定とは?
そもそも要介護認定とは、どのくらい介護が必要なのかを段階別に認定することで、介護保険サービスを利用する上で必要となります。
認定を受けるには、住んでいる地域の市区町村自治体の対応窓口にて申請を行う必要があります。
申請の際には申請者本人の印鑑や写真付き身分証明書(マイナンバーカードなど)、主治医に関する情報などが必要です。窓口では申請書類をもらえるので、そちらに記入を行います。
書類提出後、行政から委託を受けた訪問調査員が申請者の自宅または入院中の病室を訪問し、心身状態や生活環境などに関する聞き取り調査を実施。
その後、コンピューターによる一次判定、さらに保険・医療・福祉の専門家が集まって検討を行う二次判定が行われ、申請時に提出された主治医意見書の内容も踏まえた上で、最終的な認定結果が出されます。
決定される要介護認定は、支援の必要なしと判断される「自立」、介護予防に取り組む必要があると判断される「要支援1~2」、要介護状態であると判断される「要介護1~5」のいずれかに判定されます。
各段階の数字は、重度の状態であるほど大きいです。なお、原則として申請者が役所で申請を行ってから認定結果の通知が行われる30日以内とされています。
要介護認定者の数は年々増えています。
要介護認定者数が増えると、事務作業もそれだけ増えていることを意味します。役所の窓口や要介護認定における審査の対応力には限界があるため、事務負担の軽減策を考えることはどうしても必要になってきます。
要介護認定における有効期限の上限延伸のこれまでの改定・議論
要介護認定の有効期間の上限延伸はこれまでも改定・議論が行われていた
要介護認定の更新期限については、現場の負担軽減を目的として上限延伸の改定がこれまでも行われていきました。
例えば2018年度(平成30年度)からは、有効期間の上限経過時点で要介護度が変わらない人の割合を踏まえた上で、更新期限が24カ月から36カ月に変更されています。
また、2021年度(令和3年度)からは、前回の認定時と要介護度が同じ場合に限り、更新期限は36カ月から48カ月まで拡大されました。
新規申請と区分変更申請については、現状では「標準6カ月、最大12カ月」のままで変更はされていません。
ただ、「令和3年度地方分権改革提案募集」(内閣府地方分権改革推進室が、今年2月~6月まで募集)で原則12カ月、上限24カ月にすべきとの意見があり、そのように改定を行うことが重点事項として選定されています。
今回、社会保障審議会・介護保険部会で議論・検討されているのは、2018年度、2021年度で改正されてきた更新期間の延伸化をさらに進めるべきかどうか、さらに地方分権提案募集で重点事項とされた新規申請・区分変更申請の延伸化を実現すべきかどうか、と言えるわけです。
要介護認定の更新期限延伸による効果
今後、さらに更新期限を延伸すべきかどうかを判断する基準を考える場合、これまでの延伸化によりどの程度の効果があったのかは重要な参考内容です。
先述の通り、更新申請の上限は2018年度(平成30年度)に24カ月から36カ月まで延伸されましたが、その影響・効果は実際のところ数値的にどうだったのでしょうか。
厚生労働省の調査によると、2018年度の時点で約550万件あった申請件数は、延伸されてから1年後の2019年度においては特に減少はしませんでした。しかしその後2020年度には、2018年度から約150万件減となる400万件まで減少しています。
もっとも、2020年度はコロナ禍による申請控えも影響(申請時に役所まで外出することを控える人が増加)しているとは思われます。しかし、延伸化が行われなかった新規申請の減少割合はわずかでしかないのに、延伸化が行われた区分変更申請は100万件以上も減少していました。この点を踏まえると、制度改定によって申請件数が減り、現場負担の減少効果が多分にあったと考えられます。
今後さらに更新申請の上限を拡大すると、1年度あたりの申請件数を減らし、それだけ現場の負担減少にはつながると予想されます。
現場の負担軽減に向けた取るべき方策とは
認定から申請まで30日以上かかっているケースが多数
要介護認定に関する現場の負担軽減において、申請期限の延伸化に並んでもう一つ重要なテーマとなるのが、認定プロセスをどこまで効率化できるのかという点です。
厚生労働省の調査によると、要介護認定の申請から認定までの平均日数は、2022年度の上半期で36.2日。過去5年間の平均でも35日以上かかっています。
先述の通り、制度上では要介護認定の申請から申請者への認定結果の通知までの期間は、30日以内とされています。しかし、平均で35日を下回ることがないことを踏まえると、多くの自治体で本来の日程通りで行えていないのが実情であるわけです。
一応、「遅れる理由を知らせれば、申請から通知までの期間を30日よりも延期できる」とのルールがありますが、そのケースが多数発生しているのが実態と言えます。こうした現状を見ると、やはり認定プロセスの効率化が必要とも考えられるでしょう。
業務効率化に向けて検討すべき課題
では、実際に認定プロセスを効率化するという場合、具体的にどのような方法が考えられるでしょうか。
2020年に厚生労働省の老人保健健康増進等事業としてみずほ情報総研株式会社が作成した「要介護認定業務の実施方法に関する調査研究事業報告書」によると、全国の市町村等に要介護認定の業務簡素化について必要な点を尋ねたところ(複数回答)、以下の様な回答が多く見られました。
- 現行の簡素化(各自治体が独自の要件を設けて取り組んでいる簡素化)を、正式に審査会を省略できる法改正をしつつ、対象者の要件を更に拡大する(46.4%)
- 新規・変更の有効期間(最長 12 ヵ月)の延長(41.4%)
- 介護認定審査会の意見を聞く(二次判定)ことを省略できる対象者要件を国が定め、二次判定を行うかどうかを保険者が任意で判断できるようにする(31.9%)
- 主治医の意見を聞く(主治医意見書の提出)ことを省略できる対象者要件を国が定め、主治医意見書の提出を求めるかどうかを保険者が任意で判断できるようにする(24.4%)
最多回答となったのは、すでに自治体が独自に行っている審査会の簡素化を正式に行えるように法改正し、簡素化できる対象者の要件を拡大することでした。
また、「二次判定」、「主治医の意見を聞く」といったプロセスについて、省略化要件を国が定め、それを踏まえて保険者(自治体)が行うかどうかを任意で判断できるようにすること、などの回答も多く見られます。
新規・区分変更・更新の有効期間延長も含めて、こうした現場の声を踏まえた制度改正を今後進めていく必要があるでしょう。
今回は次期改正に向けて、介護保険の要介護認定の申請作業を効率化し、現場の負担を軽減できないかが検討されているとの話題を取り上げました。
有効期間の上限拡大については、「介護サービスの提供内容を見直すタイミングを失う恐れがある」などの反対意見もあります。今後どのような形で議論が進められるのか、引き続き注目したいところです。