福山市が介護予防事業において成果報酬の導入化へ
結果重視の介護予防事業で健康づくりの効果アップを目指す
2022年11月初旬、広島県福山市が、介護予防の成果に応じて民間事業者に報酬を支払う「PFS(成果連動型民間委託契約方式)」の導入を目指す意向を明らかにしました。
介護予防の成果が出れば要介護者の減少につながり、ひいては自治体が負担する介護保険財源の出費を減らせます。
しかし、福山市では体操や交流サロンなど高齢者向けの「通いの場」の創出を介護予防事業として推進してきたものの、近年では参加者が減りつつありました。
同市によると、市内の要支援・要介護認定者数は、2021年時点では2万8,076人でしたが、このままいくと2035年には3万3,497人まで増えると予測されています。
出典:『福山市高齢者保健福祉計画2021概要版』(福山市)を基に作成 2022年12月01日更新市としては介護予防事業を運営している民間事業者に“PFS”を導入することで、民間のノウハウを活かして参加者を増やし、効率的な介護予防を実現させ、要介護認定者数の増加を抑制したいわけです。
一般介護予防事業とは?
一般介護予防事業とは市町村自治体が行う行政事業の一つで、市町村、地域の互助、民間事業者がそれぞれ役割を分担しながら高齢者の「通いの場」を充実させ、地域づくりの推進と合わせて介護予防の効果を高める事業のことです。
高齢者の「通いの場」とは、地域に住む高齢者が自由に集まって体を動かしたり、交流を図ったりする場所のことを指します。
かつては公民館や集会場など地域内の公的施設が通いの場の中心でしたが、地域内の企業にも役割を求める地域包括ケアシステムの推進に伴い、民間事業者の参画が拡大。現在ではカラオケ店、送迎付き温泉施設、薬局なども通いの場として認識されています。
このような場を地域内に設けることが、高齢者の介護予防につながるとして、現在全国の自治体で設置が進められているわけです。
そもそも一般介護予防事業が自治体で始まったのは、2015年の介護保険制度改正で創設され、2017年から全国の市町村でスタートした「総合事業」においてです。
総合事業は「介護予防・生活支援サービス事業(訪問型、通所型など)」と、「一般介護予防事業」とで構成され、一般介護予防事業で提供されるサービス(通いの場の利用)は、65歳以上であればどなたでも利用できます。
一般介護予防事業におけるポイントの一つが、民間事業者が関わっているという点。カラオケや温泉施設のような、行政だけでは取り組めない、民間事業者だからこそ提供できる介護予防にも取り組めます。
一般介護予防事業に導入される「“PFS”」とは?
PFS(成果連動型民間委託契約方式)とは?
一般介護予防事業に民間事業者を参画させる場合、一つ懸念点があります。
参画にあたって行政側は民間事業者に事業を委託する場合、その委託料として報酬を支払うわけですが、その際の支払い要件は「成果が基準を満たしているかどうか」のみです。
しかし、民間事業者としては基準さえ満たしていれば所定の金額を受け取れるので、基本的に必要以上の努力はしません。基準を満たすことを目的として事業を行う事業所も存在します。
そのため、民間事業者に対して、より質の高い一般介護予防事業を行おうというインセンティブは働きにくい仕組みになっています。
こうした状況を是正するために、現在自治体で導入されつつある制度が、PFS(成果連動型民間委託契約方式)です。
この制度では、基準さえ満たせば一定の報酬額を支払われるのではなく、民間事業者がもたらした成果を評価し、成果に連動して報酬額が決定されます。つまり、民間事業者は自治体から委託された事業の成果を高めるほど、報酬額もアップするわけです。
この報酬システムのもとであれば、民間事業者はより多くの報酬を得るために、より成果があり質の高い事業を展開しようとします。
例えば、カラオケ店の活用が一般介護予防事業の対象である場合、そのカラオケ店は介護予防の成果が出るように、より効果的な企画・取り組みを考えるようになるでしょう。
自治体で“PFS”が活用されるケースは年々増加
“PFS”の導入は、民間事業者の行政事業への取り組み意欲を向上させ、実際に成果を出せば報酬・収益アップも実現できます。
住民にとっても、サービス提供を行う民間事業者がより効率的・生産性の高い活動をしてくれることで、直面している課題の解決(一般介護予防事業であれば、介護予防の実現)をより効果的に行えるようになるでしょう。
行政にとっても、民間事業者のアイデア・資源を十分に活用した、より高い事業成果を期待できるようになります。“PFS”の導入は、民間事業者、住民、行政それぞれにとってメリットがあるわけです。
“PFS”を導入する自治体は年々増加しています。内閣府によると2020年度には68の自治体で実施例が見られるとのこと。全国の自治体数を踏まえると多いとまでは言えませんが、今後引き続き増加傾向は続くと考えられます。

一般介護予防事業で“PFS”を活用していく上での課題とは?
一般介護予防事業における“PFS”の導入事例
福山市は来年度から一般介護予防事業に“PFS”の導入を検討するとしていますが、介護領域における導入事例は、すでに他の自治体でみられます。
例えば大阪府堺市では、“PFS”を導入した「介護予防「あ・し・た」プロジェクト」を発足しています。従来の方式では介護予防事業のマンネリ化、参加者数減少が生じることを危惧し、“PFS”の導入による民間のノウハウの活用を決定。
その結果、介護予防の成果が高まり、約1億1,884万5,000円の介護給付費適正化効果があったと試算されています。
同市によると、“PFS”の導入により、従来型の手法では想像もできなかった、民間事業者ならではの魅力的な介護予防ブログラムが提案されるようになったといいます。
こうした介護分野への“PFS”の導入は、天理市、合志市、大牟田市、雲南市、大川市、奈良市、美馬市、滋賀県、品川区、川崎市、岡山市、福井県、江戸川区、名古屋市、豊田市などでも進められています(2020年度時点)。
“PFS”普及に向けた課題とは?
“PFS”は医療・福祉分野での導入事例が多く、内閣府によると、2020年度末時点での国内事例のうち、42%(32件)が「医療・健康」分野、24%(18件)が「介護」分野で、医療・健康・介護の分野だけで全体の6割以上を占めています。「まちづくり」分野は11件(14%)のみです。

高齢化が進む中、医療・福祉分野における施策の効率化は今後さらに必要となるため、さらなる“PFS”の活用、普及が期待されるところです。
しかし、介護分野で“PFS”を導入する場合、いくつか難点があります。
一つは、財源・恩恵の仕組みです。介護保険の財源は、保険料50%、国が25%で都道府県が12.5%、市町村が12.5%です。
例えば全国各地の市町村が“PFS”を導入して介護予防の成果を上げ、要介護者数を減らして社会保障費全体の削減に貢献しても、市町村が受ける削減の恩恵は自らが負担する12.5%分のみ。他の国・都道府県は、市町村の努力にフリーライド(ただ乗り)で恩恵を受けることになるわけです。
いわば、市町村が介護分野で“PFS”を導入することへの成果報酬のような仕組みがなければ、“PFS”を導入しようとする誘因が少ないともいえるわけです。
また、適切な目標設定と“PFS”への理解度促進も必要です。自治体が“PFS”の効果に期待をかけ、民間事業者のノウハウを過度に信じて背伸びした目標を設定してしまうと、結果として目標を達成できず、事業がなし崩し的に終わってしまう恐れもあります。
“PFS”の理解度を深めて、適切な目標設定・期待値を設けることも必要でしょう。
今回は介護予防事業における“PFS”の導入について考えてきました。課題もある中、今後“PFS”の導入が介護分野で広がっていくのかどうか、引き続き見守っていきたいです。