全世代型社会保障で高齢者の負担は増加傾向に

2024年から後期高齢者も出産育児一時金を負担

全世代型社会保障に関する議論が行政で活発に行われるなか、2024年から75歳以上の方が加入する後期高齢者医療制度から出産育児一時金の費用を一部拠出する仕組みづくりが進められています。

出産育児一時金とは、出産する人に対して一定の金額が支給される制度です。少子化が加速するなか、社会全体で子育てを支援するという目的があります。

2022年9月には少子化対策として、出産育児一時金の大幅な増額が議論されていました。

そこで問題となるのが財源です。後期高齢者保険制度ができる以前は、75歳以上も負担していた経緯から、2024年からの開始は大枠でほぼ決まりとなりました。

出産育児一時金の仕組みと経緯

現在、出産育児一時金の仕組みは、健康保険組合や国民健康保険などから拠出されています。

2019年度の支給額は合計で3,827億円。そのうち健康保険組合が1,247億円、協会けんぽが1,630億円を負担しています。

出産育児一時金を75歳以上の高齢層が一部負担へ⁉新たな制度の...の画像はこちら >>
出典:『第157回社会保障審議会医療保険部会 医療保険制度改革について』(厚生労働省)を基に作成 2022年12月13日更新

出産育児一時金が創設されたのは1994年のことでした。当時、支給される額は30万円でしたが、出産費用が増加していったことから2006年、2009年へと段階的に引き上げられ、現在は原則42万円になっています。

実際の負担はどれぐらいになる?

出産育児一時金にかかわる3つの論点

出産育児一時金について、厚生労働省で主な論点とされているのは次の3つです。

  • 出産育児一時金の引き上げ額
  • 後期高齢者医療制度は、現役世代の保険制度とは独立した医療制度となっているため、仕組みをどうするか
  • 妊産婦が適切に医療機関を選択することができるよう、受けるサービスに応じた出産費用の見える化
  • このように2024年からの導入という大枠は決まったものの、まだ越えなければならない課題は少なくありません。

    なぜこれほど急ぐかといえば、子どもの出生数がこれまでの予測よりも早く減少しているからです。

    厚生労働省によると、2022年1月~9月にかけての出生数は59万9,636人で、前年よりも約3万933人減少。2021年の出生数が約81万人だったので、2022年は80万人割れも危惧されています。

    出産育児一時金を75歳以上の高齢層が一部負担へ⁉新たな制度の影響・課題
    出生数の前年比
    出典:『人口動態統計速報(令和4年9月分)』(厚生労働省)を基に作成 2022年12月13日更新

    仮に80万人を下回れば、2017年に国立社会保障・人口問題研究所が発表した予測より8年も早く少子化が進んでいることになります。

    少子化が進むということは、現役世代が高齢者世代を支えるという従来の社会保障システムでは持続できないことを意味しています。

    そのため、現役世代の経済的負担を軽減する政策が早急に求められているのです。

    後期高齢者医療制度から7%を負担する

    後期高齢者医療制度は、高齢化による医療費の増加に対応するため、2008年に創設されました。この制度の主な目的は、75歳以上の高齢者医療を社会全体で支えていくというものです。

    この制度の財源は、75歳以上の高齢者が納めている保険料と現役世代からの後期高齢者支援金でまかなわれています。

    現在、出産育児一時金は、それぞれの健康保険組合が直接被保険者の費用を負担する仕組みをとっていますが、今後は後期高齢者医療制度にプールされた金額のうち7%を出産育児一時金に充てて、各組合に分配する仕組みに移行する予定です。

    後期高齢者医療制度に蓄えられた金額のうち、7%が出産育児一時金に充てられるイメージです。

    つまり、後期高齢者の保険料だけでなく、現役世代が負担している支援金の分も上がる可能性があります。これは2年ごとに改定される保険料に上乗せされる予定で、所得に応じて負担が増える応能負担になる可能性が高いと見込まれています。

    現役世代の負担は軽減されるのか

    出産育児一時金の増額分は決まっていない

    現在42万円に設定されている給付額をどれだけ引き上げるかはまだ決まっていません。金額を決めかねているのは、出産費用が都道府県によって異なるからです。

    厚生労働省の調査によると、出産費用の全国平均は45万4,994円。最も高いのは東京都で56万5,092円に上る一方、最低となった鳥取県は35万7,443円となっています。実に約21万円の差が生じているのです。

    そのため、出産育児一時金を全国一律で引き上げるのか、地域の実情に合わせて引き上げるのか議論が行われているのです。

    病院での出産費用の内訳が「見える化」する?

    また、現在の給付の仕組みにも問題があるとされています。出産育児一時金は、各健康保険組合などから医療機関に直接支払われ、被保険者は出産費用と出産育児一時金の差額分を受け取る仕組みになっています。

    例えば、先に述べたように東京都では出産費用に約56万円かかるので、42万円では14万円不足します。この分は自費で支払う必要があります。対して鳥取県では出産費用が約35万円ですので、被保険者は退院後に9万円を受け取ることができます。

    厚生労働省ではこうした仕組みになっている以上、医療機関側が出産費用の内訳を正確に開示するいわゆる「見える化」が必要であると考えています。

    そもそも内訳が開示されていなかったのも問題ですが、今後は具体的にどの程度費用がかかるのかを知ったうえで、出産育児一時金を活用できる仕組みになると考えられます。

    また、出産育児一時金は被保険者が直接申請をしないといけないため、まだ活用が進んでいないという課題もあります。国民への周知を含めて、今後は出産に関する経済的負担をできるかぎり少なくしていく方向性で議論が進められるでしょう。

    後期高齢者医療制度から拠出するというと、高齢者の負担がまた増加すると考えがちですが、現役世代も一定程度の割合で負担が増えます。

    今回の見直しは社会全体で子育て世代を応援していく仕組みづくりだといえるでしょう。

    編集部おすすめ