介護事業所の倒産件数が過去最多に!

負債総額は4倍超に急増

東京商工リサーチは、2022年1~9月の「老人福祉・介護事業」の倒産件数が100件と発表しました。この調査は毎年定期的に行われており、倒産件数は前年同期比の約2倍となる過去最多を記録しました。

その負債総額は191億9,100万円で、前年から4倍以上に急増しています。

介護事業者の倒産が前年の2倍に!コロナ禍の影響は深刻だが、そ...の画像はこちら >>
出典:『「介護事業者」の倒産が過去最多 価格転嫁が難しく、大規模な連鎖倒産も発生』(東京商工リサーチ)を基に作成 2023年01月12日更新

業種別では、デイサービスが深刻です。大規模なグループの連鎖倒産が発生したこともあり「通所・短期入所介護事業」だけで45件(前年比13件増)と急増。「有料老人ホーム」も10件(同2件)と増加しています。

この状況を受けて、東京商工リサーチは「過去最悪のペース」と表現しています。

倒産の多くは小規模事業者

倒産の原因別にみると、最多は売上不振の58件で、前年比で56.7%の増加になりました。次いで、他社倒産の余波が21件、既往のシワ寄せと事業上の失敗が各6件、設備投資過大が5件、偶発的原因が2件と続きます。

売上不振については、コロナ禍前の水準に利用者が戻らなかったことが大きかったと分析。新型コロナによる利用控えや感染防止対策の費用負担、昨今の物価高など、複合的な要因が絡み合って倒産につながっているとしています。

また、倒産した事業所は9割以上が破産に至っており、民事再生で再建を目指す事業所はわずか3件にとどまりました。

そもそも破産した事業所の多くは小規模事業所です。従業員が5人未満の事業所が54件で最多を占めており、5人以上10人未満が24件、10人以上20人未満が11件と続きます。

介護事業者の倒産が前年の2倍に!コロナ禍の影響は深刻だが、それでも国が動かないワケ
倒産した事業所の規模別割合
出典:『「介護事業者」の倒産が過去最多 価格転嫁が難しく、大規模な連鎖倒産も発生』(東京商工リサーチ)を基に作成 2023年01月12日更新

ぬぐい切れないコロナ禍の影響

2023年からは特別貸付の返済も始まる

新型コロナが猛威をふるった2020~2021年、政府はさまざまな支援策を打ち出しました。介護事業所もこうした支援策を活用しましたが、なかでも目玉となったのが、実質無担保・無利子の「ゼロゼロ融資」という特別貸付です。

これにより、条件を満たした零細企業や個人事業主に最大6,000万円、中小企業には最大3億円が借りられました。

たとえ返済が滞ったとしても、元本の8割から全額を信用保証協会が立て替えてくれるというものです。この貸し付けによって多くの事業者が倒産を免れたとされています。

この「ゼロゼロ融資」の返済は2023年5月から始まります。基本的に利子の部分は返済しなくてはなりませんが、実際にはその準備すらままなっていない企業も多いようです。

コンサルティング会社のPMGパートナーズが、ゼロゼロ融資を受けた中小企業に行ったアンケート調査によると、返済に向けた対策をしていない企業は37.6%にのぼっています。

これは一般企業へのアンケート調査ですが、利用控えなどが相次いだ介護事業所でも同様のケースが当てはまるでしょう。

ほかにも、コロナ禍で行われたゼロゼロ融資以外の貸し付けの返済も2023年から始まります。そのため、2023年は介護事業者にとって試練の年になるかもしれないという専門家もいます。

今もコロナ以前の利用率を下回っている

介護報酬は利用者が増えれば増えるほど利益が上がる構造になっていますが、逆に利用者が減少すると一気に苦境へ追い込まれることを意味しています。

特に著しく利益率が下がっているのがデイサービスです。福祉医療機構の調査によると、2020年度のデイサービスのサービス活動増減差額比率(介護事業における利益率)は、前年度より2.4ポイント低下しています。

利用率は、事業規模の小さな地域密着型で2.2ポイント低下、大規模型で4ポイント以上低下しています。

これはコロナ禍における数値ですが、まだまだ回復の兆しが見えていないという事業者も少なくありません。

このままいけば、利益が上がらず、利払いの返済に追われる事業者が増える可能性があります。

国の支援が積極的ではない理由

利用率が上がっている施設もある

しかし、すべての施設において利用率が低迷しているわけではありません。

先述した2020年度の通所介護の経営状況をみてみると、2019年度の利用率に比べ、15.7%の施設では前年度よりも利用率が5ポイント以上も上がっていることがわかっています。

こうした事業所ではコロナ禍においても積極的に利用者獲得の取り組みを実施していました。以下の取り組み例は、福祉医療機構のアンケートの回答から要点をまとめたものです。

  • 自宅に籠っていることから発生するリスク等を利用者・家族に丁寧に説明して利用率を向上した
  • 臨時・追加利用を積極的に受け入れた
  • 感染に注意しながらレクリエーションを行い、利用者の口コミで友人が登録した
  • 利用者に提供する活動の見直しをして、利用者の選択肢を増やした

このように、事業者の中でも取り組みによって生産性を高めている事業者とそうでない事業者との間で格差が広がっており、今後もこうした傾向は強まっていくものと見られます。

小規模事業者の淘汰はやむを得ない!?

そもそも国は介護事業所の大規模化を狙っており、生産性の低い小規模事業者の淘汰はやむを得ないと考えている節があります。

国が大規模化を進める方針をとっている理由は、大規模な事業者のほうが利益率が高く、安定した経営ができるからです。そのため、2024年度の改定では大規模で生産性の高い事業者に対する介護報酬を上げて優遇すると見込まれています。

つまり、小規模事業者の倒産が増えるのは国の方針によるところが大きく、またコロナ禍による支援で財政的にも余裕がないため、積極的な救済に動く見込みは限りなく低いといえるでしょう。

今後はいかに利益を上げていくか小規模事業者にとっては厳しい競争が待ち受けています。生き残っていくためには質の高いサービスを提供しつつ、利用者を増やす取り組みをするほかありません。

編集部おすすめ