企業と従業員をつなぐ"ワークサポートケアマネ"
介護支援専門員協会がワークサポートケアマネ制度を開始
日本介護支援専門員協会は2022年12月から親などの介護と仕事の両立を支援する「ワークサポートケアマネジャー」の取り組みを本格的に開始しました。
一般的なケアマネは介護保険制度に精通したプロフェッショナルではありますが、介護休業制度や企業法務について専門的な知識を携えているわけではありません。
そこで、日本介護支援専門員協会は、従業員の介護と仕事の両立を支援する専門的なケアマネを育成するため、指定研修を受講し、認定された者だけが得られる資格として「ワークサポートケアマネジャー」を創設。
これまでも介護と仕事の両立を支援する「産業ケアマネ」などの民間資格はありましたが、会員数約3万人からなる日本最大の協会団体が動き出したことで、より広く普及する可能性があります。
「ワークサポートケアマネジャー」は、依頼を受けた企業を支援するという特徴があります。一般的なケアマネは、要介護者や家族に対してケアプランなどを提案したり、日頃の制度活用をサポートしています。
一方で、「ワークサポートケアマネジャー」は企業にアドバイスしたり、制度理解のサポートなどを行う立場となっています。
実際に企業などと契約を結ぶのはケアマネが所属する居宅介護支援事業所です。契約に伴う報酬も、仕事内容などに応じて個々の事業所が交渉して決定する方針です。
そのため、これまでの業務と兼務することも可能で、各事業所で柔軟な対応や運用ができるようになるでしょう。
背景にある介護離職問題
「ワークサポートケアマネジャー」が注目される背景には、介護離職問題への対応の遅れが挙げられます。
政府は仕事と育児・介護の両立を支援する「育児・介護休業法」を1995年に施行。次のようなさまざまな制度を整備しています。
介護保険制度も含めてこうした制度が設立されてから20~30年が経過しますが、介護はいまだに「家族が負担するもの」という価値観が根強く、介護を理由に現在就いている仕事を辞めてしまう介護離職者が後を絶ちません。
明治安田総合研究所がまとめた資料では、介護離職者の数は10万人程度から減らない傾向があると指摘されています。
また、総務省が5年に一度実施する「就業構造基本調査」(2017年)によれば、2016年10月から2017年9月までに「介護・看護のため」という理由で離職をした人は 9.9万人。
そのうち男性が2.4万人、女性7.5万人と女性が約8割を占めていることもわかっています。過去の推移をみても、介護離職者が減っていないことは明白です。
支援制度の活用が進んでいない理由
企業トップの認識が甘い
こうした現状を受けて、各団体でも介護離職防止への啓発活動などを展開しています。
経団連では、2018年に各企業における取り組みの現状を調査。それによると、介護離職者の把握に取り組んでいる企業は67.5%に上り、介護に直面した際に会社に相談するよう働きかけている企業も66.4%と半数以上を占めています。
しかし、こうした取り組みは人事担当部門が実施しているにすぎず、経営トップから具体的なメッセージを発信している割合は30.2%にとどまっています。

また、管理職が介護に直面した場合に、業務体制を維持できるよう取り組みを進めている企業も35%と低い割合になっています。
このように各企業での取り組みは企業全体に及んでいるわけではなく、人事担当部門が個別的に対応している実態が浮かびあがってきます。経団連に所属する企業は大企業がほとんどですので、中小ではこれよりも進んでいないことは容易に想像できます。
企業の支援制度を活用できていない
企業による働きかけが弱いため、従業員でも公的な制度活用が進んでいないことがわかっています。
厚労省が正社員、有期契約労働者、介護離職者を対象に行ったアンケート調査では、介護を始めてから勤務先の制度を利用していないと回答した割合が最多でした。
また、介護のために勤務先の制度を利用しなかった理由では、正社員、有期契約労働者、介護離職経験者のいずれも「介護休業制度等の両立支援制度が整備されていなかったため」が最多で、それぞれ35.5%、22.2%、38.3%に上っています。

このように、そもそも企業における両立支援が進んでいないことがわかっています。
ケアマネが一般企業にもかかわる必要性
現状ではケアマネも両立が難しいと考えている
では、こうした現状をケアマネはどう捉えているのでしょうか。
総務省が行ったアンケート調査で、ケアマネを対象に「仕事と介護の両立についての認識」について尋ねたところ、「勤め先の支援制度と介護保険サービスを活用することで、両立はある程度可能だと思う」と回答した割合が37.9%に達する一方で、「勤め先の支援制度と介護保険サービスのどちらにも問題があり、両立は困難だと思う」と回答した割合も30.8%に上りました。
また、「勤め先の支援制度に問題があり、両立は困難だと思う」と回答した割合も14.9%を占め、何らかの問題があって両立が困難だと回答しているケアマネの割合は半数以上を占める結果となりました。
その理由として、企業・従業員ともに周知の遅れが大きいと考えるケアマネが約9割もいます。しかし、現状ではケアマネが介護離職に直面しても、企業に働きかけることは難しいので、防止には至っていないようです。
ケアマネが仲介して実情に合わせた支援を行う
つまり、介護離職防止のための取り組みを行っているという企業は多いものの、就業規則に盛り込んでいるだけだったり、人事部によるセミナーの開催などにとどまっているのが実態だと考えられます。
経営トップも本腰を入れていないので、企業による支援制度は整備が進まず、仮に創設されていても利用には至っていません。
しかし、少子化が進展した今、企業の人手不足は深刻です。ICTによる効率化を進めても、せっかく育てた人材が流出してしまうのは損失でしかありません。
そこで、ケアマネが企業と従業員の双方を支援して制度の創設をサポートしたり、従業員へのケアをアドバイスするのは企業にとっても有益です。
「ワークサポートケアマネジャー」が普及すれば、今後企業や介護者にとって大きな役割を果たすかもしれません。