注目を集めている福祉ネイリストという専門職

福祉ネイリストとは

介護分野では、介護施設で入居者に「福祉ネイル」を施す「福祉ネイリスト」という働き方に注目が集まっているのをご存じでしょうか。

福祉ネイルとは、高齢者・障害者に対してネイルを施すサービスのことです。指先がきれいになることで自分に自信を持つことができ、さらにユマニチュードや回想法によるコミュニケーションを行いながら施術するので、精神面のケアに対する効果も期待できます。

高齢者を対象とする場合、施術場所は主にデイサービスなどの通所施設、特養などの入所施設です。

「福祉ネイリスト」は一般社団法人日本保険福祉ネイリスト協会が認定する資格であり、資格取得者は福祉ネイルの専門職として認知されます。

もともと、2014年に福祉ネイリストを育成する目的で「シニアメンタルビューティー協会(SMBA)」が設立され、その後2018年に、「一般社団法人日本保健福祉ネイリスト協会(JHWN)」へと改名されました。

2021年時点で福祉ネイリストとして働く人は全国で約1,000人。現在も増え続けています。

高齢者の指先をネイルできれいに!ネイル需要が福祉施設で急増し...の画像はこちら >>
出典:「一般社団法人日本保健福祉ネイリスト協会」のホームページ、「週刊高齢者住宅新聞Online」(2021年5月9日)を基に作成 2023年02月07日更新

福祉ネイリストの仕事内容と彩爪介入

通常の「ネイリスト」は、サロンなどに来店する顧客に対してマニキュアやジェルネイルなどを施す専門職であり、そこで重視されるのは爪を美しく見せるための技術、アート性と言えるでしょう。

一方、福祉ネイリストの場合、マニキュアで爪をきれいにする点では同じですが、そこで重視されるのは出来上がりの美しさだけではありません。

利用者である高齢者とコミュニケーションを取ること、高齢者の体に合った施術方法を取ることなども重視されます。

そのため、福祉ネイリストにはネイル関連の知識のみならず、介護に関する専門知識を身に付けることも必要です。

日本保健福祉ネイリスト協会では、福祉ネイリストの使命について「美容を通じて感動を与えること」と位置付けています。高齢者の方にネイルを施し、一人でも多くの方に笑顔になってもらうことが福祉ネイルの目的であるわけです。

定期的に施設を訪問して寝たきりの方にネイルの施術をする、ターミナルケアの一環として施術をする、あるいは亡くなられた方に対して施術をするなど、全国各地の福祉ネイリストは多様な活動に従事しています。

福祉ネイルは認知症ケア、QOL向上に貢献

福祉ネイルとユマニチュードの考え方との類似性

福祉ネイリストが高齢者にネイルを行う際、その手に触れ、コミュニケーションを取りながら施術を行いますが、この方法は認知症ケアの手法であるユマニチュードと類似点が多いと言われています。

ユマニチュードとは、「見る、話す、触れる、立つ」をケアにおける4つの柱とし、認知症の人の尊厳を保ちながらコミュニケーションを取る介護手法のことです。

認知症は症状によっては暴言、暴力、徘徊、妄想、弄便などが見られ、介護を受ける側と介護をする側との意思疎通が困難になることも少なくありません。

ユマニチュードでは言語・非言語の両方によるコミュニケーションを通して認知症の方との関係性を構築。良好な関係の中で援助を行うことをケアの目的としています。福祉ネイルの手法も、このユマニチュードの考え方と重なる部分は多いです。

例えば福祉ネイルでは、施術をする際に福祉ネイリストと高齢者が面と向き合って座り、美しく彩られた爪を一緒に見つめ合いますが、これはユマニチュードにおける「見る」の介護手法と合致します。

同様に、福祉ネイルでは高齢者と「話し」をし、手に「触れ」、さらに施術を行うブースまで「立って」歩いて来てもらいます。

こうした一連の動作は、ユマニチュードの介護手法そのものと言っても過言ではありません。

現在日本では認知症の患者数は年々増えています。

『平成29年度高齢社会白書』によると、認知症になった人の数は2012年時点で462万人、2020年で602~631万人となり、2025年には675~730万人、2030年には744~830万人と年々上昇していくと試算されています。福祉ネイルが認知症のケアにも有効となるなら、今後さらに重要性が増すのは間違いないでしょう。

高齢者の指先をネイルできれいに!ネイル需要が福祉施設で急増しているワケ
認知症の患者数の推移
出典:『平成29年度高齢社会白書』(内閣府)を基に作成 2023年02月07日更新

身だしなみへの関心はQOL向上につながる

さらに福祉ネイルには、高齢者が自分の見だしなみへの関心を高める効果も期待できます。

高齢者が自分の身だしなみに無関心になることは、老年医学の分野では脳の老化、認知症の前触れを示唆しているとの認識が一般的となりつつあります。

そうした中で健康寿命の延伸、生活の質を高めるための手段として理美容分野への注目が高まり、福祉ネイルもその一角を占めているのです。

爪がきれいに彩られていれば自分への自信につながり、外出意欲を高めたり、人との交流意欲が高まったりします。そのような気持ちを持ち続け、実際に行動を続けることは、生活の質(QOL)の向上にもつながるでしょう。

また、福祉ネイルが他の理美容と異なる点として、「洗っても落ちない」という点があります。化粧やヘアスタイルは洗顔や入浴によりリセットされますが、爪のネイルは手を洗ってもすぐには落ちず、少なくとも数日は持続可能です。

それだけ他の理美容サービスよりもQOL改善効果が長持ちすることになり、この点は福祉ネイルが持つ利点といえます。

福祉ネイリストの意義となる方法

福祉ネイルで介護予防、重度化防止

福祉ネイルを通して高齢者のQOL向上を実現できれば、介護予防・重度化防止にもつながります。

日本全体で社会保険料の増大化が懸念される中、医療費・介護費がかかる寝たきりなどの重度者を減らしていくことは将来的により重要となるでしょう。

厚生労働省のデータによれば、2020年度末時点で要介護認定を受けている人の割合は、要支援1~2が全体の28%、要介護1~2の軽度者が37.6%、残りの34.4%は要介護3以上の重度者です。

高齢者の指先をネイルできれいに!ネイル需要が福祉施設で急増しているワケ
要介護認定における各段階の割合
出典:『令和2年度介護保険事業状況報告(年報)』を基に作成 2023年02月07日更新

社会保障費の増大化を踏まえると、効果的な介護予防・重度化防止に取り組み、「要支援1~2」の人を要介護状態になることを防ぐこと、さらに「要介護1~2」の人を「要介護3以上」の重度化への移行を防ぐことの意義は大きいといえます。

福祉ネイルもまた、そのために貢献できる取り組みの一つであるわけです。

実際、福祉ネイリストの資格を持つ作業療法士が福祉ネイルを行い、「認知症短期集中リハビリテーション実施加算(240単位/日)」を得た事例もあります。

介護予防・重度化防止に関連付けることで加算にもつながり、介護施設としての収入アップも期待できるでしょう。

福祉ネイリストになるには?

福祉ネイリストになるには、日本保健福祉ネイリスト協会が認定する全国36カ所の専門学校にて、3時間×7日間の知識・技術面での講習を受ける必要があります。

講習の中では、高齢者の病気に関する知識や、施術時の注意点などが含まれ、「福祉」ネイリストとなるための専門知識・スキルを学ぶことが可能です。

講習を終えたら実技と口述の卒業試験を受け、それに合格したら実際に介護施設などへ講師と一緒に訪問して実地研修を受講。研修を終えたら、協会から資格認定証が晴れて交付されます。

一見大変そうには見えますが、1日3時間の講座を1週間受けるだけなので、他の福祉系の資格に比べると取得までの時間がはるかに短時間です。資格取得後は協会の認定校から仕事の紹介などのフォローも受けられます。

なお、日本保健福祉ネイリスト協会によると、福祉ネイルの仕事はボランティアのネイルとは異なり、対象者様から料金を頂くのが基本とのことです。介護職が取得すれば、業務の幅を広げられるでしょう。

今回は福祉ネイリストについて注目し、その仕事内容や意義、なるための方法について取り上げました。ネイリストは若い女性にも人気の職業。

注目度がさらに高まれば、福祉ネイリストになりたいと考える若者は今後増えていくのではないでしょうか。