大阪府が介護職員に1万円のギフトカードを贈呈
2022年度中に支給され、2023年3月31日までに支給完了
大阪府が府内にある介護・障害福祉施設で勤務する職員に対し、2022年度中(3月31日まで)に1万円のギフトカードを配布する施策を実施し、現在注目を集めています。
申請は個人からではなく介護事業者からのみ可能です。支給対象となるのは2022年4月1日から2023年1月1日までの間に、大阪府内の施設・事業所にて10日以上勤務実績のある介護職員および障害福祉職員です。
勤務していれば職種は関係なく、常勤はもちろん、非常勤で働いた人も支給対象です。
支給対象となる勤務先は、介護職の場合だと特別養護老人ホーム、介護老人福祉施設、介護医療院(介護療養型医療施設)、養護老人ホーム、ケアハウス、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、訪問介護、デイサービス、小規模多機能、ショートステイなどほぼすべての施設です。
いわゆる介護職が勤務している施設・事業所であれば、基本的に対象であると考えてよいでしょう。
申請は2023年1月17日開始で、2月15日が締め切りでした。該当する人は勤務している(もしくは勤務していた)施設・事業所から連絡が来ていたと思いますので、申請はできたのではないでしょうか。
大阪府が50億6,000万円の補正予算を組んで実施
今回のギフトカード配布は、物価高の支援策、新型コロナで負担が増えていることへの支援という観点から決定された施策です。
大阪府は2022年11月25日の府議会・議会運営委員会の場で、2022年度の406億8,000万円の補正予算案を提示。その中に、50億6,000万円の予算で介護・福祉職員へのギフトカード支給が含まれたわけです。
これまで大阪府では、新型コロナの感染拡大により、医療従事者に対しては特殊勤務手当1日3,000円を支給し、さらに感染拡大期が生じるたびに支援金(3万円~20万円)を支給する施策が行われていましたが、福祉職員への支援は今回が初めてのことです。
介護分野については、待遇の低さに対する現場からの不満感が大きいのが実情です。
公益財団法人介護労働安定センターの「令和3年度介護労働実態調査」によると、介護職(n=1万9,925)に対して「労働条件・仕事の悩み」に関するアンケートを取ったところ、最多回答は「人手が足りない」(52.3%)だったものの、2番目が「仕事のわりに賃金が低い」の38.3%でした。
これは、「身体的負担が大きい」(30.0%)、「健康面(新型コロナ)の不安がある」(28.1%)よりも高い割合です。
なお、「人手が足りない」は仕事の悩みに該当するので、「労働条件」という点では賃金の低さが最多回答と言ってよいでしょう。
待遇への不満感が大きい中、今回の大阪府の支給策は少しではあってもその解消にもつながる施策といえます。
出典:『令和3年度介護労働実態調査』(公益財団法人介護労働安定センター)を基に作成 2023年02月21日更新介護人材不足が深刻な中、支援策の意義は大きい
介護職の離職率は全産業平均を上回る
介護職における待遇への不満が高まっている中、離職率も依然として全産業平均を上回っているのが現状です。
「令和3年度介護労働実態調査」によると、介護職員と訪問介護員の2種合計の離職率は14.3%。そして「令和3年度雇用動向調査結果」によると、全産業平均の離職率は13.9%。約0.4ポイント上回っています。

先のアンケート結果では、労働条件の悩みとして「仕事のわりに賃金が低い」との回答が多くなっていましたが、その内容を踏まえると、待遇の低さが離職率の高さに大いに関連していると考えられます。
介護職の離職率は、介護報酬における処遇改善加算の施行などの影響もあって、毎年少しずつ下がりつつあります。しかし、他産業に比べると高い水準にあるのは間違いありません。
介護分野は利用者とのつながりを大切にする必要のある職であり、「親しかった職員が急に辞めた」となると、利用者の精神面・健康面に動揺を与えかねません。離職率を減らすことの重要性は、他の産業よりも高いといえます。
訪問介護員の有効求人倍率は14.92倍
離職率が高くてもそれを補う新規雇用者を確保できれば、人材の流動性が高いのみであり、業界として人手不足の問題に陥る心配はありません。しかし、介護分野は新規雇用が思うようにできないのが実情です。
厚生労働省の資料によると、2020年度の介護職の有効求人倍率は3.9倍。訪問介護員に限ると14.92倍です。
人手不足を改善するには、待遇改善策が最も有効な策の一つです。「仕事が忙しいのに賃金が安い」が、介護職に対する誤ったイメージであれば訂正もできます。
しかし、実際に現場で勤務している介護職がそのように感じている以上、人材確保を進めていくには、やはり待遇改善策が必須といえます。
大阪府のような取り組みが全国的に広まるか
深刻化する現場での人手不足
「令和3年度介護労働実態調査」では、介護事業所(n=8,809)に対して人材の過不足感を尋ねるアンケートも行われています。
その結果によると、人手が「大いに不足」との回答割合は8.5%、「不足」が21.5%、「やや不足」が33.0%で、合計すると63.0%でした。約6割強の事業所が、人手不足を感じているという結果です。
ただし、このアンケートは介護職員、訪問介護員、看護職員、ケアマネージャー、生活相談員、サービス提供責任者、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士などを含めた結果です。
個別の職種でみると、訪問介護員に対する人材不足感は80.6%。突出して高い数値となっています。

介護職は全体的に人手が足りない状況ですが、特に訪問介護員(ホームヘルパー)の不足感が強くなっているのが現状です。
介護職員への即効性ある支援の普及が課題
今回大阪府が決めたギフトカードの贈呈は、そもそも現金支給でもないということもあり、介護職の待遇の悪さを大きく解消できる施策とは言えません。しかし、わずかとはいえ待遇改善に資するのは間違いなく、取り組んだことの意義は大きいです。
大阪府の今回の施策で注目すべきことの1つに、支給決定から実際に支給されるまでの迅速さがあります。11月25日に不正予算案が提案され、12月20日までに議会で決定。
翌1月中旬から2月中旬まで募集し、3月31日までに支給されるというスケジュールです。つまり、提案から支給まで半年もかかっていません。
通常、介護職の待遇改善を図るという場合、介護報酬の改定策を取るのが通例です。これまで行われた処遇改善加算などがその例です。
ただこの場合、有識者が集まって念入りな議論を行い、その後介護報酬改定の時期に合わせて制度化されるというプロセスを経るため、実際に介護職の給与アップに至るまで長い時間がかかります。
一方で自治体が支給する場合だと、今回のような迅速な対応が可能であるわけです。
ただしポイントは、大阪府のような取り組みが全国の自治体にどれだけ広まるかという点。行われる自治体、行われない自治体という状況が到来すると、地域間の待遇格差が強まる恐れもあります。
今回は大阪府が行った介護職を含む福祉職員への1万円のギフトカード贈呈の施策について考えてきました。介護職の待遇改善・報酬アップは人材確保のためにも必須の施策。