最新の介護給付費実態統計が公表される

訪問介護の請求事業所数は2022年度も最多更新

厚生労働省は1月25日、介護給付費の動向について公表している「介護給付費実態統計」の最新データを公表しました。

それによると、2022年10月時点における訪問介護事業所の数は全国で3万4,786となり、昨年度までと同様、2022年度も事業所数が最多更新する見込みです。

高齢化が進み、要介護認定者数が増え続ける中、訪問介護事業所は毎年増加しています。

過去の介護給付費実態統計のデータを見ると、訪問介護の請求事業所数は2020年10月時点では3万3,569、2021年10月時点では3万4,050、2022年10月時点では3万4,786と増えています。

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出典:『介護給付費実態統計』(厚生労働省)を基に作成 2023年02月23日更新

請求事業所数だけを見ると、訪問介護業界は順調に成長しているように見えます。しかしその背景には、複数の課題を抱えているのが実情です。

訪問介護とは

訪問介護とは、要介護認定を受けた人に対して、介護福祉士・ホームヘルパーが利用者の自宅を訪れ、「身体介護」「生活援助」の支援を提供する介護保険サービスです。

「身体介護」とは利用者の体に直接触れて行うサービスのことで、食事・入浴・排泄・着替えの介助、身体の清拭、寝たきりの方へのベッド上での体位変換などが含まれます。排泄の介助はトイレ内でのサポートだけでなく、トイレへの誘導やおむつの交換なども対象です。

「生活援助」は利用者の家事代行をするサービスで、調理、部屋の掃除、洗濯、買い物、薬の受け取りなどを利用者本人に代わって行います。

なお、これらのサービスはあくまで利用者本人に関わるものに限定され、利用者の家族の家事(家族の衣服の洗濯など)を手伝うことや、起居している居室以外の部屋の掃除・整理などは対象外です。

サービスを提供するのは「ホームヘルパー(訪問介護員)」と呼ばれる介護職です。無資格者では訪問介護は行うことはできず、介護職員初任者研修修了者以上(実務者研修、介護福祉士を含む)の有資格者である必要があります。

訪問介護の事業所数が増えた背景と課題

訪問介護受給者数の増加(ニーズの拡大)

介護事業所数が増えている要因の一つは、高齢者数・要介護者数の増加にともなう端的な訪問介護へのニーズ増大です。

厚生労働省の「介護給付費実態統計」にょると、訪問介護の年間実受給者数は、2018年度が145万6,700人、2019年度が146万1,900人、2020年度が147万7,300人、2021年度が153万200人。2018年度から2021年度の4年間だけで7万人以上も増えています。

訪問介護の事業者数が過去最多を更新中!その背景にある課題に迫る
訪問介護の各年度の受給者数
出典:『介護給付費実態統計』(厚生労働省)を基に作成 2023年02月23日更新

訪問介護の利用者と事業所数の間には相関関係があり、利用者数・事業所数は共に増え続けています。

年度によってニーズが減るということはなく、コロナ禍の中でも利用者数は増加しました。

これは外出せずに自宅で利用できるという訪問介護の特性が影響していると考えられます。同時期、通所介護(デイサービス)の利用者も増えてはいますが、訪問介護の利用者ほどは増加していません。

訪問介護は特に人口が多い都市部を中心に、今後もニーズは増加していくと予想されます。

囲い込みによる施設増

一方、訪問介護事業所の増加の背景には、サービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)や住宅型有料老人ホームに併設されることで増えていることも要因として指摘されています。

サ高住や住宅型有料老人ホームでは、介護サービスは施設側によっては直接提供されません。介護職から食事・入浴・排泄の介助などのケアを受けるには、自宅の場合と同じく、訪問介護などの在宅向けサービスを利用する必要があります。

そして多くの施設では、契約・利用がしやすいように、同じ建物内に訪問介護事業所を併設しています。サ高住、住宅型ともに年々施設数は増えており、それに合わせて併設型の訪問介護事業所も増加するわけです。

しかし、そうした併設型の一部の事業所では「囲い込み」が行われているとの指摘もあります。囲い込みとは、サ高住・住宅型有料老人ホームの要介護の入居者に、区分支給限度額ぎりぎりまで併設の訪問介護のサービス利用をさせることです。

区分支給限度額は「この金額までのサービス利用であれば保険適用されます」という上限のことで、要介護認定の段階ごとに定められています。介護保険サービスの利用は、当然ですが無理に限度額ギリギリまで利用する必要はありません。

ところが「囲い込み」をしている事業者は、施設内に併設されている同じ系列の訪問介護事業所を限度額ギリギリまで入居者に利用させることで、不当に利益を得ているのです。この場合、ケアプランを作成するのも同じ系列の居宅介護支援事業所です。

現在、厚生労働省はこのようなケアプラン策定を止めさせるように自治体に警告しています。2021年の事務連絡では、自治体に「基準」を設けるよう指示もしました。その「基準」よりも多くのサービス利用を求める場合、地域ケア会議に呼び出されて説明が必要となる、という内容です。「基準」の具体的な数値は自治体が決めてよいとされています。

しかしこうした規定を設けても、新たな「基準」に合わせての囲い込みもできるでしょう。もちろん、訪問介護事業所併設型のサ高住や住宅型有料老人ホームの大半は健全に運営されていますが、一部囲い込みをしている施設があり、業界として問題を抱えているのが現状なのです。

ハードがあっても人員が不足する状況も

1事業所あたりの職員数は低下

訪問介護は事業所数が増えていますが、その一方で1事業所あたりの常勤数がその増加に追い付いていないという事実があります。

厚生労働省が3年ごとに行っている「介護事業経営実態調査」によれば、2014年度時点における訪問介護事業所の1事業所あたりの常勤換算職員数は8.3人で、介護職員常勤換算数(現場で働く人員)は7.2人。

しかし、2020年時点だと1事業所あたりの常勤換算職員数は7.1人、介護職員常勤換算数は6.3人。6年間で1事業所あたり1人少ない状況になっています。

訪問介護の事業者数が過去最多を更新中!その背景にある課題に迫る
訪問介護事業所の1事業所あたりの就業者数
出典:『介護事業経営実態調査』(厚生労働省)を基に作成 2023年02月23日更新

これらのデータからは、事業所数は増えていても1事業所あたりで働く人の数は維持されず、減っている実情が見て取れます。

人員数が事業所数増に合わせて増えていないのが実態であるわけです。

ITC・デジタル化が進み、業務効率化が進んでいるとはいえ、1事業所あたりの運営力、サービス提供力は低下しているとも考えられます。

訪問介護の人材確保策が課題

高齢化が進む中、訪問介護へのニーズは今後もさらに増加していくのは確実。こうした状況の中で政府は現在、高齢者数・要介護者数の増加に対して特養などの公的施設の増加が追い付かないことを背景に、在宅医療・介護の推進を進めています。

特に全国的に取り組みが進められている「地域包括ケアシステム」では、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域社会づくりが目指され、その中で訪問介護は「介護」の分野で中心的な役割が求められています。

そうした政府の働きかけもあり、訪問介護へのニーズは増え、それに合わせて事業者数も増え続けていますが、しかし「介護人材」はその歩調に合わせて増えているとは言えません。

若い世代が訪問介護で働きたいと思えるような環境・体制作りに、行政が本腰を挙げて取り組む必要があるでしょう。

今回は訪問介護の実情について考えてきました。事業所数は増えているものの、課題が多いのが実情。ニーズが高まる中、問題解決に本格的に取り組んでいく必要があるでしょう。

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