高齢者住まいとして普及するサ高住

税制優遇で現在は28万戸まで拡大

現在、政府は高齢者の住まいについて見直しを考えています。議題の一つに挙げられているのが「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」です。

2023年3月、国土交通省は「サービス付き高齢者向け住宅に関する懇談会」を実施。

近年の動向や、事業者による具体的な取り組みについて話し合われ、これからの時代に合った多様なサービスを展開できるようサ高住のあり方が議論されました。

国土交通省は、2011年からサ高住の普及に向けて、さまざまな取り組みを行ってきました。運営側に対する税制優遇や、高齢者に向けた相談体制の推進、改修や住み替え支援体制の構築などを進め、2022年12月末時点で、登録戸数が28万384戸、棟数にして8,165棟にまで広がっています。

サ高住への住み替えが注目される理由

サ高住とは、バリアフリーが完備され、高齢者が快適に暮らせるようなサービスが受けられる高齢者の住まいです。

サ高住には「一般型」と「介護型」の2種類があり、一般型は自立した生活が送れる高齢者向け、介護型は介護サービスを必要とされる方向けに供給されています。

特に、介護型は有料老人ホームと似ていますが、あくまで賃貸住宅という枠組みで提供され、サ高住そのものは介護保険が適用されません。

ただ、入居者は外部の介護保険サービスを利用することで、実際には介護施設のようなサービスを受けられるというメリットがあります。

一般型と介護型に共通する基本サービスは、次の2種類です。

安否確認 職員が定期的に各居室を巡回し、安否を確かめます。なかには、日中は元気でも夜間や明け方は体調を崩す高齢者もいます。そのような不安を取り除くために、安否確認をして体調面に問題がないか確認し、トラブルが起こったときは速やかに対応します。 生活相談 買い物の代行や病院の付き添いなど、入居者の日常生活をサポートします。また食事の提供もされ、毎日の献立を考えて調理をする必要はありません。

介護保険の枠組みにとらわれることなく、さまざまなサービスが提供されるため、より個人の要望に沿った生活が歩める住宅としての役割を担っています。

全国に広がるサ高住への住み替え支援

政府は運営側への税制優遇などの措置を実施

政府ではサ高住に対する支援として、運営側に補助金を出したり税制を優遇するなどの施策を実施しています。

たとえば、5年の間、固定資産税が減額されたり、家屋の不動産取得税が最大で1,200万円控除されるなどの措置があり、2023年末までの期間が2025年まで延長されました。

また、サ高住は地方への移住効果も見込まれており、国土交通省は住み替え支援の充実を図っています。その一環として行われているのが移住・住みかえ支援機構が実施する「マイホーム借上げ制度」です。

この制度は、高齢者の所有する住宅を借り上げて、子育て世帯などに貸すというものです。これにより、高齢者は空き家となった実家を貸して家賃収入を得ることができ、サ高住への住み替えや老後の資金に活用することができます。

その際、空き家が多数発生するなどした場合、政府が家賃を保証する制度を設けて支援しています。

NPO法人が実施する住み替え支援の事例

こうした政府の動きに合わせて、NPO法人なども独自に高齢者の住み替え支援を行っています。

北海道札幌市では、認定NPO法人シーズネットが2004年から高齢者の住み替え支援を実施し、より効果的な支援の構築を目指しています。

同団体への相談は年に約800~900件ほど寄せられていますが、そのうち要介護認定者は増加傾向にあります。2015年度の要介護者の割合は28.5%だったのに対し、2021年度の実績では44.9%。約半数が要介護者の住み替え相談でした。

住まい探しの理由として最も多いのは「将来不安」で、約25%を占めています。

そのほかで際立っているのが「施設への入居料金が高い」というもの。割合としては6%ほどですが、同団体では入居資金が不足している方への支援の充実を重視しています。

相談に来た方のうち、希望する入居予算は5~10万円ほどが最も多くなっていますが、札幌市内のサ高住の月額費用は最低でも8万8,000円で、最高では35万1,300円となっています(同団体調べ)。

資金面では、先に触れた支援制度などを活用できるかなどを検討し、さらに要介護度などの健康状態をチェックして、適切な施設への住み替えができるよう、複数の施設を紹介するなどして支援体制を築いているのです。

個人でこれだけのことを調べるのは難しく、こうした支援を全国に浸透させることが重要だと考えられています。

サ高住の供給促進に向けて規制緩和か?全国で進められる住み替え...の画像はこちら >>

新たな高齢者住まいも登場

古くなった団地を改修して活用

高齢者の住まいとして、サ高住だけでなく団地を活用した動きも出てきています。

全国の団地などを運営するUR都市機構は、古くなった団地を活用して高齢者用の住まいとして改修・供給する「地域医療福祉拠点化」を図っています。

UR都市機構が運営する団地は、全国で約1,500にも及び、約70.6万戸に及びます。その半数以上は昭和40~50年代に建てられたもので、入居者の多くは高齢化しています。

団地入居者の高齢化は社会問題として取り上げられることもありますが、悪いことばかりではありません。

長年住んでいる高齢者が多いため、すでに成熟したコミュニティが形成されており、穏やかな環境がそろっているというメリットがあります。

そこで団地内に生活支援アドバイザーを配置したり、高齢者向けに段差を解消するなどの改修を行うことで、地域包括ケアシステムの一環として機能するよう整備を進めています。

そのうえで既存の入居者と、新規の入居者による新たなコミュニティを促進し、自然と見守りなどが行われる高齢者向け団地の実現を目指しているのです。

同機構は、2030年までに250団地にまで広げることを目標にしており、サ高住とともに新たな高齢者住まいとして注目されています。

サ高住は高齢者の活動を活発にする

介護保険だけにとらわれないサ高住などの高齢者住まいは、健康増進効果もあると考えられています。

国土交通省と野村不動産ウェルネスが共同で実施した実証事業によれば、サ高住に住んでいる高齢者は、住んでいない高齢者と比べて「週5回以上外出する」と回答した割合が、約15%高いことがわかっています。

また、スポーツを行うグループへの参加率も高く、身体活動や社会活動が活発になることが示されています。

高齢者の生活を後押しするサ高住は、健康寿命の延伸という点でも重要性が高まっています。

今後は地域の実情に合わせた住み替え支援の拡充、また「地域医療福祉拠点化」のような新たな供給も含めて、その動向が大きく注目されます。

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