訪問リハが抱える課題

訪問リハの現場で起こっている3つのミスマッチ

来たる2024年度は、介護・医療・障がい者福祉が同時に改定される「トリプル改定」が控えています。そのため、厚生労働省では継続して議論が行われており、各団体もさまざまな改正を要望しています。

その中で、日本慢性期医療協会(以下、日慢医)は、訪問リハビリテーションについて、制度の見直しを提言。

リハビリテーションは在宅生活への復帰や在宅生活の維持を目的としていますが、肝心の在宅でサービスを提供できないなど、ミスマッチが起こっていると訴えています。

具体的には次のような3つの事柄を挙げました。

目的である生活の場でリハビリができない 現状、訪問リハは「通院・通所が困難な場合のみ」提供されることが多く、生活する場所での効果的なリハビリが提供できていません。自宅などで生活を継続する場合、リハビリ専門職が階段や手すりなどの環境を見て、改修などのアドバイスをすることがありますが、外来や通所がメインだと、こうした生活全般の指導やリハビリを行えません。 状態の回復より維持が重視され、継続支援が手薄 リハビリの提供時間は、公的に定められています。入院リハは1日3時間、外来リハは1日2時間なのに対し、訪問リハは週に2時間とかなり限定的です。そのため、状態を回復するに至るようなリハビリを提供するのは難しく、レベルを維持するのが精一杯という状況だとされています。 品質の確保が難しい 訪問リハは利用者とリハビリ専門職のマンツーマン対応が多く、それぞれの技量によってサービスレベルが左右されやすいと指摘されています。

訪問リハの本来の目的

訪問リハの目的は、利用者の実際の生活の場(主に自宅)で、日常生活の自立と家庭内さらには社会参加の向上を図ることだとされています。

そのため、利用者の状態と自宅の環境が適合するように広範囲の指導を行い、自立支援につなげる効果が期待されています。

しかし、前述のように自宅でのサービス提供の機会が限られており、短時間のリハビリしか行えない現状では、日常生活の自立度(ADL)を維持することが目的になってしまっています。

日慢医は、訪問リハで利用者を入院前などの状態まで回復させ、自由な生活を送れるよう支援するべきだと主張し、特に「IADL」の回復を重視しています。

IADLとは、「手段的日常生活動作」のことで、具体的には、家事をする、買い物をする、食事の準備を行うなどの応用的な動作を指しています。

つまり、一般的な社会生活に復帰できるような支援の必要性を訴えているのです。

日本慢性期医療協会が「早期集中型訪問リハビリ」を提案!在宅復...の画像はこちら >>

訪問リハが持つ可能性

日慢医が提唱する早期集中型訪問リハビリとは?

前述したような課題を解決するため、日慢医は「早期集中型訪問リハビリ」を提言しました。

これは、退院後に外来リハビリに通うのではなく、一度自宅での訪問リハを集中的に実施してから、外来リハなどを受けるという新たなサービスのかたちです。

大きなメリットは、自宅などの生活環境における課題を抽出したうえで外来リハなどを受けられる点です。

例えば、利用者の自宅の階段は段差が大きく、傾斜が急だったとしましょう。リハビリ専門職は保険を利用して階段部分に手すりを付けるようアドバイスし、外来リハでは自宅の環境と同じぐらいの段差を上がれることを目標にサービスを提供できるようになります。

そのため、自宅に戻ってからの生活がよりスムーズになるだけでなく、利用者がリハビリを行う目的をはっきりと認識できるようにもなります。

集中的なリハビリは症状の改善効果が大きい

実際に退院後に集中的な訪問リハを実施したケースでは、利用者の生活レベルが大きく改善しています。

例えば、脳梗塞を患った60代男性のAさんは、寝ている状態から起き上がるときなどにバランスを保てなくなる重度の体幹失調を患いました。

そこで、発症から76日までは入院リハを実施し、77~166日に至るまでは自宅で集中的な訪問リハを行いました。

リハビリ開始当初、日常生活動作を評価する代表的な指標「FIM(機能的自立度評価表)」は20点でした。その後、入院リハで52点まで回復。さらに退院後の訪問リハによって85点まで回復し、166日目には自宅の外を歩けるようになっていました。

そのほか、在宅リハビリのみで病前の生活に復帰した例などもあり、訪問リハの充実は円滑な在宅復帰を実現する可能性があると考えられます。

求められる施設による取り組み

リハビリの質を向上する取り組みが必要

早期集中訪問リハを普及するためには、これまでの時間制限などを見直すなど、制度改正が欠かせません。

一方で、リハビリ専門職のスキル格差は、現状の制度でも施設などの努力によって改善できる課題だといえます。

例えば、アウトカム評価の導入などが挙げられます。アウトカム評価とは、客観的な達成度、また、成果の数値目標に対する評価を数値化することを指します。

日本慢性期医療協会が「早期集中型訪問リハビリ」を提案!在宅復帰の現状と課題
画像提供:adobe stock

現状で、リハビリ専門職のスキルは勤続年数や上級資格などで測っていることが多いと指摘されています。

それらもスキルを推し量る指標にはなりますが、実際に利用者の回復度合いなどを測ったり、達成度などを数値化できれば、よりスキルの課題発見につながり、サービスの質向上にもなるでしょう。

また、リハビリ専門職が定期的に学びの場を訪れるような環境づくりも大切です。しかし、人員が限られているうえに小規模事業所が多いことから、専門職一人にかかる業務負担は重くなっています。

リハビリ専門職の業務効率化がポイントか

コロナ禍以降、通所リハから訪問リハに切り替える人も増えているといいます。また、2024年度以降「通所+訪問」という新たな介護サービス類型が誕生することもあり、今後訪問リハのニーズはさらに拡大すると見込まれます。

そのなかで大切なのはリハビリ専門職の業務をいかに効率化していくかという視点ではないでしょうか。

現状では、リハビリ専門職がLIFE記入に多くの時間を割かれたり、本来はやるべきではない事務作業なども行うなど、リハビリに集中できていないという指摘もあります。

こうしたリハビリとは関係ない間接業務を減らし、リハビリ専門職が集中して技術を向上し、利用者一人ひとりに合ったサービスを提供できるような環境づくりが求められています。

限られた人材で、いかに効率よく質の良いサービスを提供できるか。制度改正はもちろんのこと、今後は事業所単位での取り組みも大切になるかもしれません。

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