ショートステイの利用者数減がコロナ禍以降顕著に
2019~2022年にかけて3年連続で利用者が減り続けている
7月10日、次期介護報酬改定に向けた議論が行われている第219回社会保障審議会介護給付費分科会(オンライン開催)において、ショートステイが議題となりました。
議論の内容は、2020年以降にショートステイの利用者数が3年連続で減少していることを問題視するもの。厚生労働省の介護給付費実態統計によると、介護保険におけるショートステイ(短期入所生活介護)の受給者数は、2019年に過去最多の約33万8,000人でしたが、2022年には28万6,000人まで減少。
当然ながら、高齢化が進展している現在、利用対象となる高齢者・要介護認定者の人口数が、2019年以降減少傾向にあるわけではありません。端的にショートステイの利用控えが生じているわけです。
やはり最大の影響は2020年から深刻化した新型コロナウイルスの拡大。自宅から出て外出する必要があるショートステイは、どうしても利用者減の状況に直面せざるを得なかったわけです。
会議の場では、ショートステイがレスパイトケアのニーズに対応できていない地域がある可能性、経営支援の必要性などが指摘されました。
デイサービスに比べて、利用者減の度合いが大きい
ショートステイと同じく、外出を要する介護保険サービスにデイサービス(通所介護)があります。
デイサービスとは、通所介護事業所(デイサービスセンター)に利用者が通い、健康チェックや昼食、入浴、レクリエーション、機能訓練などを提供するサービスです。外出が必要であり、さらに利用者が事業所内に一同に集まる形となるため、コロナ禍が拡大するにつれて利用控えが生じました
デイサービスもコロナ禍以降に利用者数は減りつつあり、2019~2022年にかけて、157万3,000人から152万8千人へと、ショートステイと同程度の約5万人減少しました(通所介護+地域密着型通所介護の数値)。
しかしデイサービスに比べて、ショートステイの減少度合いは著しいです。
全国のショートステイの総利用者数は、ここ数年は30万人前後。一方、デイサービスは同時期に約150万人が利用しています。同じ「約5万人減少」といっても、ショートステイの総利用者数はデイサービスの5分の1程度です。
割合で考えると、デイサービスよりもショートステイの方が、状況としてはより深刻であるわけです。
ショートステイを直撃したコロナ禍の影響
そもそもショートステイとは?
ショートステイとは、利用者が短期間のみ施設に入所し、日常生活全般にかかわるケアを提供するサービスのことです。65歳以上で要介護・要支援の認定を受けた方、40~64歳で特定疾病により要介護認定を受けた方が介護保険適用にて利用できます。
介護保険サービスのショートステイには、日常生活のケアを提供する「短期入所生活介護」(いわゆるショートステイ)と、医療的な支援も提供できる「短期入所療養介護」(医療型ショートステイ)の2種類があります。また、一部の民間施設では、介護保険適用外でのサービスも行っています。
短期入所生活介護は、特養や有料老人ホームで入所サービスと併設して実施されていることが多いです。短期入所療養介護は老健や介護医療など、医療体制が整った施設で併設されるのが通例です。
ショートステイの利用期間は最大で30日とされ、1つの施設で連続利用できる期間は限られています。利用目的は利用者によりそれぞれですが、普段在宅介護をしている家族介護者が、休息(レスパイト)や仕事の都合、旅行などの理由で短期間だけ介護ができない場合に利用されることが多いです。
コロナ禍により利用率が低下する一方で、人件費が上昇
福祉医療機構の2020年度の「2020 年度(令和 2 年度)特別養護老人ホームの経営状況について」では、特別養護老人ホーム(特養)に併設されているショートステイの経営実態が明らかにされています。
調査結果では、2019年からコロナ禍が深刻化した2020年にかけて、ショートステイの利用率は84.6%から79.7%へと4.9ポイント低下。特養における赤字施設割合の増加にもつながっています。
その一方で、施設運営における人件費の圧迫度合いが高まっています。収入に対する人件費の割合を示す人件費率は、2019年度から2020年度にかけて0.2ポイント上昇。
利用率が減少する一方で、働いているスタッフの人件費は高まっているわけです。こうした状況がコロナ禍終了後も続いてしまうと、経営難に陥るショートステイが増えていく恐れがあります。
コロナ禍の影響からショートステイを立ち直らせるには?
やはり稼働率アップがポイント
介護施設の運営において、もっとも重要な指標の一つが稼働率です。稼働率とは利用者定員に占める実際の利用者数の割合を意味します。定員10名で利用者数9名であれば、稼働率は90%。安定した経営を目指すなら、平均で95%は確保するのが望ましいと言われています。
では、ショートステイで稼働率を高める上で重要なのは何でしょうか。
愛知県が公表している、稼働率アップを実現したショートステイの事例を紹介しましょう。特養併設型の2ユニット20床で運営されたこのショートステイでは、稼働率を高めるために3つの検討を行ったといいます。その内容は以下の通りです。
- 毎日レクリエーション(地域最大回数の実施数)をできるように前向きに考えること。
- 1泊だけの利用者にも喜んでもらえるように心がけること。
- スタッフが自由に企画立案できる雰囲気を作り、体験参加型の企画を考えること。
さらに「利用者ニーズの掘り起こす」「人気のお店、露光ツアー、テーマパークの企画を参考にして、時代・季節を踏まえた企画を実践する」「キャッチフレーズ、PRを工夫する」「毎日何かを企画する」「自分たちのファンを作る」といった行動指針も決めたそうです。
その結果、食事レク、外出レク、美容レクなど多様なレクリエーションを日々実施できるようになり、さらに中庭を利用した園芸・農園づくり、イベントの充実化も実現。月50以上の企画立案を行ったと言います。
このショートステイでは平均稼働率90%を維持しているとのこと。企画を継続し、常に工夫を重ねていくことが、利用者が「次も利用しよう」と思えるサービスにつながると言えます。
ICT化の促進も有効な方法
ショートステイの稼働率を上げるには、リピーターを増やすことが重要です。その場合、サービスの質を高めて「また利用したい」と利用者に思ってもらうことに加え、効果的な営業活動、営業担当者の業務効率アップに取り組むことも欠かせません。
例えばICT(情報通信技術)を活用したクラウド型営業支援システムを利用すると、ショートステイでの予約管理のみならず、フォローすべき過去の利用者の案内を表示するなど、ニーズの掘り起こしも可能です。すべて自動で行ってくれるので、職員の作業負担は増えません。
またICTを活用することで、職員の事務作業の簡素化も可能。
今回はショートステイで3年連続利用者減の問題について考えてきました。コロナ禍も収まりつつある現在、利用控えによる落ち込みを回復させる時期に来ていると言えます。ただ、物価高騰の影響などもあるため、次期改定の際は基本報酬アップも期待したいところです。