厚生労働省が高齢者の避難所生活における注意点を呼びかけ

介護保険最新情報Vol.1164で全国の自治体に発出

8月1日に厚生労働省は、災害時に避難所で生活することになった高齢者に対し、心身機能の低下の予防と認知症高齢者等への支援を適切に行うように、介護保険最新情報にて自治体に周知しました。

今回、このような連絡が行われた背景にあるのが、「令和5年7月豪雨」です。九州地方から東北地方にかけて大雨による被害が発生し、例えば秋田県では長期にわたって避難所生活を強いられる高齢者が多数いました。

台風・大雨の季節はまだまだ続くため、同様の事態が発生したときに備えて、全国の自治体に注意喚起を行ったわけです。

以下では、高齢者が避難所で生活する上で注意すべきこと、介護職として災害発生時に押さえておきたいことなどについて深掘りしていきます。

避難所生活で懸念される「生不活発病」とは?

生活不活発病とは、活動的ではなくなる状態が続くことにより、心身機能が低下することです。

具体的には心肺機能低下、起立性低血圧、消化器機能低下、関節拘縮、廃用性筋委縮・筋力低下、うつ状態、自律神経不安定など、多様な症状が見られるようになります。身体面だけでなく、精神面にも問題が生じやすくなるわけです。深刻化すると動けなくなり、寝たきり状態に陥る危険性もあります。

一般的には要介護の方・持病のある方などに生じやすいですが、避難所での生活だと、本来は体を動かせる元気な高齢者も、体を動かさない暮らしが続くことで生活不活発病に陥るリスクが高まります。

生活不活発病になると、体を動かしづらくなり、歩くことさえ億劫になってきます。そうなるとより体を動かさなくなり、生活不活発病はますます進んでいきます。こうした「悪循環」により、心身機能は急速に低下していくわけです。症状が起こる原因は社会参加の低下、病気・環境変化による生活動作の低下などが指摘されていますが、避難所では特に後者の影響が大きいと言えます。

災害発生時に避難所で高齢者の心身機能低下を防ぐには?厚生労働...の画像はこちら >>

避難所における生活不活発病の予防方法、認知症高齢者への対応方法

生活不活発病を防ぐには体を動かすのが基本

生活不活発病の予防には、「本人の心がけ」と、「発見(本人が自覚する、周囲の人が認識する)」が重要です。

「本人の心がけ」としては、以下の点がポイントです。家族・介護職など周囲の人も気にかけて、本人に注意喚起することも大事と言えます。

  • 体を動かす機会を確保する(毎日の生活の中で出来るだけ動く、動きやすいように身の回りを整理する、歩きにくくなっても杖などを使って歩く)。
  • 避難所内で楽しみ・役割を持つ。
  • 安静第一、無理は禁物と思い込まない(体を動かすことを考える)。

「発見」におけるチェックポイントとしては、以下の点が挙げられます。

  • 屋外を歩いているか。
  • 自宅内(避難所内)を歩いているか。
  • 入浴、洗面、トイレ、食事を自力できちんと行えているか。
  • 車椅子を使用して動いているか(自力歩行が難しい場合)。
  • 日中どのくらい体を動かしているか。

避難所で一緒に暮らしている周囲の人(家族・介護職)がこれらの点を気にかけて、もし体を動かせていないようなら、本人に注意を促しましょう。上記の行動がまったく見られないときは、すでに生活不活発病が進行している可能性もあります。

認知症の人には寄り添う対応が基本

認知症の方が避難所に生活の場を移した場合、特別な配慮が必要です。

認知症の人は、急激な環境変化についていけないことが多いです。

家族や顔見知りの介護職などが寄り添って、避難所の中でも環境変化が少ない場所で居住するのが望ましいと言えます。環境変化により、認知症を原因とする問題行動が生じた場合は、注意したり叱ったりせずに、本人に寄り添うことが心を落ち着かせることにつながります。

介護職として避難所に入り、認知症の方をケアする場合、以下の点に配慮する必要があります。

  • 認知症の人専用のスペースを確保する。
  • 専用の排泄スペース、おむつ交換所を確保(排泄行動に問題が見られる場合)できないか対応・交渉する。
  • 落ち着く環境を用意(特に大きな音がしない場所)する。段ボールなどでパーティションを作るのが望ましい。
  • 家族、友人、見知った介護職など顔見知りが近くにいるようにする。

生活が困難なときは無理をせずに、二次避難所である後述の福祉避難所に移りましょう。

高齢者が避難所で生活する際、気を付けるべきことは多い

避難所で生じやすい栄養不足、脱水症状、エコノミー症候群、かぜ、食中毒

生活不活発病、認知症への対応以外にも、避難所で高齢者に生じやすい問題として、以下の点が挙げられます。

  • 栄養不足・・・被災地に贈られる食品は炭水化物が多く、たんぱく質が不足しがち。弁当のおかずであるハンバーグ、しゅうまいなど。高齢者の口に合わないことも多い。
    お弁当をばらして再調理したり、味付けを変えたり、食べやすいようにカットすることも必要。
  • 脱水・・・トイレに行くのが大変で、できるだけ行かないようにしたい、などの理由で水分補給を控えたりして、脱水症状になりやすい。こまめな水分補給が必須。
  • エコノミー症候群・・・避難所で椅子などに座って長時間同じ姿勢でいると、足の血液の流れが悪くなって生じる。体を動かす、ふくらはぎを軽くもむなどの対策が必要。
  • かぜ・・・高齢者は感染への抵抗力が低下しているので、かぜなどにかかりやすい。マスク、うがい、手洗いなどをこまめに。
  • 食中毒・・・抵抗力、消化吸収力が落ちている高齢者は、食中毒になりやすい。夏場~初秋は特に注意。

高齢者本人だけでは自力で対応できないこともあるため、周囲の人(家族・介護職)が問題ないか気にかけてあげることが大切です。

避難所での生活が難しいときに利用される福祉避難所

福祉避難所とは、高齢者・障害者・乳幼児、その他特別な配慮を要する「要配慮者」を受け入れるための施設のことです。

阪神・淡路大震災後からその重要性が認識されつつありましたが、自治体により設置・指定状況はまばらでした。

2007年の能登半島地震、中越沖地震で福祉避難所が一定の機能を果たしたことで改めて注目されたものの、災害時の対応力としては十分とは言えない状態が続いていたと言えます。その結果、東日本大震災では福祉避難所の不足が深刻な問題として浮上しました。

その後も日本では台風、水害が相次いで発生する中、避難先としての福祉避難所が果たす役割の大きさ・重要性が社会全体で認識されるようになっていき、現在全国的に整備・体制作りが進められています。

福祉避難所の設置は施設を新設するのではなく、対応力を持つ既存の福祉施設を指定する形で行われるのが通例です。指定は市町村が利用可能な施設を洗い出す形で行われますが、政府のガイドラインでは「老人福祉施設」(老人福祉センター、デイサービス、小規模多機能施設も含む)も指定対象です。

そのため、指定された施設で働く介護職は、災害時には元々の入居者に加えて、避難した人への対応も必要になるわけです。自然災害がいつ起こっても適切に対応できるように、対象施設は平時のときから対策を考えておく必要があります。

もし勤務先の介護施設のある地域で災害が発生したときは、要介護者を最寄りの福祉避難所に避難させなければなりません。そして避難後は、これまでと同様のケアを継続することも必要になってきます。

災害が起こりやすい地域(河川氾濫、土砂災害、大地震発生などのリスクがある地域)の介護施設は、いざというときにどう行動するのか、普段から対応方法について準備・訓練しておくことが重要と言えます。この点については、東日本大震災時の津波が想定以上だったように、行政側の対応策に従うだけでは不十分な状況も生じ得るため、最悪の事態に備え、現場の自分たちで最適な避難方法・対策を考えておくことも必要になるかもしれません。

今回は介護保険最新情報の内容を踏まえ、高齢者の避難所生活に関連する話題・問題について考えてきました。

介護職としては、自然災害がいつ発生しても適切・迅速に対応できるように、普段から必要な知識・スキルを身に付けておきたいところです。

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