浮気妄想で女性介護者の出入りがNGに

くらたま

理子さんご自身も、義理のご両親の介護をされていますよね。いまはどんな状況ですか?

村井

義理の母はレビー小体型認知症なんですが、浮気妄想が強くて、女の人が家に入ることが完全にNGなんです。以前、浮気妄想からか…夜中にリモコンでお義父さんが頭を叩かれたこともあったんです。

くらたま

え!まじですか!

村井

そうなんですよ。だから介護スタッフもベテラン軍団で揃えてもらっています。看護師の方もデイケアのお迎えの方も可能な限り男性でお願いしています。

くらたま

リモコンで殴ったお話、『全員悪人』にもありましたね。あれは、実際にあったことなんですね。

くらたま

結構やられてますね。

村井

82歳なのに、高級な化粧品がずらっと並んでいて「お義母さん、これはどうしたんですか?」って言ったら「近所の人がね、すごくいいのが出たって言ってたからちょっと買ったのよ」って。

くらたま

大変だな。そういうのは近くで見張っている人がいないと、本当、「食い物」にされてしまいますよね。わけがわからなくなっている高齢者を鵜の目鷹の目で狙っている人は少なからずいますからね。

うちも何件もやられていますよ。6畳しかない部屋に30万のクーラーがついていたこともあります。

瓦もいつの間にか変わっていたなぁ…。意味もなく。

村井

近所が一番怖いですよ。本当に。

くらたま

近いからすぐ来るし。

村井

信用されてるしね…。

村井理子「認知症によって終結した嫁姑争い。天敵だった嫁がかけ...の画像はこちら >>

苦労する前のお義母さんに戻っている

くらたま

実の息子のことは忘れて、大嫌いだった嫁が大好きになる。不思議だなあ。

村井

そうそう。素に戻ってお義母さんの中に本来あったものが出てきている気がします。

くらたま

そっか。意地悪が素じゃないんですね。


村井

意地悪のもっと奥にあったもののような気がします。

お義母さんは、もともとクラブのママをしていたんです。そしてホテルを転々としながら料理長をしていたお義理父さんと知り合って結婚しました。

苦しい思いもたくさんしたので、自分の周りにいっぱい「鎧」をつけていたんでしょうね。だから浮気妄想は昔「イラっとした」ことの仕返しなのかなと思うときがあるんです。

くらたま

もともとない感情だと出てきそうにはないですもんね。

村井

そうですね。今は多分、中高生時代に戻っています。部屋のフローリングのところで「やー」とか言いながら中学・高校時代にやっていた器械体操をしてるんです。

くらたま

そんなに身体が動くんだ。

村井

これが、身体が丈夫で!この間、庭で走っているのを見たときには目が点になりましたね。

くらたま

それは驚くなあ。でも、認知症がちょっと進行して、身体が丈夫だと大変だという話も聞いたことがあります。

突拍子もないことをする可能性があるから。

村井

徘徊が怖いですね。ケアマネの方も、ここからが長いって言っています。お義母さんは認知症だけど、身体が丈夫で元気。だからこそ身の回りのことができています。この状態が続けば、おそらくすごく元気に生きられます。

くらたま

なるほど。しかも幸せですよね。

村井

…と思いますよ。嫌なことは全部忘れて。

くらたま

いや不思議だ。嫁姑問題にそんな解決の仕方があるとは知りませんでしたよ。

まさか「わはは」と笑いが出るようなお話になると思いませんでした。

村井理子「認知症によって終結した嫁姑争い。天敵だった嫁がかけがえのない家族に」
倉田真由美イラスト

村井 理子

1970年静岡県生まれ。滋賀県の琵琶湖のほとりで、夫、双子の息子、愛犬ハリーとともに暮らしながら、雑誌、ウェブ、新聞などに寄稿。料理や犬に関する書籍のほか、事実をもとに家族の問題について描いた書籍も好評。近著に『兄の終い』(CCCメディアハウス) 『全員悪人』(CCCメディアハウス)『家族』(亜紀書房)など。

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