父子家庭の孫と動画をつくる

くらたま

まずはYouTuberとしての多良さんのご活動についてお伺いしたいです。「Earthおばあちゃんねる」は、どのような方々に見られているのでしょうか?

多良

50代以上の方が多いようですね。コメントもくださります。

でも、ときどき若い方からも「しばらく会っていないおばあちゃんのことを思い出す」というお声をいただくこともあります。

くらたま

素敵ですね。50代以上の方からは、どのようなコメントが寄せられているんですか?

多良

「歳をとるのが怖くなくなった」とか、「歳をとっても楽しく生きられることがわかった」という声を多くいただきます。ほんとうにありがたいです。

くらたま

美智子さんの動画は、高校二年生のお孫さんが撮影を担当されていますよね。お孫さんと一緒に動画をつくるような関係って“なかなかない”と思います。

多良

動画を撮ってくれている孫は次男の子ですが、小学生のときに父子家庭になりました。

寂しい思いをさせたくないという思いから、当時、月の半分は千葉の孫たちの家に通ってお世話をしてきました。だから孫も私を大事に思ってくれるようになったんじゃないでしょうか。

コロナ禍で私が千葉へ行けなくなったので、月に2回はこちらに来ていろいろ手伝ってくれるようになりました。

くらたま

お孫さん、撮影がとてもお上手ですよね。

多良

小学生のときからパソコンで遊んでいたようですが、中学生になって「あーすの小屋」という自分のYouTubeチャンネルを立ち上げていました。

ただ、なかなかチャンネル登録者数が増えないと言っていたんです。

その話を聞いていたので、「私のも撮ってもらえるかな?」と思って相談してみましたら、撮ってくれるようになって…。

くらたま

まさに“二人三脚”ですよね。孫と祖父母の世代が、共通の趣味を追求すること自体、これまでの時代ではなかなか考えられなかったように思います。しかも、動画を作るだけでなく、その動画が多くの人を励ましている。これはすごいことですよね。

多良

ありがとうございます。孫には「老衰するところも撮ってちょうだいね」って言ってるんです。それから介護を受けるようになったら、その様子も…。

「人間はこんなふうに介護を受けて、こんなふうに死んでいく」というのがわかれば、それを見て安心する人がいるかもしれません。

くらたま

すごいなあ。お孫さんは、美智子さんの考え方から学ぶことが多いでしょうね。

多良

私も孫からいろいろなことを教えてもらいますから。よくわからないことも多いけどちゃんと話を聞くんです。今の流行やデジタルのことなど、孫は私の知らないことをたくさん教えてくれます。70歳以上も歳が離れていますが、子ども扱いはせず、対等な相手として付き合っています。

夫の介護と看取りで人生観が変わった。87歳の大人気YouTu...の画像はこちら >>

「昔は良かった」とは思わない!

くらたま

チャンネル開設当初、“デジタル”に対する苦手意識はなかったのですか?

多良

もちろんありましたよ。子どもたちからiPadを勧められても「私、そんなの使えな~い」と思っていたんです。

でも、「一度やってごらん。お母さんが好きな麻雀の練習もできるよ」というので買いました(笑)。今は、iPadで麻雀の練習をするのが、楽しみの一つになっています。

くらたま

スマートテレビも活用されていますよね。

多良

ええ。YouTubeの動画を大きく見ることができて便利です。それから、毎日18時半を夕食の時間と決めて、次男親子とLINEでお喋りしながら「リモート夕食」をするんです。

ずっと話していなくてもいい。お互いの顔が見れたらいいんです。

くらたま

たしかに、自宅で最期を…というお気持ちはよくわかります。でも、日本では未だに多くの方が病院のベッドで亡くなっているのではないでしょうか。“家で看取る”という選択肢も得られやすくなればいいなと、私も思います。

多良

そうですね。幸い主人の主治医は24時間体制で診てくださる先生でした。何かあると、夜中でもすぐに飛んできてくれた。近くに良い先生がいてくださったので助かりましたね。

「あの先生がいるなら私も大丈夫だわ」という気持ちがあります。

くらたま

良いお医者さんに恵まれたんですね。“孤独死”というと寂しい印象がありますが、美智子さんを見ていると、ひとり暮らしでも全然寂しくなさそうですね。

多良

寂しくないですよ。お稽古ごとをいくつもしているので、行った先々がみんなお友達です。お友達は本当に宝物だと思います。

私はあんまり喋る方じゃないんですけど、私より若い方たちが多いですから、その方たちの話を聞いていると、この年になってもいろいろなことが学べます。いつも、その日に学んだことを振り返りながら帰ってきます。

くらたま

ご家族との交流があり、地域のコミュニティにはご友人がいて、YouTubeにもさまざまなコメントが来る。お一人暮らしでも多くの人に囲まれて生きておられるんですね。

多良

そうですね。でもお友達にはあまり踏み込んだ関わり方はしません。とてもいい方たちがいらっしゃいますけど、わりとさらっとした付き合いなんです。その代わり、3人の子どもたちがいるので、私ができないことは無理せず子どもたちに頼るようにしています。

未来に願うのは、年寄りが安心して死ねる社会

くらたま

最後に、これからの日本が“こうなったらいいな”と思うことをお聞きしたいです。

多良

やっぱり、“年寄り”が安心して死ねる国になったらいいなと思いますねぇ。

飢えた方がテレビに写し出されると、涙が出てきます。今まで精一杯生きて来たのに、こんな終末を迎えるのかと思うと…。

そのために、貯金がない方や身寄りがない方でも入れる高齢者の施設ができたらいいなぁ…なんて思うことがあります。手厚く看取ってもらえるようになったら”老後の不安”も減るかもしれませんから…。

「いざというときに国がみてくれる」となると、みんなもっとお金を使うと思うんですよ。将来が不安だから、物を買わずにお金を溜め込んでいますでしょ。

くらたま

「お金の流動性」という意味では、まだまだ課題がありますよね

多良

安心して“吐き出せる”ような状態をつくってほしいですよね。

くらたま

吐き出す(笑)。表現こそユニークですが、事実ですね。

多良

それと子供の教育費を無料になってくれたらいいなあと思います。教育費がかからなければ、十分な貯蓄がなくても安心して子どもを産むことができるかもしれません。少子化の状況も変わるのではないかと思います。

私は、大学まで無料でいいと思うんです。そうすれば、立派に活躍する人はいっぱい出てきます。頭のいい日本人はたくさんいるんですから。

くらたま

仰るとおりですね。私も“50”を過ぎたあたりから「どういう老後を過ごそうかな」ってよく考えるんですよね。でも幸せな老後を生きている人ってあまりいない。世間を見ても、歳をとることは怖いし、「早くお迎えこないかしら?」と思っている人もいっぱいいますからね。

だから、今日は「いま」を楽しんでいる美智子さんのお話が聞けて、とても嬉しかったですね。こんなに生き生きとアラキュー(アラウンド90歳)で生きられる可能性もあるってみんなに知ってもらいたいです。

多良

ありがとうございます。

くらたま

それから、私を含め、高齢社会に不安を持つ方は多いですが、美智子さんを見ていると「高齢社会もいいな」と思えます。今日は本当にありがとうございました。

  • 撮影:林ひろし(写真提供:すばる舎)
夫の介護と看取りで人生観が変わった。87歳の大人気YouTuber!孫との共同作業で“最期”を楽しむ!
倉田真由美イラスト

多良美智子

昭和9年(1934年)長崎県生まれ。8人兄弟の7番目。戦死した長兄以外はみな姉妹。

早くに母を亡くし、父と姉たちに育てられる。小学生のとき戦争を体験。27歳のとき、前妻を亡くし10歳の娘がいる9歳年上の男性と結婚。夫との間に2男をもうける。55年前に神奈川県にある現在の団地に引っ越して暮らし始める。7年前に夫を見送ってからはひとり暮らし。趣味は”巣作り”で、部屋の模様替えや読書、裁縫、料理などが大好き。あるものを使って、楽しく豊かに暮らす様子を当時中学生の孫が撮影。

2020年に「Earthおばあちゃんねる」を開設して動画を投稿し始めたところ、またたく間に人気チャンネルとなる。一番再生回数が多い動画は235万回再生されている。現在、15万人の登録者がいる(2022年11月現在)。

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