2050年に向けて、日本は「超・単身高齢社会」へと突入しようとしています。身寄りのない単身高齢者、いわゆる「おひとりさま高齢者」は全国で1,000万人以上にのぼるとされています。

これまで家族が担ってきた金銭的な保証、入院時の意思決定の代弁、亡くなった後の葬儀や手続きといった役割を、誰がどのように引き受けるのか。これは介護業界だけでなく日本社会全体が直面する喫緊のテーマといえます。

こうした課題に正面から向き合うべく、2025年8月、身元保証業界初の業界団体として「全国高齢者等終身サポート事業者協会」(略称:全終協)が設立されました。今回は、全終協の理事であり、弁護士を母体とした身元保証サービスを提供する株式会社あかり保証の代表・清水勇希さんと、全国約6,000社・約4万事業所を束ねる一般社団法人全国介護事業者連盟(介事連)で理事長を務める斉藤正行さんによる対談をお届けします。

なぜ今、身元保証の「ルール」が必要なのか?

――みんなの介護:介護業界における身元保証サービスのルール化について、まずは斉藤さんからご意見をうかがえますか。

斉藤:私自身は介護業界に20年以上身を置いてきて、実際に身元保証サービスを過去に何度も活用しています。老人ホームへの入居において、身寄りのない方やおひとりで生活されている方には、金銭的な保証も含めた身元保証が欠かせない場面が多いです。ただ、国としてのルールがなかなか示されていないことで、我々介護事業者としても、どの身元保証会社と連携すれば良いか常に悩んできたというのが正直なところです。中にはトラブルの報告や、“悪質”と言わざるを得ない事業者の存在も見聞きしていて。業界の健全化は本当に重要な課題だと感じています。そうした背景もあり、全終協にはとても期待を寄せています。

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全国介護事業者連盟の理事長・斉藤正行さん

清水:ありがとうございます。

日本に単身高齢者が約900万人いらっしゃる中で、施設入所や入院の際に保証人を求める施設は90%以上にのぼり、身元保証のニーズは年々高まってきています。身元保証サービスとは、家族がいない方、あるいは家族がいても頼れる関係にない方の代わりに保証人となり、亡くなった後の葬儀手続きなどを引き受けるものですが、2010年の時点では全国で約30社程度だった身元保証事業者が、2024年には400社を超え、現在では約500社から600社にまで急増しているものと思われます。

――みんなの介護:なるほど、そんなに増えているんですね。

清水:はい。ニーズの高まりとともに事業者が急速に増えたことで、残念ながら利用者の弱みにつけ込むような事業者が出てきているのも事実です。たとえば、保証人がいなくて困っている方に対して、遺産を寄付させようとしたり、不透明な契約を結ばせたりするケースが報告されています。2024年6月に厚生労働省などからガイドラインが公表されましたが、ガイドラインはあくまでも指針であり、法的な拘束力がありません。この状況を踏まえて業界として自主規制を進め、将来的には法規制も視野に入れていくべきだという思いから、2025年8月に主要7社が集まり、身元保証業界初の業界団体として「全終協」を設立しました。

斉藤:少し補足をさせていただくと、前提として介護業界全体が直面している大きな構造変化があるように思います。2040年に向けて大都市圏では爆発的に高齢者が増え続ける一方で、地方や中山間地域ではすでに人口減少が始まり、高齢者も減少に転じている地域もあるため、地域ごとに制度を変えていく必要がある時代に差しかかっている。政府もこの2040年に向けた専門の検討会を設置し、制度の枠組みを大きく見直そうとしています。その中でも大きなテーマのひとつが、単身高齢者の課題なんです。

家族の支援が受けられない方は、介護保険外の対応で大変苦労される。入院時の保証人不在、認知症の方の増加、亡くなった後の葬儀手続き、生前の財産管理など、従来はご家族が当たり前のように担ってきた役割が、今はケアマネジャーなどが“善意のシャドーワーク”として対応しているケースが少なくありません。そうした善意で行った対応によってトラブルにつながっては本末転倒。こうした背景が、終身サポート事業者の必要性をより高めているのだと感じます。

――みんなの介護:もともと全終協の立ち上げにも、斉藤さんの助言が大きな役割を果たしていたのだとか。

清水:そうなんです。当初は複数の団体が個別に立ち上がろうとしていたのですが、斉藤さんから「一つにまとまった方がいい」と提言をいただいて。業界団体の運営にあたってきた斉藤さんから、力が分散することのリスクを丁寧に解説していただいたので非常に説得力がありました。今は一つになってよかったと、本当に感謝しています。

身元保証を「社会のインフラ」へ――介事連・斉藤理事長と全終協・清水理事が語る、介護現場の課題と業界健全化への道筋

株式会社あかり保証の代表・清水勇希さん

団体名に掲げた「終身サポート」とは――3つの構成要素

――みんなの介護:全国高齢者等終身サポート事業者協会という団体名における“終身サポート”について、具体的に教えていただけますか。

清水:まず終身サポートというと、身元保証と同じように聞こえるかもしれませんが実は3つの要素で構成されています。1つ目は「身元保証」、施設入所時や入院時の保証人・緊急連絡先の引き受けです。

2つ目は「死後事務サービス」、亡くなった後の葬儀手続きや納骨などの対応です。そして3つ目が「日常生活支援サービス」。これは保険外サービスにあたるもので、財産管理や病院の付き添い、緊急時の駆けつけなどが含まれます。この3つを総称して「終身サポートサービス」と国が定義しました。

斉藤:その3つの要素をそのように整理されていること自体、介護現場にはまだ浸透していないのが実情です。特に「日常生活支援」は我々のような介護事業者が一部対応しているところでもあり、身元保証事業者との役割分担や連携がますます重要になってくるのだろうと感じています。

――みんなの介護:終身サポートの定義への共通認識に課題がありますね。関わる事業者の役割分担が不透明なぶんトラブルも多くありそうですね。

清水:終身サポートにおける具体的なトラブルとしては、大きく3つのパターンがあります。1つ目は「契約」。契約を結んだはずなのにサービスが提供されない、あるいはそもそも契約書が存在しないケースもあり、実際に契約書を作成、重要事項説明書まで作成している事業者は全体の約2割というアンケート結果も出ています。 2つ目は「寄付」。

利用者が亡くなった際に遺産を無理やり受け取ろうとしたり、利用者ご本人が望んでいないにもかかわらず、寄付を前提としたサービス契約を結ばせるようなケースです。3つ目は「中途解約」で、利用者が解約を申し出たにもかかわらず、預けていたお金が返金されないといった問題が起きています。

――みんなの介護:そうした問題の解決のためのガイドライン設定ということですね。

清水:ガイドラインでは、契約書の作成、利用者の意思確認の徹底、不当な寄付の受領を避けることなどが求められています。ただ正直に申し上げると、ガイドラインには30項目のチェックリストがあるものの事業者が「守っている」と自己申告すれば、それ以上の外部チェックは入りません。

斉藤:そこが課題ですよね。ガイドラインが公表された当時は、介護事業者の間でも一定の関心が寄せられました。しかし時間が経つにつれて、そもそもガイドラインの存在自体が頭から抜けてしまっている方もいるのではないでしょうか。

――みんなの介護:ガイドラインを含め、終身サポートについて世の中へ広く認知していく必要がありますね。ほかに全終協にはどのような役割がありますか。

清水:大きく2つあると考えています。1つ目は「正会員制度の運営」です。

ガイドラインの遵守状況だけでなく、実態として適切な運営が行われているかを確認します。決算書の内容や財務体制まで外部の目を通してチェックし、基準をクリアした事業者を信頼できる事業者として公表していくという仕組みです。そして2つ目は「保険制度」の構築です。過去に、ある事業者が2,600人の契約者を抱えたまま破綻し、預けていた資金が適切に分別管理されていなかったために利用者に返金されないという事態が起きました。事業である以上、倒産のリスクを完全に排除することはできません。そこで、全終協は東京海上日動と連携して保険の仕組みを整えようと協議しています。協議している取組みは、万が一の場合にも契約金の一部が保険でカバーされ、団体内の別の事業者が業務を引き継ぐ体制を構築しようという取り組みです。

介護現場が求める「身元保証のスタンダード」とは

斉藤:介護現場で日々困っていることをもう少しお話しすると、たとえば身寄りのない入居者が急変した際、入院先の病院から医療的な処置について判断を求められることがあります。延命治療をどうするかといった判断は、本人やご家族が原則となっており、介護事業者には決定権限がありません。かといって、身元保証事業者がその判断を代わりに下せるかというと、そこにも明確な答えがあるわけではない。こうした場面では、関係者全員が丁寧に連携しながら進めていくしかないのが実情です。同じ「身元保証会社」と言っても、事業者によって対応に大きな違いがあります。

名義を貸すだけの事業者もあれば、24時間365日の緊急駆けつけまで行う事業者もある。この差異が大きいことが、現場の混乱につながっている面もあると感じます。

清水:おっしゃる通りです。全終協としては、真の意味で身元保証を行う事業者を育てていき、業界のスタンダードを確立することを目指しています。利用者はもちろん介護事業者の方々にも「身元保証事業者が関わってくれて助かった」と実感していただける業界にしていきたいと考えています。

あかり保証が実践する「専門家チーム」による支援

――みんなの介護:全終協の設立経緯のお話もありましたが、清水さんは弁護士の立場からこの領域に取り組んでいらっしゃる。これは業界の中でもかなり珍しいポジションではないかと思いますが、なぜ弁護士として身元保証の事業を手がけようと思われたのですか。

清水:全終協の会員の中でも、あかり保証は唯一の弁護士母体の事業者です。弊社は弁護士、司法書士、看護師、ケアマネジャーという法律の専門家と医療・介護の専門家がチームを組んでサービスを提供しています。起業のきっかけは、ある70代男性からの法律相談でした。「施設に入りたいが、保証人を出してほしいと言われている。家族がいないから保証人が出せない。2年も待ったのに入所できないかもしれない。他の保証会社を見ても、どこも信用できない」というご相談でした。その方から「弁護士の先生がやっている保証会社は少ないから、先生がやったらどうか」と言っていただいたことがきっかけで、この会社を立ち上げました。

あかり保証のホームページでは、担当者の顔写真や経歴を公開しています。身元保証は人がすべてのサービスだと考えていますので、どんな人がチームとしてサポートしているのかを、利用者の方にきちんと見ていただけるようにしています。

斉藤:法律の専門家に加えて、介護・医療の専門家もチームに入っているという体制は心強いです。着実に事業として拡大していますよね。

清水:現在、東京・大阪・福岡の3拠点で運営しており、今年の4月に名古屋、年内に札幌と広島への展開を予定しています。全国からお問い合わせをいただいている状況です。また弊社は金融機関や保険会社と連携したサービス提供も進めています。将来的には、身元保証を保険の仕組みと連動させたいと考えています。たとえば、若いうちから月々数千円程度の保険料を積み立てることで、将来身元保証サービスを利用する際の費用をカバーできる「おひとりさま保険」のような商品があれば、入会金100万円という現在のハードルを下げることができるのではないかと考えています。

斉藤:保険との連動による価格面の課題解決にはぜひ期待したいですね。同時に、金融機関との連携も非常に重要だと感じます。介護現場では、身寄りのない方の銀行口座に関するやりとりが大変だったり、認知症の方の場合はお金の引き出しすら簡単にはいかないという場面が日常的にあります。専門家と金融機関がしっかり連携してくれることで、こうした課題の解決にもつながっていくのではないかと思います。

結びに:読者へのメッセージ

清水:全終協は業界の健全化に取り組むと共に、現場で困っている方々の力になりたいという思いで活動しています。また、あかり保証は専門職チームと共にお客様の思い、そして介護現場の方々の思いを大切にしています。今後も介護施設の方やケアマネジャーの方からの「助けてほしい」という声にしっかりと応えていきます。ぜひお気軽にお問い合わせください。

斉藤:今日のお話を通じて改めて感じたのは、終身サポート事業は、地域のケアモデルにおいて間違いなく必要な機能だということです。我々介護事業者だけでは支えきれないことがたくさんある中で、団体の枠を超えた連携をしっかり進めていかなければなりません。これから入居される方々には、自分に寄り添ってくれる事業者をきちんと見極めるための目を養っていただきたいと思っています。この対談が、その一助となれば幸いです。

身元保証を「社会のインフラ」へ――介事連・斉藤理事長と全終協・清水理事が語る、介護現場の課題と業界健全化への道筋

プロフィール

清水 勇希(しみず・ゆうき) 一般社団法人全国高齢者等終身サポート事業者協会 理事/株式会社あかり保証 代表取締役/弁護士。弁護士としての専門性を活かし、業界初の弁護士母体の身元保証事業者として、法律・医療・介護の専門家によるチーム体制で終身サポートサービスを提供。全終協の理事として業界の健全化にも尽力する。
・あかり保証 https://www.akarihosho.jp/

・一般社団法人全国高齢者等終身サポート事業者協会 https://www.zenshukyo.org/

斉藤 正行(さいとう・まさゆき) 一般社団法人全国介護事業者連盟 理事長。全国47都道府県に支部を持ち、6,500社・約4万事業所が参画する介護業界最大規模の事業者団体を率いる。20年以上にわたり介護業界に身を置き、制度の持続可能性と現場の課題解決に取り組む。

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