写真:赤松洋太

この国の市場や経済に成長可能性はあるのか。いわば投資における“日本の未来”を有識者が占う連載「日本経済Re Think」。

今回お話を聞いたのは、経済学者でありイェール大学助教授・半熟仮想株式会社代表の成田悠輔氏だ。

成田氏は、さまざまなメディアで日本の将来にドライな意見を口にしているが、それでもこの国に明るい要素を探すならば、どんなポイントを挙げるのだろうか。さらにこの取材では、投資の観点でも「日本に対して思うこと」を質問。その見解を聞いた。

衰退が続けば、かえって日本は好転するかもしれない

今後の日本をどう見ているのか。成田氏にそう聞くと、やはり厳しい見解を口にした。そしてその理由をこう説明する。



「日本の人口が減少しつづけるのは間違いなく、内需主導で経済が膨らむことは考えられません。にもかかわらず、日本企業はいまやITですら内需主導。国外で売れるものを作っているのは昔ながらの自動車や製薬・医療、グローバルニッチ中小企業などの一部です」

ただし、彼はこうも続ける。「いまの状況をあえてポジティブに捉えるなら、このまま日本市場が縮小していけば、かえって大きな転機になるかもしれません」。

「なぜなら国外に出て行かざるを得なくなるからです。この数十年の日本は人口が大きく豊かだったため、日本企業は国内に特化した製品やサービスを作ることが理にかなっていました。

しかし日本の市場規模が縮小すれば、企業は外に出ていくしかなくなる。それが日本人や日本企業がふたたび世界で戦いはじめるきっかけになるかもしれません。97年の通貨危機後の韓国のようにです」

だからこそ、市場の縮小は危機的に見えて、実は状況が好転するチャンスになるかもしれないと見ている。

もう1つ、日本のこれからを考える上で、成田氏はこの国の強みを示すデータを挙げる。「経済複雑性指標(Economic Complexity Index)」というもので、簡単に言えば「ほかの国や地域で真似できない製品をどれだけ作っているか」を表す経済指標だという。世界でいくつかの企業しか作っていないようなニッチな製品の製造や、ほかの地域では再現できないサプライチェーンがあるほど経済複雑性は高まる。



「この指標で日本は世界一位を独走しつづけています。実際、ジェット機の着陸時のエンジンの逆噴射装置からどら焼き機まで、業界外ではほとんど知られていないがその“地味ニッチ市場”を独占しているような企業が日本にはたくさんあります。目立たず簡単に代替もできない独自市場をたくさん持っていることは、日本経済の豊かさであり強みではないでしょうか。これを次の世代にどう承継していくかが鍵でしょう」

こういった話をふまえた上で、日本が今後良くなっていくためには何が必要なのだろうか。

「その手の議論はやり尽くされていて、同じことを20年ほど言いながら変わっていないんですよね。だからあまり意味のない話だとは思うのですが、一つは規制を緩和して企業に対する過度な弱者救済をなくすことでしょうね」

規制緩和に関しては、新しい産業が生まれたり、新規参入が起きたりする際、それらを阻む業界の規制がさまざまに存在する。

これらをいかに取り除いていくかという意味合いだ。過度な弱者救済については、企業にやさしすぎる助成金や貸付の仕組みによって「悪い意味で企業が生き残り、新陳代謝が進まない面がある。担保ゼロ・金利ゼロで中小企業に資金を貸し付けるゼロゼロ融資などが典型ですね」とのこと。これらを見直すことがポイントだと話す。

投資の観点でこれからの日本に必要なこと

成田悠輔が考える、日本の投資に必要な「企業推しの文化」

この取材では、投資の観点で成田氏が日本に思うことも話してもらった。そこで出てきたのは、いかにグロース市場(※2022年4月4日以降の新市場区分のうち新興企業向けの市場)を活発化させるかということ。
成田氏はこんな意見を口にする。

「資産を持っている日本の高齢層がグロース市場に投資する状況を作ることが大切だと思います。海外投資家にとって日本のグロース市場は特殊で、積極的には投資しにくい。となると、やはり日本人に投資してもらう必要がある。なかでも個人資産2000兆円の大部分を持つ高齢層がポイントでしょう」

では、その層の人たちがもっとグロース市場に投資するにはどうすれば良いのか。成田氏は「頑張っている次世代の起業家や若い企業に対し、サポーターのように投資する文化はあり得るのでは」という。



「スポーツ選手やアイドルをファンが応援するように、企業や経営者を似たような存在にしていくのは良いと思いますね。投資を次世代への応援チケットにして、その結果、気づくと資産が若い世代に移転されていくような。このためには、もっと経営者や起業家のキャラクターや個性を打ち出して、普通の人たちとの親近感を作っていくキャンペーンが必要ですよね。経営者や起業家がしょうもないテレビ番組やYouTube番組に出るのも必要悪なんじゃないかと」

言うなれば、投資にも“推しの文化”や”ファンコミュニティ”を作っていくという考えだ。

「発信する場所もオールドメディアが意外と重要になってきます。特に毎日テレビを見ているような層にリーチすることが求められるでしょう。意識高い高学歴・高収入ビジネスマンが見ているようなウェブ経済メディアで妙に専門的なおしゃべりしている場合ではなく、『スタートアップ何それ美味しいの?」みたいな人たちとの対話こそが大事です。スタートアップの多くも、現状そういった努力をあまりしていないのではないでしょうか」

同じことはアカデミア(大学をはじめとした国の研究機関)にも言えるようで、「ごくごく普通の日本人にとって、”研究者”と聞いて顔が思い浮かぶ人がほとんどいないし、そういった業界があることさえ知らない。興味がない。脳内世界の中に存在してないわけです。普通の人に認知されていないということは、危機に陥ったときに世論も政治も助けてくれないということです。アカデミアの人がいかに文科省からいじめられて日本の研究が危機的かを飲み会やツイッターで嘆いても、世論は一ミリも同情してないじゃないですか」と指摘する。

いずれにせよ、スタートアップ経営者の思いやキャラクターを前面に出すキャンペーンを行い、高齢世代の認知を生む。そうして、投資における推しの文化を作っていく。このサイクルができれば、次世代への資産移転が進み、未来に向けた投資が回り出すことになる。そしてそれは「個別の企業を超えた社会的な重要性がある」と成田氏。これが、投資における彼の提言だ。

(取材・文/有井太郎)

※記事の内容は2022年12月現在の情報です